アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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学生たちの夏は、これからだ!


Lesson371 学生偶像連合課題殲滅戦線

 

 

 

「夏休み、終わっちゃうね……静香ちゃん」

 

「ええそうね、未来」

 

「……あと三日で終わっちゃうんだね、静香ちゃん」

 

「終わっちゃうのよ、未来」

 

 

 

「……だからこそ逆に課題(こんなこと)してる場合じゃないと思わない!?」

 

「座りなさい」

 

「はい」

 

 

 

 八月二十九日。その日、私と未来は机の上に広げられている夏休みの課題と向き合っていた。全くの白紙ではないが、夏休みも()()()()というこのタイミングで考えると四捨五入して白紙と言っても過言ではない、そんな進行具合の悲惨な課題である。

 

 これらは当然のように私のものではない。全て未来のものである。

 

「弁明を聞きます」

 

「……し、静香ちゃん、怒ってる?」

 

「怒っていません」

 

「敬語な上に特殊タグが使われていないのが逆に怖いよぉ……」

 

 メソメソとしょげている未来の姿は可愛いけれど、それはそれとして叱らなければいけないときにはキチンと叱らなければいけない。

 

「だってぇ……普段の劇場のステージだけじゃなくてぇ……合同ライブに向けてのレッスンもあってぇ……家に帰ってから課題をしようと思ったけど……もう疲れちゃって全然動けなくてェ……」

 

「はぁ……」

 

 そうならないためにも毎日コツコツと、それこそレッスンも何もない日に課題をするように言っておいたのに、この子ときたらオフの度に私を遊びに誘って……全くこの子は本当にもう……。

 

「静香ちゃん顔にやけてるけど何かいいことあった?」

 

「そうね、しいて言うなら未来に手がかかることね……」

 

「えぇ……?」

 

 たまたま一緒にいた翼が困惑しているが、これでも私は怒ってる。そう怒っているのだ。

 

「ちなみに翼、貴女課題は?」

 

「終わってるよー」

 

「そんな!? 翼は絶対私の味方だと思ってたのに!? この裏切り者!」

 

「勝手に味方認定しないでよ……」

 

「大丈夫よ未来、現状で一番の味方は私だから」

 

「静香ちゃん、やっぱり怒ってるよね……?」

 

「怒っていません」

 

 ビクビクと怯えながらノートを広げる未来に、流石にちょっと脅かし過ぎたと反省する。

 

「ほらちゃんと私も手伝ってあげるから頑張りなさい。今日から登校日までステージはないわよね?」

 

「う、うん、レッスンだけ……」

 

「しっかりと終わらせるわよ。合同ライブに出演させてもらえるんだから、課題が終わらずに補習なんて恥ずかしい真似を……」

 

 

 

 ――真美ぃぃぃ! アンタなんで課題終わってないのよぉぉぉ!?

 

 ――りっちゃんなんで劇場(こっち)まで追ってくるのぉぉぉ!?

 

 

 

「………………」

 

「……私、ちゃんと課題終わらせるね」

 

「いい子ね、未来」

 

 ありがとう、真美さん……!

 

 

 

 

 

 

「課題が終わってないよぉぉぉ!?」

 

 

 

「悲鳴助かる?」

 

「誰も助かってないよ……」

 

 夏休みも残り三日というタイミングで考えるとかなりマズいことを叫んでいる愛ちゃんに、僕と絵理ちゃんは揃ってため息を吐いた。

 

「毎年のことだけど、どうしてもう少し計画的にやれないかな……」

 

「れ、れっすんが忙しくて……」

 

「それは私も涼さんも一緒」

 

「毎年同じ言い訳をするんだからもう……」

 

 呆れつつも見捨てることはしない僕と絵理ちゃんは、今年も事務所に集まって課題のお手伝いをすることになった。

 

「本当にありがとうございます……」

 

「なんだかんだ言って、夏の風物詩感は出てきちゃったよね」

 

「これがないと夏は終われない?」

 

 いや夏が終わるからこそやらなきゃいけないことであって、因果が逆転しているような気がする。

 

「涼さんと絵理さんはもう課題終わったんですか?」

 

「愛ちゃん、去年も言ったけど」

 

「僕たちはもう高校卒業してるから」

 

「ズルいです!」

 

 ズルくはないです。

 

「愛ちゃん、毎年のことだけどこんなに課題を貯めちゃってお母さんに怒られない?」

 

「……あっ! そうなんですよ! 聞いてください!」

 

「聞いてるからペンは置かないで?」

 

「優先順位間違えないように」

 

「はい」

 

 普段は愛ちゃんに甘めな僕と絵理ちゃんだが、今日に限っては少しばかり厳しめに接する。シュンとしてしまった愛ちゃんが少し可哀想に思ってしまったがグッと我慢する。隣に座る絵理ちゃんも自分の太ももを抓って自制していた。……いや流石にそこまでする?

 

 

 

「最近ママが何かしてるみたいなんです」

 

 

 

「「………………」」

 

「……あの、お二人とも……?」

 

「愛ちゃんちょっとペンを置こう?」

 

「今は課題よりも大事なことがあるよ」

 

「さっきと真逆のこと言ってませんか!?」

 

 やばい、なんか聞いちゃいけないことを聞いてしまったような気がする。僕と絵理ちゃんだけで対処出来るレベルの問題じゃないよコレ。

 

「ど、どうする? 良太郎さんに相談する?」

 

「そ、そうだね、あとは麗華さんにも……」

 

「ママが『絶対誰にもしゃべっちゃダメダカラネ』って」

 

「「……なんで喋っちゃったのぉぉぉ!?」」

 

「だってぇぇぇ! こんな重要そうなこと一人で背負いきれませんよおおおぉぉぉ! 私と一緒に背負ってくださぁぁぁい!」

 

 聞きたくなかった! こんなこと聞きたくなかった!

 

 もう愛ちゃんの課題をするどころの話じゃないよおおおぉぉぉ!?

 

 ぎゃおおおおん! 誰か助けてえええぇぇぇ!?

 

 

 

 

 

 

「「「「「たすけてください輝さん」」」」」

 

「嘘だろ……!? まさか五人も……!?」

 

 冗談交じりに「お前ら課題は終わってるか~?」と尋ねてみたら、四季と春名と隼人と悠介と享介がガッツリと頭を下げてきた。

 

「おい旬! 夏来! ハイジョの三人はお前たちの管轄だろ!?」

 

「そうは言われましても……」

 

「三人とも、ちゃんとやってるって言ってたから……」

 

 虚偽の報告するんじゃねぇよ!

 

「それに、悠介はともかく享介までどうしたんだよ!?」

 

 悠介はなんとなくそんな気がしたけど、享介はどちらかというとしっかりと課題を終わらせるタイプだろ!?

 

「いや、ほぼ終わってはいるんですけど……英語だけはどうしても分からなくて……」

 

「ぐっ、それならまだ情状酌量の余地はあるか……」

 

「というか輝サン、オレならともかくってどういう意味!?」

 

 どうやら315プロ学生組でしっかりと課題を終わらせているのは旬と夏来と咲の三人だけらしい。

 

 しかし、まさか過半数の学生が課題を終わらせていないとか、アイドルとしての活動以前の問題である。

 

「プロデューサー……」

 

「これは流石に見過ごせませんね……」

 

 これには基本的に大らかなプロデューサーも険しい顔を浮かべていた。

 

「123プロや1054プロからも『学生はその本分を疎かにしないこと』という通達が来ているので、このままでは合同ライブのメンバーから外されてしまう可能性も……」

 

「「「「「マジで!?」」」」」

 

 五人は寝耳に水だとばかりに驚愕しているが、正直そりゃそうだろとしか言えなかった。

 

「そんな……123プロってことはそれ言ってるの良太郎さんだろ……あの人だって夏休みの課題なんて真面目にやらないタイプのはずなのに……」

 

「あ、普段の言動で誤解されがちだけどリョー君は根っこの部分が真面目だから課題とかは計画的に終わらせるタイプだよ。しかも分からないところはキチンと人に教わって理解してから自力で回答欄を埋める優等生タイプ」

 

「「嘘でしょ!?」」

 

「「「そういやそんなこと言ってたなぁ!?」」」

 

「あー……」

 

 みのりさんからもたらされた情報に驚愕する二人だが、俺は普通に納得してしまった。確かにリョーさん、仕事してるときはかなり真面目だしそういうところあるって言われると納得出来るんだよな。普段の言動で損しすぎてる気がする。って、ハイジョは知ってたんだな。

 

「リョーさんの学生時代の課題事情はいいんだよ。今は自分たちの課題事情の心配だろ」

 

「「「「「はーい……」」」」」

 

 さて、学生が勉強で困っているという現状。そんな状況にピッタリのアイドルが三人ほど所属しているのだが……。

 

「こういうときに限って『S.E.M』の三人は地方での仕事なんだもんなぁ……」

 

 しかも今朝から出発して帰ってくるのは二日後の夏休み最終日という、学生諸君にとっては最悪のタイミングである。先生方が揃っていれば、多少のお説教はありつつもしっかりと面倒を見てくれたことだろうが、いない人を頼るわけにもいかない。

 

「しゃーない! 俺が面倒見てやるよ!」

 

「い、いいんですか!?」

 

「いいも悪いも、そうしなきゃお前たちだけじゃなくて合同ライブに関わる人たち全員が困るんだからしょうがないだろ」

 

「ご尤もです……」

 

「みのりさんもご協力お願いできますか?」

 

「う、うーん……力になれればいいんだけど……」

 

「俺たちも……協力します……」

 

「元を辿れば、僕たちの監督不行き届きの面もありますからね……」

 

 苦笑しながら「勉強は苦手だったから分かる範囲で……」と一応の了承してくれたみのりさんと、夏来と旬も手伝ってくれることになった。

 

「それで、まず最初に確認させてくれ」

 

 英語だけが残っていると自己申告してくれた享介以外の四人に聞きたい。

 

 

 

「……どれだけ残ってるんだ?」

 

「「「「………………」」」」

 

 一斉に目を逸らすんじゃない!

 

 

 

 

 

 

「……とまぁこんな感じに、各事務所から『ナツヤスミ カダイ キトク タスケテ』と電報が届いております」

 

「今時電報は届かねぇだろ。……え、今でも電報ってあんの?」

 

 あるらしいよ。

 

「学生諸君にとっては死活問題だからな。俺も苦労はしたよ」

 

 何せアイドルとして一番脂が乗っていた時期だから、マジで忙しかった。今思い返してみてもよく自力で課題こなせたなって思う。

 

「ちなみに冬馬は?」

 

「……ある程度頑張っている姿勢を見せている以上、多少の素行不良は目を瞑ってやるんだろ?」

 

「そりゃあな。正面切って『課題やらなくても出演オッケー』とは言えないから頑張ってもらうけど。ところで冬馬は?」

 

「………………」

 

 目ぇ逸らすな。

 

「ともあれ、そういうことならちょっとこちらでも助け舟を出してあげてもいいかもしれんな」

 

 一応俺も運営側の人間でもあるし、アイドルたちに気持ちよく出演してもらうのも運営の仕事なのである。

 

 さて、それじゃあまずは何処に連絡を入れるか……。

 

 

 




・夏休みも残り三日
おっ、余裕だな!()

・「もう疲れちゃって全然動けなくてェ……」
前作も最新作もやってないなぁ。

・「最近ママが何かしてるみたいなんです」
ほのぼのとした日常に突然のダイナマイト!

・セム不在
ニュアンス的には、無双しちゃうからという理由で劇場版でハブられた直葉ちゃん。



 課題の有無に限らず、合同ライブに参加する学生アイドルを全員出すことが目的の今話。

 ようやく彼女たちが喋るよ……。
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