「………………」
「……なんかさ」
「うん」
「やっぱり似てるよな、この感じ」
「うん……試合直前みたいな感じ」
すっとお互いに拳を持ち上げる。合図はいらない。息を合わせる必要もない。
コツンと拳を合わせてから駆け出していく。
かつてボールを蹴りながら目指した高みへ……今度は、ヘッドマイクと共に。
『次はオレたちの番だ!』
『みんな! 声出してこー!』
トライスターヴィジョンの三人が舞台裏へと戻る後ろ姿を追いかけるようにして、白組側のステージから二人の声が重なって聞こえた。
……それは
だからこの歓声の中には、俺と同じような意味合いを含ませているものもいるだろう。
お帰りなさい、と。
『『Wow Wow Wow Wow Wow Wow』』
『『Wow Wow Wow To the shine!』』
Wow Wow Wow Wow Wow Wow!
『『One,Two,Lert’go!』』
まるで
……キックオフだ。
『『Wow Wow Wow Wow Wow Wow』』
『『For the future!』』
Pleasure Forever…
『W』
蒼井 悠介/蒼井 享介
「もしかして暇なんですか?」
「「開口一番それは酷くねっ!?」」
いや、確かにりっくんが「久しぶりに悠介お兄ちゃんや享介おにいちゃんと遊びたい」って言うから時間を作ってほしいとお願いしたのは私だ。相手は駆け出しとはいえアイドルだし、そもそも元プロサッカー選手なので簡単に時間なんて作れないだろうなと思いつつダメ元でお願いしてみたのも私だ。
それがまさか二つ返事で「「オッケー!」」と返事が来て、あれよあれよという間にこうして休日の運動公園で待ち合わせすることになるなんて思わないじゃないか。
「それを言うんなら、あの『北沢志保』がこうして公園に弟を連れて遊びに来るなんて思いもしなかったぞ」
「しほさん、お仕事大丈夫なの?」
「ご心配ありがとうございます。今日はオフなので大丈夫ですよ」
ありがたいことにアイドルとしての仕事を沢山させて貰っているが、休みはしっかりと貰っている。その辺りの調整が上手な留美さんに感謝である。
「オレたちも同じだって。今日はオフ!」
「まぁしほさんと違って沢山お仕事貰ってるわけじゃないし、比較的にオフが多めなのは確かだけどね」
そう言って享介さんは肩を竦め、悠介さんは苦笑する。
「きっと今だけですよ。その内サッカー選手として活動していたときよりも忙しくなりますから」
「「………………」」
「どうかしましたか?」
ぽかんとした表情の蒼井兄弟に首を傾げる。
「いや……えっと、なんていうか……」
「しほはオレたちが
「……あぁ、そういう」
確かに、今の私の発言は『蒼井兄弟がアイドルとして成功する』ということが前提のものだった。信じているといえば信じているのだが……。
「すみません、私の知り合いにアイドルとして成功しなかった人がいなかったもので、それが当然だと認識していました」
「「そいつぁすげぇな!?」」
私の知り合いのアイドルというのはつまり『周藤良太郎』の知り合いのアイドルとほぼ同義だ。彼の周りのアイドルはきっと……。
(……そういえば一人だけ例外がいたっけ)
アイドルデビュー直後の頃から知り合い、しかしアイドルとして日の目を見ることなく今日まで燻り続けている女性の姿が脳裏を過ったが、直後りっくんに袖を引っ張られたことで思考を中断する。
「お姉ちゃん、お仕事のお話終わった……?」
「「「あっ」」」
迂闊……何たる失態、この二人との世間話なんかよりもりっくんが遊ぶ時間の方が余程大事だというのに。
「ごめんねりっくん、お話終わったよ」
「よーし、りくクン! 今日はオレが現役時代に得意だったトリックを教えてやるぜ!」
「ほんと!?」
「コレで学校で大活躍間違いなしだよ!」
行っておいでと言う暇もなく、ボールを蹴って駆け出した享介さんの後を追ってりっくんは走り出し、さらにそれを追いかけるように悠介さんも走っていった。
一応「怪我しないように気を付けてねー」とだけ声をかけ、私は近くのベンチに――。
「え? お姉ちゃんはやらないの?」
「え?」
――下ろそうとした腰が途中で止まる。
「お姉ちゃんも、サッカーやろ!」
「え、えっと……」
りっくんがもっと小さい頃は一緒に遊んだが、アレは正直サッカーと呼べるレベルのものではなくただボールを蹴るだけだった。流石に遊びのレベルとはいえ、元プロサッカー選手とのサッカーは私には荷が重いような……。
「しほさんもやろうよ!」
「アイドルやってるんだから動けるだろー!?」
「アイドルだから動けるっていうのは偏見ですよ……」
どう足掻いてもスポーツには不向きとしか思えない我が事務所のお姉さんアイドルの姿を思い出しつつ、りっくんの期待するような視線に負けた私は観念して三人の下へと向かうのだった。
「……ところで、悠介さん、享介さん」
「「ん?」」
「
「……えっ!?」
『享介さんの眼鏡をかけた悠介さん』と『眼鏡を外した享介さん』は私の指摘に驚愕の表情を浮かべ、私は逆ドッキリに成功した気分で思わずクスリと笑ってしまった。
「アイムア~主人公~! ……ん?」
何故か懐かしくなって久しぶりに動画を視聴した結果脳内ループが途切れなくなってしまった曲を口ずさみながら運転していると、運動公園内にチラっと見知った人影が見えたような気がした。ちょうど信号待ちになったのでそちらに視線を向ける。
「……北沢姉弟と蒼井兄弟?」
へぇ、りっくんが蒼井兄弟に懐いてることは知ってたけど、今もこうして遊ぶぐらいには仲良いんだ。しかも志保ちゃんまでサッカーに参加してるとは……。
――えいっ!
――……お姉ちゃん……。
――……うわぁ……。
――……う、うん、筋は良いと思うよ。
――……下手な情けは無用です……!
会話内容は当然聞こえないけど、まぁ楽しそうに遊んでいるようで何よりである。
『一緒にいると何でもできちゃうみたいな』
『底知れないチカラが湧いてくる感覚
『ひとりきりじゃやっぱり調子でないのは』
『ココロまで委ねてる証拠さ』
「………………」
「えっ、どうしたんですか冬馬さん」
ステージ終わりの恵美さんを迎えに行ったまゆさんと入れ替わるようにやってきた冬馬さんは、感極まったような表情で涙ぐんでいた。
「いや……ほら北沢には言っただろ? 俺が蒼井兄弟のファンだって」
「おっしゃってましたね」
「悠介選手が怪我で引退ってなったときは本当に悲しかったけど、こうして元気に享介選手と一緒に並んでいるところを見ちまうとどうしてもな……」
「「………………」」
冬馬さんがここまで素直に自分の感情を吐露することが珍しくて思わず良太郎さんと顔を合わせてしまった。良太郎さんはゴクリと何かを飲み込む仕草を見せたので、おそらく『誰だお前』というツッコミの言葉を飲み込んだのだろう。かくいう私も(こんなレアな冬馬さん、写真撮ったら春香さんとか卯月さんとか星梨花が喜ぶかな)と思いつつ自重した。
「そういや北沢、蒼井兄弟と知り合いだったんだな」
「……まぁ、ちょっとだけ不思議な縁があって、一応デビュー前からの知り合いということになりますかね」
「はー……だからあんときあんなこと聞いてきたんだな」
「……はい」
悠介さんが入院中のときの出来事を思い出す。正直なことを言うと、あのときはあのまま「オレはやっぱりサッカーをするよ」みたいな展開になると思っていた。
『『手を取り合えば』』
『『また新しいユメに出会えるよね?』』
それがこうしてアイドルとしてステージに立っているのだから、本当に不思議なものである。
……こういう『アイドルを引き寄せる性質』的なものは良太郎さんの専売特許だとばかり思っていたのだが……まさか自分も同じような体験をすることになるとは思わなかった。流石に私のは良太郎さんのと違って偶然だろうけど……。
『『そうBe with you! 空はどこまでも』』
『『蒼く高く続いていくから』』
果たして彼らがサッカーに何を望んだのか、何処まで行こうとしていたのか、何をなそうとしていたのか、それは私には分からない。けれどそれらの理由よりも、アイドルになる道を選ぶだけの理由があったのだろう。
彼らがアイドルを目指すきっかけになった出来事は、果たして何なのだろうか。
・『Pleasure Forever…』
最初は『AFTER THE RAIN』にしようかと思ったけどあまりにもエンディングになりすぎちゃうから没になりました。
……まぁWの曲は殆ど『明るいから逆に泣ける』ってやつばっかりなんですけどね!
・私の知り合いにアイドルとして成功しなかった人がいなかった
なんでやろなぁ……(すっとぼけ
・「いつまで入れ替わってるつもりですか?」
本来、悠介は「オレ」「しほ」「りくクン」で享介は「俺」「しほさん」「りくくん」だということを確認してから読み直してみてください。
・「アイムア~主人公~!」
今ニコニコ動画が「人類には早すぎる動画」のピックアップしてて、偶然にも学生時代にド嵌りした『赤ずきんと健康』を引いちゃったから……。
・春香さんとか卯月さんとか星梨花
殆どの人が忘れてるでしょうけど、実は星梨花もそっち組なんすよ。
白組からはWの登場です! いや楽曲選びに苦労しました……。
トライスターヴィジョンとWを組み合わせた理由は、まぁほぼサブタイトル通りです。