「凄い……」
ステージ上の二人の姿を見て、思わずなんのひねりも無い単純な感想が口から漏れ出てしまった。それほどの衝撃だった。
北沢志保さんのことは以前からよく知っている。トロフェスで一緒になったときから……いやそれ以前から123プロの『北沢志保』を知っている。
そしてそんな彼女と肩を並べて決して引けを取らない『緋田美琴』という
「あきらちゃん、緋田さんって本当に今までデビューしてなかったんだよね……?」
「そのはずデス……」
今回のライブで共演することが決まったため、当然出演アイドル全員のことは一通り調べている。その中でも緋田さんだけが特筆して異色の経歴だったと言っていいだろう。……いやまぁ元弁護士とか元医者とかいう315プロの皆さんとはまた別ベクトルで。
「961プロはアイドルデビューするためのハードルがとても高いってことなのかな?」
「うーん……」
完全に否定しきれないところが961プロらしいというかなんというか。そもそも961プロのアイドルとは殆ど交流がないからその辺りの事情は全く分からない。
(……961プロといえば)
りあむサンがなんか『ライブとライブが被ることある!?』って騒いでたような気がするが、そのライブのアイドルが961だったような。
「ってなんデスかりあむサンその顔」
「いつもにもまして面白い顔してるんご」
「常日頃から面白い顔してるみたいに言わないでもらえるかな!?」
「「事実では?」」
「あいむアイドル!」
「大丈夫デスよ、世の中には芸人枠という分類があってデスね」
「いやだー! ぼくもちゃんとチヤホヤされるアイドル枠に入りたいー!」
「大丈夫だよ! りあむちゃん!」
「あかりちゃん……!」
「そのおっぱいならセクシー枠で行けるんご!」
「りあむサン! あかりチャンに何変なことを吹き込んでるんデスか!?」
「この流れでぼくが怒られるのは絶対に違うよねぇ!?」
流石に騒ぎ過ぎて春香サンに「めっ!」と怒られてしまったためクールダウンしてから閑話休題。
「それで結局なんで変な顔してたんデスか」
「なんかそわそわしてたよね」
「あー……いや……その……ね?」
改めて尋ねてみると、りあむサンは何故か気まずそうに視線を時計に向けた。
「……ちょうど今頃、ライブが始まったかなーって……」
「え?」
「ライブ?」
「なんかね、偶然今日『カミサマ』もライブやってんの! 勿論ぼくたちのライブの方が大事なのは分かってるけど、そっちにもすっごい後ろ髪引かれてて……!」
「「……はぁ~……」」
「あぁ!? あきらちゃんとあかりちゃんの目が過去最低温度を記録してる!?」
ライブに出演中だって言うのに他のアイドルのライブに気を取られるアイドルが何処にいるんだろうかマジで……。
「ほらまだまだライブは続くんですからこっちのステージに集中してください」
「分かってるよぉ……えっと次は確か」
丁度志保さんと緋田さんのステージが終わったようだ。会場が暗転し、そして今度は白組のステージが照明に照らされて……。
『『一番星まで……!』』
THE FIRST STAR
天道 輝/天ヶ瀬 冬馬
天道輝サンと天ヶ瀬冬馬サンの二人がステージに姿を現した。
「うわあああ冬馬くんだあああぁぁぁ!?」
「いやりあむサンは知ってるでしょ」
今回のライブのセトリは出演者全員で共有済みの上にリハやゲネも見ているのだから、歌唱メンバーや歌唱曲などで驚くことはない。驚く要素があるとするならば、その完成度や実際の雰囲気を目の当たりにした場合である。
「いや知ってるけどこれは声出るって! ジュピターの天ヶ瀬冬馬のステージに盛り上がらない奴なんていないって!」
「声が大きい」
とはいえ、りあむサンの言いたいことは分かる。『Jupiter』といえば女子小中学生で真っ先に名前が挙がる人気男性アイドルユニットの筆頭。『メンバーの中で誰が好きか』なんて話題は盛り上がる定番だ。
三人の中で誰が一番人気か……という話題は各方面が荒れそうなので触れないが、リーダーでありセンターでもある『天ヶ瀬冬馬』は『周藤良太郎への挑戦者』としての側面もあって男性からの支持も強い。
そんな『Jupiter』のリーダーである『天ヶ瀬冬馬』と、現在人気上昇中の男性アイドルユニット『DRAMATIC STARS』のリーダーである『天道輝』のユニットである。会場のファンも「まさかこの二人が!?」と驚愕して歓声が凄いことになっていた。
『どんな日々になるのだろう?』
『目指す場所は あの明るい星』
元々天道サンの曲ということで最初のフレーズは天道サンから。彼らしい真っすぐな歌声だ。
『希望放ち 燃える姿が』
『最高にカッコイイんだ』
そして天ヶ瀬サン。普段はクールでありつつ静かに燃えるタイプの歌い方だが、今回は曲調に合せていつもより明るい歌い方になっている気がした。
『『一番星まで! 駆け上がってゆこう!』』
『胸の中に生まれたヒカリ』
『「もう迷わない」と決めさせてくれた』
『進もう真っすぐに……今日は良い日だ』
「今日は
「………………」
そう言いながら会議室に入って来た輝さんに対して、俺は一体どんなリアクションをすればよかったのだろうか。
「って、アレ!? 冬馬!? リョーさんじゃないの!?」
どうやら輝さんは『123プロから人が来てる』という情報で良太郎が来てるものだと思っていたらしい。
「リョーさん、頻繁にこの事務所に出入りしてるから勘違いしちゃったよ」
「そんなに頻繁に来てるんすか?」
「そりゃもう。楽曲シャッフルの件だったり、隼人とのユニットの件だったり。やっぱり八事務所合同ライブの運営側っていうだけあって忙しいんだろうな」
「それ半分以上は私用で来てますよ」
なんだったら他のスタッフからの『自分が行きます』という提案を蹴ってまでわざわざ自分で各事務所に出向いてるからなアイツ。
「それで冬馬、今日はどうしたんだ?」
輝さんが俺の向かいの席に座ったところでようやく本題に入る。
「既に良太郎が同じような用件で来ているのであれば、なんとなく想像出来るんじゃないですか?」
「っ! ってことは……!」
「はい」
「俺も噂の花嫁さんになるのか!?」
「なりません」
なんだ花嫁って!?
「そうじゃなくて、俺と輝さんがユニットを組むことになったんです」
「あーなんだそっちかー……えっ!? 俺が!? 冬馬と!? ユニット!?」
ようやく理解してくれたらしい。
というわけでそういうことである。赤組に比べて白組のユニット数が二組ほど少ないため、白組はユニットを増やさなければならなくなった。一組は『周藤良太郎』と『秋山隼人』のユニットであり、もう一組が『天ヶ瀬冬馬』と『天道輝』のユニットになったわけだ。
「ど、どうして俺と冬馬なんだ?」
「123プロと315プロを代表する男性三人組ユニットのセンター同士だから、っていうことになってる」
あとついでに名字に『天』が付くもの同士ということにもなっている。
「意外と浅い理由なんだな……」
「そんなもんっすよ」
「でも俺は嬉しいぜ! まさか冬馬と一緒にユニットを組めるなんて!」
輝さんはそう言って少年のように無邪気に笑った。相変わらず、良太郎とはまた別の意味で子どもっぽい人である。
「『Jupiter』は俺たち『DRAMATIC STARS』の目標でもあるからな! そんなアイドルとユニットを組めるなんて光栄だぜ!」
「目標、ですか」
「あれ? なんか意外そうだな? 別にこういうこと言われるの珍しくないだろ?」
「いや、別に……」
少し思い返す。そもそも男性アイドル自体、現在のアイドル業界では希少な存在だ。基本的に地下アイドルとしての活動ばかりで、表で顔を合わせることは殆どない。そしてたまに顔を合わせることがあったとしても、大体……。
――俺たちもファンなんです!
――応援してます!
――頑張ってくださいね!
「………………」
「ん? 冬馬?」
「あ、いえ、何でもありません」
意識を切り替える。
「それじゃあ早速レッスンの打ち合わせをしましょうか」
「あぁ! お互いのユニットメンバーに悔しがられるぐらい最高のユニットにしようぜ!」
「……ところでオチのダジャレが思いつかないんだけど、どうしたらいいと思う?」
「そういうのは良太郎だけで十分なんですよ」
・「偶然今日『カミサマ』もライブやってんの!」
当然のように当てつけです。
・THE FIRST STAR
天道輝のソロ曲。
とあるこぼれ話があるのですが、ちょっと長くなるので下記にて。
・歌唱@冬馬&輝
一応カラーコードは分けているのですが、これ見分け付かねぇな……。
主人公不在 + 冬馬がメイン = なんかまじめなはなし!
全くの余談ですが、最近は毎回歌詞利用をしているためJASRACのサイトで使用可能かどうかを調べています。今回の『THE FIRST STAR』も同様に検索をかけたのですが、そこに記載されていたアーティスト名が
『天野輝(CV 仲村宗悟)』
【悲報】公式では『天道輝』による『THE FIRST STAR』は存在していないことになっている模様。