アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ついにこのアイドルがヒロイン第二弾。


番外編83 もし○○と恋仲だったら 31

 

 

 

 それは、あり得るかもしれない可能性の話。

 

 

 

「どうしてママのおっぱいは大きくないの?」

 

「ママ落ち着いて」

 

「パパ離して」

 

 

 

 突然の愛娘(アヤカ)からの暴言に、静かに最速でキレたママを羽交い絞めにしてその動きを抑制する。落ち着いてその握りこぶしを解いて。グーはダメだってグーは。

 

「アヤカよ、いきなりどうした。そんなママを怒らせるようなことを言い出して」

 

 小学三年生にもなるんだから、何を言えば人を怒らせてしまうのかという分別はつくと思うのだが。

 

「だってパパっておっぱい星人じゃん?」

 

「そんな言葉、誰に教わったの」

 

「加蓮ちゃん」

 

「ママちょっと電話してくるね」

 

 スマホを手にリビングを出ていくママを、娘と二人で「「いってらしゃーい」」と見送る。きっとかつてアイドルとして青春を共にした元ユニットメンバーに連絡をするのだろう。うんうん、たまには昔を振り返ることも大切だからね。

 

「さて、確かにパパは女の人の大きな胸が好きなおっぱい星人だ。それは否定しない」

 

「私十歳だからよく分からないんだけど、それを娘に堂々と誇るのはどうかと思う」

 

 発言の内容と口調で俺の娘だなって改めて実感する。

 

「そんな娘におっぱいだのどうだの言っちゃうぐらいおっぱい星人なパパなのに、どうしておっぱいが大きくないママと結婚したの?」

 

「……なるほど」

 

 アヤカの疑問は尤もである。実際に言葉にされたことはなかったが、俺の知り合いの中にも同じ疑問を浮かべた人は大勢いたことだろう。

 

「アヤカ、それは簡単な話だ」

 

 そう、簡単な話。特に深い理由なんて存在しない、とてもシンプルな答え。

 

おっぱい星人(そんなこと)がどうでもよくなるぐらい――」

 

 

 

 ――周藤良太郎(パパ)周藤凛(ママ)を愛してるんだよ。

 

 

 

「……今のパパ、カッコよかった」

 

「お、ありがとう」

 

「私は頑張っておっぱい大きくなるからね」

 

「……まぁ、向上心があることはいいことだな。頑張れ」

 

「我が家の目の保養係として、頑張るね」

 

 娘が何か間違った方向に進もうとしているような気もするけど、その辺りの教育はママに任せよう。

 

「そういえばパパとママ結婚するきっかけみたいな、そういう馴れ初め話って聞いたことなかったかも」

 

「話したことなかったかもな」

 

 そうか、アヤカもそういうことが気になる歳になったということか。女の子はいつだってコイバナに飢えていると言ったのは、果たして誰だったか……。

 

「聞きたい聞きたい」

 

「んー……今なら大丈夫かな」

 

 ママは恥ずかしがって嫌がるだろうけど、彼女は現在友人と通話中。廊下からだいぶ白熱した声が聞こえてくるから、もうしばらく戻ってくることはないだろう。

 

「あ、待ってポップコーンとコーラ持ってくるね」

 

「随分とアメリカンなスタイルでガッツリと楽しむ気だな……なんというか、流石我が娘」

 

「照れる」

 

 性格もそうなんだけど、無表情なところまで似なくてもなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 その日、俺は渋谷家に夕飯のお呼ばれをされた。たまたま仕事現場で一緒になった凛ちゃんを自宅まで送って行ってあげたら、そのまま渋谷夫妻に捕まった形である。

 

「いやぁ、良太郎君と一緒にお酒を飲める日が来るなんてね」

 

「あ、どうも」

 

 おじさんから日本酒のお酌を受ける。

 

「ちょっとお父さん、良太郎さん今日車なんだよ」

 

「いいよ凛ちゃん、ウチから遠いわけじゃないし」

 

 明日の朝取りに来ればいいから。

 

 

 

「………………」

 

 さて、そんな風にお酒を入れながら楽しく食事をしていたのだが、何故か先ほどまで楽しく会話をしていた凛ちゃんが当然押し黙ってしまった。

 

 そして突然水が入ったグラスを手に椅子から立ち上がると、隣に座っていた俺をジッと見下ろしてきた。……何やら目が座っていらっしゃるような。

 

「凛ちゃん? どうかした?」

 

「……椅子引いて」

 

 有無を言わさない雰囲気に、大人しく椅子を引く。

 

「よいしょ」

 

 

 

 ――そしてそのまま俺の膝の上に腰を下ろしてきた。

 

 

 

「……あの、凛さん?」

 

「………………」

 

「凛さんや?」

 

「………………」

 

 反応がない。さらに俺の視界は彼女の後頭部とその綺麗な黒髪に埋まってしまっていて、彼女の表情が分からない。

 

 ただ、僅かに覗く耳が若干赤いような……。

 

「……って凛、それお父さんの日本酒のグラスじゃないか」

 

「ベタな展開キタコレ」

 

 どうやらグラスに並々注がれていた冷や酒を全部飲んでしまったらしい。それだけ一気に飲めばそりゃ慣れてない人なら酔うだろうが、何故そこまで気付かずに飲んだし。

 

「……ねぇ」

 

 ジーパン越しだけど凛ちゃんのお尻柔らかいなぁとか考えていたら、そのまま凛ちゃんは身体を九十度回転させた。俺の膝の上に横に座る形になる。

 

「えっと、何?」

 

 何故か興味深そうに娘の行動を見守るおじさんとおばさんに(いや助けてよ)と心の中で毒づきながら、凛ちゃんの話を聞く。

 

「……アイドルの後輩として、私たちのことを見守ってくれるのも……それはそれで嬉しいんだけどさ」

 

 

 

 ――もうちょっと、アイドル以外の私のことも……見てくれてもいいんじゃないかな。

 

 

 

 コテンと俺の肩口に頭を預けながら、凛ちゃんは潤んだ瞳で俺の目をジッと見詰めてきた。距離にして僅か十センチ。寧ろ近すぎて寄り眼になってしまいそうになるぐらいだが、流石に今の状況でそれをするとただのギャグになってしまうので我慢する。

「私は良太郎さんの妹分なんだよ? 他の子よりも長い付き合いなんだよ? だったらもうちょっと特別扱いしてくれてもいいじゃん」

 

 ほらほら妹が甘えてるよ頭撫でてよ、と目を瞑りスリスリと額を肩に擦り付ける凛ちゃん。首筋に凛ちゃんの髪の毛がサワサワと触れてくすぐったい。

 

 そっかー凛ちゃんは甘え上戸かーなどと若干現実逃避じみたことを考えながら、手は自然と彼女の頭の上に乗っていた。犬みたいだなーと思いながらそのまま顎や喉の下も撫でると、凛ちゃんは普段なら絶対にしないような声色で「くぅーんくぅーん」と犬の鳴き真似をした。超可愛い。

 

 いや、可愛いからいいんだけどさ。彼女が正気に戻ったときが若干怖い……記憶が無くなっていることを祈りたいが……。

 

「「………………」」

 

 ……さっきからおじさんとおばさんがスマホのカメラで録画してるから、多分無理だろうなぁ。

 

 

 

 

 

 

「……え……りょ、良太郎さん……?」

 

「はい良太郎さんです。……って、どうやら正気に戻ったみたいだね」

 

 先ほどまでリビングで食事をしていたはずなのに、何故か自室にいた。

 

 さらに何故かベッドに腰を掛けた良太郎さんに膝枕をされていて、まるで小さい子のように頭を撫でられていた。

 

「どどど、どういう状況……!?」

 

「うーん、なんて説明したものか……」

 

 良太郎さんが顎に手を当てて言葉を選んでいる。

 

「そ、そんなに複雑な事情が……!?」

 

「いや『間違えてお酒を飲んで酔っ払っちゃった凛ちゃんが凄い甘えてきてそのまま部屋まで連れ込まれて膝枕を強要された』ってことを伝えたら、きっと凛ちゃん恥ずかしさで悶えるだろうなって思って」

 

「ご高配痛み入りますっ!」

 

 前々から思ってたんだけど、胸とか云々とか以前にそもそもデリカシーそのものが枯渇してる気がする!

 

「まぁまぁ、俺は純粋に甘えてもらって嬉しいからさ」

 

「………………」

 

 しかしそんなことを言いながら私の額を撫でる手つきが本当に優しくて、その言葉が本心であり一切の他意やからかいがないことが分かっちゃうから、私は何も言えなくなってしまう。顔を背けることも出来ず、ただ自分の手で顔を覆うことしか出来なかった。

 

「凛ちゃん、さっき『アイドル以外の私のことも見て』って言ったの覚えてる?」

 

「……覚えてない」

 

「『もうちょっと特別扱いしてくれ』って言ったのは?」

 

「覚えてない……」

 

 何言ってるの私は……!?

 

「大人になっても絶対にお酒飲まない……」

 

「えー? 俺は飲んでほしいんだけどなー?」

 

 顔を覆う手を掴まれたかと思うと、ぐいっと強引に手をどかされてしまった。

 

 ギュッと瞑っていた目を恐る恐る開くと……すぐそこに良太郎さんの顔。

 

 いつもの無表情で、いつも何を考えているのか読みづらい……はずなのに。

 

 今日は何故だか、何を考えているのか、すぐに分かった。分かってしまった。

 

「凛ちゃんさえよければさ――」

 

 

 

 ――本当に、特別な存在になってみる?

 

 

 

 

 

 

 

「……それで? それでっ!?」

 

 我が娘がポップコーンを食べながらめっちゃ食いついてくる。俺に似て普段の表情は乏しいのだが、しっかりと目が爛々と輝いてた。

 

「晩御飯食べれなくなるぞ?」

 

「別腹ってやつだよ。大丈夫大丈夫、私のお腹はこれぐらいじゃ――」

 

「へぇ……今日はカレーにするつもりだったんだけど、アヤカがそんなに食べないならパパとママで全部おかわりしちゃおっか」

 

「――わーいママのご飯、アヤカ大好きー」

 

「……そういう取り繕い方までパパに似ちゃって……」

 

 友人との心温まる通話から帰って来て早々に頭を抱えるママ。それはほんの少しだけ俺の悩んでいることである。

 

「美貌はママ似、ユーモアはパパ似……つまり私ってかなり最強じゃない?」

 

「パパ」

 

「元を辿れば俺の父親の血になるから、これは俺の責任になるんだろうなぁ……」

 

 それはそれとして、無表情にドヤるアヤカはそれはそれで可愛かった。

 

「加蓮ちゃんと友好は温めてきたかい?」

 

「うん、今からこっち来るって」

 

「唐突だな」

 

「わーい! 加蓮ちゃん来るのー?」

 

 昔から一緒に遊んでくれる優しいお姉さんの来訪を聞いて年相応に喜ぶアヤカだが、多分目的はそういうことじゃないんだろうなぁ……。

 

「ケジメは大事だからね」

 

 嫁さんがヤの付く自由業みたいなことを言い出した件について。

 

(……それより、子どもになに話してるのさ!)

 

(えー? あれぐらい聞かせてもいい範疇だろ)

 

()()()()()()は絶対に聞かせられない内容でしょ!)

 

(あーそういえばそうだっけー)

 

(白々しい……!)

 

 アヤカに気付かれないように顔を赤くしながら抗議をするママ。

 

 

 

(俺たちだけの秘密……だもんな、凛)

 

(そういうことじゃ……もう、良太郎ってば!)

 

 

 




・奥さん凛
恋人すっ飛ばして嫁になった。

・愛娘アヤカちゃん
中の人の名前を使わせていただくシリーズ。

・「照れる」
見た目は母親似、中身は父親似。



 今回は凛ちゃんの恋仲○○! 以前Twitterにあげた短編のリメイクとなりますが、唐突に娘を生やしてみました。うーんなかなか愉快な娘になってしまった……。
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