アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ずっと一緒だからこそ。


Lesson410 一瞬の永遠 VS 悠久の刹那 4

 

 

 

「よがっだでずよ恵美ちゃあああぁぁぁん! 琴葉さんとエレナさんもおおおぉぉぉ!」

 

「にゃはは、ありがとう、まゆ」

 

 涙を流しながら抱き着いてくるまゆさんの背中を、優しく笑いながらポンポンと撫でる恵美。よく聞いていた話では、いつもは恵美が泣いてまゆさんに泣きついているらしいのだが、どうやら今日に限っては逆のようだ。

 

「恵美ちゃんのステージを……! しっかりと見ることって少なかったから……! まゆ、まゆ……!」

 

「ちょ、ちょっとまゆ~、も~、泣き止んでよ~、じゃないと、あ、アタシまで……」

 

 あ、まゆさんに釣られて恵美も涙目になって来た。これは共倒れになる予感。

 

「恵美、まゆさん、二人とも落ち着いて。ほら衣装が汚れちゃうわよ」

 

「ぐすっ……す、すみません琴葉さん……思わず感極まってしまい……」

 

「ずずっ……ありがと、琴葉……」

 

「あはは、二人とも泣き虫さんだネー」

 

 ニコニコと笑うエレナの視線が恥ずかしかったらしく、恵美とまゆさんは揃って顔を逸らした。

 

(……正直なことを言えば、羨ましい)

 

 恵美と仲が良いことに、これからも恵美とユニットを続けられることに、私はきっとまゆさんに嫉妬している。

 

 それでも、私と恵美とエレナの三人の時間は、先ほどのステージは、例えどれだけまゆさんとの絆が深かったとしても『私たちだけの時間』。あの瞬間は、私たちの終わらない時間だから。そのことを私はずっと胸に抱き続けると思う。

 

 ……なんてことを考えていた私の耳に、今ステージに立っているWの二人の歌が聞こえてくる。

 

 

 

『『High and low』』

 

『過ぎた時間(とき)は』

 

 

 

『『No moment』』

 

『戻らないけど』

 

 

 

『『Don’t give up』』

 

『乗り越えるのさ』

 

 

 

『『共にゆこうよ』』

 

 

 

『『さぁ新しいトビラ開け放て!』』

 

 

 

 『元サッカー選手』で『双子』のアイドルユニット。蒼井兄弟の名前はサッカーのことに詳しくない私でも名前を聞いたことがあるほどのトッププレイヤー。そんな彼らが今こうして私たちの同僚のアイドルとしてステージに立っている。

 

(……『共にゆこうよ』……か)

 

 彼らは二人揃ってサッカーの道を退きアイドルの道を、()()()()()()()()道を選んだ。

 

 私たちと真逆のようで……しかし何処か似ているような、そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

「「……もしかして、想像以上にアイドルってスポーツ選手並みに体力付くの?」」

 

「正直私自身もビックリしてますよ……」

 

 

 

 りっくんのお願いを聞いて、蒼井兄弟と共にサッカーに興じること早一時間。適宜休憩や水分補給を取りつつもずっと走り回っていたのだが、元プロサッカー選手に驚かれるぐらい疲れていなかった。

 

 いや疲れていないというのは語弊があって間違いなく疲労は溜まっているのだが、なんというか「まぁこんなもんかな」ぐらいの疲れ具合なのである。

 

 確かに123プロダクションは基礎トレーニングによる体力作りを主軸にレッスンをする育成方針ではあるが……。

 

(ここ最近はずっと美琴さんのレッスンに付き合ってたからなぁ……)

 

 多分これは美琴さんの頭のおかしい……もとい、頭のネジが何本か緩んでいそうなぐらいハードなレッスンを共にした結果なのだろう。

 

「りっくんはしっかりと休憩してね。はいコレ飲んで」

 

「ありがとー、お姉ちゃん……」

 

 一緒に遊ぶことが出来てずっとニコニコと笑っているりっくんだが、やはり疲労の色は隠せない。この辺りでしっかりと休ませることにする。

 

「オレたちもアイドルになってから散々レッスンやトレーニングやったけど、ホントにスポーツ選手並みに動くんだよな」

 

「確かにライブってサッカーの試合以上の時間を声出しながら動いてるわけなんだよね。そう考えると『そりゃそうだ』って感じ」

 

「いえ私たちは流石に90分もフィールドを走り回るわけじゃありませんし……」

 

「オレたちだって本当に90分ずっと全力疾走してるわけじゃねーって」

 

「途中出場や途中交代もあるしね」

 

 そんなことを話しながら私たちも水分補給。

 

「……なぁ、しほ」

 

「はい?」

 

「今度のステージ、ちゃんと見ててくださいね」

 

「……それは勿論」

 

 一緒のライブに出演するのだから、出演順などのタイミングなどで時間が合わない限りは基本的に見ることになると思う。私自身、出演者であると同時に八事務所合同ライブそのものを楽しみにしているファンの一人でもあるのだから。

 

 

 

「しほには」「ちゃんと見ててもらいたいから」

 

 

 

「……分かりました」

 

 なんだかよく分からないけれど、見て欲しいらしい。よく分からない。

 

「お姉ちゃん、休憩終わり!」

 

「え、もういいの?」

 

 飲んでいたスポーツドリンクのペットボトルをベンチに置いたりっくんは、いつの間にかサッカーボールを蹴りながら走り出していた。

 

「悠介お兄ちゃんと享介お兄ちゃんと滅多に遊べないから! この『刹那』を大事にしないと!」

 

「おっ、りくクンカッコいい言葉知ってんな!」

 

「えへへ、テレビで、カッコ良かったから……」

 

 照れるりっくん可愛い。

 

「……そうだよな」

 

「今のこの時間を、大切にしないとね」

 

 走るりっくんの後を追って走り出していく蒼井兄弟。走り出す前に呟いた言葉には、果たしてどんな意味が込められていたのか。

 

「おねーちゃーん!」

 

「はーい」

 

 

 

 

 

 

 その日のことを、自分たちは忘れない。

 

 

 

「……なぁ、コレ」

 

「え?」

 

 それは監督(プロデューサー)からのスカウトを受けた次の日のこと。『アイドル』と言うものがどういうものなのか、もしかして知っているようで知らないことがあるかもしれないと、スマホで動画サイトを見ていたときに『それ』を見つけた。

 

 『それ』は123プロダクションが無料公開しているライブのPV。『周藤良太郎』や『Jupiter』といった有名なアイドルが歌う姿が映される中に、一人の少女を見つけた。

 

「「……やっぱり、本当にアイドルなんだ……」」

 

 病院で仲良くなった少年の姉であり123プロダクション所属アイドルの『北沢志保』が、漆黒のドレスのような衣装を身に纏い、ステージの上で歌っていた。

 

 堂々とした立ち振る舞い、そして時折見せる余裕そうな表情は……自分たちとは世界が違えど、同じく『プロの世界』で生きている者の佇まい。これが『アイドル』なんだと、自分たちにまざまざと見せつけられた気分だった。

 

「なぁ……」

 

「あぁ……」

 

 視線は画面に釘付けのまま、お互いに口を開く。相手が言おうとしているかなんて、目も合わせなくても分かる。

 

 

 

「「……すげぇな……アイドル……」」

 

 

 

 きっとそれが二人でアイドルの道を目指すきっかけとなった出来事。実際に口に出すなんて野暮なことはしなくても、二人の心は一つだった。

 

 北沢志保(かのじょ)のように、みんなを笑顔に出来る存在になりたいと、そう思ってしまったんだ。

 

 

 

 

 

 

『『思いっきり失敗したって』』

 

『『変わらないものがあるんだから』』

 

 

 

 きっと、ずっと一緒に歩む人生。あの日、フィールドを駆け回っていたときのように、今はステージの上を歌って走る。

 

 

 

『『Follow you,Follow me』』

 

『『でこぼこの道だって』』

 

 

 

 この想いは『悠久』に、けれど最高のパフォーマンスはこの『刹那』に。

 

 

 

『『All right!』』

 

『『大丈夫!!!』』

 

 

 

 待ってろよ、『北沢志保』!

 

 トッププレイヤーに食らいつくのは、得意なんだぜ!

 

 

 

 

 

 

「……ふーん、これが今回のセットリストね」

 

「まぁ、悪くはないかな」

 

「うんうん、素敵なライブになると思うよ。……このままなら」

 

「「それじゃダメ」」

 

「ダメ、かなぁ……?」

 

「そうよ、特に『この演出』が気に入らない」

 

「あー、アタシもそう思う。アイツ()()()()()()()()にし過ぎ」

 

「うーん……その点に関して言えば、私も同意見かなぁ……?」

 

「というわけでスタッフさん、お願いがあるわ」

 

 

 

「『周藤良太郎』と『東豪寺麗華』を、今すぐこの部屋に呼んできなさい」

 

 

 

「……他の出演者にバレないように、こっそりとね」

 

 

 




・泣き虫ピーチフィズ
共倒れの泣き芸。

・「しほには」「ちゃんと見ててもらいから」
一部の人に怒られそうだから『恋愛フラグじゃない』って明言しとく。

・謎の三人@暗躍中
イッタイダレナンダー。



 このライブという一瞬を永遠のものとして臨んだトライスターヴィジョンと、悠久に続くであろうWが挑む刹那のライブ、といった感じの構図。のつもり。でした。

 ホント、いつかトライスターヴィジョンの曲が来るといいね!
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