「聞いたぜ、765プロのシアター組の子たちのレッスン見てあげてるんだって?」
今日も今日とて俺の楽屋にて魔王エンジェルとの雑談。
「うん。今日も午後からレッスンの予定。リョウも315プロの人たちのレッスン見てるんでしょ?」
「あぁ。でも俺と違ってお前たちがそーゆーことするの珍しいからさ」
「別に。学園のアイドル候補生のレッスンだって割と見てあげてるわよ」
「それは『講師』としてだろ? 今回は完全にアイドル『東豪寺麗華』として動いてるじゃねぇか。何かいいことでもあった?」
「……それ、逆に『いつも不機嫌』って言ってる?」
「一向に胸が膨らまないことに対して多大なストレスがかかってるのかなと」
「アンタへの敵意は日に日に膨らむ一方よ」
そこで殺意って言わない辺り、やっぱり機嫌は良いのかもしれない。
今にも殴り掛かってきそうな雰囲気を醸し出していた麗華だったが、はぁと大きく息を吐いてから目を伏せた。
「……考えてることは殆どアンタと同じよ」
「そういう曖昧な言い方をするから、俺に『そうか確かにレッスンで揺れる胸はいいもんな』とか言われる隙を与えるんだぞ」
「そうね隙を見せた私が悪かったわ……!」
自分の非を認めることが出来るのは良いことだ。だからその頭上まで振り上げた湯飲みをそっと下ろしなさい。
「今回の八事務所合同ライブは私にとってもアンタにとっても『重要な意味』を持つ」
「だから絶対に成功させたいから後輩の面倒を見ると?」
「は? 私たちが出演するライブに失敗はあり得ない。だからこれは百点満点の試験で百点以上を取るための出来ることをしてるだけよ」
「まぁ、そうだな」
自分で淹れたお茶をズズッと啜る。
今回のライブは『周藤良太郎』と『魔王エンジェル』、そしてその他のアイドルたちでは
「……アンタがやろうとしていることに全力で乗ってあげてるんだから、一生をかけて感謝しなさい」
「あぁ、その点に関しては本当に感謝してるよ」
俺は、こいつらを『道連れ』にしようとしているのだから。
「……そろそろ時間ね。お暇するわ」
「お茶ご馳走様」
「あぁ。……ほらお前も」
立ち上がる麗華とともみにヒラヒラと手を振り、そして『先ほどからずっと俺の膝に頭を乗せていた』りんの身体を揺する。
「や~だ~もっとりょーくんぢからを補給する~」
ジタバタと暴れながら俺の膝に大きく覆い被さって大乳を俺の足に押し付けてくるりん。俺個人としてももうちょっと恋人とイチャイチャしていたのだが、残念ながら目の前には凄く怒ってる怖い赤鬼様がいるので抵抗は無駄であった。
「うぅ……! りょーくん……! 最後に一つだけ……!」
「どうした?」
目に涙を浮かべながら、りんは俺に最後の一言を言い残す。
「レッスンを見てあげてるアタシの胸だってすっごい揺れてるんだからね!」
「麗華、ともみ、りんをよろしく」
どなどなどーなーどーなー。
「ドンドンって胸の奥、『希望』がはしゃぎだ~すよ~」
「ときめいた瞬間スタートッ!」
「『今すぐ行こう!』って ためらう私 急かして」
「ほらほら早く 前を向いて!」
「……あの、亜利沙さん?」
「なんでしょうか!?」
「いえ、あの……練習中なので、コールはちょっと……」
「えっ!?」
「えぇ……?」
ライブに向けての練習中なのにコールを入れてくる亜利沙に苦言を呈したところ、何故か驚愕されてしまった。真っ当な意見を言ったつもりなのに、何故こちらにも非がある感じになっているのだろうか。
「いえいえ静香ちゃん、練習と言えど本番さながらの状況でしっかりとやるべきです! そして本番と言えばコールは必須! ありさ一人のコールに怯んでいるようでは、当日の大歓声に怯んでしまいますよ!?」
「な、なるほど……?」
「そうかな……そうかも……」
あぁ! 歌織さんと紬さんが信じかけてる!?
「というか、普段は亜利沙さんもコールをされる側なのになんでそんなにコール完璧なんですか……」
「これぐらいは当然の嗜みですよ。そもそも劇場の公演でもステージに立たない日は客席側でコールしてますし」
「亜利沙さんっていつ劇場にいないんですか……?」
「それで、みなさんどうしたんですか? 確か今日のレッスンは午後からのはずでしたよね?」
想定外のコール付きではあるものの一通り歌唱の練習を終えたタイミングで、やり切った表情の亜利沙さんが今更ながらそんなことを尋ねてきた。
「えっと、なんというか……レッスン前の予習……みたいな?」
「今日も魔王エンジェルの方々からのレッスンの予定なので、少しでも無様な姿をお見せしないようにと」
「なるほど……小耳には挟みましたが、やはり相当苛烈なレッスンだったようですねぇ」
未来と歌織さんの説明に納得した様子を見せる亜利沙さんだが、私としては寧ろどうして亜利沙さんがここにいるのかが気になる。
「ありさですか? ありさも午前中自主練の予定でレッスン室の予約を入れていたのですが、皆さんが熱心に練習をされていたのでお邪魔してはいけないと思いまして」
いやコールは割と……って!?
「亜利沙さん予約入れてたんですか!?」
「はい」
はいじゃないですよ!?
「翼!? 貴女『ちゃんと予約した』って言ってたじゃない!?」
「えー? 私は『ちゃんと予約入ってる』って言っただけだよー? 誰かがもう入れてると思ってー」
あぁこれはしっかりと確認をしなかった私のミスでもある!
「本当にごめんなさい亜利沙さん!」
「いえいえそんな。今はありさよりも皆さんの方が大変でしょうし、存分に練習なさってください」
「あ、亜利沙さん……!」
「その代わりと言ってはアレですが、アイドルちゃんたちが頑張っている姿をかぶりつきでしっかりと拝見させていただきますので!」
「あ、亜利沙さん……」
いやでもこっちはレッスン室を譲ってもらった身! 文句なんて言えるはずがない! 存分に見学を! いえコールでもなんでもお好きにどうぞ!
「では遠慮なく……よいしょっと」
「カメラ・スマートフォンなどによる録画・撮影・録音や動画サイト・SNSへの無断転載は禁止になります!」
そうやって亜利沙さんは何の躊躇もなくカメラを取り出す!
「でも今回に限りスクリーンショットは~?」
スクリーンショット!?
亜利沙さんのフリー撮影会と化した自主練習を終え、午後からのレッスンに備えてお昼休憩となった。
「そういえば一つ気になっていたことがあるんですけど、今回のライブでは『Rat A Tat』を歌うんですね」
折角なので一緒に昼食を食べることになった亜利沙さんがそんなことを尋ねてきた。
「ありさはてっきり、ユニット曲の『REFRAIN REL@TION』を歌うのだと思っていました」
「……初めはそのつもりだったんです」
「なにか事情が?」
「はーい! 私が提案しましたー!」
私たちの会話を聞いていた未来が、おにぎりを片手に元気よく手を挙げた。
「最初は、三十七人でライブが出来ないかって提案したんです!」
「どういうことですか!?」
事の始まりは、未来が「どうせだったら、私たちだけじゃなくてシアター組全員でステージに立ちたい!」と言い出したことだった。
「勿論出演メンバーを増やすなんて出来るわけないって言ったんですけど」
「アレですよアレ!」
「未来、アレじゃ分からないわ」
「アレですか」
「亜利沙さん分かるんですか!?」
「クリスマスのライブのときみたいにシアター組を映したいってことですよね?」
「そうです!」
「なんで分かったんですか!?」
亜利沙さんの異次元的な理解力はさておき、未来は『モニターに全員を映してもらえれば、シアター組全員で歌えるよね!』ということを提案したのだ。
「実際に提案したんですか?」
「したんですよ……麗華さんに直接」
「東豪寺麗華さんに!? 直接!?」
亜利沙さんが目を剥いて驚くようなことを、この未来はしれっとしてしまったのだ。
「ど、どうだったんですか……? って、私たちにお声がかかっていない現状がその答えですよね」
やはり亜利沙さんの理解力が高くて助かる。
――東豪寺さん! 後ろのモニターにシアターのみんなを映してもいいですか!?
――戯け。
「三文字で切り捨てられましたけど」
「あのときの麗華さん、目がすっごく怖かったです……」
そのときのことを思い出して身を震わせる未来の頭をヨシヨシと撫でる亜利沙さん。
「でも、私たちみんなは未来の『シアターのみんなでステージに立ちたい』っていう想いそのものは賛成だったんです。だから……」
「その代わりに『シアターみんなの曲』を歌うことにしたんですね」
「はい」
私たち五人と琴葉さんとエレナさんは、シアター組三十七人の中から選ばれたたった七人だけど、三十七人分の想いを
「私たちが今ここにいるのは……シアターのおかげだから」
「………………」
亜利沙さんは静かに微笑んで目を閉じて……あれ?
「……あ、亜利沙さん?」
「………………」
……手には『エモ』と書かれたメモが握られていて……。
「だ、ダイイングメッセージだ!?」
「死んでないから!?」
死にかけてはいるみたいだけど!
『もっとカラフルに!』
『もっとあらぶるよ!』
『みんな! みんな! 未来だよ!』
今回のライブで、俺たちは未来ちゃんからの『シアターのみんなでステージに立ちたい』というお願を聞いてあげることは出来なかった。
『気付かれずに終わらせはしない!』
『届け! 届け! 希望の音!』
けれど、少なくとも俺の目には見えている。
ステージに立つ『
『『『『『Rat A Tat!!! 叩こう!』』』』』
『『『『『夢のとびらを 今!』』』』』
『『『『『Rat A Tat!!! 叩こう!』』』』』
『『『『『思いっきり叩こう!』』』』』
・『道連れ』
不穏なワードですがご安心ください、いつものアイ転です。
・「でも今回に限りスクリーンショットは」
アーカイブのスクショもオッケーなんですかね?
・『REFRAIN REL@TION』
アニメ13話で披露したユニット曲。まさか@が付くとは……。
不穏な会話はアイ転にとっては刺身のツマみたいなものなのでお気になさらず。
というわけでシアター組の選曲理由でした。……わりと後付けだってことはナイショだぞ!
『どうでもいい小話』
アイマスエキスポお疲れさまでした!
自分は初日のみの参加でしたが、非常に楽しかったです。毎年やってくれ。
そして今回のライブで念願だった『高垣楓のこいかぜを最前で回収』という実績を果たしました本当にありがとうございましたメッチャ泣いた。