アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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※シリアスです


Lesson51 不穏なフラグ 4

 

 

 

「………………」

 

 

 

「……あいつは一体何をしてるんだ?」

 

「あらあら」

 

「いや、俺にもさっぱりだ」

 

 すっかり日も落ちた晩。父さんと母さんの仕込みの手伝いをするために翠屋へ行くと、何故かいつものカウンターの席に突っ伏した良太郎の姿があった。俺たちがいない間のアルバイトの人に尋ねたところ、十分ほど前に来てコーヒーを注文してからずっとあの状態らしい。

 

「珍しいじゃないか、お前がこんな時間に来るなんて」

 

「……ぐう」

 

「ぐうの音が出ることは分かったから。一応もう閉店時間なんだぞ」

 

「……ちっと相談事があって」

 

「相談? お前が?」

 

 何とも珍しい状況である。こいつがこんなに弱っているところは久しぶりに見た。幸太郎さんとのことで悩んでいた時とは全く別のベクトルの弱り方である。

 

 とりあえず母さんは仕込みをするために裏へ入り、良太郎の対応は俺と父さんですることに。

 

「で? 一体どうしたんだい?」

 

 淹れたばかりのコーヒーを良太郎の傍に置きながら父さんが尋ねる。その匂いに誘われたのか、今まで突っ伏していた良太郎は顔を上げた。相変らずの無表情故に何を考えているのかイマイチ分かりづらいが、確かに悩んでいる様子なのは何となく窺い知ることが出来た。

 

「……士郎さん。士郎さんって、昔ボディーガードの仕事をしてたんですよね?」

 

「? あぁ。ご存じのとおり、四年前の大怪我を境に廃業したけどね」

 

 四年前、父さんはボディーガードの仕事の最中にとある事件に巻き込まれて意識不明の重体となった。その時良太郎も見舞いに来てくれたから知っているはずだ。それ以降はこうして喫茶店のマスターとして身を落ち着かせている。

 

 顔を上げた良太郎はコーヒーカップを手に取ると中身を一口飲む。良太郎がいつも飲んでいる翠屋の特性ブレンドを口にしたことで少し落ち着いた様子だった。

 

 ふぅ、と一息吐いた良太郎は改めて話し始めた。

 

「……もしなんですけど、守りたい人と襲ってくる人の両方が自分と親しい人だった場合、どうしたらいいと思いますか?」

 

「……守りたい人と襲ってくる人が……」

 

「自分と親しい人だった場合……?」

 

 随分と特殊な状況である。突然言われてもイマイチ想像が出来ない。

 

 

 

「例えるなら恭也と付き合うことになった月村に対してフィアッセさんが包丁を持ち出した感じで」

 

「それは恭也が悪いな」

 

「色々と待て」

 

 

 

 ツッコミどころが多すぎてツッコミきれない。本当に相談したいのか、それともただ単に冷やかしに来たのかが分からなくなる。

 

「まぁ冗談はさて置いて、何となく良太郎君が言いたかったことは理解した」

 

「それで理解されても俺としては大変不本意なんだが」

 

 しかし俺自身も理解してしまったことが口惜しい。

 

「そうだなぁ……そういう場合は、一先ず護衛対象を遠ざけることで時間を取るかな。時間が解決するとは言わないが――」

 

「いや、今回は時間を置くと美由希ちゃんが小太刀を手にフィアッセさんに襲い掛かるという最悪の状況でして」

 

「どうしてお前はそんなバイオレンスな状況に陥ってるんだよ」

 

「むしろそのバイオレンスな状況の例えとして持ち出されるお前の状況に我が息子ながらドン引きなんだが」

 

「喧しい」

 

 あくまで良太郎の例えであって、実際に俺がそんな状況に陥っているわけじゃない。あぁ断じてない! そんな世界線あってたまるか!

 

 しかし良太郎としては本当に悩んでいるらしく、そんなことを言いながらもコーヒーカップを両手で持ちながら深くため息を吐いていた。

 

 全く、悩んでいるなら悩んでいる人らしくしろ。表情が無い分、本気なのか冗談なのかが人一倍分かりづらいんだから。

 

「それで、そういう場合はどうすればいい?」

 

 俺も父さんの解答に興味がある。

 

「それは後学のためにか?」

 

「別に本当にそんな状況に陥ることを危惧しているわけじゃないぞ!?」

 

「そこで必死になるから余計怪しまれるんじゃないか?」

 

 ええい! 二人して話の腰を折るんじゃない! 今までシリアスだったからって反動が酷いぞ! 一応今回まではシリアスっていう予定なんだぞ!?

 

 

 

「それで、どうですかね?」

 

 散々話を脱線させておいた張本人である良太郎が父さんに問いかける。

 

「そうだなぁ……」

 

 良太郎が飲み終えたコーヒーカップを片付けながら父さんは眉根を潜める。

 

「その場合、護衛方法の変更が必要になるかな」

 

「と、いうと?」

 

「たぶん良太郎君は今提示した三人全員を傷つけない方法を探しているわけなんだよね?」

 

「はい」

 

「となると、懸念しないといけないのはフィアッセだな。彼女が三人の中心になっている。まずは彼女を抑えることで事態の鎮静化を図るところから始めるべきかな。彼女を抑えることが出来れば、忍ちゃんが襲われることはないし、美由希もフィアッセを襲う理由がなくなる。もちろん、ちゃんと包丁を取り上げておくことも大事だ」

 

「ふむふむ……」

 

 真面目な顔で話しているのはいいのだが、その会話の内容に三人の名前を使うのを止めてもらいたい。いや、例えとして用いたからそのまま使った方が分かり易いのは理解できるんだが。……こう、何と言うか、何故か知らないが胃がキリキリしてくる。おかしい。俺の話をしているわけではないのに俺が責められているような気がしてならない。

 

「でも、抑えているだけでは事態の沈静化は出来ても事態の収束には至らないのでは?」

 

「確かにそうだね。だから、沈静化をしている間にフィアッセが忍ちゃんを襲う理由を無くせばいいんだ」

 

「襲う理由を無くす、ですか」

 

「『俺を亡き者にする』とか言い出さないよな?」

 

「恭也、何を言ってるんだ?」

 

「そうだぞ恭也、これはあくまで例えなんだから」

 

 こいつら……!

 

「とまぁ、冗談はさておいて」

 

 冗談か? おい、本当に冗談か?

 

「良太郎君が置かれている本当の状況が分からない以上、俺からその解決策を提示することは出来ない。だから、その『襲う理由を無くす』のは君自身の仕事だ」

 

「………………」

 

 父さんの言葉に、深く考えるように良太郎は押し黙った。

 

「……今日は俺の奢りだ。良太郎君は家に帰ってゆっくり考えるといい」

 

 

 

 

 

 

 翠屋からの帰り道である歩き慣れた道を、ジャケットのポケットに手を突っ込みながら歩く。こうして日が落ちるとすっかり冷え込んで、冬がすぐそこまで近づいてきていることが何となく感じられた。

 

「……相手を抑えることによる沈静化と、襲う理由を無くす、か……」

 

 士郎さんから言われた言葉を反芻する。

 

 先ほどの例え話は765プロを月村に、ジュピターをフィアッセさんに、麗華を美由希ちゃんに置き換えた例え話だった。本当はジュピターの裏にいるであろう黒井社長も例えとして持ち出しておくべきだったのだろうが、話がややこしくなるし丁度いい配役が無かったため割愛させてもらった。

 

 つまりジュピターが765プロに対して嫌がらせをしないように、または麗華からの何かしらのアクションから守るように、彼らを抑えておく必要があるということだ。

 

 さらにジュピターが765プロに嫌がらせをする理由を無くす……か。

 

(つまり黒井社長が765プロに対して妨害をする理由、だよな……)

 

 まずはそこを把握する必要がある。まぁ、出る杭は打たれる的な意味だとは思うのだが、しかし黒井社長と高木社長は知り合いだったとかいう話を聞いたこともあった。もしかしたらそっち関係の可能性もある。もし個人的な理由だった場合は流石に俺がどうこうできる問題じゃなくなってくるから、そうなった場合は別の方法を考えなければならない。

 

(やっぱり情報が足りないんだよなぁ……)

 

 あくまでもただのアイドルでただの高校生である俺に麗華のような情報網が存在しているはずもなく、結局は自分が知っていることの範疇で考えをまとめなければならないのだ。

 

 黒井社長の思惑全てとは言わないが、せめて961プロの内部事情だけでも分かればいいのだが……。

 

 

 

 

 

 

 そんなことを考えながら我が家に帰宅したわけなのだが。

 

「自宅に帰ったら兄貴がお嫁さん候補の一人とイチャラブしていた件について」

 

「あら、お帰りなさい、良太郎君」

 

「りょ、良太郎!? い、いや、違うぞ!? これは留美が無言の圧力で差し出してきたからであって……!」

 

 リビングでは留美さんが兄貴の隣に座ってケーキをあーんしていた。人がやりたくもないシリアスを三週連続でやらされながらも必死に頭使って対策考えているっていうのに何自宅でラブコメってんだよこのクソ兄貴ッ……!!

 

(って、留美さん!?)

 

 後で絶対他の二人にチクってやると心に決めつつリビングを後にしようとする。しかし留美さんがここにいるという事実に気付いて足を止めた。

 

「すみません留美さん、お聞きしたいことがあるんですが」

 

「……黒井社長のこと、ですよね」

 

「っ!」

 

 手にしていたフォークを皿の上に置き、留美さんは背筋を伸ばした。空気が変わったことを察した兄貴も真剣な表情になり、俺も二人の向かい側のソファーに腰を下ろす。

 

「お二人も既にお気付きだとは思いますが。現在、社長の黒井は765プロダクションに対する妨害と思われる行為をいくつか行っている形跡があります」

 

「形跡だけ、ですか? 何か直接的な指示とか……」

 

「いえ、私を介さず自ら直接指示を行っているようでして。私もその事実に気付いたのは既にそれが行われた後のことでした」

 

 未然に防げず申し訳ありません、と留美さんは頭を下げる。

 

「頭を上げてくれ。別に留美のせいじゃないさ」

 

「……ありがとうございます」

 

「それで、留美さんはそれを伝えるためにここに?」

 

「それもあります。765プロの小鳥さんにも同じことを伝えたのですが、それとはまた別にお二人にはお伝えしたいことがありまして」

 

 何でも、黒井社長は俺にも妨害を行おうとしている、とのことだった。

 

「どうやら良太郎君が関係各所に手回しをしたことに対して腹を立てたようです。いくら社長とはいえ、良太郎君に対してどうこうできるとは思わなかったのですが、一応念のため」

 

「わざわざありがとうございます、留美さん」

 

「ありがとう、留美」

 

「い、いえ」

 

 兄貴に頭を撫でられて嬉しそうな留美さん。おうおう、そういうラブコメ展開はまだいいから。

 

「留美さん、お尋ねしたいことがあるんですけど」

 

「何でしょうか?」

 

 丁度よく961プロダクションの関係者がここにいることだし、聞いておきたいことがいくつかある。

 

「黒井社長が765プロに対して妨害行為をする理由について、何か心当たりは?」

 

「……社長の普段の言動から顧みて、恐らく私怨のようなものだと思われます。高木社長とは昔に交友関係があったという話を耳にしたことがありましたので」

 

「あの高木さんが誰かから恨みを買うような真似をするはずないし、たぶん逆恨みか何かなんだろうな」

 

 俺も兄貴の意見に概ね賛成である。

 

 しかしそうなると、士郎さんが言っていた『理由を無くす』という方法は使えそうにない。

 

「あと、ジュピターの三人は今回のことを知って……?」

 

「……すみません、そこも把握できていません。しかし社長は普段からジュピターと直接顔を合わせる機会を多く作っていますから、何かしらを吹き込んでいる可能性はあります」

 

「……そうですか」

 

 

 

 さて、と。

 

 目を瞑り、今まで得た情報を頭の中で整理する。

 

 

 

 ――黒井社長は、765プロに対して妨害行為を行っている。

 

 ――それは主にジュピターを利用した妨害行為で、あの三人は黒井社長の指示で動いている可能性がある。

 

 ――さらに手回しをした俺に対しても腹を立てている。

 

 

 

 そして、士郎さんとの会話を思い出して――。

 

 

 

「……兄貴、留美さん」

 

「ん?」

 

「どうかしましたか?」

 

 

 

「ちょっと、提案がある」

 

 

 




・高町士郎の何でも相談室in翠屋
散々クロス云々で言われていたにも関わらず相変わらずメインでぶっこんでいくスタイル。
しかしこういう役割はアイマスキャラでは補えないので、オリキャラかクロスキャラにしか頼めない。

・「例えるなら恭也と付き合うことになった月村に対してフィアッセさんが包丁を持ち出した感じで」
※原作であるとらハ3は純愛ギャルゲです。そのはずです。

・「自宅に帰ったら兄貴がお嫁さん候補の一人とイチャラブしていた件について」
昨今のラノベタイトルみたいだと思いました(はがない感)

・兄貴に頭を撫でられて嬉しそうな留美さん。
※だいたいの人は男女問わず頭を触られると髪型が崩れると言って怒られます。ギャルゲ系主人公にのみ許された所業ですので注意しましょう。



 ようやくシリアスパート終わったお……。次回に続く的な終わり方をしましたが実際に続くのは当分先です。

 次回はそろそろ久しぶりに番外編になります。『番外編の主人公が気持ち悪い』と評価をいただきましたが自重はしません。ていうか今更引けないので。

『どうでもいい話』
 先日友人と訪れたカードショップでアイカツが流れてました。カードを潜って変身するシーンを見ながら「最近のブレイドは女の子が変身するのか」とかほざいてました。
 しかし結構面白かったです。藤堂ユリカ役の蘭子ちゃんとか色々妄想しました。

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