アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

527 / 664
集いし学生アイドルたち。


Lesson373 学生偶像連合課題殲滅戦線 3

 

 

 

 ――我が名は『うえきちゃん』……この美城の地に根を下ろすもの也……。

 

 ――いや……植木鉢に入ってるから根は下せないんじゃない……?

 

 ――というかフレデリカサン、全然隠れられてないデスよ。

 

 ――迷い人よ……汝らに良いことを教えてあげよう……。

 

 ――えっ。

 

 ――良いことデスか?

 

 ――もしかして山形リンゴが青森と長野に勝つ方法ですか!?

 

 ――え、いや……え?

 

 ――あかりちゃん、あのフレデリカサンが怯むって相当デスよ?

 

 ――ちょっとだけ静かにしてようねー?

 

 

 

 

 

 

「うわデッカ!?」

 

「その無駄乳の自慢デスか?」

 

「いくらぼくでもそんなこと大声で自慢しないよ!? このビルがっていう意味に決まってるでしょ!?」

 

「はわわ、本当に大きいんご……!?」

 

 八月三十一日。夏休みの最終日となるその日、自分たち三人はとある巨大なビルへとやってきた。

 

 国内外問わず誰もが聞いたことのある有名企業のテナントが名を連ねる都心のビルというだけあって、明らかに自分たち三人は浮いていた。それでも全くといって視線を感じないのは、きっとそれだけここを行き交う人たちが自分たちに気を取られる暇がないぐらい忙しなく働いているということだろう。

 

 そして、そんなビルを二フロアも抑えているのが、現在の日本のアイドル業界の頂点に君臨する芸能事務所『123プロダクション』なのである。

 

「まさかあの123プロダクションが、学生のために勉強会を開いてくれるとは思わなかったよ……」

 

「ホント、驚きましたね」

 

 昨日フレデリカさんが教えてくれた『良いこと』というのは、勿論山形リンゴの未来などではなく、『123プロダクションで勉強会が行われる』という今のあかりチャンを救う絶好の催しだった。どうやら123所属のユニットメンバーである一ノ瀬志希サンからの情報らしい。

 

「夏休みの課題に苦しんでいる学生アイドルはあかりちゃんだけじゃなかったんだね……」

 

「よかったデスねあかりちゃん」

 

「喜べない……」

 

 そこで落ち込む程度には良心があって何より。

 

「……ところでコレ、どうやって上に上がればいいんだろ……?」

 

「な、なんか駅の改札みたいになってるんご……!?」

 

「あ、あっちに受付がありますから、きっと……!」

 

 それはそれとして自分たち三人にこのビルは敷居が高すぎた。一応Pサン経由で123プロダクションにアポを取ってもらっているのだが、実際にビルへと足を踏み入れると思わず尻込みしてしまう。なんか『お気軽にご参加ください』みたいなノリの案内だったが、お気軽にご参加出来るようなビルじゃないんデスよココ。

 

 そして三人揃ってオロオロとしていると……。

 

 

 

「どっひゃぁぁぁ!? なんだこりゃ!?」

 

「なんすかココ!? 本当にココに事務所があるんすか!?」

 

「春名さんと四季くん静かに……!」

 

「いやでもお上りさんになる気持ちも分かる……」

 

「ひ、広い……」

 

「やっぱり123プロって凄いんだねぇ……」

 

 

 

 何やら自分たちと同じようなリアクションをする、自分たちと同じように若干浮いている集団がやって来た。男女比が5:1というややアンバランスな、おそらく高校生ぐらいのグループ。……あれ、()()()()()()()()()()

 

「……りあむサンりあむサン」

 

「あきらちゃんちょっと待って。今SNSに挙げる用の写真撮ってる」

 

「薪なんて後で拾ってください」

 

「薪って言った!? あきらちゃんもしかしてぼくがSNSに挙げる写真を撮ることを薪拾いだって言った!? 別に火を付けることが用途じゃないよ!?」

 

「そうでしたね、無から燃えるのが得意技でしたもんね」

 

「ぼくだって燃えるための酸素ぐらい必要としますぅ!」

 

「息を吸うように燃えるってこと?」

 

「うっさいよぉ!」

 

 ええい、いいから早くこっち向きなさい。

 

「あっちのグループ、りあむサンなら見覚えあるんじゃないデスか?」

 

「え~? あんな明らかにバンドやってそうな陽キャグループに見覚えあるわけないじゃん。確かに眼鏡かけた人は伊勢谷四季君に似ててヘアバンド付けてる人は若里春名君に似ててギターケース持ってる人は秋山隼人君と榊夏来君に似てて大人しそうな人は冬美旬君に似ててまるで315プロのハイジョが全員揃ってるように見えるけどまさかそんなわけハイジョ全員揃ってんなコレ!?」

 

 どうやら自分の勘は当たっていたようで、本当にアイドルグループだったらしい。

 

「ってハイジョだけじゃなくて咲ちゃんまでいるし……うっはぁ顔面がいい……」

 

「あれ? りあむさん、315プロって言いましたよね? 315プロって男性アイドルの芸能事務所じゃないんですか?」

 

「あ、うん。咲ちゃんは男の子だし」

 

「……え、誰が男の子なんですか……?」

 

「だから、あのツインテールの子」

 

「……?」

 

 あぁ、そういう知識に乏しいあかりチャンがフリーズしてしまった……。

 

 

 

「って、あれ……?」

 

「ナツキ、どうしたの?」

 

「あそこにいるの……確か、346プロの……」

 

「え、アイドル?」

 

「ってうわ胸デカッ……うげふっ」

 

 

 

 なにやらヘアバンドを付けた人が、大人しそうな人とツインテールの人に脇腹を殴られていた。

 

 ……とりあえず、目が合ってお互いに認識した以上、なんとなく無視するのもあれだし、多分目的は一緒だろうから声かけてみますか。

 

「あの、スミマセン、もしかして……」

 

 

 

 

 

 

「さて、『絶対に笑ってはいけない課題殲滅戦線』にようこそ」

 

「趣旨変わってるの!?」

 

「このタイミングでそれするのは鬼やない!?」

 

 うん、流石にそれどころじゃないだろうから中止にした。

 

 なのはちゃんとはやてちゃんのツッコミをもらったところで、コホンと一つ咳払いをしてから改めて会議室を見渡しながら挨拶をする。

 

「改めて、夏休み最終日の駆け込み勉強会へようこそ。残りの課題をやっつけたい人も、そんな人たちに勉強を教えるために来てくれた人も、課題は既に終わってて自主勉をしに来た人も、仲良く勉強していきましょう。特に勉強が苦手な人は遠慮なく周りを頼ってね」

 

「はい良太郎さん! 質問です!」

 

「はい未来ちゃん」

 

「おやつタイムはありますか!?」

 

「ちょっと未来……!」

 

「勿論あります。本日は喫茶『翠屋』自慢のシュークリームを用意しております」

 

「してるんですか!?」

 

「やったぁぁぁ!」

 

「しかも翠屋のシュークリームってメッチャ有名な奴じゃん……!」

 

「マジで!?」

 

 勢いよく手を挙げた未来ちゃんの質問に答えると、彼女だけじゃなくて多くの子たちが顔を綻ばせた。翠屋の次女であるなのはちゃんも自慢げな表情である。

 

「えっと、いいんですか良太郎さん、そんなに緩い感じで……」

 

 続いて挙手したのは涼だった。愛ちゃんのお目付け役として参加しているらしい。

 

「まぁ詰め込み過ぎてもマズいからね。最終日だからこそ心に余裕を持ってもらわないと」

 

 けどまぁ。

 

「今日中に課題が終わらない奴は……分かってるな?」

 

 

 

「ほら愛ちゃん課題出して!」

 

「未来! 頑張るわよ!」

 

「不味いぞリョーさん本気だ!」

 

 

 

 全員慌てて課題を取り出して勉強会がスタートした。うんうん、頑張れ頑張れ。

 

 

 

 さて俺も教える側に回るわけなんだけど。

 

「あの……すみません、英語の課題で分からないところが……」

 

「いいよー……って、アレ?」

 

 早速俺の唯一の得意分野である英語の質問がやって来たのでそちらに振り返ると、そこには控えめに手を上げる紬ちゃんがいた。

 

「どうしたの紬ちゃん、君は課題を貯めちゃうようなタイプじゃないと思ったんだけど」

 

「うっ……か、課題のリストを……勘違いしていまして……」

 

「あー……」

 

「今貴方『バカだなぁ』とか思いましたね!?」

 

「思ってないから落ち着いて」

 

 どちらかというと涙目可愛いなぁって思いつつ、紬ちゃんを宥めてから彼女の隣に座る。

 

「というか、こうして改めて話すのは初めて会ったとき以来だね」

 

「……えっと、二年前の……」

 

「そうそう」

 

 初めて紬ちゃんと出会ったのは、彼女がプロデューサーにスカウトされて上京してきたタイミングだ。詳しくは番外編47を参照。

 

「劇場の屋上のバーベキューのときは落ち着いて話せなかったからね」

 

「……アレは貴方がそれどころではなかったからでは……」

 

「ご尤も。……で、どこが分からないの?」

 

「あ、はい、えっと……ここです」

 

 眼鏡をかけて紬ちゃんの手元を覗き込む。

 

 えっとここはねぇ。

 

 

 

 

 

 

「ほら、こう考えると簡単でしょ?」

 

「なるほどぉ! ありがとうございます!」

 

 咲ちゃんの説明を受けて、大袈裟なぐらい感心しつつお礼を言う愛ちゃん。

 

「うーん、やっぱり愛ちゃん可愛いなぁ。あたし、兄弟いないけど妹ってこんな感じなのかなって思っちゃう」

 

「私も、お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかなって思います!」

 

 いや、愛ちゃんと咲ちゃんって学年一つしか違わないし、そもそもお姉ちゃんじゃなくて……まぁいいか。

 

「それにしても、さっきからりょうちんと絵理ちゃん、なんかそわそわしてない?」

 

「「えっ」」

 

 咲ちゃんからの突然の指摘に、思わずドキリとしてしまった。

 

「い、いや、なんでもないですよ?」

 

「きっと気のせい?」

 

「なななないですよ?」

 

「いやメッチャ愛ちゃん動揺してるじゃん」

 

 勿論何もないわけではなく、僕たちは先日愛ちゃんから突然もたらされた『日高舞が何かをしようとしている』という特級の地雷案件を良太郎さんに言うべき否かを悩んでいた。

 

 今回合同ライブに参加させてもらう側なので言うべきだとは思うのだけれど、おそらく隠しているであろうことをバラしてしまった場合、それはそれで今度は日高舞さんが怖い。

 

「「「………………」」」

 

 思わず三人で目を合わせてしまう。

 

「え、本当にどうしたの? 何かあったの?」

 

「あったと言えばあったんですけど……」

 

「知らなかったことにしたいというか……」

 

「寧ろ記憶を無くしてしまいたいというか……」

 

「そこまで……!?」

 

 

 

「俺も! 俺も全てを忘れて逃げ出したい!」

 

「春名ぁ! お前はよそ見してないでさっさと課題やれぇ!」

 

 

 




・うえきちゃん
生放送の誕生秘話を含めて面白すぎる存在。

・『絶対に笑ってはいけない課題殲滅戦線』
収拾つかなくなるから没となりました。



 もっとわちゃわちゃさせたかったけど、本番はライブが始まってからだからね、仕方ないね(言い訳)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。