俺は秋山隼人。バンド『High×Joker』のギターで一応リーダーやってて、315プロダクションに所属するアイドルにもなったんだけど、それ以外はちょっと作詞と作曲を齧ってる程度の平凡で普通の高校二年生の十七歳だ。
将来の夢はバンドとして成功することと……あと、女の子に少しでもモテたらいいなっていう、そんな些細な夢。
一応アイドルという立場ということもあって学校でも女子生徒から声を掛けられる機会は増えたが……それでももう少し、もう少しだけ刺激的な女の子との出会いを求めてしまうのは、男子高校生として正常な願望だと思う。
……いや、そういうことを願ったことは嘘じゃないんだけどさ……。
「それじゃあ、まずは改めて自己紹介するっすよ! オレは伊勢谷四季っす!」
「若里春名! よろしく!」
「……冬美旬です」
「……榊夏来、です……」
「あ、秋山隼人です」
「速水奏よ」
「塩見周子で~す」
「フレちゃんは宮本フレデリカで~す」
「一ノ瀬志希ー」
「じょ、城ヶ崎美嘉です」
カラオケボックスの一室にて。俺たちハイジョの五人と……346プロダクションの『LiPPS』の五人が向かい合わせに座っているこの状況は、ちょっと意味が分からなかった。
(……な、何故こんなことに……!?)
「は?
「そうなんだよちーちゃん」
「ちーちゃん言うな」
先日のお見舞いのお返しを持って来たついでに、二階堂精肉店の店先で千鶴と雑談中。
「それよりまず、こんなところで油を売ってていいんですの?」
「この後が埋め合わせ地獄だからちょっとぐらいゆっくりさせて」
「そ、そうですの。声がマジですわね」
いやホント、今日は三十三時まで完全拘束だぜ……ふへへ……。
「……食べる?」
「ありがと」
そっと千鶴が差し出してくれた二階堂精肉店特製コロッケを受け取って齧り付く……ふふふ……次に温かい食べ物をゆっくりと口に出来るのは、きっと朝日が既に朝日とは呼べなくなる時間なんだろうな……。
「話を戻しますわ。315プロのアイドルにバレたということですけど、大丈夫なんですの?」
「まぁ基本的に極秘にしてるわけじゃないしな」
「そうは言っても、貴方ももう少し注意をするべきだったのではなくて? いくらなんでも無警戒にビデオ通話を始めるなんて、迂闊にもほどがありますわ」
「その点に関して言えばぐうの音も出ない」
「全く、少しぐらい自覚なさいまし。貴方の恋人なんて、それはもうトップクラスのゴシップなのですからもう少し気を付けて……」
「え? アンタ自分の恋人のこと秘密にしてるの?」
「やぁニコちゃん、こんにちは」
「こんにちは、ニコ」
「こんにちは千鶴さん。アンタ仕事はいいの?」
挨拶ぐらい返してくれてもいいんじゃないかなぁ?
「それで、アンタの恋人ってあの人でしょ? あの紫の髪の」
「そういえばニコちゃんは会ったことあったね」
「秘密にするって、何? もしかして芸能人だったりするの?」
「……ノーコメントで」
我ながらこの返しは肯定してるようなもんだよなぁと思う。現にニコちゃんも「はいはい大体分かったわよ」と一人で納得してしまっている。
「ま、業界のお偉いさんなんだからそういうのはあるでしょうけど、浮気とかそういう変なことすんじゃないわよ」
「胸の大きな女の子をガン見するのは浮気になると思う?」
無言で俺の二の腕をバチンと引っ叩いてニコちゃんは店の奥へと向かってしまった。
「……それで、千鶴さんや?」
「ちゃうねんて」
全くキャラじゃない関西弁と共に手を横を横に振る千鶴。普段のやらかしの割合は当然俺の方が多いから強くは言えないけどさ。
「いずれバレるときは絶対に来るからいいんだけどさ。せめて合同ライブが終わるまでは変な騒ぎにしたくないんだよ」
「それはまぁ……そうですわね」
なんだったら誰かの口からポロっとこぼれた話が広まった方が、きっかけとしてはいいのかもしれない。その人の責任にしたいわけではないが、そういう
「その点で言うと現役男子高校生であるアイツらちょっとばかり可能性が高いかもしれないが……まぁ、それを悪用しようとするような奴はいないだろうし」
しいて言うならば四季と春名の口が少しだけ軽そうではあるが、万が一口を滑らせたとしても旬や隼人辺りがいい具合に誤魔化してくれると信じている。
「そもそも俺のスキャンダルに対する責任を、後輩のアイドルに取らせるわけにはいかないしな」
「……そうですわね。頑張りなさい、男の子」
そう微笑む千鶴は、なんというか伊達に俺の姉貴分を名乗るだけあった。
「……さてと、それじゃあ俺もそろそろ
「いや言い方。……もう、今日の現場は何処ですの?」
「ん? えっと……」
本日の予定を指折り数える。四つ五つまではフンフンと聞いていた千鶴だったが、二桁を超えてからは流石に口元が引き攣っていた。
「そ、それは間違いなく修羅場ですわね……それじゃあ九時頃ならばテレビ局ですわね? 差し入れに温かいお惣菜を持って行ってあげるから」
「マジで……!?」
感激で思わず声が震えてしまった。
「温かいものが食える……!」
「冗談抜きで戦場へと赴く人のセリフですわね……その代わり、しっかりと頑張りなさいな」
「言われなくとも」
周藤良太郎の戦いは、これからだ!
「……ところで差し入れというのであれば、先日765劇場で行われたという水着の撮影会でのオフショットとかあったらもっと頑張れるんだけど。風花ちゃんの写真とかない?」
「はよいけ」
「あ~! 今日も夏季講習終わり~!」
「お疲れ様っす!」
夏期講習を終えて軽音楽部の部室へと顔を出すと、既に部室で待っていたシキが出迎えてくれた。
「腹減った~……飯飯!」
「ハルナっち、またドーナッツっすか?」
「おうよ! 今日のは特別だぞ~! なんとあの346プロが誇る超人気ドーナッツアイドルの椎名法子ちゃん特別コラボ商品だ……!」
「超人気ドーナッツアイドルってなに……?」
「さぁ……?」
けれど、315プロに入ってアイドルとしての活動を始めた今では、なんとなく「そういうのもあるんだろうな」と漠然と受け入れている自分がいた。特に346プロは『結構昔からあるなんか老舗みたいな感じの大きな芸能事務所』という印象が『なんかよく分からないアイドルが沢山いる芸能事務所』という印象に変わってしまった。
なんてやり取りをしつつ、俺たちも各々持って来た昼食を用意する。と言ってもしっかりとお弁当を用意しているのはジュンとナツキだけで、俺は菓子パンだしシキはなんかやたらと辛そうなカップラーメン。……見てるだけで目が痛くなりそう。
「それにしても、昨日はビックリしたっすね~」
「なー。まさか良太郎さんの恋人が入ってくるとは思わなかった」
「二人とも……しー……」
「部室の前を歩いてる人の耳に入るかもしれないんですから、せめて声のボリュームは落としてください」
「「はーい」」
注意はしつつも禁止にしない辺り、なんだかんだ言ってジュンも気になっている話題なのだろう。
「なんというか、流石『周藤良太郎』だよなぁ……まさかあの『朝比奈りん』ちゃんと恋人同士なんだもんなぁ……」
正直に白状すると、あの立派な胸元はかなり羨ましい。あれに惹かれない男はいないって。
「そもそもリョーさんっち、普通にモテるっすからね」
「あー確かに」
俺たちと一緒に早朝ランニングしていたときも、何人か知り合いらしき女性に声をかけられていたことを思い出した。それが全員美女美少女揃いなのだから、なんというか本当にトップアイドルって凄いって思った。
「周藤良太郎が好きだって公言してるアイドルも何人もいるし、公になってないだけで女の子には不自由してないんだろうなってのは簡単に想像できるよな」
「春名さん、流石にその言い方は失礼ですよ」
「おっと、すまんすまん」
ハルナの言い方はともかく、良太郎さんがモテているという事実は確かである。
「バンドやアイドルを続けていれば、いつか俺たちもあんな風にモテモテに……!」
「ハヤト、それは流石に動機が不純すぎます」
「ハヤトっちはそれが目的でバンド始めたっすもんね~」
「それだけが理由じゃないからな!?」
いや勿論そういう下心があることは否定しないよ! でもそれが全てだって思われるのは流石に心外だぞ!?
「でも今回の合同ライブ、少しぐらい期待してるところはあるんじゃないか?」
「………………」
「無言は……肯定……」
いやだってさぁ……。
「さ、流石に恋人になりたいとか、そーゆーのじゃないんだよ」
そこまでは夢見ていない。それぐらいの現実はちゃんと見てる。何せ自分は、基本的に何処にでもいるような平凡な男子高校生なのだから。
「それでも女の子と仲良く出来るんだから……ほら、な?」
「オレ思うんすけど、いざそういう状況になったら真っ先に喋らなくなるのはハヤトっちだと思うんすよね」
「「「確かに」」」
「お前らそれは流石に暴言だぞ!?」
お、俺だってなぁ! そういう場面になったらちょっとぐらい頑張るに決まってるだろぉ!?
「それじゃあ、試してみるっす!」
え?
・平凡で普通の
※なおsideMの総選挙では一位の模様。
・カラオケボックスの一室にて。
もしかして → 合コン
・三十三時
もしかして → 午前九時
・超人気ドーナッツアイドルの椎名法子ちゃん
……そういえば本編では未登場だっけ(Twitterの特別短編では登場済み
サイドエム編を書くと決めたときからずっと考えていた、ハイジョ×リップスの合コン回です! 実はリップス全員年齢が変わっているのですが、その辺りはまた後程!