アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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りょーくん療養中。


Lesson364 りょーくん、風邪引いたってよ。 2

 

 

 

『もしもし、麗華か……』

 

「……ちっ、電話に出れるってことは軽症ね」

 

『せめて「もしもし」ぐらい言ってくれてもいいじゃないかな……?』

 

「アンタノコトガ心配デ思ワズ電話シチャッタワー」

 

『小学生だってもうちょっと演技うまいぞ……』

 

 無視。

 

「幸太郎さんから聞いてると思うけど、今日のアンタの仕事、私たちが貰うわよ」

 

『悪いな、お前たちも忙しいのに……』

 

「ホントよ。この貸しは大きいわよ」

 

『りんのおっぱいぐらい……?』

 

 無視。

 

「それと、今日はりんそっちに行かせないから」

 

『あぁ、ただでさえ迷惑かけてるっていうのに、流石にりんの拘束までは出来ん……』

 

「要件は以上よ。……お大事に」

 

『えっ、麗華がそんな優しい言葉を……さては偽乳、じゃなくて偽物――』

 

 通話終了。

 

 

 

 さて、幸太郎さんから『良太郎が風邪を引いた』という愉快な情報を仕入れた私は、直接良太郎へと電話をかけた。電話に出た良太郎の声は声が嗄れておらず鼻声でもなかった。幸太郎さんからの前情報の通り、どうやら主な症状は熱だけのようだ。

 

 ……良太郎が風邪を引いたと聞いて、真っ先に思い浮かんだ感想は『え、良太郎って風邪引くの?』という悪意一切無しの純粋な驚愕だった。一度だけライブ中にぶっ倒れて病院に搬送されたところには直面したことはあるが、それ以外で良太郎が体調不良になったという話を聞いたことが無かった。幸太郎さんの話でも昔から風邪など病気になったことはなかったらしい。……高町家の特訓後に寝込むことはあったらしいが。

 

 とにかく、今まで常に健康であったらしい良太郎が体調不良。『しっかりと夏風邪を引く』辺り流石だと言いたいが流石ね。

 

(さてと)

 

 クルリと振り返る。

 

 

 

「離せえええぇぇぇ!」

 

 

 

「アンタたち、絶対放すんじゃないわよ」

 

「了解です麗華先生!」

 

「りん先生落ち着いてください!」

 

「ともみ先生も写真撮ってないで手伝ってくださぁ~い!」

 

 髪を振り乱し目を血走らせる女性を三人の少女が取り押さえるという、さながらホラー映画のワンシーンのような光景が繰り広げられていた。

 

「いい加減に諦めなさい、りん。今日は良太郎の分の仕事もしなきゃいけないんだから、アイツのところに行かせる余裕なんてないのよ」

 

「いやだぁぁぁ! りょーくんの看病をしに行くのおおおぉぉぉ!」

 

 当然こうなることは分かっていたので、りんが幸太郎さんからの電話を受けて「りょーくんが風邪!?」と叫んだ時点でアライズの三人にりんを拘束するように指示を出していた。間一髪間に合ってよかったわ。

 

「全く……ともみ、りんを大人しくするいい方法ない?」

 

「任せて。一回『首筋トンッ』をやってみたかった」

 

「それ普通に死ぬわよ」

 

 素振りやめなさい。永遠の眠りをプレゼントしようとするのやめなさい。

 

「それじゃあ代わりにこれを」

 

 ワイヤレスイヤホンを取り出して暴れるりんの耳に突っ込んだともみは、スマホを操作して何かを流し始めた。

 

「待っててね! りょーくん! 今貴方のお嫁さんであるアタシが……アタシ、が……! はにゃぁ……」

 

「えっ」

 

 暴れていたりんがその勢いを無くし始めたかと思うと、突然目がトロンとなって完全に動きを止めた。必死に動きを止めていたアライズも困惑するほどの急変ぶりである。

 

「……何を聞かせればこうなるのよ」

 

「公式で配信してる『周藤良太郎』の睡眠ASMR」

 

「嘘でしょ……?」

 

 普通そこまでの効果はないでしょ……。

 

「もはや睡眠というか催眠ね」

 

「基本的にりょーいん患者っていうのは全員洗脳済みみたいなところあるから間違ってないと思う」

 

 それはもうどちらかというと宗教……いやそれは元からね。

 

 とにかくりんが大人しくなってくれたことはありがたい。今のうちにロケバスへと突っ込んでおくようにスタッフへと指示を出す。当然引き続き拘束も忘れない。

 

(当たり前のように手首にタオルを巻いてから手錠をかけた……)

 

(なんでアイドルの事務所に手錠があるんだろ……)

 

(スタッフの人たちもちょっと手慣れてる……)

 

 なにやら微妙な目になっているアライズの三人にもお礼を言って、今日のレッスンを中止にする旨を告げて退室させる。自主練はちゃんとするのよ。

 

「それにしても良太郎でも体調崩すことなんてあるんだね」

 

「ま、アイツもIE以降ずっと忙しかったし無理ないでしょ。寧ろ今まで崩さなかった方がおかしいぐらいよ」

 

(……アイドル兼プロデューサー兼校長兼統括部長兼芸能科講師が何か言ってる……)

 

 さて、良太郎のことなんかに思考を割いてやるのは終わり。

 

「私たちは私たちの仕事(アイドル)をするわよ」

 

「りょーかい」

 

 

 

 

 

 

「暇だ……」

 

 暇である。それはもう暇である。

 

 皆さんお忘れのことだろうが『周藤良太郎』とは本来多忙な人間だ。確かにゲームはやるし漫画も読むしアニメも見るが、基本的には常にアイドルとして動き続けている存在なのだ。

 

 それだというのに、今はこうしてベッドの上で上から動くことが出来ない有様だ。

 

 別に風邪が悪化したとかそういうことではない。確かに熱は昨日から高くなって三十七度五分まで上がっていたが、意識ははっきりしているし喉の調子も悪くない。本当に『熱が高い』という以外の症状が全くなかった。

 

 しかし。

 

 

 

 ――リョウ君は今日一日お布団の中にいること~!

 

 ――大人しくしてなきゃメッ! だよ~!

 

 

 

 りんや早苗ねーちゃんや志希を含め、周藤家にはリトルマミーにメッされて逆らえる人間はいないのだ。

 

 というわけでスマホを弄ることも出来ず、かといって眠くないので寝ることも出来ず、適当に曲を流しながらベッドでボーッとしている次第である。

 

(……そういえば()()で寝込むのは初めてだっけ)

 

 こうして天井を眺めていると、色々と考えてしまう。

 

 思えばこの世界に転生してから風邪どころか病気になったことがなかった。だからこうしてベッドで寝込むという行為をするのが二十年以上ぶりだった。余程()()()()は健康なのだろう。

 

 

 

「お見舞いに来てあげたよ~!」

 

「今!?」

 

 

 

 今めっちゃしっとりと独白を始めるシーンだったんだけど!? いくら今回コメディ色強めにするからってここまでする!? せめて『なにやら廊下の向こうからドタドタという足音が聞こえてきた』って感じの描写ぐらい挟ませてもらっていいかなぁ!?

 

「あれ、思ったより元気だね~」

 

「元気は有り余ってるよ……」

 

 思わずツッコミを入れてしまうぐらいにはな。何せ今朝からずっとベッドの上だ。

 

「お邪魔しまーす」

 

「お邪魔しまぁす」

 

「あぁ、いらっしゃい……」

 

 さて、本当に突然やって来たのは志希と恵美ちゃんとまゆちゃんだった。既に勝手知ったる我が家のように歩き回る志希を先頭に、続いて恵美ちゃんが、その後におずおずとまゆちゃんが続く形で俺の部屋へと入って来た。

 

 風邪っぴきの部屋に健常な現役アイドルを入れることを一瞬躊躇うが、空気清浄器も今回はしっかりと仕事してるし、俺を含め全員がしっかりとマスクをしているので大丈夫だろうと判断する。この世界に新型なんちゃらは存在しませぇん!

 

「こんにちは、リョータローさん。これお見舞いです……といってもコンビニのゼリーとかドリンクとかですけど……にゃはは」

 

「いや、それでも嬉しいよ……ありがとう」

 

 恵美ちゃんからレジ袋を受け取る。うん、母さんから間食も制限されてるから小腹が減ってたんだよ。ありがたく頂戴しよう。

 

「………………」

 

「……なんかまゆちゃんが静かだね?」

 

 自分で言うのもなんだけど、普段のまゆちゃんだったら今の状況でもうちょっとテンションが高いというか騒々しいというか。

 

「あー、多分『リョータローさんが心配な気持ち』と『初めてリョータローさんの部屋に入っちゃった乙女心』がせめぎ合った結果、感情がフリーズしてるんだと思います」

 

「通りで目元がニッコリ笑顔のまま固まってるわけだよ……」

 

 まゆちゃーん、起きてー。

 

「……はっ!? ここは!?」

 

 まゆちゃんが再起動した。

 

「俺の部屋だよ……お見舞いに来てくれてありがとうね」

 

「!? い、いえ!? お元気そうで何よりですぅ!」

 

「絶賛病気中だけど、まぁ悪くはないよ。ちょっと熱があるぐらい」

 

 現にこうして体を起こしていてもフラついたりしないし。寧ろ寝過ぎてちょっと体が鈍ってるぐらいだ。

 

「どれどれ~」

 

「「「ちょっ」」」

 

 不意打ち気味に志希が自分の額を俺の額にくっ付けてきた。

 

「志希ちゃんいきなり何してるんですかぁ!?」

 

「男の人へのお見舞いはこうするのが良いって美嘉ちゃんが言ってた」

 

 絶対に本人が見栄張って言ったであろうことをバラすのは止めて差し上げろ。

 

「というかそういうラブコメ仕草はお前の仕事じゃねぇだろ……」

 

「ラブコメ仕草ってなに」

 

「恵美ちゃんカモン……」

 

「やりませんよ!?」

 

 顔を赤くした恵美ちゃんがブンブンと首を横に振った。これこれ、こういうのが良いんだよ。

 

「それじゃあまゆちゃんカモン……」

 

「ででででは僭越ながらぁ!」

 

「まゆストップ! それ以上進んだらまゆの方が熱でぶっ倒れちゃうよ!」

 

「逃げたら一つなんですよぉ!?」

 

「今の状況で進んだら二つどころかゼロだよ!?」

 

 ワーギャーと賑やかな恵美ちゃんとまゆちゃんの姿に、先ほどまで感じていた少々の寂しさが紛れていくのを感じた。

 

「っていうかリョータロー、結構熱あったよ?」

 

「え、マジ……?」

 

 枕元に置いてあった体温計で再度検温。

 

「……三十八度まで上がってる」

 

「「えぇっ!?」」

 

 うーむ、三人がお見舞いに来てくれたことが嬉しくてテンション上がったかな?

 

「それじゃああまり長居しても悪いですし、アタシたち……」

 

「そうだね。病人と同じ部屋にいさせるのも忍びないからね……」

 

「何も出来ずに、不甲斐ないですぅ……!」

 

「寧ろお見舞いに来てくれた人に対して何かしてもらおうと考えてないから……」

 

 恵美ちゃんとまゆちゃんを「ありがとうね」と見送り……既に志希の奴は退出してやがった。マジで気まぐれ猫だなアイツ。

 

 ……まぁいいや。熱が上がってしまったことも事実だし、ゆっくりしよう。

 

 とりあえず、三人が持ってきてくれたお見舞いの飲み物でも飲んで……。

 

 

 

 ――なんかこの栄養ドリンク、既に封が空いてるな?

 

 

 

「……志希テメェ!」

 

 多分栄養剤の類いなんだろうけど、病人に()()()とすんじゃねぇよ!

 

 

 




・流石だと言いたいが流石ね。
たまに巨神兵になったりする犬の被り物をしたサングラスの変なおじさん。

・「アンタたち、絶対放すんじゃないわよ」
久しぶりの登場がこんな出番なアライズの三人であった。

・『周藤良太郎』の睡眠ASMR
有料会員限定。

・アイドル兼プロデューサー兼校長兼統括部長兼芸能科講師
実は良太郎よりもヤバい奴。

・新型なんちゃら
今でもまだまだ陽性の話は聞くので、みんなも気を付けよう。

・「逃げたら一つなんですよぉ!?」
???「逃げたら一つ、進めば一つ、なのですよー」

・既に封が空いてるな?
※危ないので既に封が空いている飲み物は絶対に飲まないように。
ちょっと怖い話だけど『青酸コーラ』と呼ばれる実際の未解決事件があってじゃな……。



 主人公が風邪引いてるのにお見舞いにいけないメインヒロインがいるってマジ?



『どうでもいい小話』

 SOLは二日目だけの参加になりそうですね……一般先行の確率渋すぎぃ!

『どうでもよくない小話』

 書き忘れてたから追加。

 本日をもってアイドルマスター18周年!!! おめでとうございます!!!
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