アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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PS3持っていない&スクフェス出来ない勢のアイマス・ラブライブ難民キャンプはまだですか(今更感)


Lesson54 それは基本のさしすせそ 3

 

 

 

 周藤良太郎との仕事。写真の撮影とはまた違った環境での周藤良太郎は果たしてどんな様子なのか、凄く興味があった。『覇王』と呼ばれる、わずか十八の少年のアイドルとしての姿がいかなるものか。そんな期待を胸に撮影は始まったのだが。

 

 

 

「チャーハン作るよ!」

 

 何処からともなく取り出したフライパンを片手にそう高らかに宣言する良太郎君の姿に思わずその場に膝から崩れ落ちそうになった。

 

 

 

「え、えっと、良太郎さん、作る料理は……」

 

「大丈夫大丈夫、ちゃんと分かってるって。軽いジャブだよ」

 

「本当に分かってるのかしら……」

 

 唐突なセリフと行動の良太郎君に、やよいは困惑した表情を見せる。別に全ての行動が台本になっているわけではないのだが、それでも良太郎君の行動はやよいを戸惑わせるには十分だったようだ。やっぱりやよいはアドリブ慣れしていない感じである。

 

「あ、改めてゲスト紹介です。765プロダクションからのレギュラーゲストは、竜宮小町でセンターを務める水瀬伊織ちゃんです!」

 

「にひひっ、全国のファンのみんな! 伊織ちゃんが出てきてあげたわよ!」

 

 カメラに向かってウインクをする伊織。横に良太郎君がいるにも関わらずいつもの調子を保てているのは流石である。765プロの中では最も目上のアイドルと接する機会があっただけに、慣れてきているというのは間違いではないだろう。

 

「そして今回は記念すべき第十回目の放送ということで、スペシャルゲスト! 周藤良太郎さんに来ていただきましたー!」

 

「周藤良太郎です。好きな食べ物は蕎麦です」

 

「何? 蕎麦作れって? 今日の作るもの無視して蕎麦作れって?」

 

 ……慣れてきたというか、良太郎君が普段のテンションだから伊織も釣られて普段の調子になっているって感じか。あれも良太郎君の、共演者が緊張しないようにするための配慮――。

 

 

 

「しかしチャーハンではないか。折角家からマイフライパンを持参したというのに」

 

「柄の部分に思いっきり『佐藤』って書いてあるんだけど」

 

「うん、俺の真名とでも言えばいいのかな? そう、あれは俺がまだタイ人だった頃の話だ……」

 

「見え見えの嘘吐くんじゃないわよ!」

 

「良太郎さんタイ人だったんですか!?」

 

「ほらー!? やよいが信じちゃったじゃない!」

 

 

 

 ――配慮だと、いいなぁ……。

 

 

 

「おっとごめんね、ゲスト同士が話し合っちゃって」

 

「えっと、私も良太郎さんとお話ししたいですけど、まずは進行しないといけませんよね!」

 

 ADからの進行を促すカンペを目にしたやよいが思い出したように番組を進行する。

 

「良太郎さんはお蕎麦がお好きとのことですが、残念ながら今日作る料理は別のものです!」

 

「ア、ウン」

 

 流石にやよいが本気にするとは思わなかったらしく、若干良太郎君の声が上ずっていた。

 

「料理の紹介の前にクイズです! 良太郎さんと伊織ちゃんは、お料理の基本の『さしすせそ』を知っていますか?」

 

「うん、知ってるよ」

 

「それぐらい常識よ」

 

 至極当然といった様子で頷く良太郎君と伊織。実家がお金持ちでお嬢様の伊織はもしかしたら知らないかもと思ったが、そんなことはなくいつも通り自信満々の表情で胸を張っていた。

 

「それじゃあ良太郎さん、答えをどうぞ!」

 

「もちろん『桜でんぶ』『しらす』『酢飯』『醤油(せいゆ)』『そぼろ』だね」

 

「……えっと、多分そのさしすせそで出来るのは三色ちらし寿司ぐらいかと……」

 

「こんだけふざけた答えなのにも関わらずお酢と醤油があってるのが腹立たしいわね……」

 

 良太郎君の解答にやよいが困った笑みを浮かべ、伊織が呆れた様子のジト目になる。

 

 当然良太郎君も真面目にこの回答をしたわけではなく、ごめんごめんと片手で謝る。

 

「『斎藤(さいとう)』『塩見(しおみ)』『菅野(すがの)』『摂津(せっつ)』『(そよぎ)』だよね?」

 

 しかし良太郎君の口から発せられたのはボケの重ね掛けだった。

 

「うっうー、菅野さんは本当に残念でした……」

 

「ホント。怪我が無かったら結果は変わってたかも、っていうIFを考えちゃうよねぇ」

 

「やよい今の理解できたの!?」

 

 出演者及びスタッフ全員を含めた中でただ一人理解できなかった様子の伊織が、良太郎君の発言にしっかりとしたコメントを返したやよいに対して大変驚いていた。いやまぁ、俺も良太郎君と全くの同意見なんだけども。

 

 その後、野球の話から各球団が優勝した時に行われるセールの話に発展していき、三十分後にADが番組進行を促すカンペが出されるまでその話は続くのだった。というか間違いなくADも話に聞き入っていたからカンペを出すのが遅くなったんだろ。

 

 

 

 

 

 

「え、えっと、改めてお料理の基本の『さしすせそ』とは何ですか?」

 

「『砂糖』『塩』『酢』『醤油(せいゆ)』『味噌』だね」

 

「何でその五つを答えるだけでこんなに時間がかかるのよ……」

 

 ようやく本来の流れに戻った時には既に伊織は疲弊した様子だった。

 

「今回は第十回記念と言うことで、番組タイトルにもなっているこの『さしすせそ』を全て使った料理を作ろうと思います! というわけで今日作る料理はこちら!」

 

 やよいが手で指し示した方向を向く良太郎君と伊織。視線の先には黒子がおり、やよいの発言と共にめくりに張られた演題を捲る。

 

「舞台セットに合わない時代錯誤な感じのADだね」

 

「初回から私がずっと感じていた違和感にまともなツッコミを入れてくれたのがアンタってのが微妙な気分ね」

 

 良太郎君と伊織のそんなやり取りを他所に紙は捲られると共に、やよいの口から今日作る料理の名前が発表された。

 

 

 

麻婆豆腐(マーボードウフ)です!」

 

「麻婆……だと……!?」

 

 一瞬、目を見開いた良太郎君の声がすごくミドルでダンディーな感じに変化したような気がした。

 

 

 

「あい分かった! 天使も唸らせるような激辛麻婆豆腐を作ればいいということだね!?」

 

「あ、いえ、今日作るのは豆板醤が苦手な人でも食べるようなあまり辛くない麻婆豆腐です」

 

「おうふ……」

 

「表情変わらないけど若干上がったテンションが下がったことは何となく分かったわ」

 

「良太郎さんは辛い麻婆豆腐の方がお好みでしたか?」

 

「別に辛いのがいいとか辛くないのがダメとかそういうのじゃなくて、ガイアが囁いたというべきか……」

 

「「?」」

 

 首を傾げる二人に対してお気になさらずに、と良太郎君は手で先を促す。

 

「えっと、それじゃあさっそく料理を始めていきましょう! いつもの行きますよー!」

 

 やよいが手をグーに握って構え、それに倣い良太郎君と伊織も同じポーズをする。

 

 

 

「せーの!」

 

『レッツクッキーング!』

 

 

 

 スタジオに居た全員の掛け声と共に、料理が開始されるのだった。

 

 

 

「材料はこちら! 豚こま肉、木綿豆腐、白ネギ、にら、ニンニク、ショウガ。調味料はお料理の基本の『さしすせそ』の他にお酒とごま油と胡椒と片栗粉を使います!」

 

「量はそれぞれフリップで確認だな」

 

 別に口に出すのが面倒くさくなったわけじゃないよね? 良太郎君?

 

「まずは豆腐の水切りをします! 時間が無い場合は、キッチンペーパーに包んで500Wレンジで五分加熱してもオッケーです!」

 

「まぁ今回はまだ時間があるから普通に水切りで大丈夫かな」

 

「次に材料を切っていきます! 白ネギ・ニンニク・しょうがはみじん切りに、豚肉は五ミリ幅にお願いします!」

 

「じゃあまずは僭越ながら俺から」

 

 そう言いながら良太郎君は備え付けられていたプラスチック包丁を持ち上げると、材料をみじん切りにし始めた。

 

「良太郎さんは普段お家で料理されるんですか?」

 

「んー、いや。うちの母さんは料理好きの専業主婦だから、なかなか台所に立つ機会ってのがないんだよ」

 

 思い出すのは以前のドキュメンタリー番組。そこに映っていた彼の母親は確かに料理上手だったと覚えている。

 

「でも良太郎さん、包丁の扱いお上手ですよね」

 

 良太郎君の手元を見ながら感心するやよい。確かに、トントントン、一定のテンポの音と共に材料がみじん切りにされていく様は普段から料理をしているかのようだった。

 

「んー、昔バイト先のお姉さんにお菓子作りを手伝わされたことがあったから、それでかな?」

 

「え!? 良太郎さん、お菓子作り出来るんですか!?」

 

「そんな大それたものじゃないよ。レシピ通りに作ることなんて誰にだって出来ることなんだし」

 

 まぁそのレシピ通りにすら作れない人ってのもいるんだけど、という良太郎君の小さな声はしっかりとマイクに拾われていた。随分と実感が籠っているような気がした。

 

「伊織ちゃんはどう? お家で料理とか、お菓子作りとかする?」

 

「え!? わ、私!? 私は、その……」

 

 やよいに話を振られ、視線が宙に浮く伊織。

 

「……ミ、ミルクセーキ! ミルクセーキだったら作ったことあるわよ!」

 

「テレビの前のよいこは『牛乳に卵と砂糖入れてただ混ぜるだけだろ』とか言っちゃいけないぞ」

 

「今まさにアンタが言ってるでしょうが!」

 

 良太郎君はいつの間にか材料を切り終えてカメラ目線になっていた。普段の伊織だったら軽く叩くぐらいの抗議はしている場面であるが、流石にカメラの前、しかも周藤良太郎相手にそれは躊躇した様子だった。

 

「それじゃあ、伊織ちゃんも将来お嫁さんになった時のために料理の練習しなくちゃね!」

 

「お、お嫁さん!?」

 

 良太郎君に茶化されて赤くなっていた伊織の顔が、やよいの純真無垢な言葉のせいで更に赤くなった。

 

「お、ということはやよいちゃんも将来の夢はお嫁さん?」

 

「それもいいんですけど、今は765プロのみんなと一緒にもっともーっとお仕事を頑張りたいっていうのが私の夢です!」

 

 

 

(((((何この子マジ天使)))))

 

 

 

 スタジオ内の全員の心の声が聞こえてきたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 ここからCM!(という名の次回に続く)

 

 

 




・「好きな食べ物は蕎麦です」
発言は石田。性格は杉田。ジャンプ読まない作者がまだ単行本を買っていた時代のお話。

・「あれは俺がまだタイ人だった頃の話だ……」
元ネタは某狩りゲームの某有名実況者の珍発言。
「(・◇・)<俺もタイ人だった頃にさ・・・」

・『斎藤』『塩見』『菅野』『摂津』『梵』
順番に日ハム・楽天・巨人・ソフトバンク・広島の投手。
巨人が負けた今、作者はお気に入りの松田がいるソフトバンクを応援します。
※梵選手は内野手でした。赤ヘル軍の方々、大変申し訳ありませんでした。

・黒子
『ほくろ』ではありません。『くろこ』と読んでもバスケはしないしテレポートもしません。

・麻婆豆腐
(剣を投げてくる)神父や(手刀で切りかかってくる)天使に大人気な神聖なる食べ物(嘘)
ちなみにレシピはネットで公開されていたものを勝手に採用。……流石に大丈夫だよね?

・まぁそのレシピ通りにすら作れない人ってのもいるんだけど
特定の人間に対して向けれている言葉です。メシマズキャラ多すぎぃ!

・何この子マジ天使
(全略)



 料理番組のお話で本当に料理の話をするとは夢にも思うまい!?(錯乱)

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