「美優おねーさん、すげー可愛かったでごぜーますね!」
「あーうん、そうだねー」
美優さんと876プロの二人によるステージが終わり、興奮冷めやらぬ様子の仁奈ちゃんに対して相槌を打つ。
さて、仁奈ちゃんに連れられて来る予定のなかった八事務所合同ライブの現地参加をしているわけなんだけど……ホント、なんでこんなにも杏に似つかわしくない場所に来てしまったのだろう。ライブは最高なんだけど、それを差し引いてもライブ会場という空間そのものからスリップダメージを受けている感じ。勿論、折角来た以上ライブはしっかりと見るんだけどさ。
(さっきの二人……日高愛さんと水谷絵理さん、だっけ)
なんというか『誰かに向けて歌っている』感が凄かった。いや杏の気のせいかもしれないのだけれど、二人の意識が
「美優おねーさん、いつも仁奈に優しくしてくれるでごぜーますよ!」
「うん、何回も聞いてるよー」
「この間、お仕事で着たっていうトラさんの衣装を見せてくれたでごぜーます!」
「ちょっと気になる話題出すの勘弁してもらっていいかな」
杏的にはライブよりもそっちに集中したくなっちゃうから。
さて、そろそろ次のユニットの登場だ。出演ユニット的に考えると、次に出てくるアイドルは間違いなくあの二人だろう。巷では「どのような衣装で登場するのか」なんてことが話題になっていたが……。
「あっ」
白組のステージがスポットライトで照らされて曲がかかる。会場に来るつもりはなかったが一応配信は観るつもりで今日出演するアイドルの歌唱楽曲は
『『今すぐフェイバリットに踊らせて』』
その衣装はズボンのように見えた。
『『お気に入りを身に着けたら』』
その衣装はスカートのようにも見えた。
『あたしが』
『あたしを好きになれる』
今この瞬間だけは……。
『『それがシアワセの始まりでしょう?』』
フェイバリットに踊らせて
水嶋 咲/秋月 涼
白組も赤組も関係ない、
「実は僕……三人の女の子を同時に好きになってしまって」
「それは最早相談を超えて懺悔なんだよ」
果たしてこれは偶然なのか、はたまた神様の予定表通りなのか。愛ちゃんと絵理ちゃんの恋愛相談を受けた翌日、今度は涼から「相談したいことがある」といってファミレスに呼び出された。そして切り出された第一声がこれである。またまたリョー君ビックリ。
「って、三人?」
話の流れからして愛ちゃんと絵理ちゃんのことではあるのだろうけど……三人?
「………………」
「……?」
ふと涼の横に座る人物に視線を向けると、
……うん。
「お兄さん、そういうのも全然いいと思う」
俺自身がおっぱい星人のため
「? ……あっ!? 違いますよ!? 良太郎さんが考えてるようなことじゃないですよ!?」
「あ、もしかして良太郎さん、あたしのことだ思ってる?」
焦って首と手を横に振る涼。咲ちゃんも「違いますよ~」とけらけらと笑っているので、どうやら本当に違うらしい。
「愛ちゃんと絵理ちゃんは確定として……あと一人は誰?」
「えっと……その話をする前にごめんなさい、一ついいですか?」
「ん? なんだ?」
「自分から相談を持ち掛けておきながら話の腰を折ってしまって大変恐縮なんですが……」
「気にするな。どうした?」
「その恰好は何ですか!?」
「何って……女装だが?」
涼が相談したいことがあるっていう話を聞いた時点でコイバナになる予感はして、しかも一緒に咲ちゃんも来るっていう話ならば、それはもうしっかりとドレスコードを守るべきだろうと考えたのだ。周藤良太郎はコイバナに本気!
「ウィッグとメイクだけじゃなくてしっかりと胸に詰め物までしてるし……」
「良太郎さん、そのセーター可愛いですね!」
「だろ? 今年の冬はパールグレーがトレンドらしくてな……」
「女子トークしないで!」
純度100%の男性率なのに平均女子力が高すぎるテーブルで今更そんなこと言われてもなぁ。
「というかそんな恰好をしておいて、喋り方は男のままなんですね」
「声は凄い美人系のハスキーな感じだから違和感全然ないですけどねー」
「あくまでも『女装』であって、女性のふりをしてるわけじゃないからな」
「じゃあ胸に詰め物する必要ないじゃないですか」
「いやここがぺったんこだったら全体のバランスおかしくなるだろ」
「嘘だ絶対に趣味だ」
「
「そこ凄まれても」
そんなことを話していると、俺たちのテーブルの傍を通った小学生ぐらいの少年がハンカチを落とした。
「少年、落とし物だよ」
身バレの心配もしなくていいから安心して少年に声をかけると、振り返った少年は何故か顔を赤らめた。
「え? あっ、あ、ありがとう、ございます……お、お姉さん」
「どういたしまして。あとゴメンね、こんな格好だけどお兄さんなんだ」
「……え」
「キミ! 早く逃げるんだ!」
「手遅れだよりょうちん! 多分もう(性癖が)壊されちゃってる!」
無事に落としたハンカチを回収した少年は、何故か放心していたが友人たちに連れられて退店していった。もう落とすんじゃないぞー。
「彼の将来が心配だなぁ……」
「そうだな、ハンカチを落としてショックを受けるほど繊細だと色々と苦労しそうだな」
「そうじゃないんだよなぁ……」
……で、だ。
「なんの話だったっけ?」
「「………………」」
何か二回ぐらい話が脱線しているような気がする。俺たちは最初どこに向かっていたんだっけ?
「……あ、思い出した」
涼がポンと手を叩く。
「実は僕……三人の女の子を同時に好きになってしまって」
「そうそうそれそれ」
危うく今回のお話を最初から丸々やり直す羽目になるところだった。
「それで結局三人目っていうのは誰なんだ? 俺の知ってる子?」
「えっと桜井夢子ちゃんなんですけど……」
「……あっ」
やべ、完璧に忘れてた……いたわ、夢子ちゃん……初登場時からあからさまに涼への好意を隠そうとしてなかった子がいましたわ……。
最後の登場いつだコレ……って、初登場と最後の登場一緒だわ。名前がチラッと登場しただけで本編に登場したの一回だけだ。
「つい先日、その夢子ちゃんに告白されまして……」
しかも姿を見せない間に本編の裏でしっかりとヒロインルートに乗ってるし。
「でも、既に僕の心は愛ちゃんと絵理ちゃんに向いていて……」
一瞬口から「その辺のエピソードは愛ちゃんと絵理ちゃんから直接聞いた」って言葉が零れそうになったが、今それを言うとまた色々とややこしくなりそうだから一旦黙っておく。後で絶対に言うことになるけど。
「でも夢子ちゃんは『私はそれでもいい』って……」
「うーんこれは見紛うことなきギャルゲ主人公ルート」
これ俺じゃなくて恭也が相談に乗った方がいいんじゃないだろうか。
「というか、そもそも『そういう相談』を俺にする時点で答えは出てるんじゃないか?」
常識的な考え方をすれば『誰か一人を決める』という結論にしかならないはずだ。そこに至らなかったということは、涼の中で既に答えは決まっているのだろう。
「どちらかというと、お前は誰かに背中を押してもらいたかったんじゃないか?」
「………………」
「それだったら、りょうちん、あたしの通ってる学校にもそういう男の子いるよ?」
「え?」
「そういう、というと」
「複数人の女の人と付き合ってる人」
「「マジで!?」」
ここで突然咲ちゃんからもたらされた情報に驚愕する俺と涼。まさかそんな奴が本当にいるとは。
「ちなみにその人は何人と付き合ってるの?」
「えっと……」
視線を宙に漂わせながら指折り数える咲ちゃん……え、ちょっと待って。
「そんなに数えるほど複数人の女性と!?」
「……十三人はいたはず!」
「二桁越え!?」
「しかもその言い方だとそれ以上いる可能性が!?」
ヤバい、なんか俺の理解が及ばない世界の話をされているようだ。
「あのね、なんかあたしの高校の文化祭でアイドルユニットとしてステージに立ってたんだけど、その人たち全員が恋人なんだっていう話」
「話の内容が異次元すぎる……」
(……ん? 文化祭? アイドルユニット?)
なんだろう、聞いたことがあるような話である。
確か春先にJプロダクションのジーザス中井さんが、とある高校の文化祭で目を付けたアイドルユニットをスカウトしたら盛大にフラれたって噂になっていたような……まぁ考えすぎか。
「しかしこの話を聞くと涼の悩みがちっぽけなものに思えてくるな」
「お願いですからこれと同一で考えないでください……!」
「もういいんじゃない? 普通に付き合えば」
「ちょっとぉ!?」
・フェイバリットに踊らせて
咲ちゃんのソロ曲。
この曲を初めて聞いたときの衝撃といったら……。
・「実は僕……三人の女の子を同時に好きになってしまって」
女性陣が女性陣ならば男性側もこれである。
・「男の人は男の人同士で」
ネットで有名になりすぎてしまった一コマ。
・「何って……女装だが?」
奇行に走る主人公を書いているときが一番楽しい。
・「無礼るなよ」
ウララちゃんは別だ。
・「こんな格好だけどお兄さんなんだ」
名も無き少年の未来やいかに。
・桜井夢子ちゃん
ガチで忘れてました本当にごめんなさい。
・「複数人の女の人と付き合ってる人」
・Jプロダクションのジーザス中井さん
『君のことが大大大大大好きな100人の彼女』アニメ二期絶賛放映中!
今度は男性サイドという名の涼のお話、という名のただの馬鹿話()
なにもかんがえずにかくのたのしー!()