『またねと言って手を振って』
『また明日と約束して』
『果たせなくなってしまった約束もある』
三人の歌とダンスにしっかりとテンションが上がって声を張り上げる卯月ちゃんや未央ちゃんやアーニャちゃんと一緒になって盛り上がりつつ……そのパフォーマンスを頭の何処かで冷静に見ている私がいた。
恵美さんとエレナさんの明るく元気な歌声とダンスに、そんな二人を優しく見つめつつも一緒になって楽しんでいる琴葉さん。その様子だけで普段から仲が良いんだなぁということが分かる。分かるのだけれど……歌詞の節々から『寂しい』という感情が見え隠れする。
(これは一体……)
『『『さぁ瞬いてAcross!』』』
うおおおぉぉぉっ!
(まぁそういう考察は後にして今を楽しまないと勿体ないわよね!?)
モニターに映された三人の投げキッスに会場が湧きあがり、周りの熱と共に私も一緒になってこのライブを楽しむことにした。
「このペンダント可愛いヨ!」
「ホント! これにする!?」
アクセサリーショップで可愛いペンダントを見つけて盛り上がるエレナと恵美。確かにそのペンダントは可愛いと思うんだけど……。
「ライブでお揃いのものを付けるって言うと、普通周りから見えるアクセサリーにしない? それだと衣装で見えなくなっちゃうと思うけど……」
「「……確かにっ!?」」
「あっ、これ346プロのぴにゃこら太じゃん! うはっ、ぶさかわ~!」
「ど、独特なデザインのマスコットね……」
「緑色のマスコットだったらウチにもいるヨー!」
「えっ」
「え~!? 765プロのマスコット!? いるの!?」
「う、うん……」
いることにはいるけど……。
「いいな~、
「い、いないならいないで別にいいと思うな~……」
「ねーねー! どんなの!?」
「え、えっと……」
「この子だヨー!」
「……えっ。……え、えーっと……」
「可愛いでショ?」
「……い、いい緑色だね~?」
捻りだした感が否めない当たり障りのない感想っ! 気を遣わせちゃってごめんね!?
「あー楽しー!」
なかなかコレと決まるものが見つからなかったためスタンドで飲み物を買って小休憩中、フルーツジュースを飲みながら恵美は楽しそうに笑っていた。
「やっぱり友だちと買い物っていいよねぇ! 最近はお陰様で忙しくなってさぁ」
「凄いものね、『Peach Fizz』」
「二人が出演する番組、ワタシ全部見てるヨ!」
「ありがとー!」
……別に忘れていたわけではないし、そういうのは彼女とユニットを組むと決まった直後から意識しなくなってしまったが……恵美はトップアイドル『所恵美』だ。私たちシアター組も最近はテレビでの仕事を多くさせてもらえるようになったが、それでも彼女は確実に私たちよりも
だから今回、八事務所合同ライブなんていう日本トップレベルで大きなライブに参加させてもらえる上に、恵美のようなトップアイドルと共にステージに立てることは、私たちにとって『ひと時の幸運』なんだと思っている。
……という話を、一度だけ恵美にしたことがある。
――えー? そーゆーのナシナシ! やめよやめよ!
――アタシたちのライブは『ひと時』とかそんなんじゃないよ。
――確かにライブって始まると『一瞬』だけどさ。
――その時間は、終わった後でもアタシたちの心にはずっとあるんだからさ。
――例えこのユニットが今回限定だったとしても……。
――アタシたちが『トライスターヴィジョン』だってことも。
――アタシたち三人が友だちだっていうことも。
『『『この一瞬は永遠だから!』』』
『『『Across the moment!』』』
「フーンだ……私の方が友だち歴長いですもーん……『出会い方が最悪だった』っていう王道を往く親友ルートに入ってますもーん……」
「おーよしよし、そうだねまゆちゃんと恵美ちゃんは親友だもんねー」
良太郎さんに抱きしめられてヨシヨシされたことで一時は機嫌が直ったものの、ステージ上で楽しそうに歌う恵美さんの姿を見て再び不機嫌になってしまったまゆさん。唇を尖らせて子どもっぽく拗ねる姿は、不覚にも素直に可愛いと思ってしまった。……私もちょっとだけ撫で撫でしたい。
「しかし、この曲の制作陣も意地が悪いよなぁ。こんな『一回しか会ったことないけど私たち友だちだよ!』なんて曲をあの三人に歌わせるんだから」
「……こちら側からのオーダーではないんですか?」
「今回のライブのコンセプトと『トライスターヴィジョン』っていうユニットの構成メンバーと結成動機を伝えた結果、お出しされた楽曲がこちらになります」
うーん、制作陣の
「……本当は、こんな曲みたいなことにならないような業界を作りたいんだけどね」
「『アイドル』が職業である以上、営利が絡んでくるのは避けられない」
「……趣味でアイドルをする人はいますが、金銭が発生しない界隈の行く末は厳しいですからね」
「そして営利が絡んでくる以上……芸能事務所という括りで分けられてしまう。独占禁止法ってやつだな」
「言いたいことは分かるんですけど、その説明であってるんですかね?」
「伝わればいいんだよ」
権利だとか体裁だとか色々な事柄が複雑に絡み合い……結局私たちアイドルの間には『プロダクション』という壁が生まれてしまう。
「123プロがあるからこそ恵美ちゃんとまゆちゃんの『Peach Fizz』や志保ちゃんと志希の『Cait Sith』は生まれた。逆に123プロがなかったらこのユニットは生まれなかった」
「その代わりに結成されるユニットもあった、ということですか」
恵美さんの『トライスターヴィジョン』のように、私と美琴さんのユニットのように、まゆさんと橘さんのユニットのように。
「『たら』とか『れば』とかの話をしてもキリがない。……それでも『もしもそんな世界があったとしたら』と考えてしまう」
「……それが今回の合同ライブのきっかけですか?」
「………………」
「……良太郎さん?」
「ちょっと待って」
突然押し黙った良太郎さんの視線の先を見てみると、そこには当然ステージの様子を映すモニターがあって――
――撫でるような指先でカメラを撫でた恵美さんが、恥ずかしそうにチロッと舌を出した。
「「っしゃあ!」」
良太郎さんとまゆさんが同時にガッツポーズをした。
「『セクシー』な仕草の後で恵美ちゃんなら恥ずかしがって『キュート』になると思ったぜ!」
「完璧でしたよ恵美ちゃぁぁぁん!」
「………………」
痛む頭を抑えようと思ったが、大体二人と同じ感想だったから頭痛はなかった。
「えっと、なんだっけ? なんか志保ちゃん質問あった?」
「いえ、お気になさらず」
正直私も今ので頭から飛んだ。
そろそろ恵美さんたちの曲も終盤だ。それはつまり……彼女たち三人のユニットのステージの終わり。
「折角結成して仲良くなったユニットが今回限りっていうのは寂しいだろうし、今後もそういう機会が全くないってわけじゃない」
それでも。いや、だからこそ。
「恵美さんたちはこの『一瞬』を『永遠』に忘れない」
「『トライスターヴィジョン』だからコレ?」
「あ、安直かしら……?」
「ううん! すっごく良いと思う!」
「そーそー! シンプルイズベスト!」
「
「……これからは?」
「……あれ、もしかしてライブの度に新しいの探す?」
「それもいいネ!」
「えっと、そうじゃなくて……ううん、それもいいわ。でもそれはそれとして……恵美の意見に賛成。これから
「うん!」
『『『これが私たちの!』』』
こちらを指差すように映し出された三人の耳元には――。
『『『
――お揃いの星型のイヤリング。
「……それで? この三人の次に
「ヒミツ」
やっぱり……この人も意地悪だ。
・「緑色のマスコットだったらウチにもいるヨー!
名言はしない。でも何故かマスコット面してるアイツ。
・『出会い方が最悪だった』
二人きりになった途端、笑顔で「私、貴女みたいな人嫌いです」って言ったらしい。
なんというか『安易に恵美を引き抜いたことでトライスターヴィジョンが結成出来なくなったことに対する罪悪感』的なものをずっと抱えておりまして……その一端が少しでも解消出来たらなぁというお話でした。
次回は白組。