八事務所合同ライブ『THE IDOL MASTERS』。それは後の日本のアイドル史において『アイドル春の時代の始まり』とも称される一つのターニングポイントとして語り継がれることになるライブである。
『周藤良太郎』が所属する123プロダクション、『魔王エンジェル』が所属する1054プロダクションを中心として八つの芸能事務所が合同で開催したこのライブは、多くのアイドルたちが『新たな時代の幕開けを見たような気がした』といった旨の感想を述べている。事実、このライブの翌年からアイドル業界はさらに勢いを見せ、日本は世界においても『アイドル大国』と称されるようになる。
しかし、この歴史に名を残すほどの盛大なライブが――。
――とある一人の男の
『みんな! 今日は本当にありがとうございました!』
『『『ありがとうございました!』』』
このライブのために作られた
最後の曲を終えて舞台に下がると何が起こるのかだって?
知らんのか?
というわけで全出演アイドル大急ぎでアンコールに出演するための準備である。
「おーらお前ら全力で着替えろー!」
「言われなくともおおおぉぉぉ!」
「男どもは走りながら脱げ! 今更恥ずかしがるな!」
「せんせー! さっきから佐久間さんがこっち見てます!」
「恐らく主に良太郎さんの方を!」
「見たけりゃ見せてやるよぉ!」
「あぁ!? まゆ!?」
「ついでに美希ちゃんと真美ちゃんも逝ったぁ!」
「3キル!」
「あれ!? りんさんは!?」
「耐えてる!」
「これが強者の余裕ってやつ!?」
「せんせー! ついでに周子ちゃんも鼻を抑えてまぁす!」
「こっちは多分ハイジョにやられてる!」
「りょーいん患者勢よりも当たり判定デカそう!」
「アンタら全員ふざけてると○すわよ」
「うわ東豪寺さんがガチギレだ!?」
「急げ急げアンコールに応える前に死んでたまるか!」
バタバタと完全に男子高校生のノリ全開で駆け抜けながらアンコールの準備に奔走する男性陣。女性陣も何やら騒いでいるものの、再登場に向けて頑張ってもらいたい。
……忙しい。あぁ忙しい。忙しないったらありゃしない。アイドルになってから……いや『周藤良太郎』として売れ始めてからはずっとそうだ。
東にテレビ出演を求める声があれば、行ってテレビの向こうのファンに向かって歌を届ける。西にライブ出演を求める声があれば、行って直接ファンをパフォーマンスで魅了する。
ステージの上だけでなくこうしてステージの裏でも慌ただしく動き回り、息つく暇なんて数えるぐらい。
……でも、みんな笑っている。
一緒に着替えに奔走するアイドルたちは、切羽詰まった状況だというのにみんな笑っていた。今が楽しくて仕方がないと笑っていた。
俺たちのステージを支えてくれるスタッフたちも次のステージの準備を進めながら、それでも口元には抑えきれぬ笑顔があった。
今頃アンコールの大合唱をしてくれている会場のファンたちも、きっと笑顔で俺たちの再登場を待ってくれていることだろう。
みんな、みんな、みんな。
みんな、笑っている。
アンコール!
アンコール!
アンコール!
会場中に歓声が響く。
アイドルたちの再登場を願う歓声が響く。
この楽しい時間をもう一度、もう少しだけ、そんな願いが歓声となって響く。
そんな歓声に応えるために、再びステージの上にアイドルたちが姿を現す。
『みんな! アンコールありがとう!』
わあああぁぁぁ!!!
先ほどまでは男女で別々のステージに立っていたが、既にその垣根は取り払われた。二つのステージに男女で混在するように総勢五十四人のアイドルたちがステージに立つ。
これが最後。本当に最後。このライブを終わらせるための最後の曲に入るためのMCをしようとマイクを掲げて――。
『最後の曲は、観客を含めたみんなで歌うわよ!』
「……え?」
――突然、りんが
『歌詞はモニターに表示されます!』
『お前らもちゃんと声出せよ!』
続いて春香ちゃんと冬馬までもそんなことを言い出した。それに対して他のみんなは何も驚いた様子を見せない。寧ろチラチラと面白そうに俺の方を見ている。
最後のアンコール曲は俺の『Re:birthday』の八事務所アレンジのはずで、それなのにまるで
「……あ」
え……マジ? そういうこと?
俺の様子に気付いたらしく、りんが俺の顔を覗き込んだ。
「いひひっ」
……やられた。
アイMUST GO!
∞ production ALL STARS
『『『この道の向こう 進んだ先は』』』
『『『どんな未来があるのだろう』』』
それは『道を歩き続けた先を夢見る』曲だった。
『『『その未来を確かめるため』』』
『『『歩いていくよ』』』
『『『そうだ始まりは 小っちゃい希望なんだ』』』
『『『どこへ進んでも その軌跡は力になる』』』
――みんな、いい?
――竜宮小町が!
――来るまで!
――私たち!
――歌って!
――踊って!
――最後まで!
――力いっぱい!
――頑張るの!
それは『小さな始まりを懐かしむ』曲だった。
『『『なんでも始まりは 上手にできないもの』』』
『『『何度も迷っては 見つけていく 本当の道』』』
――私、凛ちゃんの気持ちも考えずに、酷いこと言っちゃった……!
――私こそ、卯月の気持ち、なんにも考えてなかった……!
それは『失敗すらも糧に変えていく』曲だった。
『『『なりたい夢 成したい夢』』』
『『『誰だってある 叶えたいこと』』』
――でも、私の夢は、きっと今ここだから。
――今このステージに立っている私が、私の夢そのものだから!
それは『誰にでもある大切な夢を歌った』曲だった。
『『『みんなの夢 ひとつになって』』』
『『『でっかい物語 作ろう』』』
――足並みを揃えているつもりでも、向かっている方向がバラバラだった。
――でもリョーさんがライブの話を持ってきてくれたおかげで。
――みんな一つの方向を向けたんだと思う。
それは『全員で一つの夢物語を紡ぐ』曲だった。
『『『君がいたから 君を信じて』』』
『『『君と二人で 仰ぐ空』』』
『『『溢れ出しそうなこの思いは』』』
『『『きっと忘れずにいるよ』』』
そしてそれは、自分たちを繋いでくれた『とあるアイドル』への、自分たちの夢の果てでずっと待ってくれている『とあるアイドル』への、
『『『この道の向こう 進んだ先は』』』
『『『どんな未来があるのだろう』』』
『『『その世界を確かめるため』』』
『『『歩き続けるんだ』』』
これでもトップアイドルの端くれ。例え
だというのに、ステージ上で自由に動き回るアイドルたちは皆一様に俺の様子をニヤニヤと眺めていやがる。こいつら……!
「素直になってくれてもいいんだよ?」
マイクを下ろしたりんがこっそりと俺に話しかける。
「俺はずっと素直だよ。……自分に素直に、好き勝手やってきただけなんだ」
そう、今回のライブだって、色々と建前を並べたところで、その一番根っこの部分に存在する理由は、結局俺の我がままだったんだ。それは『野望』と言ってもいいのかもしれない。
たった一つ。
ずっと。
ずっとずっと、叶えたかった俺の願い。
「……なぁ、りん」
「……なぁに? りょーくん」
――俺、笑ってるか?
「……うん」
目に涙を浮かべたりんは、笑顔で頷いた。
「アタシが思わず羨んじゃうぐらい――」
――素敵な笑顔だよ。
「……そっか」
よかった。
ありがとう、みんな。
ありがとう、全てのアイドルたち。
ありがとう、全てのファンのみんな。
俺を『笑顔』にしてくれて。
ありがとう。
・アイ MUST GO
アイマス十周年記念合同ライブのテーマ曲。
何度でも泣ける。
・とある一人の男の私情
・『野望』
・叶えたかった俺の願い
物心ついたその日からずっと。
周藤良太郎は、笑いたかった。