アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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――月は見えているか。


Lesson420 月の揺らめき VS 星の瞬き

 

 

 

「は? 良太郎と麗華ちゃんがいない?」

 

『はい……先ほどから誰も姿を見ていないらしくて……』

 

 ハイジョの演奏の途中、PA席からステージを見守っていた俺の元に届いた留美からの一報は、予想以上に深刻なものだった。

 

 俺の言葉が聞こえていたらしい隣のスタッフがギョッとした目でこちらを見てきたので「大丈夫だからこっちを頼む」と一声かけてから、バンドの音に掻き消されそうになる留美との会話に集中する。

 

「いつ頃から姿が見えないんだ?」

 

『目撃情報をまとめると、どうやら「S.E.M」のステージの途中にスタッフから声をかけられて連れていかれた、とのことで』

 

「連れていったっていうスタッフは?」

 

『残念ながら名前までは……ただ間違いなく会場設営時から参加しているスタッフではあるそうです』

 

 俺はスタッフ全員の顔と名前を憶えているが、流石にスタッフ全員にそれを期待するのは難しかったか。

 

(……流石に良太郎の悪ふざけ……とは考えづらい)

 

 麗華ちゃんも一緒である以上、本物のトラブルである可能性が非常に高い。

 

「……現状、考えられる最悪の可能性は『何者かによる妨害』だな」

 

 あらかじめ紛れ込んでいた間者が人目の付かないところまで二人を連れて行き拘束、そのまま拉致。良太郎一人だったら背後からの不意打ちぐらいならば対応できるだろうが、例えば麗華ちゃんを人質にされて従わざるを得なかった可能性というのも考えられる。

 

『ですが、このようなライブの真っ只中にそんなことをする人なんているんですか……?』

 

 留美の考え方も間違ってはいないだろう。しかし俺はそのような強硬手段を実行しようとする人間がいるということを、あの『南の島の一件』で知っている。完全に否定することは出来ない。

 

 出来ないが……。

 

「……とりあえず動けるスタッフで捜索に当たってもらおう」

 

 それを留美に伝えるのは、現状無駄に不安を煽るだけになるため閉口する。まずは現実的な対策をするところから始めよう。

 

「時間は十五分。それを超えて二人の安否が確認できないようであれば、最悪……」

 

『……分かりました』

 

 言葉は濁すが、留美も()()()()()というものを把握してくれたらしい。

 

 留美とのやり取りを終えて、俺はステージへと視線を戻す。

 

(……信じてるからな、良太郎)

 

 会場は『High×Joker』に向けられた歓声に包まれた。

 

 

 

 

 

 

「……いや休憩なしキッツ」

 

 ハイジョの曲が終わり、思わずそんなことを呟いてしまう。

 

「八曲連続だもんなぁ」

 

「曲と曲の合間が少しだけある分まだマシだけど」

 

 奈緒と加蓮もそれに同意してくれた。

 

 ただ不思議と疲れはない。いや正確には疲れているのだが、それ以上の高揚感が私たちの身体を突き動かしているのだ。

 

 次はどんなアイドルが出てくるのだろう。次はどんなパフォーマンスを見せてくれるのだろう。そんな期待が私たちを奮い立たせ、そして披露されるステージに自然と声が出てしまうのだ。

 

「でも流石にそろそろテンションも打ち止めかなぁ」

 

「加蓮は特に無理するんじゃねぇぞ」

 

「まだ良太郎さんのステージが残ってるしね」

 

 

 

 ……このときの私たちは油断していたのだ。

 

 ここまでのステージは、よく言えば『王道』であり、悪く言えば『順当』。アイドルの魅力を正面から叩きつけてくるパワープレイ。私たちがそれを求めていたのは間違いないのだが……しかしそれに対しての『慣れ』がきっとあったのだろう。

 

 しかし、この合同ライブで、八つの事務所が集った最高峰のライブで……あの『周藤良太郎』と『東豪寺麗華』の息がかかったこのライブにおいて。

 

 

 

 ()()()()()()()()()

 

 

 

「……え」

 

 次の曲のイントロが始まり――。

 

 

 

 ぎゃあああぁぁぁあああぁぁぁ!?

 

 

 

 ――正真正銘の『断末魔』が会場内に響き渡った。

 

 そのイントロは私でも知っている()()()()()()()()であったのだが、次は赤組の番であるはずである。

 

 だからここで曲順の入れ替わりが発生したのかとモニターに視線を映し……。

 

 私も、奈緒も、加蓮も、言葉にならない絶叫を発することとなった。

 

 

 

 ――後に北条加蓮はこのときをこう振り返る。

 

 

 

「基本的に私は『周藤良太郎』のオタクなわけなんだけど」

 

「……流石にあのときばかりはこう思ったよね」

 

 

 

「……『殺される』って」

 

 

 

MOON NIGHTのせいにして

 

 『LiPPS』

 速水 奏/城ヶ崎 美嘉/塩見 周子/宮本 フレデリカ/一ノ瀬 志希

 

 

 

 

 

 

ぴぎゃあああぁぁぁあああぁぁぁ!

 

 

 

「うわ歓声エグッ!?」

 

「なになに!? 何があった!?」

 

 観客席から聞こえてくる悲鳴の大合唱を聞きつけて、モニターが設置してある控室にダブルの二人が飛び込んできた。二人揃って焼きそばのパックを手にしているところから察するに、どうやらケータリングを食べている途中だったらしい。

 

「二人とも、食べてから来てください」

 

 というより、そんな縁日のようなメニューも用意されていたのか。

 

「それでしほさん、何があったの?」

 

「アレです」

 

 

 

『迷いげな表情(かお)が可愛くて』

 

『ちょっとイジメたくなるのさ』

 

 

 

 モニターにはちょうど志希さんがカメラに向かって流し目を向けている瞬間が映し出されていて、数瞬遅れて再び会場から悲鳴が聞こえてきた。

 

「あーこれかぁ……」

 

「まさかドラスタの曲をリップスが歌うとは思わなかったよなぁ」

 

 会場の沸き具合の原因を知った蒼井兄弟は苦笑を浮かべた。

 

 現在『LiPPS』が歌っているこの曲は、元々315プロダクションの『DRAMATIC STARS』の曲である。数々の女性ファンの心を射止めた妖艶な大人の男性の曲であり、彼らを代表する楽曲と言っても過言ではないだろう。

 

 つまり『女性ファンの心を射止めた楽曲』を『女性ファンの方が多い女性アイドル』が歌っているわけであり……。

 

 

 

『『『『『HEY HEY HEY! 踊り明かそうよ!』』』』』

 

『『『『『HEY HEY HEY! ()なことは全部!』』』』』

 

 

 

『BYE BYE BEY! 今はBYE BYE DAY!』

 

『ホントの姿をみせて』

 

 

 

ぴぎゃあああぁぁぁあああぁぁぁ!

 

 

 

 その結果がご覧の有様である。今のワンカットだけで美嘉さんと奏さんの夢女子が何人崩れ落ちたことやら。

 

「うわ会場滅茶苦茶盛り上がってるじゃないっすか!?」

 

「オイオイ完全にオレたち負けてねぇか?」

 

「いや流石にこれには勝てないって……」

 

「ここまで……歓声が聞こえてくる……」

 

「圧巻ですね……」

 

「あ、ハイジョだ」

 

「お疲れー」

 

 先ほどのステージを終えた『High×Joker』のメンバーも戻ってくるが、度々聞こえてくる歓声とモニターからも分かる会場の盛り上がりに驚愕していた。

 

「いやでもホントに凄いっすよね」

 

「これアレなんだろ? 確か()()()()()()()()なんだっけ?」

 

「そう聞いています」

 

 春名さんからの問いかけに私は首肯する。

 

「ここまで王道に進行しておいてのコレだもんな……」

 

「なんていうか、確実に()るっていう強い意志を感じる」

 

「一体どんな企画会議のやり取りがあったんだろうか……」

 

 

 

『まさに奪うけどいいかな?』

 

 

 

 あ、今度は周子さんの夢女子が逝った。

 

 

 

 

 

 

「というわけで今回『LiPPS』には『DRAMATIC STARS』の曲を歌ってもらうわけですが」

 

「「「初耳なんですけど!?」」」

 

 先走り過ぎたせいで美嘉ちゃんと周子ちゃんと奏からツッコミを貰ってしまった。

 

 

 

 ここは346プロダクションの一室。今回のライブにおける歌唱楽曲は基本的にそれぞれの事務所に一任しているのだが、一部のアイドルに関してはこちらから歌ってもらいたい曲を交渉することになっている。

 

 その内の一曲がコレ、『LiPPS』による『MOON NIGHTのせいにして』の歌唱である。

 

「折角『男女混合』での珍しいライブなわけだから、こういうシャッフルもファンには楽しんでもらえると思ってね」

 

 特にこのムンナイは、ドラスタのライブにおいて女性ファンが悲鳴を上げることに定評のある楽曲だ。これを歌った日にはリップス夢女子の方々も大満足間違いなし。

 

「まぁ、言いたいことは分かりますけど……」

 

「……私たちが選ばれた理由を聞きたいわね」

 

 このシャッフルは全員が行うわけではないので、自分たちに白羽の矢が立った理由が気になるのは当然のことだろう。勿論奏からの質問にはちゃんと答える。

 

「今回参加するユニットを確認して、絶妙に意外な事実が判明したんだよ」

 

「意外な事実……?」

 

 それは『言われてみればそうなんだけど意外だと思ってしまう』不思議な事実だった。

 

 

 

「実は今回のライブで、魔王を除けば紅組で唯一『LiPPS』だけ()()()()なんだよ」

 

 

 

「「「「……えっ」」」

 

「「あー……そういえば」」

 

 美嘉ちゃんと周子ちゃんと奏ちゃんが驚き、フレちゃんと志希が納得する。

 

 今現在は違うが、次のライブまでに美嘉ちゃんと奏が誕生日を迎えることにより、彼女たちは全員成人のアイドルユニットになるのだ。

 

「なんというか真面目に意外だったんだよ」

 

 『LiPPS』と言えばカリスマギャルを中心に、中高生に人気の女性アイドルユニットという印象が強かったため、ついに全員が成人することがとても意外だった。

 

「というわけで、数少ない紅組のアダルトユニットとして、アダルトな曲を歌ってもらおうかと……」

 

 手元の資料に落としていた視線を持ち上げる。

 

「「………………」」

 

 そこには、静かにダメージを受けた様子で机に突っ伏す美嘉ちゃんと奏の姿が。

 

「……周子ちゃんとフレちゃんと志希はダメージ無さそうだな」

 

「あたしはあんまり気にしてなかったし」

 

「アタシもー」

 

「今更気にすることかなーって」

 

 今回ばかりは本当に悪意はなかったため、静かに負傷した美嘉ちゃんと奏に素直に謝罪をするのだった。

 

 

 

「「逆に苦しくなるからヤメテ!」」

 

 どないせーと。

 

 

 




・良太郎&麗華@行方不明
一体誰が犯人なんだ……!?
※当然のように非シリアス

・『MOON NIGHTのせいにして』@LiPPS
最早今更説明不要の大量殺戮楽曲。
リップスに歌わせた理由は大体MOIW2023。

・LiPPS@全員成人
実は誕生日の関係で本編時間軸では美嘉も奏も二十歳。



 本当は順当に『Nightwear』を歌わせるつもりだったが、酔った勢いで路線変更しました。いやそもそも今回の八事務所合同ライブ編は『自分が見たいだけの夢のセットリスト』なので、寧ろこっちの方が自然なのである。という言い訳。
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