「ひっぐ……ぐすっ……」
「卯月、大丈夫、ですか?」
ジュピターが歌っている最中からずっと卯月ちゃんが感極まっていた。アーニャちゃんが心配そうに声をかけているが、ハンカチで顔面を覆い隠している卯月ちゃんの表情は分からない。
ちなみに卯月ちゃんの反対隣に座る未央ちゃんが微妙な表情をしているところから察するに、なんとなくオチは読めている。
「と、冬馬さんが……冬馬さんが……」
「冬馬さんが、どうかしましたか?」
「私に気付いたのに……ファンサしてくれませんでした……」
……うん、どうせそんなことだろうなとは思ったよ。
「解釈一致ありがとうございます……」
「そっちなんだ!?」
確かに天ヶ瀬さんの性格的にはそっちの方が
「ホントしまむーも着実にしぶりんやかれんみたいなガチ勢になりつつあるね……」
乾いた笑いを浮かべる未央ちゃんは、やっぱり卯月ちゃんの涙の理由に気付いていたらしい。確かに天ヶ瀬さん、明らかにこっちに気付いた様子だったけど意図的に無視してたような感じだったもんね。
……私としては、ジュピターの三人よりもその前の春香さんたちの方が印象に残っていた。こんな大きなライブのトップバッターの、しかもセンターを務めるような人に、ほんの少しだけ私たちのダンスのレッスンを見てもらえたことが、ささやかながら誇らしかった。
「あっ」
そんな余韻に浸る暇もなく、次の曲が始まった。順番的に赤組だということでペンライトの色を赤に変えていると……。
『やっほー! みんな!』
うおおおぉぉぉ!
『一部123プロのアイドルは、別プロダクションのアイドルとして参加する』というのが、今回のライブの事前告知だった。346プロダクションに佐久間まゆさんが参加しているように、確か所恵美さんは――。
『ドンドン盛り上がっていくヨー!』
『私たちの歌、聞いてください!』
――春香さんたちと同じ、765プロダクション。
『キラキラ眩しい水面を』
『吹き抜ける一陣の風を』
『楽しそうな鳥の歌声を』
『『『この一瞬を、忘れない!』』』
Across the moment
『トライスターヴィジョン』
田中 琴葉/島原 エレナ/所 恵美
「大事な話があるの」
「だ、大事な話……?」
その、私とエレナは恵美にファミレスへと呼び出された。
真剣な面持ちの恵美に、私は思わず生唾を飲んでしまった。『同い年だから気軽にしてくれていい』と言ってくれたのは恵美で、その言葉に嘘偽りはないことは理解している。それでも今の恵美の真剣な表情に、私は身構えざるを得なかった。
「私たちさ……今回のライブで一緒に歌うじゃん?」
「う、うん」
「素敵なユニット名も貰っちゃったもんネッ!」
今回のライブのために123プロから765プロへの出向となった『所恵美』が加わり、私たち三人はユニット『トライスターヴィジョン』としてステージに立つことになっていた。
既に三人のためのユニット曲も作られており、現在私たちはそのレッスンの真っ只中である。そんなタイミングでの恵美からの『大事な話』とは、一体何なのだろうか。
もしかして歌について? それとも振り付けで何か気になるところが?
「この間レッスンしててさ、そのときの動画を見返してて、アタシ、思ったんだ」
「っ」
やっぱりダンスのこと!? 恵美は言わずもがなエレナもダンス得意だし、そうなるとやっぱり私……!? め、恵美にこんな真剣な表情をさせちゃうぐらい、私のダンスがダメだったってことなのかな……!?
(……いや、ここで落ち込んでちゃダメだ!)
恵美は直接それを私に伝えようとしてくれた。遠慮することなく真正面から……きっとそれは私を信頼してくれているということだろう。私ならばきっと直すことが出来ると……恵美ならば、きっとそう考えてくれる。
ならば私に出来ることは一つ。恵美の期待に応えたい。
あのトップアイドル『所恵美』からの期待以上に……私はユニットメンバーであり友人でもあり大切な仲間である恵美の期待に応えたい。
「……教えて、一体何処が――」
「三人でお揃いの何か、付けたくない?」
「ワァ! いいねそれ! すっごくいい考えだヨッ!」
「――ええそうね凄く良い考え!」
「あれ、琴葉今なんか言おうとした?」
「なんにも!?」
そうよね!? いくら恵美がトップアイドルとはいえそんなこと言い出すわけないものね!? 言ったとしてもこんな場所で堂々とじゃなくて、それとなく伝えてくれるに決まってるものね!?
こっそりと心の中で一呼吸入れてから恵美からの提案に意識を戻す。
「お揃いの何か……っていうと、アクセサリーとかそういうの?」
「そーそー! ほら折角ユニット組んで一緒にステージ立つんだから一体感出したいじゃん?」
「ユニット衣装を用意してくれるっていう話だけど……」
「衣装以外で! アタシたち三人の仲良しの証がほ~し~い~!」
「ワタシもほ~し~い~!」
「エレナまで……」
声は小さめで周りには迷惑をかけていないものの、小さく駄々を捏ねるフリをする恵美とエレナに思わず苦笑してしまう。
「というわけで! 本日の予定は『三人お揃いのアクセサリーを買いに行くこと』です!」
「ワーイッ!」
「……それは結局、いつも遊びに行くのと変わりないわね」
結局最後はそこに帰結するのか嘆息しつつ……なんだかんだ言って、私も『この三人』でのお出かけに心を躍らせるのだった。
『雨上がりの空を見上げてパシャ!』
『幸運の架け橋をチェキ!』
『切り取ったこの瞬間を、アナタに届けよう!』
今回、恵美さんたちのユニットのために書き下ろされた新曲である『Across the moment』は、曲名はややカッコいい寄りではあるものの、彼女たちの雰囲気に合うような明るい『今』を歌う曲であり……どこかノスタルジーを感じさせる曲調。
「むー……」
「どうしたんですか、まゆさん」
一緒にモニターで恵美さんの様子を見ていたまゆさんが、小さく唇を尖らせていた。
「ちょっとだけジェラシー……ですかねぇ。恵美ちゃんはまゆのパートナーなのに……」
よよよ……とわざわざハンカチまで取り出して嘘くさい泣き真似をするまゆさん。
「不思議ですよね。まるで
「だからこそジェラシーなんですよぉ。まるで私とユニットを組んでいたときよりも馴染んでるように見えちゃうんですからぁ」
今度はぷんぷんと怒った真似をするまゆさん。
「『LiPPS』として参加する志希さんもそうなんですけど……
それは根拠のない思いつきではあるのだけれど……なんとなく、そんな気がした。志希さんは346プロへ、恵美さんも765プロへ。……私とまゆさんと美優さんは、果たしてどこの所属になっていたのだろうか。
「ひょっとしてまゆさんも、橘さんと一緒に346プロに……っ!?」
反応がないなぁと思って横を見ると、まゆさんが涙目でプルプル震えていてギョッとしてしまった。あ……もしかしてまゆさん……マジ泣きしてます?
「ま、まゆさん……?」
「……そ、そんな寂しいこと言わないでくださいよぉぉぉ……!」
「た、例え話ですから! あくまでも仮定の可能性の話ですから!」
そもそもその泣き芸は恵美さんのものでしょ!?
「あ、志保ちゃんがまゆちゃん泣かしてる。いけないんだー」
「ややこしいので良太郎さんはあっちに行っててください!」
……いや寧ろまゆさん引き取ってもらった方がいいのでは!?
良太郎さん! カムバーック!
・卯月@限界オタク化
春香はあんなにヒロインしてたっていうのにこの子は……。
・Across the moment
今回のライブの第一オリジナル楽曲。
まさかトラヴィが曲貰ってないとは思わないじゃん……。
・123プロに所属しない世界
実はジュピターが123に来なかっただけで分岐してた可能性があったという。
だんだん香ばしくなるサブタイトル。
さて白組は誰かな?