アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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夏 休 み が 終 わ り ま し た ね(挨拶)


Lesson48 不穏なフラグ

 

 

 

「……え?」

 

「ど、どういうことですか?」

 

「……急に出演キャンセルなんて……」

 

「いやぁ、悪いね。こっちも都合があってさ」

 

 

 

「まぁ、また別の機会があったらよろしくねー」

 

「そ、そんな」

 

「ちょっと待って……!」

 

「………………」

 

 

 

「残念だったわねー」

 

「初のテレビ出演なんだっけ? かわいそー」

 

「でもまぁ、しょうがないわよ。あんた達はお呼びじゃなかったってことよ」

 

「……そん、な……」

 

 

 

「……これで、終わり……?」

 

「……ようやく掴んだ、チャンスが……」

 

「………………」

 

 

 

「泣いてる暇があったら、少しでも早く立ち上がった方がよっぽど有益だと思うぞ」

 

 

 

 

 

 

 これは、夢。

 

 私が『彼』と初めて出会った時の夢。

 

 すごく悲しくて、すごく辛くて。

 

 それでも、私の大切な思い出。

 

 

 

「――きろ。おい、起きろって」

 

「……んんっ……」

 

 起きろー、と額をトントンと小突かれる。まだ意識がハッキリとしていないため、誰がアタシを起こそうとしているのかは分からない。

 

「……あのねー……ゆめ、みてた……」

 

「へー、どんな夢?」

 

「……りょーくんとね……はじめてあったときの、ゆめ……」

 

「あー、あれか」

 

「……あたしね……あのときから……」

 

 ……ん?

 

 そこでようやく意識がハッキリとしたものになり始めた。

 

(あれ……アタシ、誰と話してるの……?)

 

 恐る恐る、ゆっくりと目を開く。

 

 

 

「お、ようやく起きた」

 

 目を開いたその先にいたのは、夢の最後に登場した男の子。とどのつまり、りょーくんなわけで。

 

 つまり先ほどまで話していた相手はりょーくんということで。

 

 そのりょーくん相手に何を口走ろうとしていたのかを理解してしまったアタシは――。

 

 

 

「ひゃあああぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

 

 

 

「……耳がキンキンする……」

 

「ご、ごめんりょーくん」

 

「だから止めとけって私は言ったのよ」

 

 どうも、知り合いの女の子が居眠りをしていたので起こしてあげようと思ったら超至近距離で『ハイパーボイス』を喰らい鼓膜に多大なるダメージを受けた周藤良太郎です。威力90に命中100は伊達じゃなかった。おっかしいなぁ。前同じようにりんを起こした時はここまで派手なリアクションしなかったと思ったんだけど。ちなみにいつのものように遊びに来たテレビ局内の魔王エンジェルの控室でのことである。

 

「それにしても四年前か」

 

「リョウのゲリラライブで大分食われた感はあるけど、そっちも十分にショッキングな出来事だった」

 

「確かになぁ」

 

 魔王エンジェルには「泣いてる暇があったら」どうだのこうだの偉そうなことを話したが、あの時は自分も内心結構テンパっていたりする。「え、やっべーテレビ出演無くなったよどうすんだよどういうことだよふざけんなよコノヤロー」みたいなことを考えていて、半ば八つ当たり気味にゲリラライブした記憶がある。今更ながらよく成功したものである。

 

「にしても唐突だな、その時の夢を見るとか」

 

「りんなら結構な頻度で見てそうだけど?」

 

「いや、アタシはその時の夢よりも最近のりょー……げふんげふん、アタシは久しぶりに見たかな?」

 

 りんが一体何を言いかけたのかが気になる。

 

「何かのフラグだったりしてね」

 

「そういうフラグはいらないんだけどなぁ……」

 

 

 

 ……ホント、いらなかったんだけどなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 それは数日前に遡る。

 

 

 

 今日のお仕事は歌番組の生放送。しかも久しぶりに竜宮小町の三人と一緒のお仕事なので、テレビ局にはりっちゃんもいることだろう。リハーサルを行うために準備を進め、あとはスタジオに行くだけという状態にしてから竜宮小町の楽屋に向かう。周藤良太郎が女性アイドルの楽屋に一人で向かう、と言葉にしてしまえば若干アレかもしれないが、俺が現役時代のりっちゃんと仲がいいことはスタッフさん全員が知っており、そのりっちゃんが竜宮小町のプロデューサーであることも知っているため今更な話である。

 

 という訳で近くを通りがかったスタッフに竜宮小町の楽屋の場所を聞く。

 

「……え?」

 

 しかし、帰ってきた返事は予想外のものであった。

 

「……竜宮小町が、ドタキャンした?」

 

 思わず自分の耳を疑ってしまった。

 

「本当に?」

 

「は、はい。自分はそう聞いてますが……」

 

「……そっか。ありがとうございます」

 

 お仕事中呼び止めてすみませんと謝罪をし、失礼しますと頭を下げて去っていくスタッフの背中を見送る。

 

「………………」

 

 リハーサルを行うためにスタジオへ向かう道すがら、配られた今日の台本を捲る。出演者が一覧となって記載されているページには、間違いなく竜宮小町の名前があった。ここに名前があるということは、間違いなく今日まで彼女たちは番組に出演する予定だったということだ。俺も事前にりっちゃんと今日の番組で一緒になるという話をしていたので間違いない。

 

 しかし、竜宮小町はドタキャンをしたと告げられた。

 

(何かあったのか……?)

 

 アイドル側が土壇場で番組出演をキャンセルする行為は、本来あってはならない行為だ。信用にも関わってくるし、社会人としても勿論アウト。

 

 ダブルブッキング? それとも事故? どちらにせよ、ただ事ではなさそうだ。

 

 後で連絡をしてみようと考えながら、俺はリハーサルが行われるスタジオに足を踏み入れた。

 

「周藤良太郎さん、入られましたー!」

 

「おはようございます!」

 

「おはようございます!」

 

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

 

 多くのスタッフや他のアイドルからの挨拶を返しながらスタジオの隅に向かう。べ、別に今日の出演者の中で唯一仲がいい竜宮小町がいなくなったからってボッチになったわけじゃないんだからね!

 

「よう」

 

「……え?」

 

 しかしそこには予想外の三人が先客として存在した。

 

「おはよう、りょーたろーくん」

 

「今日はよろしくね」

 

 仏頂面の一人を除き、笑顔で挨拶をしてくる残りの二人。天ヶ瀬冬馬、御手洗翔太、伊集院北斗の三人からなる961プロのアイドルユニット『Jupiter』だった。

 

「おはよう。……あれ、今日お前ら出演予定だっけ?」

 

 台本をパラパラと捲り、先ほども見た出演者一覧のページを開く。しかし、やはりそこジュピターの名前は存在しない。どういうことだと首を傾げる。

 

「……ドタキャンが入ったから急遽俺たちが出演することになったんだよ」

 

 冬馬が俺の疑問に応えてくれたのだが、何故かその声はイラつき混じりのものだった。

 

「冬馬君、さっきから『何で俺たちがそんな尻拭いみたいなことをしなくちゃいけねーんだよ』って不貞腐れちゃってさ」

 

「お仕事貰えたんだから素直に喜ばないと」

 

「ちっげーよ! 俺はドタキャンしたこの竜宮小町って奴らに腹立ってんだよ!」

 

 バンバンと出演者のページを叩く冬馬に、翔太と北斗さんの二人は苦笑いを浮かべる。

 

「………………」

 

 竜宮小町の出演が急遽キャンセルとなり、その代わりにジュピターの三人が出演することになった……ということか。

 

 考えてしまうのは、二つの可能性。

 

 一つは、本当に竜宮小町がドタキャンしたという可能性。しかし、りっちゃんがドタキャンなんて不誠実な真似をするはずがない。もしメンバーの中の誰かが来れなくなったというのであれば、残りのメンバーだけが来ればいいだけの話。全員が来ない理由にならない。メンバー全員でなければNGだとテレビ局側から言われた? いや、それならばドタキャンしたのはテレビ局側であってりっちゃん達に非はないはずだ。

 

 そしてそれこそが二つ目の可能性、テレビ局側が竜宮小町の出演をドタキャンした可能性。テレビ局側から出演を拒否したという話が流れてしまえばマイナスイメージになる。だから出演者側から出演を拒否したという話にした……という可能性。その場合のテレビ局側のメリットは何だ? アンチ? 気まぐれ? それとも……。

 

 

 

 ――第三者の介入。

 

 

 

「………………」

 

 脳裏に過るのは四年前のあの出来事。俺と幸福エンジェルからテレビ出演の機会を奪っていった雪月花の三人組。

 

 今回の場合の第三者は誰になる……? 竜宮小町、またはりっちゃん、もしくは765プロダクションそのものに対して敵対心を持つ企業、というのが有力だろうが、生憎そこら辺の関係性を俺は知らない。

 

 ……ただ、最も可能性があるとするならば――。

 

 

 

「大体、ドタキャンするっていうこと自体がプロとしてありえねーんだよ! 最近調子に乗ってるみてーだけど、あんな連中ステージに上がる資格――もがっ!?」

 

(冬馬くん、それ以上はシーッ!)

 

(良太郎君の前なんだから抑えて抑えて)

 

(何でだよ!?)

 

(考えてもみてよ、765プロって言ったらりょーたろーくんがお気に入りかもしれないところなんだよ?)

 

(その事務所のアイドルがドタキャンなんて真似して、きっと良太郎君もショックを受けてるんだよ。ほら、さっきから視線が宙に漂ったままだし)

 

(……こいつがそんな玉かよ)

 

 

 

 ――先ほどから三人でコソコソと何やら密談をしている、このジュピター。今回竜宮小町が出演しなくなったことで最も得したのは、間違いなく代わりに出演することになったこの三人だ。

 

 ………………。

 

「……おい、さっきからボーッとしてどうしたんだよ」

 

「……いや、おめーら三人にあの可愛らしい女の子たちの代わりが務まるのかと心配でね」

 

「んだと!?」

 

 いきり立つ冬馬を翔太と北斗さんが「どーどー」と両脇から抑える。

 

 結局、まだ可能性の話だ。とりあえず今は目の前の番組出演のことだけを考えよう。

 

 

 

 しかし、この胸騒ぎだけは終始収まることはなく。

 

 

 

 こんな時ばかり当たってしまう自分の予感が嫌になるのは、わずか数日後の話となる。

 

 

 

 ……ホント、フラグなんていらないっつーの。

 

 

 

 




・開幕夢オチ
なんか前もこんな始め方があったようななかったような。

・『ハイパーボイス』
リメイクされてもキモクナーイは不遇だった……。

・竜宮小町のドタキャン
当然そんなはずありません。皆さん分かっていると思いますが、一応。
REX版二巻のエピソードを参考にしておりますが、あれとは時系列が違う設定です。

・(きっと良太郎君もショックを受けてるんだよ)
最近使われることがない勘違い要素。……あんまり意味内容な気もするが。



 ネタ少なめなのはストーリー自体がシリアス気味なため。アニメも14話を区切りにだいぶキナ臭くなってきますし。しかし頑張ってネタ要素をつぎ込んでマイルドにしていきたいです。



 あとラブライブの小説も公開しました。(唾付け&流行に乗っておく的な思惑)

 良太郎と一切関係ない新作で、他のラブライブ小説とは絶対に被らない(であろう)内容(のはず)です。現在(2014/09/02)プロローグのみですが、もしよろしければそちらもご覧になってください。

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