アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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正直趣味に全部振りしすぎたと反省してる。


Lesson378 Episode of Beit 4

 

 

 

 突然ですが、修羅場です。ラブコメ的な意味ではなく、文字通りの意味で修羅場です。

 

 

 

「……アンタのことは気に食わないけど、こうして相まみえちまった以上は名乗ってやろうじゃねぇの」

 

 バイクから降りた黒髪ポニーテールの女性は、ヘルメットを脱ぎながら目の前の女性に対してギラリとガンを飛ばした。

 

「チーム『竜宮』。総長の乙姫(おとひめ)だ」

 

「ウホッ。名乗られた以上、気に食わないけどアタイも名乗ってやろうじゃないかウホ」

 

 そんな彼女に相対するのは、赤黒い髪をおさげにしたゴリラ顔の女性。……いや女性に対する表現方法ではないと重々承知しているのだが、多分自分でも気に入ってるでしょコレ。じゃないと「ウホ」なんて変な語尾使わないでメリよ。

 

「アタイは『呉莉羅連合』総長! 名前はまだ無いウホ! そのうち原作の方で命名される可能性があるからここでは名乗らないでおいてやるウホ!」

 

(……結局名乗ってねぇな?)

 

 とはいえ原作では十四話に登場して現在百五十五話らしいのだが、果たして今後命名される機会があるのだろうか。どうなんですかね中村先生。

 

「へっ、相変わらずウホウホと品の無いこった。……そんなアンタらがこんなことするたぁ、ますます格が落ちてんじゃねぇのかい!? アァ!?」

 

「それはこっちの台詞ウホ! アタイらの誇りに賭けて、ここでお前らをきっちりと潰してやるウホ!」

 

「やれるもんならやってみなよっ!」

 

 総長二人の啖呵が切られ、彼女たちの後ろに控える大勢のレディースたちの間に一触即発の空気が流れ始める。

 

 

 

(……一体いつからこの世界はヤンキーものになったんだ……)

 

 

 

 タクシーを降りてイベント会場へと向かう途中、休工中の工事現場があったのでまさかと思って覗いてみたら、案の定二つのレディースが相対している真っ最中だった。うんうん、ヤンキーものの抗争シーンは工事現場ってのがお約束だよな……じゃないんだよ。

 

(……あの黒髪美人さんが、早苗ねーちゃんの言ってた『呉莉羅連合の総長と個人的に仲が悪い奴』なんだろうな)

 

 チーム『竜宮』って言ったっけ。どうやら仲が悪いというのは本当のようで、とにかく相手が気に入らないという感情が両者から感じ取れた。

 

(警察に電話を……するべきなんだろうけど)

 

 一方が全員ゴリラ顔なので若干ギャグチックな雰囲気が漂っているものの、これは二つの暴走族の対立からの抗争には間違いない。場所が場所なので一般人への被害は無さそうだが、それでも警察に介入してもらうべき事態のはずだ。

 

 ただ、この場所がイベント会場からそれほど離れていないことも問題だった。もしこの場に警察が介入した場合、それなりの騒動になることは間違いない。そうなった場合、きっとイベントも中止か縮小か……一切影響なしとはならないだろう。

 

「………………」

 

 本来ならば迷わず通報するべき場面で、アイドルの俺は一瞬躊躇してしまった。けれどアイドルであるからこそ、みのりさんや拓海ちゃんたち、イベントに出演するアイドルたちの安全を守るためにも……。

 

 

 

「行くぞぉぉぉ!」

 

「歯ぁ食いしばれウホォォォ!」

 

 

 

「っ」

 

 その一瞬の躊躇の隙に、距離を取っていた二人の総長はお互いに向かって駆け出した。このままでは騒動が大きくなってしまう……そう考えた次の瞬間。

 

 

 

「そこまでだ」

 

 

 

 風が、俺のすぐ傍を駆け抜けていった。

 

「「なっ!?」」

 

 駆け出し突き出された二人の拳を、その手首を掴むことで止めた人物がいた。なんか止めた瞬間、風圧みたいなものがブワッとなったから二人とも凄い力を持っていたことが分かるし、そんな二人を同時に止めるなんてそれ以上の力が必要だし、やっぱりこれアイドルものじゃなくてヤンキーものに作品が変更されているのでは……。

 

「……って、みのりさん!?」

 

 二人の総長の間に割って入ったのは、俺もよく知るアイドル大好きお兄さんだった。後ろ姿なので顔は見えないが、聞こえてきた声とあの背格好は間違いなくみのりさんだった。

 

「誰ウホ!? 怪我する前に失せろウホ!」

 

「邪魔すんじゃないよ! すっこんでな!」

 

「引かないよ。こんなところで騒ぎなんて起こさせない」

 

「なっ、コイツ……!?」

 

「なんてパワーウホ……!?」

 

 総長二人はみのりさんの手から逃れようとしているらしいのだが、どうやらみのりさんの拘束を振り解くことが出来ないらしい。一体どれだけの力で彼女たちの腕を掴んでいるのだろうか……かと言って二人とも痛がる様子を見せていない。一体どのような力加減をすればそんなことが可能なのだろうか。

 

 ……いやそんなバトル漫画みたいな考察をしている場合じゃないんだよ。

 

「わ、渡辺さん……!」

 

 あ、拓海ちゃんも来た。みのりさんを追ってきたのかな?

 

「君たちがどういう理由でここに集まったのか、どういう確執があってヤリあおうとしてんのかは知らない。けど……どうやら君たち二人とも、あの子の知り合いなんだろ」

 

「「っ、拓海!」ウホッ!」

 

 みのりさんが肩越しにクイッと顎でこちらを指し示すと二人揃って拓海ちゃんの名前を口にした。どうやら二人とも、拓海ちゃんの知り合いだったらしい。

 

「今ここでヤリあったら拓海ちゃんの迷惑になるってことぐらい分かるだろ……そんなことも分からねぇんだったら……」

 

 段々とみのりさんの口調が悪くなっている気がする。

 

 

 

「……まとめて俺が、相手してやろうか?」

 

 

 

「………………」

 

 うわぁ、みのりさん、あんな声出せたんだ……なるほどこのレベルの元ヤンか。多分ウチの魔境校でもかなり上位に入る実力ありそう。

 

「っ……アンタが実力者だってのは、この掴んでる手だけで分かるウホ……!」

 

「でもなぁ、こっちにだって引けない理由があるんだっ!」

 

 一瞬だけ怯む様子を見せた二人だったが、それでもなお止まる様子を見せず――。

 

 

 

「「こんな奴に、拓海のステージの邪魔はさせない!」ウホッ!」

 

 

 

 ――総長二人の叫びが重なった。

 

『……え?』

 

 今にも殴り合いが始まろうとしていた工事現場に、季節にそぐわぬ一陣の空っ風が吹いたような気がした。

 

「……なんか流れ変わったな」

 

 

 

 

 

 

「バイクに乗るときは交通ルールを厳守! その他、法に触れる悪事は一切しない!」

 

「喧嘩は原則禁止! まずは話し合いでの解決を目指すべし!」

 

「主な活動はツーリングと女子会!」

 

「これが私たち、チーム『竜宮』だ!」

 

 以上、総長の乙姫さん以下メンバーの方々による自己紹介である。

 

「族じゃないの!?」

 

「オマエらちょっと見ない間に何があったんだよっ!?」

 

 みのりさんと拓海ちゃんがガビーンといった様子で驚愕している。俺も同じ気持ちである。

 

「いやまぁ色々あってな……ちょっと考えが変わったんだよ。今では健全な活動を心がけてんだよ」

 

 カラカラと笑う乙姫さん。確かに族っぽくない快活な人だなぁとは思ってたけど、まさか本当に健全な集団だとは思わなかった。

 

 とはいえ『竜宮』のメンバーは全員見た目はほぼ暴走族そのもの。現に俺たちも誤解していたわけだし、一般人の地元住民からしてみたら恐怖の対象であることには変わりはないわけで……。

 

「少し前に拓海(アンタ)がステージやるって聞いたから、こっちに来たんだよ。()()()()から足を洗ったとは知ってたけど、アイドルやってるところを生で見たことなかったからな。チーム全員で応援に来たんだよ!」

 

「……あ、ありがとな……」

 

「それだってのに、ちょいと早く来てみれば族がうろついてるなんて話になってるじゃないか」

 

 ギロリと呉莉羅連合の総長を睨む乙姫さんだが、その族っていうのに自分たちも含まれていることには気付いているのだろうか。

 

「だから拓海たちの邪魔にならないうちに、私たちが昔取った杵柄で取っちめてやろうと思ったんだよ」

 

「喧嘩は禁止なんじゃ……」

 

「原則、な」

 

 みのりさんからの指摘に対してしれっと返す乙姫さん。いい性格してるよ。

 

「拓海のステージの邪魔だぁ!? そんなことをアタイらがするわけないウホッ!」

 

 それに対して怒りを露わにする呉莉羅連合の総長。後ろに控えるメンバーもドラミングで威嚇をする……いやドラミングって。キャラ順守はもういいって。

 

「拓海とアタイは一度拳を交えた戦友のダチウホ! ダチの晴れ舞台を応援するのは当然ウホ! ……だっていうのに、こんな奴らがたむろしてるっていうんだから、アタイらで先に追っ払っといてやろうと思ったウホ」

 

「あぁん!? ウホウホ煩いアンタらに言われたくないんだよ!」

 

「こっちこそ女子会だのなんだのキャッキャウフフしてる軟弱者に言われたくないウホ!」

 

 ……どうやらお互いがお互いに、拓海ちゃんのためを思って行動した結果らしい。

 

「お前らよぉ……」

 

 これには拓海ちゃんも怒っていいのか喜んでいいのか悩んでいる様子だった。

 

 しかしこれにてこの騒動は終わりだろう。実際に喧嘩は起きなかったとはいえ、近隣住民から通報されている可能性もあるし、このまま解散すれば何事も無く……。

 

「けどまぁ、杞憂だったみたいウホね」

 

「アンタみたいな人が一緒にいるんなら、拓海のステージも安心だ」

 

 しかし総長二人がみのりさんをそう称したことにより、一度弛緩し始めた空気がまた変な方向に流れ始めた。

 

「え?」

 

「………………」

 

 驚く拓海ちゃんからも視線を向けられて、みのりさんは分かりやすくスイッと視線を背けた。

 

「髪色は変えてるみたいだけど、その髪型と目。直接見たことはなかったけど、話はよく聞いていたウホ」

 

「アンタの武勇伝は先輩たちから散々聞かされたよ。茨城県(ひとつのくに)の天辺を獲った伝説の男の話をね」

 

「その話詳しく」

 

「「「「うわっ、誰!?」」ウホッ!?」

 

「りょ、リョー君!?」

 

 余りにも興味深い会話内容に思わず物陰から出てきてしまった。なお変装をしたままのため拓海ちゃんにも正体に気付かれていない模様。

 

「俺のことはどうでもいいんですよ。それよりみのりさんの昔のこと、この際だから気になって気になって」

 

「だ、だからリョー君、その話は……!」

 

「といってもアタイも詳しい話は知らないウホよ」

 

「あぁ。先輩から聞いてるのは『茨城の鬼神』と呼ばれる凄い男がいたっていう武勇伝さ」

 

「『茨城の鬼神』」

 

「……ま、まぁ……ね? 俺にもね? そういう時代がね?」

 

 思わず微妙な目線を送ってしまった俺に対して、とてもいい反応を示した子が一人。

 

「え、えええぇぇぇ!? わ、渡辺さんが、『茨城の鬼神』!? あの!? 本当に!?」

 

 言わずもがな、拓海ちゃんである。それはもう目が輝いている。キラッキラである。覆面ライダー役として握手会を開いたときに俺に会いに来てくれた子どもたちのように純粋な瞳が輝いていた。

 

「……リョー君、あまり君にこういうこと言いたくないんだけど……」

 

 珍しく口元を引き攣らせたみのりさんが、ジロリと俺を睨んだ。

 

「……余計なことしてくれたね」

 

 

 

「俺はいつだって女の子の味方!」

 

「それを胸を張って堂々と言える君のことは嫌いじゃないよ!」

 

「ありがとう!」

 

 

 

 

 

 

 こうして『Beit』と『セクシーギルティ』の二つのユニットが参加するイベントは、なんのトラブルも発生することなく無事に開催されることとなった。

 

 怖がられていた二つのレディース……もといレディースとツーリングサークルは近くの駐輪場にしっかりとバイクを停車してからイベントに参加。『竜宮』はともかく呉莉羅連合はやや見た目がアレだったが、それはそれで拓海ちゃんの熱烈なファンとして認識されたらしく普通に受け入れられていた。

 

 こうしてイベントは大盛況のまま幕を閉じた……。

 

 

 

「な、なぁ……み、みのりさん……!」

 

「………………」

 

 

 

 ……目を輝かせる少女への対応に困る、たじたじな一人の男性を残して。ちゃんちゃん。

 

 

 




・チーム『竜宮』
アニメ化してるんだから『六道の悪女たち』はマイナーじゃない……よね……!?

・変な語尾使わないでメリよ。
メリ夫くんではないでメリよ(愛知県民にしか伝わらない)

・中村先生
偉大なる原作者様。是非完結まで頑張ってください。

・「バイクに乗るときは交通ルールを厳守!」
オリジナル設定が混ざった呉莉羅連合とは違い、こちらは原作通り。
時系列的には乱奈が初代鬼島潰した直後ぐらい。



Q ピエール&恭二「出番は?」
A ら、ライブ本番で……。

 バイト編という名の最強みのりさん伝説編になっていた。趣味に走るといつもこうなる……。

 次回から第八章最終話が始まる予定です。
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