アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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アイ転はたまに絶妙にタイムリーなことになる。


Lesson433 傲慢 VS 渇望

 

 

 

「タンカ急いで!」

 

「救護室!」

 

「しっかりして!」

 

 

 

「っ!? 何があった!?」

 

 隼人とのステージを終えて舞台裏に戻ってくると、何やらスタッフたちの動きが慌ただしく、そして聞こえてくる言葉の端々に不穏な単語が含まれていた。自分の次の出番のための準備を後に回し、ライブの責任者の一人として現状の把握に動く。

 

「実は、周藤さんと秋山さんのステージを見ていていきなり倒れた方が……!」

 

「なにっ!?」

 

「あっ、良太郎さん! あそこ!」

 

 スタッフからの説明を耳にしつつ、タンカで運ばれていくアイドル二人に隼人と共に駆け寄る。

 

「大丈夫か!? まゆちゃん!」

 

「しっかりして! 周子さん!」

 

「まゆは大丈夫ですぅ……」

 

「心配させてごめんなぁ……」

 

 弱々しい声の二人が救護室に運ばれていく様を、俺と隼人はただ見送るしかなかった。

 

 

 

「「……一体、何があったんだ……!?」」

 

 

 

「………………」

 

「「いやホントうちのアイドルがお騒がせしました麗華さん……!」」

 

 もしかしたら、何故か表情が抜け落ちている麗華に平謝りする恵美ちゃんと美嘉ちゃんならば事情を知っているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「いやマジで凄かったな……まさか良太郎さんがユニットを組むなんて」

 

「きっとステージ裏ではまゆさんが良い意味で悶え苦しんでるだろうね」

 

「それを言うなら、熱狂的なハイジョオタクの周子さんもぶっ倒れてるだろ」

 

 先ほどのステージを奈緒と共に振り返る。恐らく殆どの人が私と同様の感想を抱いていることだろう。

 

「その点に関して言うなら、凛は意外と冷静だよな」

 

「語っていいなら今から明日の朝までいけるけど」

 

「ライブどころか明日の仕事に支障を来たすから勘弁しろ」

 

 これでも自他共に認める熱狂的なりょーいん患者である私がこのように冷静に会話を出来ているのは、当然理由があって。

 

「おーい加蓮ー、大丈夫かー」

 

 

 

「うぃへへへ……」

 

 

 

「ダメだ、頭がやられてる」

 

「それは元からではあると思う」

 

 このように、私以上に深刻に脳が焼かれたガチ恋勢が目の前にいるからである。

 

「目がハートになって涎垂らしてる人、アニメだけの描写だと思ってた」

 

「アイドルがしちゃいけねぇ顔だよな」

 

 逆にアイドルだとバレない顔であるとも言える。

 

「あ、次の曲……」

 

 このまま余韻に浸っていたい気もするが、ライブ中にそれは勿体なさ過ぎる。

 

 加蓮の意識を取り戻させるために彼女の肩を揺すりつつ、私たちは再びステージに意識を傾ける。

 

 赤にライトアップされたステージ上に現れた、黒を基調としたステージ衣装、黒髪の少女と赤髪の女性。

 

 そしてモニターに映し出された二人の眼光に――。

 

 

 

CAT CROSSING

 

 北沢 志保/緋田 美琴

 

 

 

『獲物くらい自分で見つけるわ 甘く見ないで』

 

 

 

『飼いならすつもりなら 他を当たってよ』

 

 

 

 ――私たちの意識は一瞬にしてそちらに引きずり込まれた。

 

 

 

 

 

 

「くぅ……!」

 

「ダメです! それ以上の無茶は!」

 

「大丈夫……! 私は、大丈夫だから……!」

 

「そんな……!」

 

 

 

「だから……だから……! もう一回通しで行こう……!

 

「だからもうやめときましょうって美琴さん!? ()()()()()()()()()()ですよ!?」

 

 

 

「……何やってんだ、お前……」

 

 今日も高町家の道場を間借りしてレッスンをしている志保ちゃんと美琴の二人の陣中見舞いに来たら、なんかグルグルと目を回しつつ今まで見たことないぐらい笑顔の美琴が志保ちゃんによって諫められていた。

 

「あ、良太郎、こんにちは」

 

「こんにちは良太郎さん! 美琴さん止めてくれませんか!?」

 

「はいこんにちは」

 

 必要最低限の挨拶を交わしてから靴を脱いで道場に上がりつつ、さてどうしたものかと思案する。

 

 美琴の練習狂は今に始まったことじゃないが、どうやら初の大型ライブ参加という目標が定められてしまったためアスリート的な本能が刺激されてしまっているらしい。頭に血が上って熱が高まりすぎているのであれば……。

 

「ここは物理的に頭を冷やした方がいいだろうな」

 

 というわけで差し入れを入れたビニール袋から取り出したるは、キンキンに冷えたスポーツドリンクのペットボトル。これを使ってクールダウンさせよう。

 

「というわけで志保ちゃん、美琴を抑えてくれる?」

 

「は、はい!」

 

「大丈夫大丈夫私はまだまだ動けるから、志保ちゃんも良太郎もそんなに大袈裟にしなくても……!」

 

「てい」

 

「んっ……」

 

「そこは頭じゃなくて腹ぁ!」

 

 

 

「全く! セクハラほう助なんてさせないでください!?」

 

「頭より効くかと思って」

 

 現にあれだけヒートアップしていた美琴が一瞬でクールダウンしたのだから効果は絶大であった。ついでに美琴の珍しく可愛らしい反応も見れたし。

 

「ただ胸に行かなかったことは褒めてもらいたい」

 

 大乳好きとしてもその一線は弁えている。何せ十一年以上主人公やってて番外編の別時空以外で触る描写を一切してこなかったんだからな。

 

「美琴さん、二・三発ぐらい殴っても許されると思いますよ?」

 

「私は無茶を止めてもらった立場だから、あんまり良太郎のこと強く言えないかな……」

 

「言っていいと思いますよ!? なんだったら出るとこ出てもいいと思いますよ!?」

 

「確かに美琴は出るとこ出てるよなぁ」

 

「ほらこういうところぉ!」

 

「ありがと」

 

「美琴さん!?」

 

 どうやら今度は志保ちゃんのクールダウンが必要らしいので、そのままドリンク休憩。

 

「……私、今凄い充実してるんだ」

 

「まぁ、それだけ一心不乱にレッスンしてりゃ、練習狂のお前だったら充実してるだろ」

 

「それもあるんだけど……なんか、こうして()()()()同レベルのレッスンが出来ることが、楽しくて」

 

「「え?」」

 

 思わず志保ちゃんと疑問符が被ってしまった。

 

「フリーの頃は勿論、961にいた頃も誰も私と一緒にレッスンを受けてくれなかった。私の目指すパフォーマンスのレベルにまで付いてきてくれる人なんていなかった」

 

 美琴は珍しく優しく微笑みながら「でも」と続けた。

 

「良太郎は勿論だけど……志保ちゃんも、私なんかよりもずっとずっと高いレベルのパフォーマンスをする。私が目指したい場所にいてくれる。それが嬉しい」

 

「ど、どうも」

 

 少し困惑しつつもちょっと嬉しそうな志保ちゃんだったが、少し考えてから「でも」と言葉を続けた。

 

「いくら自分自身が納得しないからって、そのレベルになるまでデビューすらしないっていう姿勢はやっぱり……私はやっぱりどうかと思います」

 

「それは……うん、色んな人に言われた。黒井社長も初めは納得してくれてたんだけど……最終的に放り出されちゃったし」

 

「寧ろそんなになるまで手元に置いておいた黒井社長も凄いと思うけどな」

 

 あの人に『手放すのが惜しい』なんて感情があるとも思えないし。

 

「……ホントはね、ずっと私のレッスンに付いてこようとしてくれてた子がいたんだ」

 

「「え、そんな奇特(へんたい)な子が961プロに?」」

 

「今なんか変なルビ振られなかった?」

 

 志保ちゃんと揃って首を横に振る。

 

「何故か分からないけど、ずっと私のことを慕ってくれててね。……私が961プロに入ってすぐだったから……十七歳の頃、あの子は十三歳だっけ」

 

 ということは……今から六年前か。俺が初めてIUに出場した頃で……『周藤良太郎』としての現在の知名度を獲得した頃だな。

 

「私のバカみたいに無茶苦茶なレッスンに頑張って付いてこようとして、色々なものを吐き出しながらも付いてこようとしてくれてた」

 

「吐き出したんですね」

 

「色々なものを」

 

「うん、ゲロとか」

 

 ゲロって言っちゃったよ!

 

「ずっと『いつか美琴さんと一緒にユニットを組んでデビューするんだ!』って言ってくれたんだ。……でも」

 

 美琴にしては珍しく饒舌に過去話をしてくれたと思ったら、そこで目を伏せて言葉を途切れさせた。

 

「……さ、休憩はここまでにしよっか」

 

「えっ」

 

「まだやるのかお前」

 

 話はコレで終わりと言わんばかりに美琴は立ち上がった。志保ちゃんは戸惑い、俺も思わず呆れてしまう。

 

「やるよ。だってまだまだクオリティ低いし。良太郎が見せてくれたお手本とは程遠いし」

 

「見せるんじゃなかった……」

 

 二人が披露する楽曲が志保ちゃんの『CAT CROSSING』に決まり、二人用にアレンジされた歌とダンスが用意されたのだが、美琴の「良太郎にお手本、見せて欲しいな」という胸を寄せながらのお願いを思わずホイホイ聞いてしまったが失敗だった。

 

「せめて多少レベルを落としたものを見せれば良かったんじゃないですか……?」

 

「だって美琴が『全力のやつを見せて欲しいなぁ』って言いながら胸元をクイッと」

 

「この人、本当に良太郎さんの扱いが手慣れてるなぁ!? そんでもってせめてそこは『アイドルに関することで手を抜くことなんか出来ない』ぐらいの言い訳してくださいよぉ!?」

 

 その発想はなかった。

 

「さぁ志保ちゃん、行くよ、今の私たちならば、何処までだって逝ける」

 

「逝っちゃ困るんですけど……チクショウ! やってやりますよ! 123プロ三人娘と呼ばれるアイドルの根性見せてやりますよ!」

 

「その意気だぞ志保ちゃん! 美琴に目にもの見せてやれ!」

 

「アンタはすっこんでろぉ!」

 

「はい」

 

 志保ちゃんから珍しくツッコミではないガチ叱りを受けてしまったので、ここは一旦大人しく引き下がることにしよう。

 

「……さてと」

 

 それじゃあ俺は、()()()()()()()()()()()()()()()()()――。

 

 

 

 ――『黒髪金メッシュ』の女の子に、話をきいてこようかな。

 

 

 




・「タンカ急いで!」
別に狙ったわけじゃないのに、どうしてこうも現実のイベントとシンクロするのだろうか……。

・「しっかりして! 周子さん!」
本当になんで周子ちゃんはこうなっちゃったの?

・『CAT CROSSING』
北沢志保のソロ三曲目。
黒猫っぽいイメージのザ・北沢志保って感じ(個人の感想です

・美琴の過去話
だいたい捏造。

・『黒髪金メッシュ』
カミサマ。



 ガチで偶然にもこのタイミングで美琴主軸の志保美琴回です。

 そしてここで宣言しておきますが、美琴の過去関連、そして『あのアイドル』や『未来に登場するであろうあのアイドル』関連のあれこれはアイ転世界においてはだいぶ事情が変わってくると思います。

 ……まぁシャニ本家がパラレルだのIFだの散々やってるから、今更だな!(開き直り)



『どうでもいい小話』

 お正月楓さんのガチャ進捗、まだです(白目に血涙)
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