開演直前前の熱気が、ここ舞台裏にまで届いてくる。
あぁ、今から自分はステージの上に立つのだと高揚してくる。
何度経験しても
……けれど。
けれど。
――俺は、まだ笑顔に出来てない。
「あ、緊張感がない人がおる」
「ホントだ、緊張感がない人だ」
「仲良くなったね、はやてちゃんと絵理ちゃん」
こういう他事務所間の交流が深まることも今回のライブの目的の一つだから、お兄さん嬉しいよ。
「まぁ俺の楽しいレクリエーション企画に関しては後で話すよ」
「一人で勝手に楽しんだことをレクリエーションと言い張りますか」
「そういう話も後でしような旬」
みんな俺に対する遠慮が無くなったことも嬉しいよ。尊敬とか敬意とかはお腹一杯だからちょっといいかな。
さてそんなわけで、本番三十分前。全員衣装も化粧も全て完璧に仕上げ終わり、後はステージの上に飛び出すだけである。
「本番直前の円陣組んだところを撮影するから、全員集まってくれ」
そんな兄貴の呼びかけに、出演アイドル全員が集まって大きな円になる。真ん中にカメラさんを一人配置してそれを取り囲むように円になるのだが、人数が人数なのでかなり大きな円となった。
「……圧巻だな」
俺を含めて五十四人のアイドルが集まった。男女入り混じった八つの事務所から集まったこの光景は、きっとこの先見ることは難しいだろう。
「………………」
だから少しの間、目に焼き付けよう。
これがきっと。
俺にとっての……。
「さて良太郎、一言頼むぞ」
落ち着いたところで兄貴から声を掛けられる。兄貴の言葉に反応して、全員の視線が一斉にこちらを向く。
「任せろ。これは今日俺が深夜目覚めたときに体験したとある出来事なんだけどな……」
「なに話すつもりだオメーは!?」
「一言だっつっんでしょうが!」
「麗華、ツッコミが間違ってる」
小学五年の頃以来久しぶりに経験したまともなオカルト現象を臨場感たっぷりに語ろうとしたら両脇の冬馬と麗華によって阻止されてしまった。あと昨晩同じ寝室にいたりんが涙目で青褪めていた。今度詳しくじっくり語ってあげるからな……。
(さてと)
改めて俺と共に円を組んでくれる仲間たちを見渡す。先ほどのやり取りを楽しそうに笑う者、困惑する者や苦笑する者も、合計五十三対百六の瞳が俺に向けられている。
「……まずは今日この場に集まってくれたことを、今回のライブの発案者の一人としてお礼を言わせて欲しい。本当にありがとうございます」
そう言って軽く頭を下げる。もっとしっかりとしたお礼は全てが終わってからだ。
「今、日本では空前のアイドルブームだ。日高舞が去ったことにより訪れた『アイドル冬の時代』がようやく終わり、ついに雪解けを迎えた」
今やスクールアイドルというより身近な存在がステージに立ち、麗華のUTX学園だけではなく
「だから、ここが『スタートライン』だ」
冬を終わらせるのではない。
春を迎え入れるんだ。
「俺たちの熱で雪を解かすんじゃない。新しい時代の芽を温める……今日はそんなライブにしたい。……いや、するんだ」
『『『はいっ!』』』
「そう、だから今日のライブはただのライブじゃない」
「もうオチ分かったから言わなくていいぞ」
「ド級のライブ……ドライブだ!」
「分かったっつってんだろっ!」
「別の単語になってるし」
ほら、シリアスにやりすぎるとおっぱいビンタが飛んでくるような気がして……。
「……そろそろ時間だ。みんな、準備はいいか!?」
「はいっ!」
手を前に掲げると、それに倣って全員が手を掲げる。
今日ここで口にする言葉は、予め告げてある。だから遠慮なく、全力で声を出す。
「準備はいいか!」
『『『はいっ!』』』
ビリビリと空気が震える。もしかしたら観客席にまで聞こえているかもしれない。
「俺たちの想い、全部ぶつけるぞ!」
『『『はいっ!』』』
それでもいい。寧ろ聞こえるぐらい、腹から声を出してこう宣言しろ
「
『『『We are――!』』』
――THE IDOL!!!
『俺たちこそがアイドルだ』と。
「………………」
円陣を組んでの撮影も終わり、一曲目から登場する連中がスタンバイを進める中、俺は先ほどの社長の言葉を思い返す。
(……そうか)
アイドル『周藤良太郎』は誰もが認める本物だ。正真正銘のトップアイドルだ。アイツのパフォーマンスの前では誰もが笑顔になる。俺だって自分自身のプライドや生き方が無ければ、きっと観客席で同じようにサイリウムを振っていたことだろう。
だから個人の好みや趣味嗜好を除いて、アイツが笑顔に出来ない人間は。
そんなの、一人しかいない。
……一人しか、いないんだ。
「そろそろね……!」
「あぁ」
腕時計を覗き込むと、現在時刻は十六時五十五分。定刻通りの開演ならば、あと五分で幕が上がる。周りを見渡してみると、既に殆どの観客が自分の席についている様子である。当然満員だろう。
「あぁ、ホント楽しみ……こんな神席でなのはちゃんたちの大舞台を見られるなんて夢みたい……」
「本番が始まる前に夢見心地から帰ってくるんだぞ」
トロンとした瞳で恍惚とした忍を現実に引き戻そうとするが、彼女がそうなるのも無理はなかった。
何故ならここは
「ほんっとうにありがとうね茄子ちゃん!」
「うふふ、もう何度も聞きましたよ」
「いやでも本当にヤバいよね……茄子がチケット購入確定ボタン押しただけでこんな神席を並んで当てるなんて」
姫川が引き攣った笑みを浮かべているが、正直俺も同じことを思っている。俺たちのチケットと鷹富士たちのチケットは別々に購入したため、そもそも隣同士になること自体が非常に幸運だというのに、それが最前列中央だというのだから逆に……というか素直に怖い。自分の知らないところで勝手に何か代償が支払われているのではないかと思ってしまうほど怖い。
「なのはちゃんも周藤君もきっとビックリするだろうね」
「知り合いがこんな神席を陣取ってれば誰だって驚くだろうさ……」
多分冬馬とかも朝比奈とかも驚くと思うぞ。
「「「あっ」」」
照明が徐々に暗くなり始めた。周囲のボルテージが上がり、歓声がどんどんと大きくなっていく。
流れ始めた
気が付けば俺たちは自然とその場で立ち上がっていた。
『座ってなんていられない』と本能が叫んでいた。
まるで闘いの前のような高揚感。
強敵と相対するときのような緊迫感。
そして。
そして。
(あぁ……)
――始まる。
∞production presents
『THE IDOL MASTERS』
・深夜目覚めたときに体験したとある出来事
心霊に対する耐性が高すぎる系主人公。
・新たなアイドル養成学校の開校
どのような時間軸にするかは未定だけど、設定だけは撒いておく。
・「今日のライブはただのライブじゃない」
「ただの~じゃない」という言葉だけで笑うようになってしまった……。
・良太郎が笑顔に出来ない人物
世界でたった一人。第一話からずっと笑顔にしたいと願い続けてきた人物。
・恭也&忍&茄子&友紀@SSSR神席
茄子が本気を出すとこうなる。
ついに、ようやく、ここまで来ました。第九章が始まり早五ヶ月! 前章も含めると約二十二ヶ月! ついにライブスタートです!
ここからが本番! ライブシーンと言う名の『作者の楽曲性癖公開パート』の始まりです! 色々と書きたいことが沢山あるのでマジでここから一年以上はかかると思いますが、自分自身が楽しみながら書かせていただきます!
果たしてライブシーンの間に学マスの追加アイドルは何人来るのかなぁぁぁ!?