「もう、言いたいことは色々ありますけど……お二人とも、怪我などはないんですよね?」
「はい。ご心配をおかけしました」
「向こうで出されたものは何も口にしてないので大丈夫ですよ」
「
「あと俺たちがいなかったのって三十分ぐらいだと思うんですけど、それであってますか? 時間経過がズレてたりしませんか?」
「そんな浦島効果も懸念しなければいけないようなところだったんですか!?」
「………………」
「お願いですから麗華さんは否定してください本気っぽくなっちゃうじゃないですか……!」
麗華と二人で留美さんに謝罪する。どうやら俺と麗華は行方不明扱いになっていたらしく、スタッフ総出で捜索されていたらしい。
本当に
「それより留美さん、無線貸してもらっていいですか?」
ただ今はそれ以上にやらなくてはいけないことがある。
「兄貴に報告しないといけないことがありまして」
「いえ、それより先に良太郎君には早急にやっていただかなければいけないことがあります」
「え?」
神妙な面持ちで留美さんから無線を手渡される。
「次にステージに立つアイドルのメンタルケアです。貴方のことを心配してメンタルボロボロになってる方がいます」
「……あ」
やべっ。
「……ゴメン、心配かけた」
「君の最高のステージ、ちゃんと見てるからな」
『お任せくださぁい!』
「凄いステージだったね! 次の曲も楽しみだなぁ!」
「……えぇ……そうですわね……」
「『LiPPS』の皆さんも、『DRAMATIC STARS』の皆さんも凄いなぁ! 私もあんなアイドルになってみたい!」
「なれますわよ……貴女なら……」
ドラスタの余韻に浸る暇もなく、隣でニコニコと無邪気な笑みを浮かべる少女の惨状に思わず目を伏せたくなった。
そう、これが『松田亜利沙』の変わり果てた姿である。
どうやら『LiPPS』のムンナイに脳が焼かれているところに『DRAMATIC STARS』のチューリップを聞かされたことで完全に脳のキャパシティーをオーバーしてしまったらしい。本来ならば意識をシャットダウンすることによる自己防衛が機能するはずが、亜利沙の『一瞬たりともアイドルのステージを見逃がしたくない』という強靭な意志がそれを拒んでしまった。
その結果、彼女は脳へのダメージを軽減するために『もう一人の自分』を作り出してしまったのだ。
「……千鶴さん、それ本気で言ってます?」
「大体ノリで」
良太郎とほぼ同じの人種ならばそういうこともあるんじゃないかなって。
「でもまぁこれならば取り乱すことなくライブを見逃さずにすみそうですし、これはこれでありかもしれませんわね」
「いいのかなぁ……」
ニコとそんな会話をしている内に、次の曲が……。
『Smile engage 見つめ合って』
『Feeling magic 描いてみよう』
『笑顔 手渡したら』
「えっ」
『『いつだってヒトツになれる』』
スマイル・エンゲージ
『スウィート・ソアー』
佐久間 まゆ/橘 ありす
「うっひょおおおぉぉぉ! またやりやがりましたねあの人おおおぉぉぉグッジョブですうううぅぅぅ!」
あっ、亜利沙が戻ってきた。
「今週も楽曲シャッフルのお時間です」
「待ってましたぁ!」
「なんの疑問も抱かずに受け入れている……」
俺の発表に対して笑顔でチパチパと拍手をするまゆちゃんと、何故か「これが123プロ……!」と戦慄しているありすちゃん。
先ほど俺が発言したように、今回のライブではこの二人にも別ユニットの曲を歌ってもらうことになった。
「その前に一つだけお聞きしたいことがあるのですが」
「どうしたのありすちゃん」
「どうして良太郎さんがそれを伝える役目を担っているのでしょうか?」
ありすちゃんは「普通そういのはスタッフさんのお仕事なのでは……?」と首を傾げた。
「言いたいことは分かるよ。確かに俺もこのために結構無理して時間を捻出してるから」
「ならば余計に他の方に仕事をお任せしてもよかったのでは」
「それもそうなんだけど、今回のライブの場合は俺もそのスタッフの一員だからさ」
一員どころか、セットリストやらなんやらの企画段階から話し合いに参加している運営上層部である。
「今回、二人にこの曲を歌ってもらうって提案したのも俺なんだ。だから俺が責任を持って二人にお願いをしに来てるってわけ」
「な、なるほど……」
「………………」
「どうしましたか?」
「あ、いや……」
いつもだったらこれぐらいのタイミングで「で? 本音は?」っていう流れになるはずなのだが、残念ながらこの場にそういうネタ振りをしてくれる人間はいない。どちらかというとまゆちゃんは乗っかりボケ、ありすちゃんはツッコミとして日が浅く俺たちの勢いに押されてボケに納得してしまうこともあるので、そういう役割を期待するのは酷である。
要するに何が言いたいのかと言うと。
「それじゃあ、二人に歌ってもらいたい曲の説明をするよ」
「はぁい」
「お願いします」
盛り上がりどころが殆どないのでここからの会話はカットである。
(ステージの話をしてるときの良太郎さん、全然ふざけないし変なことも言わない……やっぱりまゆさんが普段から熱弁しているように、凄い人なんだなぁ……!)
何故か目を輝かせるありすちゃんに対して罪悪感が湧いた。何故だろうか。
『お伽噺よりも目まぐるしいDays』
『きっと運命のPresent』
「うわぁ、ありすちゃんかっわいー!」
「まゆさんもすっごーい! 二人ともお嫁さんみたい!」
ステージを映すモニターを見て未来と翼が目を輝かせる。
二人が口にしたように、佐久間さんと橘さんのステージ衣装はフリルで飾られた純白のもので、まるで花嫁を彷彿とさせる意匠になっていた。
「この曲は私も知ってるよ! 315プロの『Beit』さんの『スマイル・エンゲージ』!」
「王子様の曲って感じだよねぇ~!」
先ほどのリップスとドラスタの楽曲シャッフルのときと同じように、今度はお姫様を迎えに行く王子様の曲を、女性アイドルである佐久間さんたちが歌っている。一見不釣り合いのようにも思わる組み合わせなのにも関わらず、花嫁のような衣装を着ているはずの二人が花婿のように見えてしまうぐらい様になっていた。
「翼知ってる? この曲を聞いたときに言う定番の台詞ってのがあるんだよ?」
「えー? なにそれー?」
「『ティアラ生える』って言うの」
「なにそれ」
「あと『お姫様になっちゃう』とか」
「本当になにそれ」
未来、その辺りの知識は貴女の人生で必要のないものだから忘れなさい。
『今宵おくるShow time』
『夢の鍵はSecret』
『キミを』『待って』『いたよ』『手を取って』
『『Welcome! With Sweet!』』
わあああぁぁぁ!!!
二人の投げキッスに歓声が一段と大きくなった。
「いつものまゆさんってふわふわしてるお姉さんって感じだけど、今日はなんかカッコいいよね!」
「うんうん! ありすちゃんがちょっとだけ緊張してるようにも見えるけど……それをエスコートしてる感じでより王子様感が上がってるよ!」
「こういうところを見ると、改めて佐久間さんも『123プロ』なんだなぁって実感するわね」
「えー? 静香ちゃんってば、まゆさんのことどう見てたのさ?」
「どうって……」
未来に問われ、普段の佐久間さんの姿を思い返す。
――はぁ~ん……今日も良太郎さんが尊い……すき……。
――今日の株価が上がったのも良太郎さんのおかげですからねぇ。
――どうやら貴方はまだ『周藤良太郎』という存在を分かっていないようですね。
「……妖怪『周藤良太郎語り』」
「「……うん、まぁ……うん」」
どうやら二人も納得してくれたらしい。いや実際とても凄いトップアイドルだし良い人だし優しいお姉さんであることには間違いないのだけれど、『佐久間まゆ』という女性を思い浮かべるとどうしても『周藤良太郎』という存在が同時に思い浮かんでしまうのだ。
……あれ、もしかしてこれが佐久間さんの狙いなのでは?
(自分存在が知れ渡ることがそのまま『周藤良太郎』の存在を意識させることに繋がるのであれば、まさか佐久間さんは……)
なんか色々と怖くなったのでこの辺で考えるのをやめておこう。なんだかSAN値が削れそうな気がしてきた。
「はぁ~わたしのところにも白馬の王子様来てくれないかなぁ~」
「私はお馬さんよりも車に乗ってる人の方がいいなぁ」
「未来、そーゆー現実的な話はしてないの」
「そうよ未来、馬を飼っている人なら馬主さんの可能性だってあるんだから」
「静香ちゃんのそれはある意味わたしよりも夢見すぎてる発言だと思うよ!?」
・黄泉戸喫
アナタのよもつへぐいの知識は何処から?(光実ぇ!)
・浦島効果
精神と時の部屋効果とも言う。
・もう一人の亜利沙
※即効で主人格と統合された模様。
・『スマイル・エンゲージ』@スウィート・ソアー
老若男女問わず全員がお姫様になると評判の王子様ソング。
あぁ^~お姫様になる^~
先週まで普通に歌わせるつもりだったのに、書き始めると同時に気分が変わってシャッフルすることになりましたというお話。お姫様が王子様の曲歌うのっていいと思うんすよ(ろくろを回す)