「あの『日高舞』と『玲音』のサプライズユニットの衝撃で『ここから先ちゃんと盛り上がれるのか心配』って思ったけど……」
「まさしく杞憂だったな……」
「だね」
加蓮と奈緒の会話に同意する。
突然現れたかつての『トップアイドル』と最凶の『トップアイドル』によるユニットに、観客席は騒然となりつつも盛り上がった。そしてさらにそこから立て続けに現在の日本を代表する『トップアイドル』のステージに、私たちはここまで盛り上がることが出来るのかと自分で驚くぐらい我を忘れて熱狂してしまった。
そして私たちを含め、観客席は高まり切ったボルテージがさらに期待と興奮でさらに上昇していくのを感じていた。
「ここまで来たら……次は絶対そうだよね奈緒!?」
「そ、そうだろうな」
「そうだと言って奈緒!」
「言ったぞ!?」
「だね」
「そんでもってさっきから凛はそれしか言わねぇな!? フシギダネか!?」
「だね」
重症りょーいん患者の加蓮が奈緒にウザ絡みするほど荒ぶっている。かくいう私も平静を装っているだけで、気を抜けば口から激情が雄叫びとなって漏れ出てしまうことが目に見えているので、必要なこと以外は口にしないようにしているのだ。
そう、ここまでの流れ、出演者の順番から考えると、次はついに……!
――星が流れた。
ゆっくりと照明が暗転し、暗くなっていく会場の天井や壁に、星が流れていく。
私は『周藤良太郎』の全てのライブ映像を網羅していると自負しているが、これに似た演出を見たことがない。
そして『星』を連想する演出、つまりこれは、まさか……!
『あの日見上げた夜空の中で』
『無限に広がる瞬きの中で』
『ボクにとっての一番星を見つけたんだ』
まだ一度もライブで披露されていない……!
Aster Sky
周藤 良太郎
「ひぎゃあああぁぁぁ!!!」
聞きたかった曲の予想が当たって加蓮が悲鳴を上げてるけどそんなこと気にしてる余裕は私にだってない良太郎さあああぁぁぁん!!!
「舞からその話を聞いたときは『まさか』って思ったけど……その反応を見ると、本当に引退するつもりだったんだ」
「……別に、すぐに引退するとは言ってないわよ」
口を噤む俺と麗華の様子を見て、玲音が少し驚いていた。それに対して麗華が代わりに反論をする。
「でも認めるわけね?」
「……はい」
そして舞さんからの改めての確認の言葉に、俺は正直に肯定した。
今日とは言わない。明日とも来週とも来月とも来年とも言わない。けれどきっと三年以上続けることはない。
『周藤良太郎』はアイドルを引退する。
それは今回のライブ開始前からずっと兄貴とも相談し続けていた決定事項だった。
「……別に、アンタたちがアイドルを辞めること自体にとやかく言うつもりはないわ。理由も今は聞かない。私だって、いきなりアイドルを引退した身だし」
そう言いつつも舞さんは「でもね」と厳しい目線を俺と麗華に向ける。
「だったら、なおさらなんでこんなライブ構成にしたのよ。これじゃまるで
今回の紅白歌合戦形式のライブ。優劣を決めるような形式のこのライブにおいて、最終的な着地点をどうするのかという問題の解決策。要するに『赤組と白組の共通の敵が現れることにより両陣営が結託して立ち向かう』という、ハイパー戦隊のⅤシネ的な意味合いでの着地点を想定していたわけである。
そして舞さんの言うように、その共通の敵というのが『周藤良太郎』と『魔王エンジェル』という、現在の日本のアイドルの頂点に君臨する四人になる予定だった。
しかしそれはあくまでも演出。少なくとも今回ライブに出演するアイドルたちはそれに対してなんの疑問も抱いておらず『そういうシナリオのライブなんだな』という認識しか持ち合わせていないはずだ。
……そう、
そのための新曲『NECK/LESS』。敵として立ち塞がりつつも、その首を獲ってもらいたいという俺たちの願い。
「……いずれ、みんなには『俺たちがいない世界』でアイドルを頑張ってもらわないといけない」
「そうなったとき、いつまでも『周藤良太郎』と『魔王エンジェル』の存在が残っていては……
『記憶』は消せない。しかし『印象』は拭い去ることが出来る。今のアイドルたちは、次の時代を担うトップアイドルたちは、しっかりと前の時代のトップアイドルと
「だから……!」
「だから! なんでこんなことするんだっつってんのよ!」
舞さんを説得しようと張り上げた声は、さらにそれを上回る舞さんの声によって掻き消された。
「アンタいつも『アイドルの王様』になるっつってんじゃない! あの子たち守るためにアイドルやってたんじゃないの!? それなのに、何いきなり『敵』になろうとしてんのよ! 例え演出だったとしても、今のアイドルたちを裏切るような真似してんじゃないわよ!」
「でもそれは……!」
「うっさい! 口答えすんな!」
圧倒的理不尽。しかし今の俺と麗華に、それに対する心の余裕なんてなかった。
「愛を含め、あの子たちはアンタたちを信頼してるのよ! だったら最後まで味方でいなさい! すぐそばで見守って、手を差し伸ばして、一緒に走り続けた『アイドルの王様』のまま天寿を全うしなさい! 首を切ってもらうなんて
「……………」
反論は出来なかった。それが甘えであると、俺も理解してしまったから。
それでも。
「……舞さんの言いたいことは分かりました。ですが、構成は変えません」
この『共通の敵が現れる』という構成は、後の楽曲にも繋がるため変えることは出来ない。それは俺たちだけじゃなく、
「だから言ったじゃない。『アンタたちの曲を寄こせ』って」
「……あ」
「敵が必要なんでしょ? いるじゃない、ここに。いきなり乱入してくる悪役ポジションで、後腐れなく倒すことが出来て……倒されるべき『アイドル冬の時代』を引き起こした元凶が」
舞さんが……『日高舞』が、立ち上がった。
「昔、私が言ったこと忘れた?」
――だからこそ、私たちが守ってあげないといけないのよ。
――キラキラと輝く子どもたちの夢を守るのが。
「『大人』の役目。……今までずっと、『日高舞』の後始末をさせて悪かったわね」
舞さんは佇む俺と麗華の手を取って微笑んだ。
「後は私が引き受けるわ」
『手を伸ばすのは誰にでも出来て』
『だけど触れるには少し遠過ぎて』
『自分の手の届く場所の狭さを知ったんだ』
(ホント、敵わないな)
歌いながら、俺は先ほどの舞さんとのやり取りを思い返す。
敵になるつもりだった。敵として散るつもりだった。
いや正確には今日とか明日とかに引退するつりはなかったが、それでも今日この場所でアイドルとしてのケジメを付けるつもりだった。
冬馬や春香ちゃんたちのことを信頼していないわけじゃない。みんなの実力を疑ったこともない。それでも、どうしても……心配になってしまったんだ。
『どうやら今のボクには足りていない』
『どうやらここからじゃ何も変わらない』
舞さんはそれを知って、駆け付けてくれた。
……情報の出所とか、乱入という形になったことは、もうこの際目を瞑ろう。きっと普通に説得をされていたら、俺も麗華も反発していた。既に引き返せない状況にしてから企画を進めた俺たちが、同じやり方でやり返された形だ。
『なら何度だって試せばいい』
『なら何度だって踏み出せばいい』
『星に触れるには星になる覚悟が必要なんだ』
――それで結局なんでアンタはここにいるのよ。
――別に? 本当にただ遊びに来ただけだけど。
――舞が面白そうなことしようとしてたから便乗しただけ。
当然、便乗してきた奴に礼なんか言わない。こいつに至ってはマジで愉快犯だ。
――でも、それが『周藤良太郎』のためになるのであれば。
――アタシは喜んで敵にでも恨まれ役にでもやられ役にでもなってあげる。
――そうした方が、日本のアイドルはもっと面白くなってくれるんでしょ?
……礼なんて、言ってやらない。
『身に纏うガラクタを振り払って』
『壁を蹴って落ちるように走り出せ』
『余計なことは後から考えればいい』
覚悟は決まった。そして決意も固まった。
『周藤良太郎』は最後までみんなと共にあろう。
アイドルを引退するその瞬間まで『アイドルの王様』であり続けよう。
『流星も追い越すような速さで』
『「これが自分なんだ」と叩きつけろ』
それが『オトナ』としての役目であると同時に。
『コドモ』としての最後の甘えだ。
『Aster Sky それがボクたちの行き先の名だ』
・だね
語彙力消失中。
・Aster Sky
『周藤良太郎』のためのオリジナル楽曲。読み方は『アステール・スカイ』。
前回に引き続き元ネタというかモチーフがあって、『シャングリラ・フロンティア』内で使用された技の名前。
どんな状況であろうとも『自分の好きなこと』を貫いた男が見せた奇跡。
・引退
なのでアイ転そのものがすぐに終わるわけではない。
まだシャニマス編も学マス編も書いてないし! それ書いてるうちに新ブランドも来るだろうし!
・兄貴とも相談し続けていた決定事項
Lesson319
・「昔、私が言ったこと忘れた?」
Lesson16
・既に引き返せない状況
良太郎「それ以外の選択肢がない状況にしてから、敵になります」
舞「ライブに乱入して、それ以外の選択肢がない状況にします」
まだ開示しきれていない情報は次話以降になりますが、ずっと書きたかったところです。
第八章を書き始めた時から。日高舞と周藤良太郎を始めて会話させたあの時から。