「………………」
「……卯月ちゃん、生きてる?」
「とりあえず」
目を閉じて安らかな顔しているしまむーの口元に手を近づけて呼吸をしていることを確認する。どうやら一命は取り留めたらしい。
「冬馬さんがステージ上に登場した瞬間から凄い気になってたけど……」
「トロォプになってるかと、思いました……」
何となくだけど、日本語にしたら物騒な言葉な気がする。
「凄かったねぇ、冬馬さん」
「普段はクールな感じだけど、今日は凄い熱血って感じだったね」
「ダー」
三人で感想を言い合い、そして再び視線をしまむーに戻す。
「………………」
「反応がない」
「普段の卯月ちゃんだったら、冬馬さんの話題になったら大興奮で飛んでくるのに」
「パコイセ ス ミュラン……」
何となくだけど、日本語にしたらご冥福を祈っている気がする。
「そろそろ次の曲始まりそうだけど、起こした方がいいのかな」
「いや、これだけ色々やってて起きないんだから放っておいていいと思う」
こんな素晴らしいライブの最中に意識を落として見逃すのはあまりにも勿体ないし可哀想だとは思うが、ある意味ここは戦場なのだ。
「死して屍拾う者なし、だよ。みなみん」
「多分本来のニュアンスとは違う気がする……」
そんなやり取りをしている内に次の曲が始まる。
『ハッピース 私たち きっと』
『出会えてよかったよね チュッ!』
『ハッピース さぁ私たち』
『『『これからもよろしくね!』』』
ハッピース
日高 愛/水谷 絵理/三船 美優
うわ美優さん衣装かわいっ。
『ねぇキャンディーを貰ったの 三人でほら 分けちゃおう』
「うーん、これは間違いなくリョー君の趣味が滲み出ている……」
「そうなんですか……!?」
「せやね、これは間違いなく良太郎さんの趣味」
「分かっちゃうんだ……!?」
「良太郎さんならやりそうだなぁ……」
「なのはまで……!?」
美琴さんとのユニット曲が終わってステージ裏に戻ってくると、みのりさんとトライエースの三人がそんな会話をしていた。良太郎さんへの理解度が高いみのりさんとはやてさんとなのはさんに、フェイトさん一人が驚いている様子だった。
「リョー君、こういう大人の女の人が子どもっぽい恰好してるの好きだもんなぁ」
「
みのりさんはともかく、はやてさんにまでこれを言われてしまう良太郎さんは流石に反省した方がいいと思う。
……とはいえ、それだけ言われてしまうほど美優さんの衣装がとても可愛らしいという点については事実である。ご丁寧に高い位置でのツインテールにまでなってるし、これは間違いなく狙っている。誰の狙いなのか、真犯人についての特定はしないけれど。
「「はっ、まさか良太郎さんの恋人があの人なのって……」」
「いやそれは流石にもうちょっと違う理由があると思うけど……」
なんで私が良太郎さんのフォローをしなければいけないのか。というか、悠介さんと享介さんも
「そういえばなんだけどさ、前にあの三人とリョータローさんが一緒にいるところを見かけたんだよねー」
恵美さんからそんな目撃情報が飛び出してきた。ただ目撃情報とは言っても、それ自体は別に珍しいことではない。
「本当に良太郎さん、色々な人のところに行ってますよね」
私と美琴さんのレッスンにも何度も見に来ていた。
「ウチの事務所にも何回も顔出してるもんなー」
「あの人、働き者だよなー」
(働き者……働き者?)
間違っていない筈なのに何か致命的なものが間違っているような蒼井兄弟の認識に首を傾げざるを得ない。いやトップアイドルとして一番忙しいのは良太郎さんであることには間違いないはずなのに、何故か心がそれを認めたくなかった。
「きっと全てのユニットに対して声をかけていらっしゃったんですねぇ……」
「流石良太郎さんです……!」
なんかまゆさんと橘さんが『周藤良太郎』に関しての師弟関係のようになりつつある。
……けどまぁ、実際全てのアイドルに声をかけて回っていたのは事実なんだろう。普段の態度はともかく、アイドルとしての姿勢についてはいつも尊敬している。
女性の見た目に関する趣味嗜好の話は置いておいて、やっぱりアイドルの先輩およびライブの主催者として、しっかりと役目は果たしていたということだろう。
「ちなみに恵美ちゃん、何処で見かけたんですかぁ?」
「え? ファミレスー。なんかすっごい楽しそうだったよ」
……果たしていた、のか?
「あたしと絵理さん、涼さんが好きなんですけど」
「良太郎さんに相談したいことがあるんです」
「その相談の人選、本当に俺であってる?」
愛ちゃん絵理ちゃん、そして臨時メンバーの美優さんの三人から「相談したいことがある」と呼び出されてやって来たファミレスでいきなり切り出された話題がコレですよ。リョー君ビックリ。
「『何か困ったことがあったら何でも相談してほしい』ということだったので」
「困ったときの良太郎さん?」
「いやそれは言ったけど」
まさかその相談が現役女子高生と女子大学生から恋愛相談になるとは誰も思わないんだって。
いや別にいいんだよ? 確かにライブとかステージ以外の相談でも、プライベートな相談でも全然乗るよ? こんなんでも人生経験的なものは割と豊富だからさ。
それでも色々と疑問に思うところという名のツッコミどころが多いんだよ。
「普通そういう恋愛系の相談は同性にしない? ほら、すぐ隣に今回のライブで一緒のユニットを組む大人のお姉さんがいるわけだけど」
「勿論真っ先に相談しましたよ!」
「その大人のお姉さんに『良太郎君に相談してみたら?』って投げ返された感じ?」
「………………」
「………………」
無表情ではあるが視線だけで「美優さんさぁ……」と訴えてみると、彼女は気まずそうに視線を逸らした。自分でもそうとうアレなことをした自覚はあるらしい。
「それに恋愛系の相談ではあるけど、それがアイドルとなると話が変わってくるじゃないですか?」
「そこで現役アイドルの頂点でありつつ、私生活でちゃっかり同棲している婚約者を作っているりょーおにーさんに相談するべきかなと」
愛ちゃんの言葉の中に若干の棘を感じたが、彼女にそういう腹芸は出来ないだろうからきっと俺の被害妄想だろう。
「……分かったよ、俺で良かったら話聞かせてもらうよ」
「やった!」
「ありがとうございます」
「それで? 具体的にはどんなことで悩んでるの?」
先ほどドリンクバーで淹れてきたホットコーヒーに口を付ける。
「三人一緒っていうのは、ありだと思いますか?」
コーヒー吹くかと思った。
「……まさか初手からそんな剛速球を投げられるとは思わなかった」
捕球ミスしてキャッチャーノックアウトになるところだった。
「美優さんにお話したときも同じリアクションされました」
「ごめんなさい美優さん、貴女の対応は間違っていませんでした……」
「いえ……私も一人ではどうにも出来ず……」
寧ろコレは俺以外にしちゃいけないタイプの相談のような気がしてきた。そしてそれと同時に今回のお話がどうしようもなくギャグ寄りの展開であることが判明し、それに伴い俺のポジションがツッコミであることも確定した。
チクショウ、最近ずっと真面目な話ばかりだったっていうのに、この落差は一体なんだんだ……
「というか、なんでそんな結論になったのさ」
「大前提として、あたしは涼さんのことが好きです」
「わたしも、涼さんのことが好き」
そうハッキリと断言する愛ちゃんと絵理ちゃん。うん、それは知ってる。
「……あれ? そう言えば……」
――涼さん、あたしとは手を繋いでくれなくなったのになぁ。
――愛ちゃん、今その言葉どんな気持ちで言った!?
――『楽しそうでズルい!』です!
――違うそうじゃない!
「ほらやっぱり。読み返して確認してみたけど、Lesson336ではまだこんな感じの会話してたよね?」
「わざわざリンクまで貼らなくても……」
時系列的にはまだ半年ぐらい前のことなのに、愛ちゃんはこの短期間で自分の恋心を自覚したというのか。
「絵理ちゃん、何か変なことしてないよね?」
「
それは俺だって突きたくない。
つまり愛ちゃんが自分の恋心を自覚するようなきっかけがあったということで……。
「……よし、それじゃあ恋愛相談だっていうのであれば、まずはその辺りのコイバナから聞かせてもらおうかな」
「えっ!?」
「うんうん、それは良い考え」
「絵理さんは知ってますよね!?」
「それは私も気になるかな……」
「美優さんまで……!?」
愛ちゃんは狼狽えているが、俺だけではなく絵理ちゃんと美優さんもノリノリになってきた。
「安心して欲しい。俺も決して愛ちゃんのことを揶揄いたいわけじゃないんだ」
「りょーおにーさん……」
「その証拠にホラ見てくれ、この真剣な表情を」
「いつもの無表情ですよね!?」
「なんでそんな余計なこと言うかな……?」
愛ちゃんの過去話兼恋話、はっじまーるよー!
……ライブ編でやる話じゃないって? 今更だよ。
・卯月@天ヶ瀬冬馬を過剰摂取した姿
この子も割と「どうしてこうなった」筆頭。
・トロォプ
タヒ体
・パコイセ ス ミュラン
安らかに眠れ
・ハッピース
数少ないDS組の全体曲。
ヴィアラ組も来て876が再稼働したっぽいし、再録したりしないかなぁ。
・「三人一緒っていうのは、ありだと思いますか?」
実は良太郎よりもラブコメしてる涼。
ついに残るアイドルは四組! 良太郎と魔王エンジェルを除けば、最後の一組の登場です!
……だっていうのに何故かラブコメが始まりましたが、あれですよ、真面目な話の間の箸休め。