アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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選抜メンバーのあれこれ。


Lesson447 THE IDOL MASTERS 2

 

 

 

「よぉ! 桜庭! 涼! 陣中見舞いに来てやったぜ!」

 

「お帰りはあちらだ」

 

「せめて入り口を指差せよ!?」

 

「あはは……」

 

 レッスン室にやって来た輝さんをゴミ箱へと誘導しようとする薫さんに、思わず苦笑を浮かべざるを得なかった。

 

「二人ともお疲れ様。差し入れ持ってきたよ」

 

「ありがとうございます、翼さん」

 

「……ありがとう」

 

「俺のときもその反応が欲しかったなぁ!?」

 

 翼さんが持ってきてくれた差し入れの袋の中にはチョコレートバーなどの軽食系が大量に入っていた。……きっと飲み物は当然持参してるだろうと判断した結果のチョイスなのだろうけど、ちょっとこの量は軽食を超えている気もする。

 

「それで、順調か?」

 

「はい。といっても、凄く大変ですけど……」

 

 今回、僕と薫さんが二人でレッスン室にいるのは、合同ライブで歌唱する楽曲の自主練が目的だった。

 

 僕と薫さんの他には『天ヶ瀬冬馬』や『北沢志保』といった、今回のライブにおける選抜メンバーとも呼べるアイドルが揃っている。これに後れを取るわけにはいかないと、こうして時間を見つけては自主練に励んでいるというわけだ。

 

「どういう雰囲気の曲なのかっていう概要だけは聞いたけど、なんというかこう、『熱血! 灼熱! 勝利!』って感じの曲なんだって?」

 

「えっと、まぁ、半分ぐらいはそんな感じです」

 

「半分?」

 

 輝さんの言葉に曖昧な返答をする僕に、翼さんは首を傾げた。

 

 そう答えたもののなんと説明すればよいか……と視線を薫さんに向けると、彼は小さくため息を吐きつつも「そうだな」と僕の言葉を引き継いでくれた。

 

「確かに、天道が好みそうな曲調ではある。ただ、君が想像しているような小綺麗な曲ではない。……何が何でも絶対に()()んだと、そんな覚悟を歌った曲だ」

 

「覚悟……」

 

 最初に僕がこの曲の歌唱メンバーに選ばれたと知ったとき、『どうして僕なんだろうか』と疑問に思った。今回のライブにおけるこの曲の役割と聞いて、その疑問はさらに深まった。

 

 しかし歌詞を読んで、曲を聞いて、歌ってみて、そこでようやく僕は気が付いた。

 

 僕は『ユニットメンバーに選ばれた』のではなく『この曲を歌うメンバーに選ばれた』のだ、と。

 

 

 

 

 

 

「選ばれた理由……」

 

「ですか?」

 

「うん」

 

 最近はもっぱらアイドルの自主練習場として利用されているウチの道場で、私とフェイトちゃんは美琴さんからそんな話を聞いていた。

 

 とある曲を歌うユニットメンバーとしてフェイトちゃんと美琴さんが選ばれ、その自主練の休憩中のおやつタイムとしてシュークリームを持ってきた私が、二人の会話に参加させてもらっている形だった。

 

「あむ」

 

 普段から食の細い美琴さんではあるが、最近は『ウチの道場で練習→そのまま自宅に招いて一緒にご飯』という流れでしっかりと食事をするようになり、さらにウチのシュークリームを大変お気に入ってくれたらしい。目に見えて上機嫌にシュークリームを一口食べてから、美琴さんは言葉を続けた。

 

「良太郎や麗華から聞いたわけじゃないけど……なんとなく、理由があると思うんだ」

 

「それは……まぁ、無作為に選ばれたわけじゃないと思いますけど」

 

「なんというか、こう……ギラギラしてるんだよね」

 

「ギラギラ……?」

 

 フェイトちゃんが視線で『私もギラギラしてるの?』と問いかけてくるが、流石に美琴さんの意図が分かりかねたので首を傾げる。

 

()()()()()()()()()()()、好戦的なスイッチがバチッと入るタイプ、みたいな」

 

「……あー」

 

「えっ!? 私ってそんなイメージなの!?」

 

 思わず納得した声を出してしまいフェイトちゃんがちょっとだけショックを受けているが……うん、フェイトちゃん割とそういうところあるよ? 普段温厚な分、ゲームとかの勝負ごとになると割と容赦無くなる瞬間があるよ?

 

 恐らく、ざっくりと簡単な言葉で一括りにすると『負けん気が強い』アイドルたちなんだと思う。

 

『きっと威嚇されたら攻撃力が一段階上がるんだろうな』

 

 脳内の良太郎さんはちょっと黙っててほしい。

 

「だからきっと今回のライブで『周藤良太郎』と『魔王エンジェル』に立ち向かう役目に選ばれたんだろうって言ってた」

 

「立ち向かう役目……」

 

 美琴さんの言葉に、フェイトちゃんはキュッと眉根を寄せた。少しだけプレッシャーを感じているのだろう……トライエースの中では一番そういう重責に弱いので少しだけ心配である。

 

「……………」

 

 だけど私にはそれ以上に気がかりなことがあって、私たちと良太郎さんが相対するという構図になるということを考えると……どうしても思い出してしまう。

 

 

 

 ――以前みたいに歌えなくなってる。

 

 

 

 ……あの日聞いてしまった、お兄ちゃんとフィアッセさんの会話を。

 

「……あれ? そういえば美琴さん、今『選ばれたんだろうって言ってた』って言いました?」

 

「え?」

 

 フェイトちゃんの指摘の言葉に、私も我に返った。

 

「えっと……一応社外秘なんですけど……誰かに喋っちゃったんですか……?」

 

「……えっと、その……少しだけ、れーちゃんに」

 

「「れーちゃん……」」

 

 フェイトちゃんと二人でその名前が指し示す人物が誰だったのか、たっぷり十秒ほど考えてから同時に思い出した。

 

「「玲音さんじゃないですか!?」」

 

 

 

「……様子を見に来てみれば」

 

 なんで成人女性が女子中学生二人にお説教されている状況になってんの? りょーさん困惑。

 

 

 

 

 

 

『走り始めた最初の一歩を』

 

『憧れて踏み出した最初の一歩を』

 

『忘れないように 胸に刻むんだ』

 

 

 

 それはまるで、力づくで叩きつけるような歌だった。

 

 

 

『《負けたくない》んじゃなくて《勝ちたい》んだ』

 

『《認めて欲しい》んじゃなくて《証明したい》んだ』

 

『ここにいることを ここまで来たことを』

 

 

 

 それはまるで、心の底から全てを曝け出すような歌だった。

 

 

 

『《選ばれた》んじゃなくて《選んだ》んだ』

 

『《偶然》じゃなくて《必然》なんだ』

 

『今ここにいるのは』

 

 

 

 そしてそれと同時に。

 

 

 

『お前の世界を変える偶像(ヤツ)だ!』

 

 

 

 一人のアイドルが、全てを託すための歌だった。

 

 

 

 

 

 

「……初めて聞いたけど、いい曲じゃない」

 

「うわビックリした」

 

 歌い終わった直後に再び雲隠れしていたはずの舞さんが、いつの間にか背後に立っていた。

 

 

 

 ――え、日高舞!?

 

 ――うわホントだ!?

 

 ――やっぱりさっきのはMRとかじゃなかったんだ!?

 

 

 

 突如姿を現した伝説のアイドルに、周りのスタッフがにわかにざわつき始める。

 

「ママ!? なんでいるの!? というかさっきのステージは何!?」

 

 さらに実母の登場に驚愕と困惑で混乱する娘もやって来た。

 

「そりゃあ勿論、こんなアイドルが沢山集まるお祭りなんだから参加したくなるに決まってるじゃない」

 

「もー!」

 

 脹れっ面の娘を揶揄うように笑う舞さん。ここだけを切り取ればただの仲の良い親子のやり取りである。

 

「というか初めて聞くって……ネックレスはちゃんと練習してたくせに?」

 

「そりゃ自分の曲なんだから練習するに決まってるでしょ」

 

「アンタの曲じゃねぇよ」

 

「それにサプライズ発表される曲を事前に聞いておくほど野暮じゃないわよ」

 

「どの口が」

 

 というかその言い方だと聞こうと思えば聞けたってことだな!? マジでどれだけの関係者巻き込んだんだこの人!?

 

「でも、その判断は間違ってなかったわ。……私は、こんなにいい曲にやられるのね」

 

「え、ママ……やられるって……それ、つまり……!?」

 

 

 

「……えぇ。今度こそ本当に、ママはアイドルを辞めるわ」

 

「今まで現役のつもりだったの!?」

 

 

 

 シリアスな場面でも天然を忘れない愛ちゃんが、笑顔のまま青筋を浮かべる舞さんによって頬を抓られていた。きっと彼女が言わなければ俺が言っていただろうから、少しだけ助かった気分になる。

 

「……正直なことを言うと、これぐらいで『日高舞』がやられるとは誰も思いませんよ」

 

「何言ってんのよ。アンタ本当にステージと客席見えてる?」

 

 舞さんに促され、俺は再びモニターに視線を向ける。

 

 

 

『燃えろ! 燃えろ! 燃えろ! 燃えろ!』

 

『氷を溶かす大輪の花は 過去の自分への手向け!』

 

 

 

 ステージでは、俺と麗華を中心としてライブ上層部全員で選抜した『勇者』たちが叫んで(うたって)いた。

 

 きっと俺たちの意図に気付いたとしても、迷いはしても躊躇うことなく刃を突き立ててくれる。そう信じた『勇者』たちが、歌っていた。

 

 

 

『揺らせ! 揺らせ! 揺らせ! 揺らせ!』

 

『氷を砕くほど大地を踏み締めて!』

 

『過去の自分を置き去りにして!』

 

 

 

「この歓声が聞こえない? ……誰も疑ってないわよ。この子たちのステージが、『日高舞』にも『玲音』にも『魔王エンジェル』にも『周藤良太郎』にも、負けてないって」

 

「……………」

 

 

 

 今は、返事は出来なかった。

 

 

 

「あ、玲音ちゃんから置き手紙もらってたんだった。はい」

 

「ありがとうございます」

 

「りょーおにーさん!? なんの躊躇いもなく破り捨てましたね?!」

 

 

 




・輝&りあむ@扱いが雑
アイ転のいじられキャラはだいたいこんな感じ。

・ウチの道場で練習→そのまま自宅に招いて一緒にご飯
何故かいつの間にか美琴が高町家の居候ポジになりそうになっている事実に作者が一番驚いている。なんで?

・『きっと威嚇されたら攻撃力が一段階上がるんだろうな』
霊獣ランドとドドゲザンでよく見る光景。

・お兄ちゃんとフィアッセさんの会話
実は聞いてしまっていた。

・「少しだけ、れーちゃんに」
『なんで玲音が乱入を?』という問いに対する回答の一つ。



 本当にオリジナルの歌詞を考えるのって大変でぇ……()
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