今回のライブで使用させてもらっているドームには、当然使用してない区画というものが存在する。いくら出演アイドルとスタッフの数が多いとはいえ、ドーム全体を隈なく使用するような状況になるわけがない。故に
それらの空き部屋は、例えば一人で落ち着きたいときだったり、例えば練習狂いを軟禁したいときだったり、そういう不測の事態のときに使用される。
……そしてそんな空き部屋であるはずの一室において、現在進行形で『不測の事態』が起こっていた。
「やっほー! 良太郎! 麗華ちゃん!」
かつて日本の頂点に立った元トップアイドル 日高舞
「お邪魔してるわよ」
全米の頂点に立つ最凶のトップアイドル 玲音
この場にいるはずがない……いや、いてはいけない二人がそこにいた。
「「……………」」
「あら? リアクション薄いわね?」
「もうちょっとこう大きなリアクションがないと寂しいんだけど」
残念ながら『驚愕』よりも先に『絶望』で心が満たされてしまったので、俺も麗華もガックリと肩を落とすことしかできなかった。いっそのこと溜息を吐いて身体中の空気を外に出して萎んでしまいたい。
「……なんでここにいるんだ?」
正直勝手に用件を喋ってもらいたいところなのだが、どうやらこちらからリアクションを起こさないと会話イベントが進まないらしい。コントローラーのAボタンを押すように無感情に当たり障りのない定型文のような質問を投げかける。
「勿論、ハニーの雄姿を特等席で見守るためだよ」
「……………」
今俺の心の中の何かがベキッと折れる音がした。
「しっかりしなさい! アンタが折れたら私一人でこの怪獣たちの対応をしないといけないのよ!?」
「もう野放しにしない?」
「諦めるなぁ!」
麗華からもらったりんのグラビア没写真で心を癒してから再び二人と向き合う。このままグダグダしていても話が進まないので、そろそろ主人公兼狂言回しとしての役目を果たすとしよう。
とりあえず問いただしたいのは『何故』『どうやって』という二つの疑問なのだが、後者に関しては二人と一緒にいる
「貴女の手引きでしたか……まなみさん」
「ごめんなさいぃ~……」
深々と頭を下げる眼鏡の女性は、本来876プロダクションで愛ちゃんたちのマネージャーをしている岡本まなみさんである。
「愛のマネージャーってことは私のマネージャー同然でしょ。寧ろ私のマネージャーを愛に貸し出してると言っても過言ではないわね」
「古き良きジャイアン的言動だぁ……」
全く同じポジションであるにも関わらず聖人的言動しかしてないガチゴリラ氏を見習ってくれ。
「勿論、私一人じゃここまで出来なかったので、お二人のお名前をお借りして、少しずつ運営スタッフの中で協力者を作らせていただいて……」
「やっぱりここに連れてきたスタッフやドアの前のスタッフも内通者だったか……」
「今後はちゃんと運営スタッフ内であっても間者対策をしないといけないわね……」
これで『どうやって』という手段に対する疑問は解消された。
残る疑問は『何故』。一番重要なことである。
「……で、結局何しに来たんですか、舞さん」
「ねーねー、さっきから露骨にアタシのこと無視してない?」
「煩い黙れ俺は舞さんに話しかけている」
「剣呑なハニーも素敵」
「話には聞いてたけど、アンタたち愉快な関係ね」
どうやら俺と舞さんの間では『愉快』という言葉の認識が違うらしい。
「何しに来たって言われれば、そんなもの参加しに来たに決まってるじゃない。ほら『現地参戦』っていうやつよ」
「舞さん、それそういう意味の言葉じゃないです」
現地参戦っていうのは『ライブを現地で観る』っていう意味であって『ライブを現地で参加する』っていう意味じゃない。
「それで今回のライブの進行表を見させてもらったんだけど」
「……情報漏洩」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
デカデカと表紙に『社外秘』と書かれた小冊子を捲る舞さん。麗華にギロリと睨まれてまなみさんは必死に頭を下げていた。
「アンタたち、
「……………」
今度は小冊子の表紙を手の甲で叩いた舞さんをギロリと睨む麗華。先ほどよりも数割怒気が混ざっているような気もするが、これは俺たちが考えたライブの内容にケチを付けられた形になるのだから仕方がない。
「言ってくれるじゃない、日高舞。私たちのライブに文句があるわけ?」
「えぇ、そりゃあもう。
「……………」
「やめろ麗華、その怒りは尤もだけどその
麗華が真っ先に怒りを露わにしたことで逆に俺は冷静になれた。一体舞さんはこのライブの何処にミスがあると言っているのだろうか。
「差し当たって、まずはアンタたちに要求がある」
ここまでずっとニコニコと人当たりの良かった舞さんの笑顔が、ギラリと狂暴なそれに変わった。
「アンタたちの曲、寄こしなさい」
私は今、伝説を目撃していた。
『Boring ホントつまんない』
『Ridiculous ホントくだらない』
『いつも付けてる勝者の首飾り』
『いい加減見飽きた一等賞のメダル』
あの『日高舞』が、あの『玲音』が、二人並んでステージに立っている。
『Boring ホントつまんない』
『Ridiculous ホントくだらない』
『敵とか味方とかどーでもいいから』
『そろそろホンキ出してくんない?』
何がどうなってなんて考える余裕なんてなかった。きっと隣の奈緒と加蓮も……いや、きっと会場中の観客が同じだろう。そんなことに意識を割く暇なんてない。
『閉ざされた冬で寝ぼけてんじゃねーよ』
『暖かい春に夢見てんじゃねーよ』
『『オレの首を落とす覚悟を見せな!』』
きっとこれが、新たな伝説が生まれる瞬間なんだ。
「なんだってこんなことになってんだよ……!」
突然の伝説の襲来に観客席は混沌とした盛り上がりを見せる一方で、ステージ裏では阿鼻叫喚といった様子の混乱を極めていた。
「変更されたタイムラインです! 全員すぐに確認してください!」
「曲順の変更があります! すぐに準備を!」
スタッフたちが慌ただしく動き回り、アイドルたちもそれに合わせて行動を開始した。
「えっと、この後は確か……!」
「準備入ります!」
「えっ、もしかして俺も!?」
ここまで順調に進んでいた分、若干の気の緩みがあったかもしれない。それでも全員、しっかりと動くことが出来ていることが幸いだった。
……さてと。
「……秋月ぃ! 日高ぁ!」
「「はいぃぃぃ!?」」
先ほどから他の人たちとは違う様子で挙動不審になっていたアイドル二人を呼ぶ。
「オメェらなんか知ってんだろ……!?」
「「ひ、ひぃぃぃ!?」」
「冬馬君落ち着きなって」
「怯えさせてどうするんだ」
ガタガタ震える二人との間に翔太と北斗が割って入ってくる。確かに少々大人げない態度だったと自省する。
「で、改めて聞くが……お前ら知ってたのか?」
「……すみません、知っていたわけじゃないんですけど……」
「……今朝、ママがおかしな様子だったということを、りょーおにーさんに伝えそびれました……」
「あー……なるほどね」
「冬馬、これだけで二人を責めるのは筋違いじゃないかな」
「……そうだな、怒鳴って悪かった」
確かにこの件に関して二人に落ち度はなさそうであるため、素直に謝罪する。
「それはそうと、なんだってあの二人がここに? 百歩譲ってライブに乱入してきたのはいいとして『日高舞』と『玲音』ってどんな組み合わせ?」
一番譲っちゃいけないところが譲歩されているが、確かに奇妙な組み合わせである。
「美琴、アンタ確か玲音と友だちだって言ってたわよね? 何か聞いてる?」
「ん……」
秋月律子が緋田先輩に尋ねているが、どうやら彼女も知らないらしい。二人の真意は全く分からない。そもそもどうやってこの会場に紛れ込んだのかというのも本気で分からない。
ただ一つ、分かることがあるとすれば。
『NECK/LESS!! オレはこの首に勝利をカケル』
『雁首揃えてそこに並びな いちにのさんでサヨナラバイバイ』
『完璧』だということだ。
現役で世界に名を馳せるトップアイドルである『玲音』はともかく、既に引退して十八年になるはずの『日高舞』のパフォーマンスまで完璧なのだ。ハッキリ言って意味が分からない。化け物以外の表現が見つからない。
(これが……アイツが、良太郎が戦ってる『輝きの向こう側』の世界なのか……!?)
『NECK/LESS!! オレはこの首に未来をカケル』
『首だけ置いてそこに並べな ずっとイイユメ見せてやるよ』
『『さぁ次の王様だーれだ?』』
・共犯者まなみさん
原作でも舞さんの協力者になった彼女。アイ転でも同じ運命に。
・ガチゴリラ氏
劇場版ロボ子バース楽しみ。
・内通者
Lesson424のあとがきの『この中に一人嘘つきがいる』というのは「空き部屋を知らべましたがいません!」と言っていたスタッフでした。
調べるフリをして隠していました。
久しぶりにオリジナル楽曲の歌詞考えました。やはりセンスがない。
本題はそちらではなく、良太郎と舞さんの会話シーンです。ようやくです。ようやく辿り着きました。11年前からずっと書きたかったことを書きます。