「りょーたろーさぁ~ん!」
ステージを終えて舞台裏に戻って来た美希ちゃんが突撃してきたので優しく抱き留める。出会った頃の彼女であればステージ終了直後の汗を気にしてこんなことをしてこなかっただろうが、最近は一周回ってそういったことを気にならなくなったらしい。
「ミキたちのステージ、どうだった?」
「勿論、最高だったよ」
「えへへ~」
むぎゅむぎゅと押し付けられる大乳を堪能しつつしっかりと褒めていると、走って戻って来た美希ちゃんに続いて春香ちゃんと真美も帰ってくる。
「もう、美希ったら……」
「汗まみれで抱き着けるミキミキ流石だなぁ」
「真美も来るか?」
「……結構デス」
ちょっとだけ躊躇した真美。出会った頃はまだ中一だった彼女も、今では花のJK十七歳。今なお成長し続けている美希ちゃんほどではないが、それでも十七歳という年齢離れした女性らしい身体つきに成長した。
そして成長期をアイドルとしての全てに注ぎ込まれたその技能は、
そんな美希ちゃんに抱き着かれたまま、俺は視線をモニターに向ける。
『衝動だけを灯す日より』
『経験って持ち物は増えたけれど』
『足掻いて!』
『叫んで!』
『激しいまま!』
『『『グンと突き抜けろ!』』』
『『『俺らのstyleで!』』』
「………………」
「そーいえばさ」
「ん?」
春香ちゃんたちとジッと冬馬たちの姿を見ていると、真美がポツリと零した。
「私たち、ジュピターの人たちにお仕事取られたことあったよね」
「……あー」
黒井社長に唆されたときかぁ……。
「あったね、そんなこと」
「あったっけ?」
苦笑する春香ちゃんに対し、美希ちゃんは一切覚えていない様子。
「まだ許せないか?」
「許す許さない以前に、どんな風に怒ってたかすら覚えてないよ」
ケラケラと笑う真美の目に嘘はなかった。
「でも、いい経験にはなったんじゃないかなって、最近では思うんだ」
「そうだね」
真美の言葉に春香ちゃんが同意する。
「きっとこの先、あのときみたいに理不尽な状況に陥ることがあると思う。そうなったとき……今度は冬馬さんたちみたいに本当は心優しい人たちとも限らないし、良太郎さんの手助けがあるとも限らない」
「……アレ、俺は何もシテナインダケドナー」
「あ、まだそういうスタンスでしたっけ?」
別に隠してるわけじゃないけど、自分から言うことでもないじゃん?
「だから良太郎さんも……
「………………」
正直、その言葉が春香ちゃんの口から出てきたことが予想外だった。
「私たちだって、いつまでも子どもじゃないんですから」
「そーだよ! マミだってピッチピチのJKなんだから!」
「ミキ、もう大人なんだよ……」
「美希だけなんかニュアンス違うね!?」
「あと
キャイキャイと姦しい三人娘の様子を眺めつつ、春香ちゃんから言われた言葉を反芻する。
(……そうだよな)
彼女たちも、いつまでも子どもじゃない。
「そのときは遠慮なく、今回みたいに春香ちゃんたちにも頼らせてもらうよ」
「はいっ、任せてください!」
「トップバッターならいつでも大歓迎だよ~!」
「ミキ、いつでもオッケーだからね……」
「だからニュアンスが違うんだって!?」
「今のミキミキが言うとかなりガチなんだってば!」
やっぱりこの三人は仲が良いなぁ~。
「……実際の所さ、ミキミキどうなの?」
「何が?」
「……りょーにぃのこと」
良太郎さんが去ったところで、真美が美希にそんなことを問いかけた。
「今でも好きなんだよね?」
「ミキがりょーたろーさんのことを好きにならなくなるなんてことないの」
そこで例えであっても『嫌いになる』という発言が出ない辺り、相当本気である。
「……ちなみに聞くんだけど『りょーにぃに恋人がいる』っていう事実から目を背けてるわけじゃないんだよね?」
「うん」
「……『自分がりょーにぃの恋人だ』と思い込んでるわけでもないよね?」
「ミキのことなんだと思ってるの?」
「りょーいん患者を超えて『RYO-ウイルス完全適合者』的な……」
「照れるの」
「褒めてない」
美希は可愛らしく人差し指を顎に当てて「んー」と唸る。
「真美が何を言いたいのかなんとなく分かるけど……それは
「えっ」
「確かに一番最初に『りょーたろーさんの婚約者がりん』って聞いたときは●●●●●そうとも思ったけど」
「「怖い怖い怖い」」
ただの〇の伏字じゃなくて●の伏字なところが特に怖い!
「でもよく考えてみると、例えりょーたろーさんが誰かと恋人になろうと、結婚しようと、子どもが産まれようと……それは『りょーたろーさんが好き』っていうミキの気持ちになんの影響もしないなって」
「そ、それは……」
それは極論であり暴論であり……究極の自己解決だ。
「……美希は、それでいいんだ」
「うん」
ニッコリと笑う美希。その笑顔に曇りは一切なく……逆に、その笑顔に曇りを探そうとしてしまったことに罪悪感を覚えてしまった。
「ミキはこの先もず~っと『周藤良太郎』の大ファンで重症りょーいん患者。自分の恋人とか結婚とかはよく分かんないけど~……まぁ、ミキと同じぐらいりょーたろーさんのことが大好きな人だったら、少しぐらい考えてあげてもいいかな」
「美希と同じレベルって考えると難易度高いなぁ……」
「いや『周藤良太郎』ガチ勢の男の人って結構いるから、逆にハードル低くない?」
「でも、りょーたろーさんがアソビたいって言うのなら……」
「美希!?」
「今日のミキミキの台詞、
……でも、そっか。
(美希は諦めたわけじゃなかったんだ)
『報われなくてもいい』という悲しい決意ではなく『現在進行形の幸せ』を選んだ。その選択は、きっと他者である私たちに否定する権利はない。それは間違いなく『星井美希の幸せ』なのだ。
(……
私は、自分の胸に秘めた『この感情』に名前を付けないと決めた。少なくとも今のそれは……私にとっても
言葉にすることなく、声に出すこともなく、綴ることもなく、モヤモヤして形もはっきりしていないそれを、私は確かに胸に抱えている。ここにしっかりあるのだとそっと手を添える。
将来この気持ちが抑えきれなくなるかもしれない。逆にこのまま萎んでいってしまうのかもしれない。だけど今のこの気持ちは……きっと抱えていることに意味があるものだと思っている。
「真美だってそういうこと考えることあるでしょ?」
「………………」
「ミキお姉さんにこっそり教えてくれてもいいんだよ?」
「ぜぇぇぇったいに言わない!」
「ほらほら二人とも、そろそろ戻るよー」
二人に声をかけながら、モニターに視線を向ける。
『『『きっと駆けよう 何光年でも!』』』
『『『この軌跡を焼き付けるよう』』』
『『『胸を張って向かえ旅へ』』』
まだ私たちは『輝きの向こう側』への旅路の途中。一歩一歩が楽しすぎて嬉しすぎて眩しすぎて、思わず夢中になってしまう『トップアイドル』への道を走り抜けている真っ最中だから。
『『『STAY TUNED ORBIT!!!』』』
貴方たちが切り拓いてくれた軌跡を、駆け抜けます。
765プロ『天海春香』『双海真美』『星井美希』が先陣を切り、123プロ『天ヶ瀬冬馬』『御手洗翔太』『伊集院北斗』が切り拓くことで幕を上げた八事務所合同ライブ。
後に『アイドル新世紀』と呼ばれる時代の始まりと称される夜は、この六人から始まった。
・真美(17)
双海姉妹は順当に成長すれば普通にスタイル良好な美女に成長すると思っている。
・自分がしたいこと
言わなくてもそろそろみんな気付いてそう。
・RYO-ウイルス完全適合者
ウェスカー的な。
・『りょーたろーさんが好き』
りんとくっついてから多分皆さんが気になっていたところだと思う。
こんな感じに落ち着きました。
・『この感情』
やっぱり春香はメインヒロイン仕草が似あう。
なんでコイツらライブが始まった途端ラブコメ始めてるんだろう……?
トップバッター二組は想像しやすかったでしょうが、次回からが今度こそ本番。