『それじゃ今日もCall & Response』
『返事とPut your hands up!』
Hi!
周りと一緒にコールをしつつ、私はステージ上で軽快なダンスを見せる三人の男性アイドルについて思いを馳せる。
(確か……ありりんの学校の元教師って話だっけ)
『元高校教師のアイドルユニット』という肩書はそれだけで十分にインパクトが強いので、当然私は集会でその話題を出したのだが。
――見て見てありりん、また315プロから面白いアイドルがデビューしたよ。
――ほうほう、今度はどんな方がアイドルデビューを?
――元高校教師の三人なんだって。
――……ん?
――ほらコレ。
――……んんん?
そのときのありりんの表情の変化が面白かったので思わず撮影してしまったほどである。
ありりん曰く『学校でもそれなりに人気があった先生がいきなり三人も辞めてしまったため、学校側でも生徒側でもかなり大事になった』らしい。そりゃ、いきなり三人も先生がいなくなればそうなるよね。
……正直(普通に考えていきなり担任の先生が辞めるって無理なのでは……?)と思わないでもないのだけれど、多分これは触れてはいけないなにかであろう。決して
ともあれ、今こうしてステージ上で
……そんな三人が何故アイドルになったのか。
その理由は
「これは私の知り合いの教員から聞いた話なんだがね」
次は何を飲もうかとメニューを眺めていると、道夫さんがポツリと話し出した。
「かつて、とある教師がとある生徒の夢を否定してしまったらしい。生徒のためを思って口にした強い言葉が、結果として一人の若者の未来を壊してしまった。それをずっと後悔することになった」
「………………」
その先生の気持ちは、今は少しだけ分かる。俺も同じようなことを美琴に対してしようとしていたのだから。
「教職を辞めてもなおそのことを悔やみ続けた彼女は、諸事情により一年だけ教職に復帰することとなり……再び
メニューを閉じ、道夫さんの話の続きを待つ。
「彼女は、今度は生徒の夢を否定しなかった。勇気を出してやろうとしたことを否定することなく、先に生まれ先に生きる者としてその背中を押した。……いや、ただ
すなわち『先生』。
「この話を聞いたときは大変感銘を受けたよ」
「俺なんかちょっと泣いちゃったもん」
「おじさんはガッツリ泣いたよ」
俺も今ちょっと泣きそう。
……道夫さんのこの話は、きっと以前とある怖いお姉さんから聞いた話に通じるものがある気がした。
――だからこそ、私たちが守ってあげないといけないのよ。
――キラキラと輝く子どもたちの夢を守るのが。
――私たち『大人』の役目よ。
「……あの人も、娘一人産むぐらいの人生経験はしてるわけだし、そういう意味では『先生』でもあったのかな」
「なになに? ミスターりょーのteacherの話?」
「いえ、オーガの話です」
「Ogre!? 鬼!? なんの話!?」
「いやいや鬼なんていないでしょ」
残念ながらいるんですよ、次郎さん。『一文字で鬼、二文字で悪魔、三文字で……』みたなことを言われてる怖い人が。
……いやまぁ『四文字で悪鬼羅刹、五文字で……』と言われてた奴が言えた義理ないんだけどもね、うん。
「でもそういうことであれば……」
亜利沙ちゃんはアイドルがいかに人の心を惹きつけ魅了するかを伝え、そして実際にアイドルとなった。そしてそんな亜利沙ちゃんの姿を見て道夫さんたちはアイドルになったのであれば……。
「亜利沙ちゃんも
「っ」
「あーなるほどねー」
「わお、確かにそうだね!」
先生として生徒を導くためにステージに立った彼らも、元を辿れば先生の背中に憧れた生徒だったということか。
「そういえばなんですけど、三人とも亜利沙ちゃんにはそのきっかけの話ってしたことあるんですか?」
「「「………………」」」
「……あれ?」
冗談交じりに「当然!」という反応を期待したのだが、三人は黙って顔を見合わせた。
「えっ、亜利沙ちゃんには伝えてないんですか?」
「いや……わざわざ言う必要ないと思って」
「教えるtimingも無かったからね」
「秘密にするつもりは別にない。しかし……それを伝えることが彼女にとってどのような影響を与えるのかを考えてしまうな」
いやまぁ、確かに担任の先生が「君に憧れてアイドルになった」と伝えられるのは結構衝撃的ではあるだろうけど。俺も自分の先生がいきなり「周藤、俺もアイドルになるぞ!」とか言い出したら色々と困惑する。ゴリせん、アンタはアイドル以外にもっとやるべきことがあると思う。
「俺だったら『自分が教師を辞めさせてしまった』とは思わないですけどね」
しかしそれは、俺が既に『アイドルの王様』として全てを背負う覚悟を決めたからかもしれない。亜利沙ちゃんは……心優しい亜利沙ちゃんならば、もしかしたら『私のせいで教師を
「それならば、これを期に感謝の気持ちを伝えてみるっていうのはどうですか?」
「感謝の気持ちを?」
「絶好の機会が、待ってるじゃないですか」
『方程式も』
『化学変化も』
『リーダーやグラマーも』
『違うGrooveに』
『鳴らすRhythmに』
『揺れるMelodyに重なって』
『『『Clap! Clap! Clap your hands!』』』
『『『Clap! Clap! Clap your hands!』』』
ペンライトの紐を手首にかけ、コールに合せて手を叩く。
きっと彼らは、ここにありさがいるなんてことに気付きもしないだろう。それでもありさは手を叩く、声を出す、応援する。
それは一種の『罪悪感』。ありさだけじゃなく、彼らの授業を受けたことがある生徒たち全員が抱いている感情。
どれだけ思い悩んだところで過去は変えられない。ならばせめて、今さらだけど。
そんな想いを込めて、より一層の熱を込めて――。
『私たちはアイドルという熱の強さを教わった!』
「え……」
――これがアイドルか……確かに凄い熱量だ。
――これがいつも君が見ているものなのだな。
ふいに脳裏に過ったその光景は、かつて彼らが教師だった頃、ありさがまだアイドルの道へと足を踏み出すことを躊躇していたときのもの。
(……そんなはずないのに)
『teacherであると同時にstudentでもあった!』
(ありさに向けての言葉なわけ、ないのに)
『君が……君たちが教えてくれたんだ!』
きっとそれはありさだけじゃない。あのとき、ステージを前にして熱を見せてくれた生徒たちにも向けての言葉だ。
『『『ありがとう、先生!』』』
それでも、こんな素敵なアイドルの誕生に、ありさなんかが、ほんの少しでも、きっかけになることが出来たというのであれば。
『『『今度こそ、俺たちが先生になる番だ!』』』
それはきっと、とてもすてきなことだ。
「……亜利沙、大丈夫ですの?」
「……はい」
曲が終わり、隣が静かだと思ったらなんと亜利沙がボロボロと泣いていた。ステージを見た後で号泣するだけならば割といつもの光景だが、今日は少し様子が違った。
「少し、感極まっちゃった、だけです」
「……そうですわね、とても素敵なステージでしたから、無理もありませんわ」
「はいっ! そうなんです! ありさの先生は、とても凄いアイドルなんです!」
ゴシゴシと袖で涙を拭った亜利沙は、とても誇らしそうな表情を浮かべていた。
「……ん? 渡辺さん、さっきまでここに良太郎の奴いませんでしたか?」
「ん? リョー君だったらさっきスタッフさんに連れてかれてたよ。東豪寺さんと一緒に」
「……東豪寺が一緒ってことは、なんかやらかしたってわけじゃなさそうだな」
「真っ先にそこが疑われるんだ……」
「いや、寧ろ東豪寺は叱る側として呼ばれた可能性も……?」
「寧ろ逆に信頼感が凄い……?」
・いきなり担任の先生が辞めるって無理なのでは……?
深く考えてはいけない。
・なんかメッチャギラギラした銀色の衣装
アルミホイルとか言われる奴。
・私の知り合いの教員から聞いた話
熱血コスプレ青春アニメ『2.5次元の
エロコメ描写が苦手っていう人はぶっちゃけ七話ぐらいからでも大丈夫だから! ここからスポ根路線に乗ってくから!
・ゴリせん
魔境校なんだから生徒だけじゃなくて先生だって人外だったに決まってるだろ?
亜利沙とSEMの三人のお話でした。ようやく回収出来た……。
『知り合いの教員の話』は単行本で読んだときから引用したいと思っていた。にごリリはいいぞ。