「そろそろよ! あんじゅ! 英玲奈!」
「……何がだ?」
「ツバサちゃん、もうちょっと声を抑えましょうね~」
「私の勘が言ってるのよ……次はシアターの子たちが出てくるって」
「まぁ、まだ出演していないアイドル的に考えるとそろそろだろうな」
「私の勘が言ってるの!」
「はいはい」
「でもそれなら楽しみ~ついに未来ちゃんたちのステージなのね~」
「えぇ、思い出すわね。私たちと共に過ごした厳しいレッスンの日々」
「……あぁ、そうだな」
「……とても……厳しかったわね……」
八事務所合同ライブに向けて、私たちシアター組は日々レッスンを重ねていた。それは勿論私たちだけではなく、他の事務所のライブ参加アイドルも同じであり、どうやら彼ら彼女らはリョーさんのレッスンを受けているらしいという話を聞いた。
「ねーねー静香ちゃん! リョーさん、私たちのレッスンも見てくれるかな!?」
「そうね……なんとなくだけど、見てくれるんじゃないかしら」
『遊び人のリョーさん』としての付き合っていた頃から、彼はいつも誰かのお節介を焼いていた。私たちの話を聞いてくれたし、困っているときは助けてもくれた。
だからきっと『周藤良太郎』としても私たちのことを気にかけてくれるし、レッスンも見てくれるのだろう。そんな予感があった。
「えー周藤良太郎来るのー?」
「『周藤良太郎』が来てくれることに対してそんな嫌そうな顔をするの、きっと貴女ぐらいよ翼」
私たちの会話を聞いていた翼が不満そうに唇を尖らせるが、この子はこの子で相変わらずの『周藤良太郎』ギライである。周藤良太郎界隈では所謂アンチは『アレルギー持ち』と称されるのだが、逆に貴重な批判的な意見をしてくれる稀有な存在として受け入れられているらしい。アイドルがそうならファンもメンタルが強い。
「リョーさんがレッスンを見てくれるなら、きっとすっごいタメになるよ! 春香さんたちAS組や一期生組もリョーさんのレッスンを受けたって言ってたし!」
「む~……」
苦手意識は変わらないだろうが、アイドルに対しては真剣に向き合っている翼ならばきっとなんだかんだ言って受け入れることだろう。
(きっとレッスン中はずっと不服そうな顔をしているんでしょうね)
そんな様子を想像して、私は一人でクスクスと笑ってしまった。
……というのがつい先日の話である。
そして今日、私たちの予想通りライブに向けての特別レッスンが開かれた。他事務所から特別講師としてアイドルを招き、私たち『スター・ドリーマーズ』だけではなく所恵美さんを含めた『トライスターヴィジョン』もまとめて面倒を見てくれるらしいのだが、そんなことが出来るトップアイドルなんて限られている。
というわけで、私たちのアイドルとしてのレベルアップのために来ていただいた特別講師をご紹介いたしましょう。
「ちょっとー? いつまで寝てんのー?」
「功夫が足りてないよ功夫が」
「さっさと立ちなさい」
1054プロダクション『魔王エンジェル』のお三方です。
……そうよね……今回の合同ライブの運営側のアイドルは『周藤良太郎』だけじゃないんだから、こういう可能性だって全然あったわよね……完全に油断してたわ……。
「あの……もう少しだけ……待っていただけると……」
「その『もう少し』は今の会話で過ぎたわ。立ちなさい」
琴葉さんが私たちの総意を代弁してくれるものの、麗華さんはレッスン室の床に転がっている私たちを一瞥してからそれを無慈悲にも切り捨てた。歯牙にもかけないとはまさにこのことだろう。
「折角アライズの三人の様子を見てあげるついでに合同ライブに出る連中も見てあげてるっていうのに、だらしないなぁ~」
「ウチの子たちはこれぐらいじゃへこたれない。ね?」
「りん先生……ともみ先生……普通に私たちもキツいんですけど……」
普段から彼女たちの指導を受けているアライズの三人ですらこの有様であるところを見ると、どうやら今日は何故か特別厳しいらしい。
(なんか、りん先生、最近良太郎さんとの時間が作れないらしくて~……)
こっそりとあんじゅさんがそんなことを教えてくれた。つまり少なくとも、りんさんからの指導には私怨が含まれているらしい。
「あんじゅ~? 聞こえてるわよ~? なになにそんなにキツめのレッスンがお好み~?」
「ひぃ!?」
「ま、まぁまぁ、りんさん落ち着いて?」
不幸にもりんさんの耳にも届いてしまい青褪めるあんじゅさんだったが、唯一レッスンに付いていけている恵美さんがりんさんを宥めてくれた。苦笑する表情からは疲労が滲み出ているものの多少の余裕がある辺り、やはり私たちよりもワンランク上のアイドルなのだということを改めて実感する。
「ほらみんなも! もーちょっとだけ頑張ろ!? ね!?」
「うぅ……」
恵美さんの励ましの言葉に、床板とお友だちになっていた私たちはノロノロと身体を起こす。なんだかんだ先ほどまでのやり取りが休憩にはなっていたので、一応立ち上がることは出来た。
「アンタたちの面倒を見てあげられるのは今日と明日の二日間だけなのよ。私たちの時間を一分一秒も無駄にするんじゃないわよ」
「本当だったらりょーくんのためのアタシの時間を割いてあげてるんだから、無駄にしようものなら容赦しないんだから」
「これ飲んでもうちょっと頑張ろう。はい初星湯」
それ体力2しか回復しないしターンが伸びるってことはレッスン時間が伸びるってことだし消費体力増えるしそもそもそちらのブランドはまだ未参戦だし、ツッコミどころが多すぎます、ともみさん……。
「さぁ、死力を尽くしなさい」
せめて死力は本番で出させてくれませんか!?
「………………」
「ん? どうした良太郎」
「なんかどこかで美少女が窮地に追いやられている気配が……」
「なんだそりゃ」
「それよりお前たちー休憩はそろそろ終わりだぞーさっさと立てー」
『………………』
「全く、俺と冬馬の二人で315プロのアイドル全員まとめて面倒を見てあげてるのに、みんなだらしないぞー」
(こいつ、最近朝比奈との時間を作れてない鬱憤を晴らしてるんじゃねぇだろうな……)
「……思い出すだけで涙が出るわね」
「あぁ、ついでに鳥肌も立つぞ」
「わたしたちはあと一年コレを乗り越えないといけないのよね~……」
「でもそんな文字通り『魔王の特訓』を乗り越えた仲間である未来ちゃんたちならば、きっと大丈夫よ!」
「そうだな、全力で応援しないとな」
「頑張ってほしいわね~」
……背後から聞こえる会話から察するに。
(多分後ろの三人、UTX学園スクールアイドルの『A-RISE』だよなぁ)
チラッと背後を確認する。一応ステージに立つときと比べると髪型を弄って印象を変えているようではあるものの、会話内容と組み合わせるとほぼ間違いはないだろう。
少し身バレに対する危機管理がおざなりになっているのではないかと思うが、流石にプロのアイドルではないスクールアイドルなのだからしょうがないのかもしれない。これで気付くのは
勿論、ここで話しかけるなんてマナー違反はしない。こちら側にいる以上、彼女たちも私たちと同じ『ただのアイドルのファン』なのである。
「………………」
ふと隣のふゆちゃんと目が合った。チラリと後ろに視線を向けてから苦笑したところを見ると、どうやら彼女も気付いたようである。うーむ、やはり私たち集会メンバーと遜色ないレベルのアイドルオタク……これは逸材ですよ。
(しっかし『魔王エンジェル』がレッスンを、ねぇ……)
失礼を承知で言わせてもらうと、あの『魔王エンジェル』がそんなことをするとは思わなかった。
普段から他のアイドルとの交流の話を聞く『周藤良太郎』に対し、彼と同世代にして同格のトップアイドルである『魔王エンジェル』はそういう話を殆ど聞いたことが無かった。面倒見が悪いとかそういう感じではなく……多分『畏怖』とかそういう感情の類いが多いのではないかと思っているが、私自身はアイドルなので実際どうなのかは分からない。
それが良いことなのか悪いことなのかは分からない。しかし少なくとも今現在はUTX学園で講師として活動しているらしいので、きっと彼女たちも何かが変わるきっかけがあったのかもしれない。
そんなことを考えている内に、次の曲のイントロが聞こえてきた。
『『『『『ずっと探してた』』』』』
『『『『『ずっと夢見てた』』』』』
そして、それは背後から聞こえてきた予想の通り……彼女たちの曲。
『『『『『
Rat A Tat!!!
『スター・ドリーマーズ』
春日 未来/最上 静香/伊吹 翼/白石 紬/桜守 歌織
『『『『『Rat A Tat!!! 叩こう!』』』』』
『『『『『夢のとびらを 今!』』』』』
『『『『『Rat A Tat!!! 叩こう!』』』』』
『『『『『思いっきり叩こう!』』』』』
・久しぶりのアライズ
『良太郎を探せ』でもチラッと登場してたけど、実はいました。
・特別講師『魔王エンジェル』
そりゃあ他の事務所に出張って面倒を見てるのが良太郎だけってわけじゃないんですよ。
・「功夫が足りてないよ功夫が」
まさか元ネタがバーチャファイターだったとは。
・「はい初星湯」
PL60で解放されるらしいのでウチの学園だとまだ入荷されてないんすわ……。
・Rat A Tat!!!
アニメ『アイドルマスターミリオンライブ!』のOP、および劇中におけるオーディション課題曲。
個人的には次のMOIWでミリオンの最初の曲はこれだと思っている。
序盤で出演したトラスタからだいぶ時間が開きましたが、ようやく残りのミリオン勢の登場です!
……ちなみに『折角だしどこかでありがサンキューネタ使いたいな……』とか考えてサンキューを選曲しようともしましたがあと一歩のところで踏み止まりました。
『どうでもいい小話』
次回の更新はアイマスエキスポ後ってマ???