『日高舞』と『玲音』の乱入。それは間違いなくトラブルと呼んで差し支えないハプニングだった。
しかしそれでもライブは進行する。歌唱メンバーと曲順の変更はあったが、元々のライブのシナリオである『実は赤組と白組のトップは裏で結託していた悪で、残りのメンバーが協力して悪を打ち倒す』というヒーローもののような流れからは大きく外れていない。
当初の『周藤良太郎&魔王エンジェル』対『連合軍』から『突然現れた最凶アイドルユニット』対『現代日本アイドルトップ2』対『連合軍』になった形だ。
……俺たちのポジションが凄くダークライ感に溢れている。もしくはまたしても何も知らない人。
(……でも、負ける気なんてサラサラねぇ)
新たに組まれたタイムラインでは『俺たち』の出番は今ステージで披露している『魔王エンジェル』の次の次。本来良太郎たちが悪役ムーブをする茶番パートが飛ばされた形になるため、急いでステージに立つ準備を進める。
「冬馬さん、全員揃いました」
歌唱メンバーである北沢に声をかけられ、振り返る。
「
「……本当はそんなもんないんだけどな」
アイドルとしての知名度的なものを加味して『Jupiter』の俺がリーダー扱いになっているだけで、このメンバーにそんなものは存在しない。
本来『周藤良太郎』と『魔王エンジェル』に立ち向かうために集まり、突発的に『日高舞』と『玲音』にも喧嘩を売ることになったこのメンバーは……全員が『絶対的な覚悟を決めたアイドル』たちなのだから。
「余計なことは言わねぇ」
衣装を着替え、ステージに立つ準備を終えたメンバー全員を見渡す。
――123プロ『北沢志保』
――315プロ『桜庭薫』
――765プロ『最上静香』
――346プロ『夢見りあむ』
――876プロ『秋月亮』
――310プロ『フェイト・テスタロッサ』
――283プロ『緋田美琴』
「ジャイアントキリング。俺たち全員で、勝つぞ」
掛け声はいらない。円陣もいらない。
覚悟だけがそこにあればいい。
「いや絶対に人選間違ってるって!」
「りあむさんが荒れてるんご……」
「もしかして:いつもの」
今日も今日とて346プロダクションの事務所の一室では、りあむサンが汚い声をあげながら床を転げ回っていた。
「あ、りあむサン、もうちょっと奥の方で転がってもらえマスカ? 昨日その辺で颯チャンがお菓子を落としていたので」
「ロボット掃除機扱いしないでもらえるかなぁ!?」
「人扱いして欲しかったらもう少し尊厳のある行動をしてくだサイ」
「ぐうの音も出ないほどの正論っ!」
そんな普段通りのやり取りを終えて一息ついたりあむサンは床から起き上がると、しおしおと力無くソファーに腰を下ろした。
「……そんなに嫌なの?」
「あ、いや、嫌っていうわけじゃないんだけど……」
あかりチャンからの純粋に心配されてしまい、りあむサンは言葉を濁らせる。
「……まぁ、正直なことを言えばりあむサンの言いたいことも分かりますよ。多分自分でも同じようなリアクションをしてたと思いマス」
「えっ……あきらちゃんも床を転げ回ってた……ってことぉ!?」
「あ゛?」
「わァ……あ……」
「泣いちゃった!」
(やたらと身体つきはえっ)ちい(くせに色々と残念で)かわ(いそうな人)はさておき、現在彼女が置かれている状況に関してだけは同情の余地があるとは思っている。
なにせ、今回のライブに出演するアイドルの中からオリジナルユニットのメンバーに選出されたのだから。
ただでさえ自分たちは346プロダクションという大きな枠組みの中から選ばれた選抜メンバーと言っても過言ではないのに、そんな各事務所から集まったアイドルたちの中でさらに選抜されてしまったのである。しかも他のメンツがなかなかどうして……。
「『天ヶ瀬冬馬』と『北沢志保』を筆頭に錚々たるメンバーが揃ってマスからね」
「うぅ……このメンツだと、デビューが近い静香ちゃんとフェイトちゃんぐらいしか心の拠り所がないよぉ……」
「は? 去年のクリスマス以降人気急上昇中の『最上静香』や大女優の血を継いで次世代の大女優間違いなしと言われている『フェイト・テスタロッサ』と、自分が同格だとでも仰りマスか?」
「りあむさん、流石に身の程は弁えた方がいいと思うよ?」
「せめて君たちはぼくの味方であってくれよぉ!」
定期りあ虐はさておき。このメンバーの中にりあむサンが選ばれた理由があるとすれば……。
「まぁ、このユニットで歌唱する曲のコンセプトに、りあむサンが一番適しているからじゃないデスかね」
「え? というと……」
そう、今回のライブにおいて『強大な敵に立ち向かう』という目的のために集められたこのユニットのコンセプト、それは――。
「――燃える」
「結局オチ担当じゃないですかヤダー!」
「ふぅ……」
一曲を歌い終え、私は一息付く。
それは、今回の合同ライブオリジナルユニットが歌唱する楽曲。光栄なことに私が765プロを代表してそのユニットに選ばれたため、こうして自主練をしているわけなのだが……。
(……激しい……まるで、燃えるような曲……)
熱いなんて表現では生温く、灼熱なんて表現でもまだ足りない。それは炎そのもののような熱さが込められた曲だった。
(振り付けが殆どないことが救い……いや、逆だ)
振り付けがなく、マイクすら手に持たずスタンドマイクに預けて歌唱する予定のこの歌は、つまり『全身全霊を曲に注ぎ込め』という意味である。
一曲をフルで歌い切っただけで全力疾走を終えたような疲労感が体を襲う。軽く流して歌うつもりだったのに、気が付けば全力で歌ってしまう……そんな不思議な魔力を秘めた曲だった。
少しだけ重くなった足取りで、レッスン室の壁際に置いておいたスポーツドリンクとタオルの元に辿り着く。本当にダンスレッスンを終えた後のような疲労感だった。
「お疲れ様、静香」
「っ!? ち、千早さん!?」
突然声をかけられ驚き振り返ると、そこにはなんと千早さんがいた。
「ご、ごめんなさい、驚かせちゃったかしら」
「だ、大丈夫です! えっと、どうしてここに……?」
「レッスン室の外を歩いてたら、たまたま静香が凄い迫力で歌っている様子が見えちゃって……あ、大丈夫、曲は聞いてないから安心して。きっと今度の合同ライブの曲なのよね?」
「は、はい、そうです」
一瞬『千早さんに聞いてもらって何かアドバイスが欲しい』なんて思ってしまったが、今回のライブにおいて千早さんは部外者、新曲を聞かせるわけにはいかなかった。
「そんなに難しい曲なの? そんなに息を切らせるぐらい何度も歌うなんて……」
「あ、いえ、その……一回しか歌ってないんです」
「え?」
「一回しか歌ってないのに息が切れちゃうぐらい、凄い曲なんです。なんでも『周藤良太郎』や『魔王エンジェル』に立ち向かうための曲だって……」
「……………」
「あっ!? ごめんなさい! 忘れてください!」
余計なことを言いすぎてしまい、慌てる。……なんだろう、普段から部外者だというのに他の事務所に出入りしまくっているトップアイドルのせいで感覚が狂ってしまったのかもしれない。
「……うん、忘れる。でも、これだけは教えて欲しいの」
千早さんならばきっと苦笑しつつ頷いてくれると思った。しかしそんな予想とは違い、千早さんは真剣な表情で私に尋ねてきた。
「その曲、もしかして良太郎さんの考案?」
「……はい、そう聞いてます」
言わない方がいいことだとは思いつつも、良太郎さんと仲の良い千早さんにだったらこれぐらい話してもいいかと、私は正直に頷いてしまった。
「……………」
再び思案顔になる千早さん。やっぱり言わない方が良かった……!?
「……そっか。やっぱり、そうなんだ」
「え?」
「ううん、ごめんなさい、何でもないの」
そう言って千早さんは首を横に振ったが……何故か、悲しそうに笑っていた。
「頑張ってね、静香」
「はいっ!」
その曲は、『周藤良太郎』の巻き起こした熱が冷めやらぬ中、始まった。
その曲は、彼が巻き起こした熱狂の渦の中、始まった。
どんな曲であろうときっと見劣りしてしまうのではないか、そんな観客の一抹の心配を、真正面から『焼き尽くした』。
『燃えろ!』
『『燃えろ!』』
『『『『『燃えろ!』』』』』
それは『炎』ではなく『光』だった。
『揺らせ!』
『『揺らせ!』』
『『『『『揺らせ!』』』』』
眩しい
『理屈なんてどうでもいい!』
『誰が相手とかどうでもいい!』
『今ここで!』
『全てを焼き払う!』
Burning Shaker
『D@VID』
天ヶ瀬 冬馬/桜庭 薫/秋月 凉
北沢 志保/最上 静香/夢見 りあむ
緋田 美琴/フェイト・テスタロッサ
・THE IDOL MASTERS
(作者も忘れてた)今回の合同ライブのタイトル。
・ダークライ
・またしても何も知らない人
ネットでいつも誰かと戦わせられてる人たち。
・荒ぶるりあむ
い つ も の
・(やたらと身体つきはえっ)ちい(くせに色々と残念で)かわ(いそうな人)
まぁチチはデカいんだけどなガハハ!
・「……そっか。やっぱり、そうなんだ」
Lesson249
・Burning Shaker
・『D@VID』
オリジナル楽曲&オリジナルユニット。
ただひたすら熱く燃え上がるような楽曲を作りたかった。
ユニット名の由来はジャイアントキリングの代名詞とも呼べるお方。
合同ライブラストスパート!!!