「あっ! 恭也、次たこ焼き食べましょたこ焼き! 友紀ちゃんと茄子ちゃんも!」
「食べる食べるー! いやぁ粉物食べてるとビール飲みたくなるなぁ!」
「流石に今日は我慢しましょうね」
「……本当に、まるでお祭りだな」
女三人寄ればなんとやら。先ほどから楽しそうに出店を楽しんでいる恋人とかつての級友二人の姿に、思わず嘆息してしまった。
「いや何言ってるのよ恭也。これはお祭りよ」
「そーだよ恭也君! 八事務所が一堂に介するライブなんだからそれはもうお祭りなんだよ!」
「姫川、本当にまだ飲んでないんだよな?」
「大丈夫ですよ、私が見張ってます」
鷹富士はそう言うが、お前はどちらかというとブレーキ側じゃなくてアクセル側の人間だから心配なんだよ。
さて、俺たち四人で季節外れの縁日にやって来た様相ではあるが……実際にはここは
しかし基本的にみんなライブ直前のファンたち。聞こえてくる会話の内容は今回のライブや出演アイドルに関することばかり。
「えっ!? マジで!? 今日
「あぁ、なんか絶対に外せない用事があるから大人しく家で配信観るんだって」
「うわぁ可哀想に……あの人、魔王エンジェルガチ勢だろ?」
「ついでに123の箱推しでもあるし、最近では315にもハマってるらしい」
「ってことは本当だったら今回のライブは這ってでも来たかったんだろうなぁ……」
「俺たちに出来ることは、リョーさんの代わりに全力でアイドルたちを応援することぐらいだな」
「あぁ! 普段誰よりも大きな声を出してるリョーさんの代わりに、今日はでっけー声出してこうぜ!」
『応っ!』
……何やら心当たりのある人物が会話の中心になっていたような気もする。
「あーあー! アルコール売ってる店もあるのに飲めないなんてなー!」
「ダメですよ友紀ちゃん、飲酒してからの入場は厳禁なんですから」
今回に限らずアルコールを飲んだ人の入場は制限されることが多い。だからアルコールを販売している出店は入場せずに会場の雰囲気だけを楽しむ人に向けてのものなのだが、それを恨めしそうに眺めている姫川を鷹富士が窘めていた。
「ただ既に出来上がっている人はそれなりにいるな……」
出店許可を出しているところを見ると運営側も行政側も想定内なのだろうが、それでもまだ正午だというのにアルコールが回っている様子の人間がチラホラ見られた。
「いくら『りょーいん患者は素行が優等生』って言われてても、これだけ人が集まる上にお酒も入っちゃえば多少マナーが悪い人も出てきちゃうよねぇ」
「そうね。きっと恭也がいなかったら私たちもあっという間にナンパされてたかも」
「恭也君がいるから安心ですね」
「露払いなら任せておけ」
忍と違って二人は身バレの危険もあるからな。
「こんにちわー! そこのお姉さんたちは今日のライブで誰推しなの!?
「俺たちは――!」
……そうこう言っている間に近づいてくる二人の男が。すぐ傍にいる俺の姿が見えていないのか、それとも酔っていて気付いていないのか。
――チャキッ
「――ってそんなことを聞いてる場合じゃなかったー! 家に帰ってシャニソンやんなきゃなー!」
「『アイドルマスターシャイニーカラーズ Song for Prism』は現在好評配信中だわー! 現場でもおうちでもレッツライブ!」
踵を返して去っていく男たち。
「穏便に済んで良かったな」
「「「ちょっと待って」」」
厄介そうな酔っぱらいナンパ男たちが去ったというのに、何故か三人が詰め寄って来た。
「どうした」
「どうしたじゃないよ!? 上上! なんか変な効果音入ったよ!?」
「『チャキッ』って音したよ!? 高校のとき度々聞いた物騒な音が聞こえたよ!?」
「切りましたね!? 今私たちの見えないところで
はっはっは、何のことやら。
「よく考えてみろ。ここはライブ会場だぞ? いくら俺でもそんな危険物を持ち込むわけないだろう」
「だ、だよね……」
「いくら恭也君でもそれはなかったか……」
「高校の頃によく聞いた音だったからつい……」
そもそもだ。
「俺のは白木拵えなんだから鯉口を切っても鍔鳴りの音はしないぞ」
「俺のはってどういうことぉ!?」
「やっぱり持ってるじゃあああん!?」
「出しなさい! 今すぐ出しなさい!」
だから持ってないって。
「やあやあ、楽しそうだね」
まるで不審者を相手しているかのように詰め寄ってくる三人をあしらっていると、新たに俺たちに話しかけてくる男の声が。思わず鞘に手をかけながら「ほらぁやっぱりあるじゃん!」地の分に入ってくるな。
「久しぶりだね、恭也君、忍ちゃん」
金髪にダークブラウンの瞳。一見日本語が流暢な外国人男性にも見えるが、俺たちは彼がハーフではあるものの
「こんにちは、幸助さん」
「あっ! お久しぶりですおじ様!」
彼は『周藤幸助』。良子さんの旦那であり、良太郎と幸太郎さんの父親である。
「今年のお正月以来だから……大体一年ぶりになるね」
「珍しいですね、おじ様が年末にこっちに帰ってくるなんて」
海外で仕事をしている彼が日本に帰ってくるのは基本的にお正月ぐらいで……あとは幸太郎さんと早苗さんの結婚式のときにも帰ってきていた。そんな彼がこうして日本にいる理由は、言わずもがな。
「これだけ大きなライブだから、流石に俺も配信で済ませるわけにはいかないよ」
ところで、と幸助さんは姫川と鷹富士に視線を向けた。
「君たちは確か、良太郎たちと同級生だったかな」
「はいっ、姫川です」
「同じく鷹富士です。お父様のお姿は高校の頃に一度だけお見かけしたことがあります」
パッと見で外国人にしか見えない幸助さんに驚いていないのは、一度見たことがあったかららしい。
「まさか良太郎がクォーターだったとは思わなかったよね~」
「クラスの全員から『もうちょっとクォーターらしくあれよ!』ってそこそこ理不尽な総ツッコミをされてましたもんね」
その良太郎は「オメェたちに言われたかねぇよ純日本人!」と金髪や赤髪といったカラフルな地毛のクラスメイトにツッコミを返していた。
「うんうん、我が息子ながら相変わらず素敵な女性たちとの良縁に恵まれているみたいだね」
「えへへ……」
「ありがとうございます」
アイドルとしてある程度褒められ慣れている姫川と鷹富士は軽く流しているが、幸助さんは相変わらずこういうことを真正面から言うことに躊躇わない人である。
「なんというか、本当に周藤君のお父様って感じよね」
「はっはっはっ、何を言うんだい忍ちゃん。寧ろ俺がオリジナルなんだから。良太郎なんてまだまださ」
一体何がまだまだなのかと聞きたいところではあるが、本当に良太郎と親子なんだなぁと思わされる。
「………………」
ふと何かを思い付いた様子で姫川がパチンと指を鳴らした。
「もしかして幸太郎さんが早苗さんを、良太郎がりんを選んだ理由って……」
「その二人に関しては流石俺の息子たちだって褒めてあげたいよね!」
((((やはり父親からの遺伝だったか……))))
「まぁ世界で一番可愛い俺の奥さんには敵わないけどね」
「そういえば良子さんは一緒じゃないんですか?」
幸助さんが一人でライブに来るはずがなく、そもそもよく考えてみると良子さんと一緒にいない姿というのは俺目線からしてみるととてもレアな姿だった。
「ちょっと用事があるらしいから、会場で待ち合わせなんだよ」
「……あれ? まさか幸助さん、直接……?」
「うん。空港から直接来たよ」
「帰国したその足でライブ参加ですか!?」
涼しげな顔で「フライト中ずっと寝てたし荷物もバッチリ預けてあるよ」とサラッと言ってしまう幸助さんに忍が絶句した。姫川と鷹富士もちょっと口元が引き攣っている。
(……良太郎の体力は高町家で鍛えられたって言ってるけどさ)
(そもそも
(父さんも「周藤家は血筋がいい」と言っていたな)
(高町家に認められる血統……)
忍、お前もその血統の一員になるんだぞ。
「それにしても本当に人が多いね。今日って祝日だったのかな?」
折角だから、と幸助さんがお金を出して買ってくれたたこ焼きを全員で食べながら、軽く歩いて会場周辺を散策する。
「もしかして俺が日本にいない間に新しい祝日出来た?」
「残念ながら今日はなんの変哲もない普通の日曜日ですよ」
「とはいえ一部の人たちの間では
「実質祝日?」
幸助さんが首を傾げるのも無理はないだろう。
まず大前提として『周藤良太郎』のファンは多い。さらに『魔王エンジェル』や123プロといった今回参加するアイドルたち全員を含めれば、
そうなった場合、様々な場所でどのような事態になるか。そう、多くの
「そうして誰が呼んだか、今日は新たな祝日『アイドルの日』」
「凄いなウチの息子たちは。ついに日本の祝日まで作っちゃったのか」
「実際、鉄道などの公共交通機関も臨時ダイヤを運行してたりしますからね」
しれっと行政が動いていたりするから、そろそろ冗談が冗談じゃなくなりそうである。
「ところで翠屋は?」
「勿論臨時休業だが?」
「聞くまでもなかったか……」
周藤家とは家族ぐるみの付き合い以前に、そもそも我が家の次女の晴れ舞台だ。家族総出で応援しないわけがなかった。
「父さんと母さんは関係者席だ」
「ってことは士郎君と桃子ちゃんはそっちか。あとで挨拶が出来るね」
「……あれ? 恭也君、妹って二人いたよね……?」
「あと確か、同居人もいるって話じゃ……」
「「………………」」
俺と忍は黙って視線を逸らした。
「私たちだけチケット外れるとか聞いてなあああぁぁぁい!」
「こっちは世界の歌姫なんだぞおおおぉぉぉ!?」
・恭也視点
数少ない男視点。あとは兄貴と……確か初期にバネP視点もあったかな?
・リョーさん@認知されてる
アイドル好きのリョーさんは一部界隈で有名。
・『アイドルマスターシャイニーカラーズ Song for Prism』
相変わらずのログイン勢ぇ……。
・周藤幸助
ついに本編登場の周藤家父。既に一度登場済みなのでインパクト弱め。
・アイドルの日
アイマス周年記念日がそれに近いかもしれない。
・美由希&フィアッセ@お留守番
すまぬ……。
そういえば番外編を除けば一ヶ月以上主人公が喋ってねぇな?