「っ……ぐっ……!」
「……え゛っ!? まさか恭也君……!?」
「な、泣いてる……!?」
目元を抑える恭也に驚愕する友紀と茄子。
「気持ちは分かるわ……あのなのはちゃんが、あんなに立派になるなんて……」
恭也ほどではないにせよ、昔からなのはちゃんのことを知っている身として、正直私も少しだけ込み上げてくるものがあった。
そんな私と恭也の涙を他所にライブは進行していき――。
――それは、会場の熱気を更に上回るような
『よろしくお願いしまぁぁぁっす!』
音源ではない本物のドラムの音。私たちが赤組のステージに気を取られている間に用意されていたらしく、白組のステージにはドラムやキーボード、そして両脇にギターとベースを携えたセンターのボーカル。
今回のライブ参加アイドルの中では唯一の、そしてアイドル業界の中で見ても数少ない『自分たちで楽器を演奏するアイドルユニット』の登場である。
JOYFUL HEART MAKER
『High×Joker』
伊勢谷 四季/若里 春名/榊 夏来/秋山 隼人/冬美 旬
『BPM ハイなオト 響かせながら!』
『書いて消して書いてまた消して! Q&A!』
「なんか一気にステージの雰囲気が変わったねぇ……」
控室のパイプ椅子に座りながらモニターでステージの様子を観ていたあかりちゃんがそう呟いた。
「ステージの雰囲気が変わったというのであれば、先ほどの『Tri-Ace』の三人のときから変わっていた気もするけどね」
「えっ」
自分のその発言に反応したのは、たった今控室に戻って来たアイドルたちだった。
「わ、私たちのステージ……」
「か、変わってましたか……!?」
「違います変わってません誤解ですごめんなさいお疲れ様でした最高のステージでしたりあむサン謝って」
「はいっ! ごめんなさい! ……あれ今なんでぼく謝されたの!?」
タイミングの悪いことに自分の言葉の一部を聞いて誤解してしまったなのはちゃんとフェイトちゃんがショックを受けた表情をしていたので慌てて謝罪をする。慌てすぎてなんかりあむサンも巻き込んでしまったような気もするが多分気のせいだと思う。
「三人とも! すーっごいカッコ良かったんご!」
「あ、ありがとうございます」
「えへへ……」
しかし先ほどのパフォーマンスに興奮したあかりちゃんが手放しに褒めると、なのはちゃんとフェイトちゃんは照れた様子で表情を綻ばせた。ユニットメンバーのナイスフォローにホッと胸を撫で下ろす。あとであかりちゃんには何かお礼をしないと……。
「あきらちゃん、ぼくにも何かあっても良いと思うんだけど?」
「ちゅっ」
「あきらちゃんの無表情投げキッスありがとうございます!」
この人安上りすぎて不憫に思えてきた。
「それで、何が変わったって話をしとったんですか?」
そう言いながら先ほどの会話を聞き返してくるはやてちゃん。先ほどからなのはちゃんとフェイトちゃんの様子を微笑ましく見ていたことから、多分誤解だということは最初から分かっていたらしい。
「それまでのユニットがしっかりとダンスをしていたのに対して、トライエースの三人とハイジョの五人はダンスらしいダンスがなかったねって話」
「あー、なるほど」
スタンドマイクにより立ち位置がほぼ固定されていたトライエースの三人は腕や軽いステップなどでダンスと呼ぶには少々大人しい振り付けだった。
一方のハイジョは今のところそれらしきものは見受けられない。勿論、五人全員不動なわけではない。その場にドラムが固定された若里サンは流石に無理だが、ギターの秋山サンとベースの榊サン、そしてショルダーキーボードの冬美サンはそれなりに自由にステージ上を動いている。
その一方でボーカルの伊勢谷サンはマイク片手にステージ上を動きまくっており、アンプに足を駆けたりファンを煽ったり観客席の端の方へと顔を出してみたりと自由に動きまくっていた。
「これはこれで『暴れ回る』って表現される奴だね」
「ダンスじゃなくてボーカルメインの曲の良太郎さんがこんな感じですよね」
「あー確かに」
アイドルオタクなりあむサンと良太郎さんの大ファンだというなのはちゃんの会話は、なんだか『分かっている人』のような雰囲気だった。りあむサンの癖に生意気な。
「というか、伊勢谷さんって緊張とかしないのかな……」
「わ、私だったら緊張してこんなに動けないですね……」
「え? ステージの上のフェイトちゃん、凄いキリッとしててカッコ良かったよ?」
「あ、あの表情でいるのに精一杯なんです……」
こちらはあかりちゃんとフェイトちゃんの会話。ステージ上ではとてもクールに決めていたように見えていたが、どうやら内心ではかなり緊張していたらしい。
改めて、今ステージ上の伊勢谷さんを観る。
『さぁみんなぁ!』
『まだまだ盛り上がるっすよぉ!』
伊勢谷さんの声に合わせてファンたちが沸き上がる。ついでにりあむサンも「ふおおおぉぉぉ!」と沸き上がっていた。
こうして見ると、やはり緊張している様子はない。
「うーん、これは相当なメンタル強者なんやろうなぁ……」
こういう言い方をするのは失礼かもしれないけれど、あんまり悩みとか無さそうで羨ましいと思ってしまう。いや本当に失礼だけど。
「四季君が緊張してない? それはちょいと分かっとらんようやねぇ……」
「「「「「……え?」」」」」
「え? いやいや私ちゃうで?」
関西弁だったので全員の視線がはやてちゃんに向いたが、どうやら彼女ではなかったらしい。というか控室の入り口から聞こえてきたけど。
「厄介ファンみたいな真似したくなかったんだけど……ハイジョファンとして口を挟ませてもらおうか!」
「あ、貴女は!?」
「そう! あたしこそ伊勢谷四季君加入前から『High×Joker』を追いかける女! 人呼んで――!」
「周子ちゃん次出番なんだからそんなことしてる暇ないの後にして!」
「――えっ!? あっ、ちょっ、まっ!?」
珍しくドヤ顔を浮かべていた周子サンがあっという間に美嘉サンに連れ去られて行ってしまった。
「堪忍して~! ハイジョを、ハイジョのことを語らせて~!」
『………………』
遠のいていく周子さんの声を聞きながら、思わず自分たちは黙ってしまった。
「……そ、そういえば周子さん、ハイジョの大ファンだって言ってたっけ……」
「まさか346にぼく以外にあれほど強火のアイドルオタクがいたとは思わなかった……」
場の空気が弛緩するのを肌で感じた。まさかリップスのボケでもツッコミでもない中立の存在だと思っていた周子さんがあんなに面白枠だったとは。
……ただ周子さんが言っていたことは少しだけ気になった。あの口振りではまるで……。
(伊勢谷さんが緊張してないわけじゃない……ってこと?)
「『High×Joker』のハイパーメガMAXアゲアゲライブ! 今度文化祭でやるんで! 是非見に来てほしいっす!」
「ん?」
諸事情により珍しくバス移動をしていた俺は、バスを降りた途端になんか聞き覚えのある声を耳にした。いや聞き覚えのある声というか、こんな語彙力を持つ人物に一人しか心当たりがないんだけど。
「とにかくハイパーカッコいい曲ばっかりなんで、よろしくお願いしまっす!」
日も落ち始めた夕暮れのセンター街で、そんなことを言いながらビラを配る少年が一人。紛れもなくハイジョの四季である。
(一人か……?)
キョロキョロと周りを見渡してみるも、他のメンバーは見当たらない。もっと広範囲に分かれてビラ配りをしている可能性もあるが、少なくともここには四季一人しかいないらしい。
「んえ? 知り合いっすか?」
「あぁ、『High×Joker』のボーカルの伊勢谷四季」
「あー、あの青春真っ盛りって感じの高校生バンドアイドルっすね」
これまた諸事情で同行していた比奈が何事かと尋ねてきたので軽く他己紹介したところ、どうやら存じていた模様。
「比奈先生の学生時代にはきっとなかったものですよね」
「良太郎君に言われたくない……って言い返したいところっすけど多分良太郎君の高校生活って普通に青春してそうなんすよねぇ~!? そんだけ堂々とオタクやってるくせになんかズルくないっすか!?」
「今俺何に対して怒られたの?」
いや比奈が憤るような青春なんてあの学園にはなかったよ。ジャンルでいえばドタバタギャグコメディだから。
さてそんな俺たちの青春事情はともかく、今は四季だ。
「見たところ文化祭のビラ配りみたいっすけど」
「せやな」
一応アイツらメジャーデビューしてるアイドルなんだけど、文化祭でライブはともかくあんなに堂々とビラ配りは事務所的にいいのだろうか。
「まぁ考えるより直接聞いた方が早いだろ」
「そうっすね」
というわけで比奈と共にビラを貰うために四季の元へ。
「すみませぇん、一枚貰ってもいいですかぁ?」
「なにアタシの声使って猫撫で声出してくれてんすかぁ!?」
笑顔で振り返った四季が目ん玉飛び出さんばかりに驚いていた。驚かれてますよ比奈先生。
「断じてアタシの声のせいではないっすからね!?」
・恭也@涙
関係者席のご両親はもっと泣いてる。
・JOYFUL HEART MAKER
ハイジョの楽曲はこれをチョイスさせていただきました。
切り札を叩きつけろ!
・周子@強火ハイジョファン
Lesson369でその片鱗を見せていましたが、アイ転における周子はハイジョのファン。
リップスで一人だけ安全圏にいた彼女にもついにアイ転の魔の手が……。
エースに対するはジョーカー! ということでハイジョの登板です。
以前はリップスと対戦させるつもりでしたが、その組み合わせは前章でやったなってことで変更となりました。お話のベースはアニメ10話となっております。
『どうでもいい小話』
ファンタジー公演お疲れさまでした。自分は配信でした。
個人的ハイライトは『ボッチのソルジャー』です。この人本当に色々な意味でズルい。