アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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頭の悪いお話リターンズ。


Lesson423 月の揺らめき VS 星の瞬き 4

 

 

 

「……以上のことから、この一番最初の歌詞である『忘れてきてあげたのよ 自分の傘は』に集約するわけです」

 

「みのりさん、素人質問で恐縮ですが……」

 

 Now 講義ingである。折角なので俺も参加させてもらっているのだが、これがなかなか有意義で面白い。

 

「三人も何か質問はある?」

 

「……とりあえず、今はないです」

 

「うん……凄い分かりやすかった……」

 

「………………」

 

 みのりさんに問いかけられたドラスタの三人は、複雑そうな表情ではあるもの彼の言いたいことは理解できたらしい。

 

「しっかりと三人に伝わってくれたようで、俺もスペシャルアドバイザーとしての冥利に尽きるよ」

 

 眼鏡の鼻当てを指で押し上げながら笑うみのりさん。髪型と綺麗系の顔でワンチャン美人教師に見えないこともないので、今度まゆちゃんの『佐久間流周藤良太郎学』の動画にゲスト出演してもらうのもいいかもしれない。なんか絵面と内容の別方向で人気が出そう。

 

「うーん、これだけ分かりやすい解説をしてくれるのであれば、リップスの五人にもムンナイを歌う意味を解説してもらえば良かったなぁ」

 

 いや今からでも遅くないかな、なんてことを考えていると、突然みのりさんが手にしていた指し棒をカシャーンと床に落とした。

 

「え、どうしました?」

 

「リップスがムンナイ……!? 今『LiPPS』が『MOON NIGHTのせいにして』を歌うって言った……!?」

 

 ……あ、そうだった、みのりさんにはまだ教えてなかった。

 

「あぁ、そうだよ、みのりさん……実は」

 

 教えてあげよう。

 

 

 

「実はLiPPS『おいで』選手権を開催したんだ」

 

「タイトルで何をやったのか想像出来る奴うううぅぅぅ!?」

 

 

 

 その場に泣き崩れるみのりさん。顔は見えないけど声から察するにガチ泣きしてる。

 

「リョーさん、わざわざみのりさんにそれを伝える理由はあったのか……!?」

 

「輝さん、覚えておいてほしい。俺とみのりさんが参加してる『集会』っていうのは常日頃からこういう殴り合いをする仲良し集団なんだ」

 

「『殴り合い』と『仲良し』が両立することなんてあるのか!?」

 

 基本的に泣かされる側は亜利沙ちゃんとかりあむちゃんだけど、たまに俺も強烈なカウンターパンチでダウンすることがある。同性特権で水着のあずささんとツーショット撮ったっていう話を亜利沙ちゃんから聞いたときは吐いたよね、血。

 

「うおおおぉぉぉ……! このままじゃ悔やんでも悔やみきれない……!」

 

「みのりさんめっちゃ叫ぶじゃん……」

 

「お、落ち着いてください……!」

 

「それじゃあ、ここでも同じようなことをするしかないよね」

 

「うわぁ! 急に落ち着かないでください!?」

 

 翼さんに宥められた途端にスンッと大人しくなったみのりさん。

 

「同じようなこと……?」

 

 あぁ、そういうことですか。

 

「確かに一理ありますね、やりましょう」

 

「やろう!」

 

 

 

 というわけで。

 

「緊急開催! DRAMATIC STARS『なんてね』選手権ー!」

 

「やんややんやー!」

 

「なんだそれ!?」

 

「な、なんてね選手権……?」

 

「もう帰ってもいいか……?」

 

 そろそろ薫さんのウンザリ度合いが上限に達しようとしているが、リップスのときどうように割と真面目な話なのでもうちょっと頑張ってもらいたい。

 

「ムンナイの『おいで』と同じように、チューリップの『なんてね』もファンを魅了する重要な部分なんですよ」

 

「リョー君、個人的にはやっぱり『Kiss me Chu Chu Chu Chu Chu Chu lip』の方が重要なところだと思うんだけど」

 

「……ほう」

 

 ゴングが鳴る音がした。

 

「待った待った! それ続けると長くなるやつだろ!?」

 

 しかし輝さんの仲裁で試合不成立。命拾いしましたね。

 

「結局何をするのかというと、皆さんが現状どれだけファンのみんなに喜んでもらえるような『なんてね』が出来るかどうかを確認したいわけですよ」

 

「……要するに実力テスト的な感じか」

 

「必要なことなのであれば……」

 

「………………」

 

 相変わらず薫さんの台詞が少ないが、視線だけは先ほどからずっと「どうしてそんなことを」と訴え続けてきている。

 

「薫さん、声優の仕事続けてるんでしょ? 声だけで表現する演技っていうのは、声優として活動していく上でも必須技能ですよ?」

 

「………………」

 

 渋々納得してくれた感があるのはありがたいんだけど、だからもうちょっと喋りません? 神様(さくしゃ)があからさまに台詞選びを手抜きしてるじゃないか。

 

「そして審査員は勿論、俺とみのりさんです」

 

「公正明大な審査を約束しましょう」

 

「今日のみのりさんは活き活きとしてますね……」

 

「『おいで』選手権を堪能できなかった分、こっちで楽しまないとね」

 

「約束された公正明大な審査が早くも破られる予兆が見えます……」

 

 そこで一つ輝さんからの疑問。

 

「なぁ、男の『なんてね』で女の子の『おいで』の代わりになるのかか、純粋な疑問なんだけど」

 

「ふっ……愚問だよ輝」

 

 そんな疑問に対してクールな笑みを浮かべるみのりさん。関係ないけどみのりさんが名前の呼び捨てにする相手って珍しいよね。

 

「俺は『Jupiter』のライブで伊集院北斗君の投げキッスで奇声を発しながらその場に崩れ落ちたことで、一部界隈では有名なんだ!」

 

「「そうなの!?」」

 

「みのりさん、なんだかんだでインパクトありますから」

 

 清潔感があって爽やかな大人の男性が男性アイドルのライブに頻繁に出没して、あまつさえ奇声を発して熱狂しているのだから有名にならないわけがなかった。

 

(ついでに言うと、それなりにモテてました)

 

((あ~……))

 

 よく考えて欲しいんだけど、女性が多い男性アイドルの現場で、現在進行形でアイドルをやれるほどのビジュアルを持った礼儀正しく物腰の柔らかい大人の男性なのである。性別を逆にして考えてもらえると分かりやすいだろう。

 

 話は若干逸れたが、要するにみのりさん的には男性アイドルも女性アイドルも同価値であると言いたいわけだ。

 

「ちなみに俺は男性アイドルも好きですけど、一番好きなのは胸の大きな女性アイドルです」

 

「リョーさん、俺は君を法廷で見たくないよ」

 

「そりゃあ弁護士にとって、絶対に勝てない相手なんて見たくないですよね」

 

「その溢れ出る自信は何処から来るんだ……」

 

 

 

 だいぶ寄り道をしてしまったが、エントリーナンバー一番、天道輝の場合。

 

「……なんてな!」

 

「「はいダメー」」

 

「えぇ!? ダメなのか!?」

 

 いきなり分かりやすい失敗例に俺とみのりさんの意見が揃う。あまりにも分かりやすすぎるため、翼さんも苦笑してるし薫さんも呆れたように溜息を吐いている。

 

「ダメに決まってるじゃないですか。さっきの講義の何を聞いてたんですか?」

 

「ちゃんとメモ取りましたか? 講義を聞いてるだけではテストで点は取れませんよ?」

 

「割とガチ目に心に来るダメ出しは勘弁してほしいんだけど……」

 

 それぐらいダメだったってことですよ。その勢いだと多分傘放り投げてる。

 

「というかムンナイの『おいで』が出来てたのに、どうしてそうなるんですか」

 

「おっかしいなぁ……?」

 

 

 

 輝さんにお手本を見せて欲しい、エントリーナンバー二番、柏木翼の場合。

 

「……な、なんてね」

 

「「これぇ!」」

 

 ちょっと照れるようにハニかんだ翼さんの口から発せられた『なんてね』に、思わず俺とみのりさんは揃ってスタンディングオベーション。

 

「これだよ輝! 求められている『なんてね』はこれなんだよ!」

 

「寧ろ『LiPPS』の五人ですら出来ないタイプの『なんてね』が飛び出ましたよコレは」

 

 かろうじて乙女モードの美嘉ちゃんならワンチャンスあるかもしれないが、他の四人にこの芸当は出来ないと思う。

 

「いいですよ翼さん、良い感じのメス感出てましたよ」

 

「それは絶対誉め言葉じゃないよね!?」

 

 

 

 さぁオオトリですよ、エントリーナンバー三番、桜庭薫の場合。

 

「なんてね」

 

「「ふぁっ!?」」

 

 予想外の『なんてね』が飛び出したので、二人揃って変な声が出た。

 

 文字だけだと全然わかんないと思うだけど、小さな笑み+ウインク+唇に人差し指である。ついでに声もしっかりと『年下の女の子を揶揄う大人の男性』的な雰囲気になっていて、シチュエーション的にも高得点。

 

「す、すごいですね桜庭さん!」

 

「桜庭!? お前いつの間にそんな演技が出来るように……!?」

 

「ふんっ、例え声だけになろうと、これぐらいの演技は出来て当然だろう」

 

「いやぁ、まさか薫さんが嫌がることも照れることもなくしっかりと仕上げてくるとは思わなかった……」

 

 翼さんも輝さんもみのりさんも、みんな驚きを隠せないでいるが……実は俺だけはなんとなくこうなるんじゃないかと予想していた。

 

 

 

 ――あのね! あのね! 良太郎さん! 薫さん、凄いんですよ!

 

 ――監督さんからのダメ出しも、あっとういう間に修正しちゃって!

 

 ――すっごい仕事人って感じで、カッコいいんです!

 

 

 

 以上が蘭子ちゃんからの供述(熊本弁から日本語訳済み)である。

 

 かなり力を入れて声優業をしているとは聞いていたけど……いやはや、なかなかどうして。

 

 ともあれ、兄妹(姉弟)の仲は良さそうである。

 

 

 

「さて、最下位だった輝さんは居残りですね」

 

「最下位!? 居残り!?」

 

 みのりさんの追加講義、入りまーす。

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 『DRAMATIC STARS』による『Tulip』の歌唱は、間違いなく大成功だった。常に悲鳴のような歓声が会場に響き渡っており、特に三人の口元をアップにして映した『なんてね』は真っ黄色な悲鳴ばかりだった。

 

 ……なんか三人が揃って「渡辺みのりさんからのレッスンを受けましたから」って言ってたけど、一体どういう意味だったんだろうなぁ。

 

 

 

『『『Kiss me Chu Chu Chu Chu Chu Chu lip』』』

 

『『『Kiss me Chu Chu Chu Chu Chu lip』』』

 

 

 

 そしてその歌唱が間もなく終わり……俺は、一つの決定を下さねばならない。

 

 これは決めていたことだ。恨まれる覚悟は出来ている。

 

 意を決して、ヘッドセットマイクに向かって呼びかける。

 

「……現時刻をもって」

 

 

 

『『『この後はもっと』』』

 

 

 

「……この合同ライブの――」

 

 

 

『『『skip skip skip』』』

 

 

 

「――中止を」

 

 

 

 

 

 

『先輩! 良太郎君と麗華さん、見つかりました!』

 

 

 

 

 

 

『『『……なんてね』』』

 

 

 

ぴぎゃあああぁぁぁあああぁぁぁ!

 

 

 




・「素人質問で恐縮ですが……」
本当に素人です! 信じてください!

・「うわぁ! 急に落ち着かないでください!?」
コラばかりが有名になっていく……。

・『先輩! 良太郎君と麗華さん、見つかりました!』
リアル時間で一ヶ月以上行方不明になっていた主人公がいるらしい。



 輝と翼と薫の『なんてね』が聞いてみたいねという願望だけが詰め込まれたお話でした。いつまでも待ってる。

 そんなお話の裏でなんか良太郎帰ってきました。さて何があったのかな。
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