アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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副題『頑張れるーみん』


Lesson415 一方その頃バックステージ その1

 

 

 

「いくわよ赤組っ!」

 

 

 

『負けんじゃねぇぞ白組っ!』

 

 

 

 

 

 

「始まった! ついに始まったよ静香ちゃん!」

 

「ちょっと未来、大きな声出しちゃダメだって……」

 

「だってだってだって~!」

 

 そわそわと落ち着かない様子を見せる春日さんとそれを宥める最上さんの姿に思わずクスリとしつつも、私は今一度自分自身に気合を入れるために軽く頬を叩く。朝一番にスタッドレスに履き替え忘れるという失態をしてしまった以上、ライブ中の自分の仕事はしっかりとこなさなければいけない。

 

 何せ今日の私は123プロダクションのプロデューサーであると同時に八事務所合同ライブの『総合プロデューサー代理』としての役割もあるのだ。

 

 では本来の合同ライブ総合プロデューサーである周藤幸太郎は何をしているのかというと……現在、彼は観客席に囲まれたPA席にいる。リハーサルでの演出は良太郎君と麗華さんが務めたものの、結局ライブ中の細かな指示を出せる演出の人間は不在となると……やはりその空いた席を埋めるのは、良太郎君曰く「もう全部兄貴一人でいいんじゃないかな」と言わしめる社長以外に他ならなかったのだ。

 

 いくらなんでもそれは無茶があるのでは……と周りの心配を他所に、社長は二つ返事でこれを了承。結果、イヤモニでスタッフ全体の大まかなやり取りを把握しながらPA席からステージの演出も確認するという凄まじい激務を強いられることとなった。……本当にこの人は時々色々な意味で怖くなる。

 

「双海さんと星井さんのスタンバイは進んでいますか?」

 

「はい。先ほどRステージ裏からスタンバイ完了との連絡が」

 

「ありがとうございます」

 

 近くにいたスタッフに確認をしつつ、今度は()()()()()()()()へと声をかける。

 

「……冬馬君は聞くまでもないですね」

 

「あぁ」

 

 小さく頷く冬馬君。きっと視線はステージを映すモニターに向けつつ……きっと心はもっとその先のことを考えているのだろう。『周藤良太郎』や『東豪寺麗華』、『天海春香』すらステージに立っている()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がそこにある。

 

 それは『周藤良太郎』や『東豪寺麗華』にも劣らない大役……ある意味では、今回の八事務所合同ライブの主役と言っても過言ではないだろう。少なくとも私は()()()()()()だと思っているが、これはきっと担当プロデューサーとしての贔屓目が含まれていることだろう。

 

 

 

 

 

 

『ついにこの時がきたな、麗華』

 

『そうね、良太郎』

 

 

 

「うわ~キンチョーしたっす~!」

 

「お客さんメッチャ盛り上がってたな!」

 

「なのはちゃん、気付いとった?」

 

「言わないではやてちゃん……」

 

 一曲目が終わり、ぞろぞろとステージ裏にアイドルたちが戻ってくる。一部身内の存在を確認してしまったため恥ずかしさに顔を赤らめている少女もいるが、みんな一様に笑顔を浮かべていた。この光景を見るたびに「あぁ、プロデューサーをやっていてよかった」と心から思う。

 

「留美さ~んっ!」

 

「っ!?」

 

 そんなことを考えていると、恵美さんが私の名前を呼びながら飛び込んできた。それほど勢いはないとはいえ、それでもたたらを踏みながらなんとか彼女の身体を支えることが出来た。

 

「ステージめっちゃ楽しかったー!」

 

「もう、恵美さん危ないですよ」

 

 恵美さんと一緒にオープニングアクトを終えた志保さんも戻って来た。

 

「恵美さんは次のステージも近いので早く準備に入ってくださいね」

 

「はーい! あっ、でもその前に留美さんにお願い! 写真撮って! スマホスマホ!」

 

「もう、一枚だけですよ?」

 

 123プロの中では一番写真を撮りたがる恵美さんのため、いつでも渡せるように基本的に普段のライブ中も彼女のスマホは私が持ち歩いていた。

 

「志保さんと一緒にですよね? それじゃあ並んで……」

 

「そうだけどそうじゃなくて!」

 

「え?」

 

 ロックを外してもらうために一旦恵美さんにスマホを返却したつもりだったのだが、恵美さんはそのまま自分で撮影する準備を始めてしまった。

 

()()()()()()()()撮るの! ほらほら! 志保も来て!」

 

「えっ、ちょっ、恵美さん!? わ、私は……!?」

 

「留美さん諦めてください。時間が押してますよ」

 

 まさか自分も写る側だとは思わず焦りながら辞退しようとするが、いつもは恵美さんを窘める側の志保さんにまで腕を掴まれてしまお。そのまま恵美さんが自撮りする形での画角に私までスマホの画面内に収まってしまった。

 

「ほらほら留美さん堪忍して! 撮るよ~!」

 

「留美さん、笑わないと変な表情で写ることになりますよ!」

 

「えっ、ちょっ、まっ!?」

 

 カシャッというシャッター音。

 

「……おぉ、凄いね留美さん、しっかりと笑顔」

 

「やっぱり留美さんもアイドルデビュー出来たんじゃないですか?」

 

「変なこと言ってないで、早く準備してください!」

 

 我ながらあの一瞬でよく出来たな、と思ってしまうほどいい笑顔で写真に納まることが出来たが、後になってから羞恥の波が押し寄せてきた。顔が熱い。

 

 さっさと恵美さんからスマホを取り上げると、彼女は「はーい!」と笑いながら先ほど一緒にステージに立ったエレナさんと共にRステージ裏へと向かった。

 

「全く、志保さんも一緒になって揶揄わないでください」

 

「ごめんなさい。……でも、それだけ()()()んですよ」

 

 素直に謝る志保さんだが、一目で『テンションが上がっている』ことが分かるほどに明るい笑顔だった。

 

「……分かりますよ」

 

 私たちは直接ステージに立つことが無ければ喝采も脚光も浴びることがない裏方の人間。そんな私たちですら……既に()()()と思っているのだから、アイドルのみんなが楽しくないなんてわけがなかった。

 

 

 

「やべ緊張で吐きそう……」

 

「りあむさんの顔が台風が去った次の日の流れが速い川の水の色になってるんご……!」

 

「#アイドルとして如何なものか #せめてアイドルらしく」

 

 

 

「……あまりそうは見えない人もいるみたいですけど」

 

 ちょっとそこのスタッフさん念のためビニール袋持ってきておいてくれる!?

 

 

 

 

 

 

 ステージの上では順調にライブが進行していく。アイドルたちに余計なことを考えさせないように、ただ純粋にパフォーマンスを楽しんでもらえるように、全ての緊張と不安を肩代わりするのが私たち裏方の仕事。

 

 しかし順調に進んでいるステージの裏では……少しずつ、小さなトラブルが起こり始める。

 

「っ! W側装飾班っ! ステージ脇のライトが一つ切れてます! ユニ募歌唱中に至急対応を!」

 

 白組側のメインステージの装飾に使われているライトが一つ切れていることに気付いた私はすぐに無線を使って指示を飛ばすが、どうやら先に社長が気付いて対応中らしい。やはりステージ全体を見ることが出来るPA席に社長がいてくれた方がいいこともあったようだ。

 

「あ、あの、和久井さん……」

 

「はい?」

 

 名前を呼ばれて振り返ると、そこには310プロのテスタロッサさんが何故か涙目になって立っていた。

 

「ど、どうかしましたか?」

 

「ご、ごめんなさい、あの……これ……」

 

 膝を折り彼女の顔を覗き込むようにしながら何があったのかを尋ねると、テスタロッサさんは少し震える指先で自分の衣装の一部を指差した。

 

「……ほつれてしまっていますね」

 

 それはほんの少しほつれ。縫い目に沿ったものなので簡単に直せるものであるが……テスタロッサさんのステージの番が少し近すぎる。一度衣装室に戻っていては間に合わない可能性が高い。

 

「わ、私、何処かで引っ掛けちゃったみたいで……ご、ごめ……」

 

「よかった……」

 

「え……?」

 

 しかし私が想定していたことよりも()()()()()()()で思わず安堵の息を漏らしてしまった。

 

「この程度であれば問題ありませんよ」

 

「えっ」

 

「先にRステージの裏でスタンバイをしましょう。衣装担当にもそちらに向かってもらいますので」

 

「で、でも」

 

「ご安心を……()()()()()()()は大変優秀なので」

 

 

 

 

 

 

「ごめんくださいまし」

 

 不安そうなテスタロッサさん、そんな彼女を心配する高町さんや八神さんと共にRステージ裏で待機していると、暗がりから白い影がすぅと現れた。全身真っ白なパンツスーツに映える真っ赤な髪を揺らしながら、彼女は柔らかく微笑んだ。

 

 

 

「先日お救いいただいた鶴にございます」

 

「「「………………え?」」」

 

 

 

「……お鶴さん、それは初見の人に伝わらないって何度も言ってるじゃないですか」

 

「私の鉄板ネタですのに……」

 

 寂し気に笑う彼女であるが、テスタロッサさんの衣装のほつれに気が付くとその目つきはスッと鋭くなる。

 

「失礼します。動かないでくださいまし」

 

「え、あ、はい」

 

 そのままテスタロッサさんの衣装を脱がすことなく修復を始める女性に、先ほどの台詞で呆気に取られていた三人はますます困惑していることだろう。なので代わりに私が軽く彼女の紹介をしておく。

 

「この方は『ミス・クレーン』。123プロダクション専属のファッションデザイナーで、ウチの事務所の衣装の全てを担ってくれています。私たちは『お鶴さん』と呼んでいます」

 

「み、ミス・クレーン……ですか?」

 

「私、本当の名前を呼ばれてしまうとこちらの世界に居られなくなってしまいますので」

 

「だからまたそういう……」

 

 時々よく分からない言葉を口走るものの、その腕前は紛れもなく本物。周藤兄弟が手放しで絶賛してありとあらゆる手段を用いて口説き落とした『衣装の天才』である。

 

「ひえ~……123プロはアイドルだけじゃなくてスタッフも天才が揃っとるんですねぇ……」

 

「お誉めいただきありがとうございます、八神さん。ですが私がしていることなど、ほんの些細なことです。……はい、終わりましたよ」

 

「えっ!? もう!?」

 

 文字通り『目にも留まらぬ』速さで直ってしまった衣装に、その腕前を初めて見る三人や周りのスタッフだけでなく、何度も目にしている私ですら驚きと感心をしてしまうほどである。

 

「さぁこれで完璧ですよ。……貴女方のアイドルの輝き、是非私にも見せてくださいまし」

 

「っ、はい! ありがとうございます!」

 

「「ありがとうございます!」」

 

 三人は頭を下げると、そのままスタンバイに入った。

 

 私とお鶴さんはそのまま邪魔にならないところにまで下がりつつ、彼女たちの出番を見守る。

 

「私からもお礼を言わせてください、お鶴さん。今日もありがとうございます」

 

「いえ、和久井さん。お礼を言いたいのは私の方ですよ。だって――」

 

 手にしていた衣装の道具を床に置き、代わりに手にしたのは……スーツの内ポケットから取り出した『ペンライト』。

 

 

 

「――このような最高峰のアイドルのステージを間近で見ることが出来るんですから!」

 

 

 

 先ほどまでの優しい瞳は何処へやら。今にも涎を垂らさんばかりにニヤケきったその表情は何処に出しても恥ずかしくない(はずかしい)アイドルオタクそのものであった。

 

「さぁ和久井さんもご一緒に!」

 

「私はまだやることがあるので」

 

「アイドルを応援するのだってプロデューサーのお仕事でしょう!?」

 

 そうだけどそうじゃないんですよ……。

 

 

 

 こうして優秀なスタッフたちに支えられつつ、アイドルたちは光り輝くステージへと昇っていく

 

 

 




・『総合プロデューサー代理』
兄貴が激務なので留美さんにも頑張ってもらいます。

・「もう全部兄貴一人でいいんじゃないかな」
アールエッッッ!

・R側
・W側
それぞれRedステージとWhiteステージの略称です。

・『ミス・クレーン』
Lesson268で名前だけ出ていた彼女がついに登場。
正体? はてなんのことですかねぇ?

・恥ずかしくないアイドルオタク
ここにも集会適性ある人物が一人。



 ライブ中は出来るだけ番外編を挟まないようにしているので、その代わりの幕間のお話でした。数話ごとのにこんな感じの話を挟んで箸休めすることになります。



『どうでもいい小話』

 ……ライブは……どちらも……見れていません……!
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