『憧れを繋げてくから!』
『任せて! このステージを!』
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
隣から聞こえてくる
ついに始まった八事務所合同ライブの先陣を切ったのは、私たち765プロから参加している『天海春香』『双海真美』『星井美希』の三人……765プロの中でも『オールスター』と呼ばれるアイドル。彼女たちは大手アイドルプロダクションとも称されるようになった765プロダクションの礎を築いたアイドルたちであり、私たちシアター組の先輩でもある
そしてこの三人は……良太郎が『最も期待している』と称した三人でもあった。
「……なんというか意外ですわね」
「そうか?」
仕事終わりに店先に来た良太郎との雑談中の話題の一つとして、今回の八事務所合同ライブに出演する三人の名前を挙げた良太郎は、彼女たちを『オールスターの十二人の中で最も期待している』と言った。
「貴方が公式に
「如月のちーちゃんはまた別なんだよ、二階堂のちーちゃん」
「ちーちゃんやめなさい」
私の苦言なんか気にも留めずたった今買ったばかりのコロッケを頬張る良太郎。相変わらず
「春香ちゃんは『正真正銘正統派』のアイドルだ。トップアイドル『日高舞』が一時代を築いた更にそれ以前のアイドル黎明期の頃のような……純粋な『アイドル』としての姿を見せてくれると信じてる。それこそ、音無――」
「……音無? 小鳥さん?」
「……何でもない。言い間違えた」
「?」
珍しいですわね、良太郎が言い淀むなんて。何を言おうとしたのかしら。
「美希ちゃんは今更説明もする必要はないだろ。アイドルの天才。本能で『アイドルとしての最適解』を叩き出す眠れる大乳。多分美希ちゃんが本気を出したら春香ちゃんを超えるだろうけど……眠れる獅子は未だに暁を覚えず」
「今必要のない説明入りましたわね」
「おっきなお胸は大事!」
「店先」
端的なツッコミと共に頭を引っ叩く。夕飯の買い物に来ている奥様方から「あら懐かしい光景が見れたわ」「千鶴ちゃんも良太郎君も変わらなくて安心するわぁ」なんて微笑ましい視線を向けられるが、なんというか溜息すら出ない。
「だけど真美は『その二人を超える』」
「……えっ」
食べ終えた包み紙を丁寧に畳む良太郎を思わず二度見してしまった。
「意外か?」
「……えぇ、失礼を承知で正直に言えば……」
「こう見えて
――絶対に。
結局、良太郎が何を言いたかったのか、生憎私には分かりかねた。私には『良太郎がそう言うのであればそうなんだろうな』程度の理解しか出来なかった。
だからこそ、理解出来なかった私は『今感じているこの感覚』を覚えよう。
『
『どんな自分にも!』
『ありのままずっと!』
今ステージに立っている彼女たちこそが――。
『『『私たち LEADER!!』』』
――私たち765プロの未来を……アイドルたちを導いてくれる
「………………」
「そーいえばさ」
「ん?」
モニターに映る765プロの三人を見ていると翔太が話しかけてきた。振り返ると、こいつにしては珍しくバツが悪そうに苦笑している。
「僕たち、765プロの人たちに嫌がらせしてたことあったよね」
「うぐっ……」
過去の記憶が蘇って思わず心臓を抑えてしまった。
「忘れたくても忘れられない……いや、忘れちゃいけない俺たちの黒歴史だね」
北斗も苦笑しながらこめかみを人差し指で押さえてる。
そう、決して忘れてはいけない俺たちの罪。黒井のおっさんに嘘を吹き込まれ唆されたからとはいえ、765プロが『良太郎の信頼を裏切って』非道なことをしていると信じてしまい……連中の妨害という悪事に手を染めてしまった。今思えば本当にバカなことをしたと思う。
「もしあのまま黒ちゃんの言われるがままに765プロの妨害をし続けてたら……今こうしてステージに立っている765プロの子たちはいなかったんだろうね」
「俺たちだってここにはいないと思うよ」
「961プロとしてこのライブに参加するなんてことはありえねぇからな」
そもそも俺たちがアイドルとして大成していたかすら怪しい。
だから、今俺たちがここにいることは、こうして765プロの連中のステージの『成功を願っている』この状況は……きっと奇跡なんだろう。
「だからと言って、アイツらに不必要な遠慮なんかしねぇ」
罪は一生背負う。けれど俺たちは『Jupiter』としてここにいる。765プロの連中の
「アイツらは今、トップバッターとしての
だからその路を、後から通る連中のために『拓く』のは俺たちの役目だ。
「翔太、北斗、分かってるよな」
「勿論。今日の僕たちは
「俺たちはいつも自分たちのためにしかライブをしてこなかったからね」
あぁそうだ、俺たちはいつも俺たちのためにライブをしてきた。123の奴らとステージに立つことはあれど、それでも誰かのために歌うなんてことはしなかった。
だけど今日は違う。
全力を出す。本気も出す。会場の連中全員を沸かす覚悟も自信もある。
けれどそれは……後から続くアイドルのためのステージだ。
「あれだね、りょーたろーくんが聞いたら『お前ら丸くなったな』って言われるかもね」
「彼だったら意外と『お前らそーゆーとこあるよな』って言ってくれるかもよ?」
「いえ、良太郎君なら『お前らそーゆー柄じゃねーだろ』って言いますね」
「確かに言いそうだな……ん?」
なんか一人増えてるぞ。
「本番直前なのに、流石の余裕ですね」
「わ、和久井さん!?」
いつの間にか会話に加わっていたのは……俺たちと共に961プロを抜けてくれた和久井留美さんだった。
「早いですね。あれからもう四年も経つんですから」
「……そうですね」
「その件に関しては、何度お礼も言っても気がすみません」
「いいんですよ。私も黒井社長のやり方に嫌気がさしてたところだったんですから、渡りに船でした」
そう言って和久井さんはニッコリと笑った。
「……それで先ほどの会話、一つだけ訂正させてもらってもいいですか?」
「え?」
「貴方たちがどのようなスタンスで今回のライブに臨もうとも――」
――私にとっての主役は貴方たち三人です。
「「「……っ」」」
「今でこそ付く機会が減りましたが……私は今でも貴方たち『Jupiter』のプロデューサーのつもりです。そのことだけは、しっかりと覚えておいてくださいね」
「「「……はい」」」
全く、本当に俺たちはバカだ。
……765プロの連中がそろそろ落ちサビに入る。
「……行ってくるぜ、プロデューサー」
「頑張ってくるね、プロデューサー」
「見ててくださいね、プロデューサー」
「はい。冬馬君、翔太君、北斗君」
……観客席にいる俺たちは薄々そんな予感がし始めていた。
誰も口にしないがそういう空気になっていた。
765プロの『天海春香』と『星井美希』と『双海真美』が赤組の先陣を切った今回のライブで『次の白組の先陣は誰が切るのか』と。
それは『予想』であり『予感』であり、そして『願望』でもあった。
だからその場にいた全員が、765プロの子たちの楽曲が終わったと同時にその準備をしていたのだろう。
そのイントロが流れ始めた瞬間……会場が緑に染まった。
『We can get over』
『まだ未来を』
『伝えきれてないだろう?』
『『『ありったけ! 此処から始めよう!』』』
STAY TUNED ORBIT
『Jupiter』
天ヶ瀬 冬馬/御手洗 翔太/伊集院 北斗
・「……音無? 小鳥さん?」
良太郎は先輩方から色々と聞いている。
・「だけど真美は『その二人を超える』」
確か八年ぐらい前にその伏線を張ったはずなんだけど、その該当箇所を忘れるという失態を犯す。見つけたら追記します……。
・STAY TUNED ORBIT
二月に配信された割と新しめの曲。
直訳すると『軌跡に乞うご期待!』になるから、多分意訳すると『俺たちの活躍に期待してろよ!』って感じだと思う。
今なお走り続ける三人の曲。
白組のトップバッターは当然ジュピターの三人です。当たり前だよなぁ?