アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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このタイミングでの初登場。


Lesson398 輝きの観測者たち 4

 

 

 

 八事務所合同ライブ当日。アイドルオタクとしても、アイドルとして出演するみのりさんやりあむんの友人としても見逃せないこのビッグイベントのチケットを幸運にも、それはもう信じられないぐらい幸運にも私、三峰結華は手に入れることが出来た。

 

「おぉ~……話には聞いてたけど本当に縁日みたいになってる……」

 

 開演時間どころか開場時間もまだまだ先ではあるものの、なにやら会場前の広場が凄いことになっているという話を聞いてやってきたのだが、確かに沢山の出店やキッチンカーが並んでいてお祭りみたいだった。

 

「ちょっと早い晩御飯ってことで、会場の中に入る前に何か食べておいてもいいかもな~」

 

 そんなことを独りごちながら色々と見て回りつつ、今日出演すると公言している二人以外の『集会』メンバーの動向に思いを馳せる。

 

(ありりんは後から765プロの人たちと来るって言っててー)

 

 リョーさんは『家の都合があって現地参戦は見送った』と。

 

(……いや嘘でしょ)

 

 確実にリョーさんは()()()()()。まだしっかりと言葉としては聞いていない以上、例え心の中でもそれを明言しない。しかし、それでもあの日のカラオケボックスの以降、私は()()()()()()だと確信している。

 

 あれ以来全員の会話をちょっとだけ意識して聞くようにしているのだが、どうやらみのりんさんとありりんもそれを知っているらしい。明らかに会話の内容がリョーさんが隠している仕事の内容を知っているようで、それを意識して聞いてみると色々と腑に落ちることが多かった。

 

 そして彼らと同じくアイドルとして活動しているはずのりあむんは知らないらしい。一瞬『なんで?』という疑問が浮かんだが、次の瞬間には『まぁりあむんだしなぁ……』と納得している自分もいた。理由があるとすれば間違いなくリョーさん辺りが『そっちの方が面白そうだし』って考えたのだろう。私だって多分そーする。

 

(りあむんと言えば)

 

 今朝早い段階でりあむんからのメッセージが届いていたのだが……その内容を細かく切り刻んで甘いチョコレートに溶かし込んで冷やして固めて要約すると『今日は合同ライブ当日! こんな遅い時間なのに女子寮の五十嵐響子ちゃんがお弁当を作ってくれました! 美味しそう! 今日は頑張ります!』みたいな感じのものである。

 

 うん、激甘に味変してこれなのである。つまりここから甘みを引くと……お察しください。りあむん節が炸裂しまくっててアイドルやってない私ですらちょっとイラッとしちゃったからね。アイドルである上に今回のライブに出演者として参加出来なかったありりんのこめかみの血管が無事であることを祈りたい。

 

「……ん?」

 

 さてそろそろ小腹が空いてきたし何か食べようかな……と考えて周りを見回していると、一組の男女の姿が目に入った。

 

 女性の方はとても可愛らしくピンクと黒で纏められたコーデの、色合い的には所謂『地雷系』だけどどちらかというと『量産系』なファッションの子。男性アイドルのライブではよく見かけるタイプの女性で、黒いマスクをしているだけで顔は半分しか見えていないが、それだけでも分かる美少女っぷりが目を引いた。

 

 対して男性の方は一目でわかる()()()()()の男だ。多少偏見が入るかもしれないが、純粋にアイドルのライブを楽しみにきたファンはこんな格好をしていない。そりゃこれだけファンがいれば中にはいるかもしれないが……少なくともヘラヘラと笑いながら女性に話しかけている姿を見ると、今日のライブを楽しみに会場へと来た人間には思えなかった。

 

 会話の内容は聞こえないが、親し気に話しかける男性に対して笑顔で対応している女性。しかしにこやかな表情とは裏腹に、離れた位置にいる私からも彼女が内心で(鬱陶しい)と思っていることがアリアリと感じられた。

 

(……ど、どうしよう)

 

 私の心の中の良心は「助けてあげた方がいいんじゃないか」と言っていた。一方で「自分から面倒ごとに巻き込まれる必要はない」と言っている自分もいる。ここで見て見ぬふりをしたとして、もしも何かあったら私の心の中に後悔が残るかもしれない。

 

 しかし思い出すのは、以前私とりあむんが酔っぱらいにぶつかってしまったときのこと。初めはヘラヘラと声をかけてきた男たちが突然激昂して、暴言を吐いて、そして……。

 

(………………)

 

 振るわれかけた暴力を思い出して身震いする。そのときはみのりさんとリョーさんのおかげで何とかなったが、もし二人がいなかったら……。

 

 

 

「それじゃあ今日のライブ終わったら打ち上げするから君も来ない? 連絡先交換しようよ」

 

「え~?」

 

 

 

「……あ、あぁ~! こんなところにいた~! 探しちゃったよ~!」

 

 

 

 そうだ、二人の行動に私とありりんは助けられた。だったら今度は私が誰かのために行動する番だ。

 

「あれ、あの子が待ち合わせてた友だち?」

 

「……はい、そうなんですよ~」

 

 どうやら女性も女性で「友達と待ち合わせている」という嘘をついていたらしい。いやそれが本当に嘘かどうかは分からないが、少なくとも私の嘘には乗ってくれた。あとはこれで男の方が素直に引いてくれればいいのだけど……。

 

「ほら友だちも一緒の方が参加しやすいでしょ? キミも一緒に打ち上げどう?」

 

 しかし現実はそう上手くはいかず、男は私も巻き込んでナンパを続行。身体に触るようなことはしてこないが、さり気なく私たちの進行方向を阻むように立ち位置をズラす辺り、なんともナンパ慣れしている様子である。

 

 だけどここまでは私も想定済みだ。

 

「あ、打ち上げですか? いいですよ~」

 

「っ!?」

 

 私が肯定的な発言をしたことで女性が驚いた様子でこちらを見てきた。

 

「おっ、お友だちの方は話が分かるじゃーん! それじゃあ早速連絡先を……」

 

「実は()()()()()()()()打ち上げするつもりだったんですよ~」

 

 そう言って私の切り札を見せた。

 

 それは私、りあむん、ありりん、みのりさん、リョーさんの五人で撮った集合写真である。しっかりと変装している状態のため彼ら彼女らがアイドルであることは決してバレることもなく、自撮りのようにして撮ったため全員かなり距離が近く、『顔が良い男性二人』を含めて全員の仲の良さが一目で分かる一枚。

 

()()()も凄いアイドルオタクで、皆さんと仲良く出来ると思いますよ~」

 

「……あーうん、分かった、俺の負けだ」

 

(ありゃ)

 

 男はため息を吐いて両手を上げると、そのままさっさとその場を去ってしまった。随分と諦めと引き際が良い……本当にナンパ慣れしているのだろう。

 

「……はぁ~……」

 

 何はともあれ作戦成功。思わず安堵のため息が出てしまった。本当にみのりさんとリョーさんは顔面良好でこういうときの虫除けとして便利である。口を開けば誰よりも熱量のあるアイドルオタクと、誰よりも熱量のあるおっぱい星人だけど。

 

「えっと……あ、ありがとうございます」

 

 男の背中が見えなくなったところで、女性がマスクを下にズラしながら声をかけてきた。うわマジで美少女。

 

「なんのなんの、上手くいって良かったですよ~。そちらも乗ってくださってありがとうございます」

 

 ナンパをされていた彼女からしても流石にそんなことはしないだろうけど、乗ってくれなかったら色々と危ないところだった。

 

「あ、念のため言っておきますけどコレどっちも本当に彼氏じゃないですからね。というかこのメンバーの中にそういう関係の人は一人もいないので」

 

 必要ないとはいえ何となく気分的に誤解されたくなかったので注釈をしておく。みのりさんが恋人とか恐れが多いし、リョーさんは……うん、別ベクトルで恐れが多すぎる。

 

「そうなんですか? とても仲が良さそうですけど……」

 

「ここに写ってるの全員、根っからのアイドルオタクたちなんですよ。だから友人……というか同志に近いですね」

 

 たまに取っ組み合いだったりド突き合いをしたりする程度の仲である。私とりあむんとありりんはキャットファイト程度で済むが、みのりさんとリョーさんはヒートアップするとドゴンとかズドンとか重い効果音が聞こえたりするけど……とてもなかのよいごにんぐみですよ。

 

「……あっ! これも何かの縁ですし、もしよかったらみんなに会ってみません?」

 

「え?」

 

「本当にいい人たちなんですよ! それに、次また今回みたいなことがあっても同じ方法が使えるようになりますよ!」

 

 ……自分から誘っておいてから気が付いたんだけど、私以外全員アイドルであるコミュニティに新しく一般人を誘うのはマズかったかもしれない。……あ、違った、一応リョーさんはまだ確定じゃなかった。うん明言されなきゃ未確定。

 

「ふふっ、ナンパから逃れられたと思ったらまたナンパされちゃいました」

 

「あははっ、さっきの男の人の気持ちが分かっちゃったなぁ~」

 

「……()()も、そういう集まりに興味あったんです。でも機会が無くて」

 

「それじゃあ……」

 

「遅くなっちゃいましたけど、自己紹介しましょうか?」

 

 ニッコリと笑顔の女性。とても魅力的なその表情は思わず『あれもしかして三峰が知らないだけで彼女もアイドルなのでは……?』と考えてしまうほどであった。

 

 

 

「私、(まゆずみ)冬優子(ふゆこ)って言います」

 

 

 

 

 

 

「……ん? 結華ちゃんがグループメッセージに写真送って来た」

 

「あ、本当だ……えっ? 『三峰人生初のナンパ成功』?」

 

「おぉ、めっちゃ可愛い子ですね。今度の集会に連れてきたいと……『勿論大歓迎だよ』っと」

 

「え? いいの?」

 

「寧ろなんでダメだと思ったんですか?」

 

「いや、えっと……俺たちの職業的に……」

 

「それバリバリのトップアイドル時代のときからみのりさんたちとの付き合いがある俺に言います?」

 

「せやね」

 

 

 

 

 

 

 様々な事務所、アイドルや非アイドル、その他大勢の人たちが集い――。

 

 

 

 ――いよいよ開場の時を迎える。

 

 

 




・結華@知っている
ちなみに良太郎はまだ気付いていないと思っています。

・りあむ@知らない
※前フリ

・『今日は合同ライブ当日!』
夢見りあむを知っている人なら原文がどんなのだったか想像出来ると思う。

・黛冬優子
『アイドルマスターシャイニーカラーズ』の登場アイドル。
気配りが出来て周囲に優しい19歳。現在の時間軸では18歳の高校生。
黛さんは裏表のない素敵な人ですハイ。



 ついに我慢が出来なくなって登場させちゃいました。ふゆすき。

 今後は集会メンバーの一人として良きツッコミ役になってくれることでしょう。露骨な贔屓があるかもしれないけど担当補正ってことで許して()

 次回、ついに開場(開演ではない)
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