朝、目が覚める。
もしかして昨日のことは夢だったのではないかという考えが頭を過るが、昨日の俺はそんな考えを予想して机の上にデカデカと『周藤良太郎とユニットを組むことになった』と書いたメモを張っていたので現実逃避すら出来なかった。
「……あの『周藤良太郎』とユニット、かぁ……」
果たして秋山隼人の人生は一体いつからこんなにも波乱万丈になってしまったのだろうかと自問自答する。女の子にモテたいからっていう理由でバンドを始めて、知名度を上げる手段としてアイドルになって、そのアイドルもだいぶ楽しくなってきて……あの世界的にも有名なトップアイドルでもある『周藤良太郎』とユニットを組んでライブに出演する。
「バカッ……! 刻むだろっ! 普通もっと……! 段階をっ……!」
寝癖が付いたままの頭を思わず抱えてしまうほどの飛躍っぷりである。せめて全国ツアー公演が出来るレベルになってから発生するべきイベントのはずなのに、どうしてこんなようやく新人の殻が破れたレベルで発生してしまったのだろうか。
きっと俺が「本当に無理です!」と全力で拒否をすれば良太郎さんは了承してくれるだろうが……。
「………………」
とりあえず着替えて顔を洗おう。
今日は早速良太郎さんとのユニットで歌う曲の打ち合わせだ。
いつものようにギターケースを肩にかけ、いつものように電車に乗り、いつものように事務所に向かう。
「……ん?」
そして良太郎さんとの打ち合わせに使う会議室のドアの前に来て、そこでようやく中からギターの音が聞こえてくることに気が付いた。
「良太郎さん、本当にギター弾けるんだな……」
話には聞いていたし、なんだったら映像も見せてもらった。三年前、南の島で行われたアイドルによる音楽の祭典『シャイニーフェスタ』。そこで良太郎さんはギターを演奏しながらのパフォーマンスを初披露した。しかも『それまでギターの経験がなかったのでそのライブのために一から練習をした』というとんでもないエピソードのおまけ付きだ。
正直ギターの才能という点でも俺なんかよりも……そんなことを考えそうになる頭をブンブンを振ってから、そっとドアを開ける。
良太郎さんは脚を組んで椅子に座りながら、一人口ずさみながらギターを弾いていた。『周藤良太郎』の弾き語りを俺一人で目撃するのがあまりにも勿体なさすぎて、思わずマウント斗羽とアントニオ猪狩の試合を引き留めた清掃アルバイトのような気持になってしまう。
(……やっぱりこの人、普通にカッコいいんだよなぁ……)
本人や彼と仲の良いアイドルは『三枚目』だとか『面白枠』だなんて称することが多いが、普通にイケメンのカッコいい枠である。こうしてギターを弾いている姿が絵にならないわけがなかった。
(ただまぁ、一つ難点を上げるとすれば……)
なんでこんなクソ真面目な顔で堂々と○イ○イ仮面歌ってるんだこの人……いや無表情だから真面目も何もないんだけどさ……。
「ん? よぉ隼人、おはよ」
「お、おはようございます……なんでよりによって選曲がそれなんですか……」
「歌謡祭で地上波にも流れたし」
それは理由として成立しているのだろうか……。
「今回のライブで歌うのは、お前のソロ曲『HEAT BEAT‟Identity”』だ。歌唱パートに大きく差を作るつもりはないが、基本的には隼人に主旋律を歌ってもらう」
「い、いいんですか?」
「いいもなにも元々はお前のソロ曲だ。今回ばかりは俺が便乗させてもらう形だからな」
良太郎さんはそう言うが、世間的には俺が『周藤良太郎』に便乗させてもらう構図になっていることだろう。
「………………」
「……思っていることがあるなら、全部遠慮なく言って欲しい」
「……えっと」
きっと何を言っても良太郎さんは聞いてくれるし、怒ったりもしないだろう。けれど、だからこそ、俺は言葉を選んだ。
本当は『どうして俺なのか』『何故315プロの中で秋山隼人を選んだのか』ということを聞きたかった。だけどそれを聞くのは、俺を選んでくれた良太郎さんに対して失礼なのではないかと思ってしまった。
「……良太郎さんは、どうしてこういう形でユニットを組もうと思ったんですか?」
「身も蓋もないことをいうと赤組に対して白組のユニット数が足りてないから」
「本当に身も蓋もないなぁ!?」
もうちょっとこうさぁ!? 俺が折角色々と考えて聞いたのにこの人はさぁ!?
「っていうのは建前だよ。ユニット数が足りてないっていうのは事実だし、最初は123プロと315プロで一曲ずつ埋める予定だった」
かと思ったら急に真面目なことを話しだすのだから、本当にこの人は色々とタチが悪い。
「だけど、それじゃ今回のライブを開催した意味がない」
「えっと……確か、俺たちみたいな新人アイドルに出番を……っていう奴でしたっけ」
それは今日までに何度も聞いてきた説明だった。
「あぁ。だから今回のコレは……継承なんだ」
「継承……」
「今まで肩を並べることなくステージに立ってきた俺が、いや
「っ!? 良太郎さん、それって……!?」
「言葉の綾だ。今回のライブを最後にマイクを置くなんてことしないから安心しろ」
一瞬『周藤良太郎の引退』という言葉が脳裏を過ったため焦ってしまった。
この人はたまにこういう怖いことを意味深に言うから心臓に悪い。
「でも、それだったら猶更どうして俺だったんですか?」
それを口にしてから、しまったと後悔する。先ほどそれは言わないと決めたばかりなのに、思わず尋ねずにはいられなかったのだ。しかし一度口にしてしまったことで、俺は意を決して疑問を投げかけた。
「俺は、輝さんたちや硲先生たちみたいにアイドルを強く志した理由なんて持ってない。蒼井兄弟みたいに凄い経歴があるわけじゃないし、みのりさんみたいにアイドルそのものに強い執着があるわけじゃない」
ただモテたいからバンドを始めて、そのままなし崩し的にアイドルになった俺に、彼らと比肩する何かがあるわけがない。
きっと『周藤良太郎』の隣に立つべきアイドルは、俺じゃ……。
「いいんだよ、何もなくても」
しかし良太郎さんはまるで「なにを今更」といった口調でそれを否定するどころか肯定した。
「アイドルになるのに理由も経歴も、ましてや思い入れも才能も必要ない」
そう言って良太郎さんは、俺に向かって指を二本立てた。
「アイドルに大切なのは『二歩目』だ」
――『アイドルになる』という最初の一歩目だって重要だ。
――でも、次の一歩がなければそれで終わりなんだ。
『限界 まだ先だろ』
――『アイドルであり続ける』ために、後ろ足をこの世界に踏み込むこと。
――お前はもう、二歩目を踏み込んだんだろう。
『何も描き切っちゃないさ』
――ならお前はもうアイドルだよ。
――『周藤良太郎』と肩を並べるに値するアイドルだ。
『結論 掲げたんだ』
――お前が自分のことを『何もない』って自嘲するなら。
――お前が次にアイドルになる『何もない』奴らの星になれ。
『存在証明になって!』
――お前が、次の誰かの目標になれ。
俺は良太郎さんの言葉を、『周藤良太郎』という最終目標に至る前の第一目標になれ、という意味で受け取った。きっと良太郎さんはそれを否定するだろう。
でも俺はそれでも構わないと思っている。
今はまだそのレベルには到達できていないけれど、せめて全国ツアーが出来るぐらいのアイドルになれたのであれば、俺は日本中のアイドルを夢見る奴らに言いたい。
『まずは俺を目指せ』
モテたいっていう理由でもいいんだよ。何もなくてもいいんだよ。それでも俺はここまでこれたんだと、そんな到達点になれたのであれば、それはきっと良太郎さんが言いたかったことなのだろう。
でも残念ながら、今俺にはそんな余裕はない。
だって。
今こうして、良太郎さんと一緒に、『周藤良太郎』と肩を並べてステージに立つことがとても楽しいんだ。ステージの上から、俺たちを見て笑顔になって、大声を出してくれているファンのみんなを見ることがこんなにも嬉しいんだ。
これがきっと『周藤良太郎』が見ている光景の一端なんだ。
(俺はなるよ)
『Follow me,Break it Down』
『ここからは』
『Follow me,Break it Down』
『誰よりも熱くなれ』
トップアイドル、なってみせるよ。
まだ
いつかはちゃんと宣言するから。
『Follow me,Break it Down』
『Raise your hands』
『Follow me,Break it Down』
『歓声が答えだね』
『東豪寺麗華』みたいに。『天ヶ瀬冬馬』みたいに。
『秋山隼人』も『周藤良太郎』を……。
・「バカッ……! 刻むだろっ! 普通もっと……! 段階をっ……!」
福本語録は使いやすい。
・マウント斗羽とアントニオ猪狩の試合を引き留めた清掃アルバイト
多分こいつより「マウント斗羽とアントニオ猪狩が試合をするのです。それは私にとって全てに優先されることです」って言ったサラリーマンの方が有名だと思う。
・○イ○イ仮面
流石にこれは歌詞掲載NGだった。無念。
ハイジョの五人の中で一番好きなですよ、隼人。なんというかデレにおける卯月とかシャニにおけるチョコやにちかとかと同じ「お前のような普通がいるか!」枠。普通の男子高校生が第一回315プロ総選挙で一位を独走する訳ねぇんだよなぁ!
というわけで若干作者の贔屓が入った隼人回でした。苦労人枠とかツッコミ枠とか色々重宝してやるからな覚悟しろよ隼人……!
そんな感じで今年最後の更新でした。今年頭の宣言通り、一年経ってもライブ編が終わりませんでしたね()
それではみなさん、良いお年を。