アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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台風も近くなる季節。


Lesson412 紅い想い VS 熱い想い 2

 

 

 

「やぁ三人とも、頑張ってるね」

 

「「「……なんでここに!?」」」

 

 

 

 たまたまレッスンスタジオでユニ募の三人がレッスンをしているところを発見したので変装状態で挨拶をしに行ったら、三人の仲の良さを見せつけられた。

 

 ただ発した言葉は同じだが、多分込められた意味合いはおそらく微妙に違う。あかりちゃんは「どうして一般人の方がここに?」という意味で、りあむちゃんが「どうしてリョーさんがここに?」という意味で、あきらちゃんが「どうして周藤良太郎がここに?」という意味ではないだろうか。なんにせよ、俺がこの場にいるを疑問に思っていることには違いないだろう。

 

「たまたま仕事でこのスタジオに用事があってね。その帰りに知り合いを見かけたから顔を覗かせてもらったんだ」

 

「えっと、芸能関係のお仕事をされているんでしたっけ……?」

 

「そうそう。だから君たちが今度の開催される八事務所合同ライブに参加するってことも知ってるんだよね」

 

「えっ!? リョーさんそこまでお偉いさんだったの!? 嘘でしょ!? どんな手ぇ使ったの!?」

 

「りあむちゃんがアイドルにスカウトされたこと以上に変な手段は使ってないから安心してよ」

 

「ぼくが変な手段を使ったっていう前提で言うなぁ!」

 

 じゃあ俺も使ってないってことだよ。

 

「………………」

 

 そしてあきらちゃんから飛んでくる「白々しい……」と言わんばかりの呆れた目線。俺も既に何年もこういうスタンスで色々な人と接してきているものでね。

 

「ところで三人とも、お昼の予定は?」

 

「え?」

 

「……そろそろスタジオの時間も終わるので、三人で何処かに食べに行こうって話になってましたけど……」

 

 俺からの突然の質問に呆気に取られたあかりちゃんだったが、あきらちゃんは何かを察した様子で自分たちの予定を教えてくれた。

 

「ははーん、さてはリョーさん、現役アイドルと一緒にご飯が食べたいんだな~?」

 

「調子乗んなよピンク頭、その通りだよ」

 

「肯定するなら罵倒挟まなくても良くない!?」

 

「集会メンバー内で『りあむちゃんには厳しく接しましょう』って決まってるから……」

 

「それは流石に嘘でしょ!? ……え、嘘だよね……?」

 

「………………」

 

「嘘だと言ってよ、リョーさん!?」

 

「俺はな! 女の子のおっぱいを一度だってチラ見したことなんてないんだよ!」

 

「嘘だ! リョーさんはコンプライアンスが怖くなったんで嘘をついてるんだ!」

 

「……あきらちゃん、二人が何を話してるのか分かる?」

 

「ガンダムっていうアニメの中に出てくる台詞をオマージュして遊んでるだけだから、別に気にしなくてもいいよ」

 

 分かってくれてありがとう、あきらちゃん。

 

 

 

 そんな無駄なやり取りを挟みつつも、ユニ募の三人と共にお昼を食べることになった。

 

 ただ流石にそのまますぐに食事へ……というのは流石にうら若き少女に対する配慮が欠けているため、先にシャワーと着替えを待つことになる。

 

「……へぇ、アイドル科だけじゃなくてプロデューサー科ねぇ……」

 

 その間、休憩スペースのベンチに座りながらスマホを弄っていて見つけたのは、現在設立に向けて動いているという『アイドル専門の中高大一貫校』の話題。なんでもアイドル育成コースだけではなくプロデューサー育成コースまで存在するらしい。常にアイドルの成長ばかりに目を向けていた俺には気が付かなかった視点である。

 

「プロデューサー科は大学課程か……」

 

 個人的にはアイドル科よりもこちらの方に興味がある。機会があれば俺も履修してみたいところだ。

 

「お待たせしました……あ、あれ?」

 

 そんな声に顔を上げると、そこには着替えを済ませて制服姿になったあかりちゃんがキョロキョロと視線を彷徨わせながら戸惑っていた。

 

「あの、あきらちゃんとりあむさん、先に来てませんでした?」

 

「あかりちゃんが一番乗りだけど」

 

 どうやらあかりちゃんよりも先にあきらちゃんとりあむちゃんが更衣室を出たらしいのだが、その二人の姿は見当たらない。

 

「レッスン室に何か忘れものでもしたんじゃないかな」

 

「そ、そうですね」

 

 納得したように頷いたあかりちゃんは、俺から二人分ほど離れた位置に腰を下ろした。うーん、友人の友人相手に対する丁度いい距離感。

 

「あかりちゃんは山形からこっちに来てるんだよね」

 

「は、はい。()()()()()()山形から来ました」

 

 それが周知の事実のような口ぶりのあかりちゃんは、知る人ぞ知る『謎の山形林檎激推しアイドル』である。

 

 事あるごとに山形の林檎をダイレクトマーケティングしてくるものだから、一部アイドル界隈では割と真面目に『山形の名産品は林檎』という認識が浸透しつつあった。仕事で山形駅へと赴いた際、地元では大々的に『さくらんぼ』が名産品として推されている状況に一瞬脳が混乱してしまったほどである。

 

「実家が林檎農家なので、その手助けが出来ればいいなって思ってアイドルになったんです。や、やっぱり理由が俗っぽいですかね……?」

 

「いいと思うけどね。君の事務所の先輩に『印税生活目指してます』って公言してる、俗っぽさで言えば上位互換みたいなアイドルもいるし」

 

 ちなみに彼女が目指している印税生活とやらは、既に俺はやろうと思えばやれるぐらいの額は稼ぎ切っていたりする。それを知ったとき以来、羨ましいを通り越して恨みがましい目で見られたりするようになった。

 

「それに765プロの高槻やよいちゃんだって、アイドルを始めたきっかけは家庭を支えるためだったわけだし、入口は何処でもいいんだよ。……って、あの『周藤良太郎』も言ってたよ」

 

「……『周藤良太郎』さん……ですか」

 

(……ん?)

 

 あれ、この反応、もしかして……。

 

「不躾なことを聞くようだけど、あかりちゃんってもしかして『周藤良太郎』苦手なタイプの人だったりする?」

 

「え!? え、えっと、その……」

 

 あかりちゃんの反応が『抗体持ち』の人のそれに見えた気がしたので、思わず聞いてしまった。今の俺は『周藤良太郎』ではないので、今の内のしっかりと把握して距離感を考えてあげないと……。

 

「苦手ではないんですけど――」

 

 

 

 ――ちょっとだけ怖いんです。

 

 

 

「……それは『あんな無表情のくせして意外とテンション高くて不気味』的な?」

 

 無表情というガワに適した無口クールキャラならば良かったんだけど、そっち路線でのアイドル活動は早々に諦めた。『どう取り繕ったところでお前はそういうキャラだ』とはアイドルとしての活動を始めて一ヶ月経った頃の兄貴の言葉である。本当に神様(さくしゃ)はどうしてこんなキャラデザにしたのやら。

 

「そうじゃなくて、私にとって()()()()()というか……」

 

 え、なにそれ、完全にポジションが『名前を呼んではいけないあの人』みたいな感じじゃん。俺そこまで怖がられてるの……?

 

「……林檎を作るのが大変だっていうことは、多分想像してもらえると思うんですよ」

 

「まぁ、林檎に限らず農家の人は大変なんだろうなとは思ってるよ」

 

「私のお爺ちゃんもお婆ちゃんも、お父さんもお母さんも、みんなみんな頑張っているところを見て、私は育ちました。林檎一つに色々な人の()()が込められているんです」

 

 自分の家族のことを誇らしそうに語っていたあかりちゃんは「でも」と悲しそうな笑みを浮かべた。

 

「そんな努力も、台風や大雨で、簡単に薙ぎ払われちゃうんです。なかったことにされちゃうんです」

 

「………………」

 

「だから私は()()()()()で……アイドルとしての頑張り全てを根こそぎ吹き飛ばしてしまいそうな『周藤良太郎』さんという存在が怖いんです。いつか私たちの活動してきたこと全てがなかったことにされるんじゃないかって」

 

 あかりちゃんの表情は悲観ではなく達観。既に一度『諦めてしまった』人間の目。

 

 ……これまでのアイドルとしての人生の中で、何度も見てきた目だった。

 

(……もしかしてこれ、また俺のやらかし案件……?)

 

 あかりちゃんに悟られないようにこっそりと息を吐く。そういうアイドルが何人もいることは知っているし、そういった事実を受け止めてきたつもりではあったが……それでもダメージがないわけではない。

 

(割とガチで胃が痛い)

 

 今すぐりんの胸の中に飛び込んで癒されたい。

 

 

 

「……っていう話をしたら、りあむさんに笑われちゃいました」

 

 

 

「……ほへ?」

 

 予想外の名前が出てきたことで変な声が出てしまった。

 

 

 

 ――いやいやいや努力が実を結んでくれないのは普通でしょ。

 

 ――努力してもどーにもならんときはどーにもならん。

 

 ――アニメではよくある話。

 

 

 

 ――『無くすかもしれない』時間を考えられるぐらい、ぼくは頭良くないからさ。

 

 ――というかオタクはそんな理性的な生き方出来ねぇんだよ!

 

 

 

「りあむちゃん……」

 

「ちなみに割とマイルドに表現し直してますけど、実際はもっと『バッカでーw』みたいな感じの言い方だったのであきらちゃんに割と本気でしばかれてました」

 

「りあむちゃんぇ……」

 

 上げて落ちるまでのスピード感に少しだけ親近感を覚えてしまった。認めたくないけどやはり俺とりあむちゃんは割と同類の人間である。

 

「……あかりちゃんは、その言葉で救われた?」

 

「……そういうのはよく分かりません。『今までしてきた努力が水の泡になる』恐怖はまだぬぐい切れていません。それでも……」

 

「あかりちゃーん! リョーさーん! お待たせー!」

 

「すみません、りあむさんの忘れ物探しに時間がかかっちゃいました」

 

 あかりちゃんの言葉を聞ききる前にりあむちゃんとあきらちゃんが来てしまった。

 

 それでもあかりちゃんがそのとき言おうとしていた言葉は……。

 

 

 

 

 

 

『あと一歩 Step-Step-Step』

 

『踏み出して 1・2・3』

 

 

 

『『『I chenge in Ultra-Coloful』』』

 

 

 

 ……今こうしてステージの上に立っているあかりちゃんの笑顔を見れば、聞くまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに。

 

「……えっ!? こんなめっちゃいいお店!? なんで!? ……ぼくのせい!? せいってなに!? ぼく何かしたの!? いや『せい』って言ってるのにグレードが高いお店なのは何か違くない!? 逆に怖いんだけど!? リョーさん本当にどういうこと!?」

 

 その日、ちょっとだけいいお店に連れて行ってあげたら逆にりあむちゃんは滅茶苦茶狼狽えてた。

 

 

 




・「嘘だと言ってよ、リョーさん!?」
もはやテンプレネタ。

・『アイドル専門の中高大一貫校』
果たして学マス時空は何年後になるやら。

・『山形の名産品は林檎』
山形公演で山形駅を訪れて「……あ、そういえばサクランボの方が有名だった」と同じことを思ったプロデューサーさんは俺だけじゃないはず。

・『周藤良太郎』さんという存在が怖い
初めてあかりのその辺りのエピソードを聞いたとき「やべぇコレ良太郎地雷案件だ」と戦々恐々としたものです。

・オタクはそんな理性的な生き方出来ねぇんだよ!
個人的解釈としてりあむは『世の中の不条理を知った上で甘ったれてる』と思ってます()


 ユニ募編というかあかり編。努力が嫌いエピソードを知ったときからずっと書きたかった良太郎がダメージを受ける話でした。

 次回白組エピソード。熱い想い、果たしてだーれだ。ヒントは『亜利沙』。
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