「やはり良太郎君の激励が入るとまゆさんが一味違いますね」
「? まゆちゃんはいつでも全力ですよね?」
「そうじゃなくて……いえ、その通りです」
本当に分かっていないのか惚けているだけなのか、無表情の良太郎君から読み取ることが出来ずに私はひっそりとため息を吐く。
ともあれ、ステージ上のまゆさんはいつも通り最高のアイドルの姿であることには間違いなかった。先ほどまで良太郎君の行方不明に取り乱していたなんて微塵も感じさせない堂々とした様子である。
「………………」
「どうだ? 麗華のお眼鏡にはかかったか?」
「別に。元々佐久間まゆのことはそれなりに評価してたわよ」
麗華さんがまゆさんだけじゃなくて恵美さんや志保さんたちのことも評価してくれてることは知ってたが、こうして言葉にして聞くとやはり嬉しくなる。
「ありすちゃんの方。若いながらも結構有望な芽だと思うんだけど」
「私の好みじゃないわね」
「ロリは趣味じゃないと……」
良太郎君は脇腹をド突かれた。
……今回この二人を組ませた理由は「橘さんが『周藤良太郎』と『佐久間まゆ』をきっかけにアイドルを目指すようになったという話を聞いたから」と社長は言っていた。
私の目から見てもまゆさんは『周藤良太郎』に全てを捧げすぎている。三年前の765プロへの出向を経てある程度それは緩和された様子はあるが、それでも彼女の本質は変わることはない。それは彼女らしさでもあると同時に脆さでもある。
だから社長は、今回このユニットを組ませた。『周藤良太郎』に憧れてアイドルになった少女がいるように、『佐久間まゆ』に憧れてアイドルになった少女がいるのだと。今の佐久間まゆは憧れられる存在なのだと、彼女に知ってもらいたかったから。
それで何かが変わってくれるのではないかと考えたから。
『周藤良太郎』の熱狂的なファンとしてのまゆさんも勿論可愛いが。
『トップアイドル』佐久間まゆだってとても可愛いのだと。
(良太郎君への熱意に拍車をかけてしまっただけなような気もしますが……)
まさか橘さんが既にあれほど熱烈なりょーいん患者だったのは予想外だった。
「……というか良太郎、アンタはとっとと行きなさいよ」
「そうだな、そろそろ
「そろそろどころが割とギリギリです」
そろそろ『スウィート・ソアー』のステージも終わるこのタイミングでようやくそんなことを言い出した良太郎君。貴方は余裕でしょうけど『彼』は今頃真剣に焦っていると思いますよ。
そんなやり取りをしている内に彼女たちのステージが終わり……そして次のステージが始まる。
彼女たちに自分たちの曲を託した彼らが、今度は彼女の曲を受け取ったのだ。
「これまでの流れから察するに」
拍手と歓声を浴びて下がっていく二人を見送りながら、冬優子ちゃん改めふゆちゃんはポツリと呟いた。まさかこんな神がかり的な奇跡が起きて、開演前にたまたま知り合った子と隣同士になるとは誰が予想出来ようか。
「次は『Beit』の三人が『スウィート・ソアー』の曲を歌うってことですよね」
「まぁ、多分そうだよね」
私もそれに同意する。先ほど『LiPPS』と『DRAMATIC STARS』が楽曲交換をしたように、きっと今回も男女で曲が入れ替わっているのだろう。
ただその場合、一つだけ疑問点があり、ふゆちゃんもそれに気付いたため私に問いかけてきたのだろう。
「ゆいちゃん、『スウィート・ソアー』の曲って知ってる?」
「知らない……」
正確に言えば『知らない』ではなく『発表されていない』が正しい。
今回の合同ライブのために結成したユニットが複数存在し、先ほど新曲を披露した『トライスターヴィジョン』や『スウィート・ソアー』などがそれにあたる。これらのユニットは予め告知があったため知っていたが、流石に楽曲までは知らされていない。
つまり現状、今から『Beit』が歌う曲を予測出来ないのだ。
(さて、みのりんさんは一体どんな曲を歌うのか……)
先んじてステージを披露してくれた友人である夢見りあむに続き、今度は渡辺みのりさんの番である。
あの『実は集会メンバーの中で一番の
(……えっ)
そして聞こえてきた
(こ、これで来るかぁ~!?)
まるで新郎を彷彿とさせる真っ白なステージ衣装に……。
――まるで
――真っ赤なリボンを巻き付けたマイクを掲げた。
マイ・スイート・ハネムーン
『Beit』
鷹定 恭二/ピエール/渡辺 みのり
「リョー君、俺は今怒っています」
「存じております」
大体怒ってるときとか怒鳴ってるときに使われてるフォントだもん。
さて現在315プロの事務所にやってきた俺は『Beit』の三人に「まゆちゃんとありすちゃんに三人の『スマイル・エンゲージ』を歌ってもらいます」と伝えたところ、突然笑顔のまま怒り出したみのりさんに正座をさせられているわけなのだが。
「み、みのりさん、仲が良いとはいえ相手は『周藤良太郎』……」
恭二はオズオズとみのりさんを諫めようとしてくれるが効果は無さそうである。ちなみにピエールは今から何が起こるのかとニコニコと楽しそうだ。
「リョー君、俺は別に佐久間まゆちゃんと橘ありすちゃんの二人に俺たちの曲を歌ってもらうこと自体に文句はないんだよ」
「では何に対してお怒りで?」
みのりさんの性格的に何となく予想は出来ているが、とりあえず話の流れとして聞いておく。下手な選択肢を選んで会話がループしても困るしね。
「リョー君のことだから、どうせまた『スマイル・エンゲージ選手権』みたいなのやったんでしょ。リップスとドラスタの流れから分かってるよ」
「選手権ではないですけど、実際に軽く歌ってはもらいましたね」
まゆちゃんもありすちゃんも、初見とまでは言わないもののしっかりと聞いたことがない曲だったためその場で聞いてもらい、試しに歌詞を見ながら歌ってもらうことはした。
歌詞を見ながらたどたどしくも一生懸命歌うありすちゃんの姿にホッコリしたし、既に歌詞を覚えたらしくしっかりと俺の目を見ながら「ここにおいで」と歌うまゆちゃんに「さすがプロだ。ちがうなあ……」と感心したりした。
「あああ羨ましいいいい! 俺もそれ見たかったし聞きたかったあああ!」
「正体表したね」
結局のところは私怨である。
「いいじゃないですか、ドラスタのときはちゃんと呼んであげたんですから」
「そうだけどさぁ~! それでもさぁ~!」
普段は気の優しいお兄さん的な立ち位置のはずなんだけど、アイドルが関わってくると途端に面倒臭い厄介オタクになる辺り逆に好感が持てる人である。ただしりあむちゃん、テメーはダメだ。周囲に喧嘩を売らない言い回しを勉強してから出直してきなさい。
「そんなことより、みのりさん」
「……なに?」
「俺がこうして事務所にやってきて、わざわざ会議室を一室借りてまで貴方たち『Beit』の三人に来てもらった理由、なんだと思います?」
「……えっ」
正座を崩して立ち上がり、椅子に座り直した俺は改めて三人に向き直る。
「やってきました、今週も楽曲シャッフルのお時間です」
「俺は君を信じていた!」
手のひら返しの速度には俺も自信があるが、みのりさんも相当な手のひら返しの使い手である。
「えっと、話の流れからすると、リップスとドラスタが曲を交換したように、俺たちも曲を交換するってことですよね?」
「ヤフー! ボクたち、マユちゃんとアリスちゃんの曲を歌うのー?」
「正確にはちょっと違うけどね」
控えめに手を挙げる恭二と元気よく手を挙げるピエールの質問に答える。
「今回、三人にはまゆちゃんの『マイ・スイート・ハネムーン』を歌ってもらいます」
「えぇ!?」
「聞いたことあるけど……めっちゃくちゃ女の子の曲ですよね……?」
「どんな曲なの?」
「それじゃあ実際に聞いてもらいましょうか」
スマホを操作して曲を流す。
「赤い赤い リボンの先 結んだ契り」
「いやリョー君が歌うんかい!」
「いやでもウマい……っていうか、佐久間さんの声!?」
「リョー、物まねジョーズ!」
※トップアイドル声真似歌唱中
「……とまぁ、こんな曲なわけですが」
「カバーありがとうございます! アルバム収録はいつですか!?」
「今のところ未定ですねー」
泣きながら一万円札を差し出すみのりさんの腕をそっと押し戻す。
「ピエール、どう? 実際に聞いてみた感想は」
「えっと、すっごい花嫁さんの歌、って感じ!」
「これを俺たちが歌うわけですか……」
「ある意味『スマイル・エンゲージ』とは対になる曲ってわけ」
お姫様をお迎えする王子様の曲に対して、こちらは花婿に手を引かれる花嫁の曲。それを王子様的なアイドルである『Beit』が歌うわけなので……。
「これはもうファンのみんな大喜び間違いなし」
「流石リョー君! オタクの気持ちがよく分かってる!」
「俺もオタクの一人ですからねー」
泣きながら三万円を差し出すみのりさんの腕をそっと押し戻す。
「というわけで、今回は三人に花嫁の気持ちになっていただきます」
「「「……え?」」」
・『彼』
多分今頃滅茶苦茶お腹抑えてる。
・結華&冬優子
折角なので観客席サイドでも続投してもらう。
あー早くで良太郎とふゆ対面させたいなー!
・『マイ・スイート・ハネムーン』@Beit
佐久間まゆソロ二曲目。俺たちが! エキストラだ!
花婿が花嫁の曲を歌ったっていいじゃない。
・「さすがプロだ。ちがうなあ……」
Xでよく見かける野比のび助。
『スウィート・ソアー』のユニット曲、お待ちしております。
というわけでユニット曲が無かったのでまゆちゃんの曲を歌ってもらいます。ここ最近はマジでただの作者の願望をアイドルに歌わせてるだけですハイ。
『どうでもいい小話1』
学マスについに星南会長が実装されましたね!
いやぁまさかシナリオのライブに良太郎と麗華が招待されるとは思いませんでしたよ(幻覚)
『どうでもいい小話2』
【速報】黒井社長、新アイドルを引っ提げて学マスに進出!
【悲報】朝霞リョウマ、学マス編で考慮しなければいけないことが増えて頭を抱える!