アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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第九章最終話!


Lesson454 なんどでも笑おう 5

 

 

 

『道はそれぞれ違うけれど』

 

 

 

『目的地はきっと一緒なんだ』

 

 

 

『精一杯に輝いたら』

 

 

 

『最高の奇跡』

 

 

 

 

 

 

「あー疲れた」

 

「お疲れ様です……本当に」

 

 丁髷と一緒に畳を物置部屋に放り込んできたのでラウンジで一息つく。おかしい……今日は年末年始の疲れをのんびりを癒す予定だったはずなのに、終わってみればなんでこんなに疲れることになっているのだろうか。全くもって謎である。

 

「……あの、良太郎君、一つ気になることがあるんですけど……」

 

「なんですか?」

 

「これを聞くのはとても野暮なのだとは承知しているのですが……」

 

 珍しくなにか言いづらそうにしている美優さん。果たして彼女は何が気になっているのだろうか。

 

「……お年玉に、一体どれだけかけられたんですか……?」

 

「……………」

 

 ここは123プロの事務所。他に人の目も耳もないことは重々承知しているが、一度ザッと周りを見渡す。そして誰もいないことを確認した俺は、ちょいちょいと美優さんを手招きした。

 

 俺の行動の意図を読み取った美優さんは、緊張した面持ちで顔を近づけてくる。

 

 うーん、美人。美優さんじゃなくて志保ちゃん辺りだったらそっと耳元に息を吹きかける悪戯をしたいところではあるが、俺だって悪戯をする相手の取捨選択ぐらいは出来るのだ。

 

 こしょこしょ。

 

「ごっ……!?」

 

 パチンと自分の口元に手を当て、初めて見る表情の美優さんがズザッと後退った。

 

「他言無用でお願いします」

 

「……っ!」

 

 凄い勢いでコクコクと頷く美優さん。なんとなくではあるが、多分内心では(聞かなきゃよかった……)とか思ってるんだろうなぁ。

 

 うん、世の中には知らない方がいいこともあるのである。

 

 

 

「……ちなみに、税金とかどうなってるんですか……?」

 

「この世界はファンタジーなので」

 

 

 

 

 

 

 さてそろそろお仕事の時間だ……というところで更なる来客(ネクストチャレンジャー)が訪れてきたようである。どうやらお正月の挨拶回りエキストラステージに入ったらしい。

 

「ったく、来るならもうちょっと早く来いよなぁ」

 

 たった今丁髷と畳をしまったばかりだというのに。

 

 そんな文句を言いながらラウンジで来客を待っていると、()()()()は勢いよくドアを開けて入って来た。

 

 

 

「お年玉がもらえると聞いて」

 

「少なくともお前にはねぇよ」

 

「気が利かないわね」

 

「お? ぶぶ漬けがご所望か?」

 

 

 

 ふざけたことを抜かすともみと麗華が……と思いきや。

 

 

 

「りょーくうううぅぅぅん!!!」

 

 

 

 そんな二人を追い抜いて、最愛の女性が涙声と共に飛び込んできた。

 

「りんっ!」

 

「りょーくんっ!」

 

 ギュッと身体を抱きしめる。あぁ、本当に彼女との触れ合いはいつぶりになるのだろうか。記憶を遡ってみると、真面目に今年初めて直接顔を合わせるような気もする。通話で声は聴いていたが『顔を見ると余計に会いたくなるから』という理由でビデオ通話はお互いに禁止にしていた。それでも寂しさを埋めるために去年プチ旅行に行ったときのツーショットを心の支えに年末年始の激務を乗り越え、こうして再び――。

 

「これ長くなると思う?」

 

「アンタはならないと思うの?」

 

 

 

 

 

 

 正真正銘本日最後のお客様は魔王エンジェルの三人である。

 

「はい、というわけでね、リョウとりんが静かになるまで十五分かかりました」

 

「なんだ、そんだけしか経ってなかったか」

 

「もうちょっとイチャイチャする?」

 

「ともみ、やれ」

 

 膝の上に座るりん共々、麗華の指示により丸めた雑誌でともみに引っぱたかれた。

 

「……なんか懐かしい気分だな」

 

 しょうがないのでりんを膝から降ろしながら、ふとこの状況に既視感を覚えた。

 

「何が?」

 

「楽屋で寝てたら、麗華に雑誌で引っぱたかれたことあったろ」

 

「……あぁ」

 

「そんなことあったっけ?」

 

「覚えてない」

 

 どうやら麗華はすぐにピンときたらしいが、りんとともみは揃って首を傾げていた。

 

「あれね、確かアンタに『律子がプロデューサーとして活動してる』っていうことを教えてあげたときよね」

 

「そうそう、それそれ」

 

 あのときはテレビ局の俺の楽屋で今はウチの事務所という違いはあれど、あのときもこの四人だった。

 

「そもそもこうして四人だけで顔を合わせる機会もすっかり少なくなったからな」

 

「不思議だね」

 

「まぁ、それだけアタシたちも忙しくなったってことでしょ」

 

「は? 既にあの頃から魔王エンジェル(わたしたち)は忙しいんですけど?」

 

「なんで今アタシ、麗華に怒られてるの?」

 

 笑顔を隠すことなく「りょーくん、こわーい」と再びりんが擦り寄ってくる。

 

「今になって思い返してみれば、あの日が『周藤良太郎』にとってのターニングポイントだったのかもしれないな」

 

「……え、そんなに言うほど何かあった?」

 

「「……?」」

 

 三人は揃って首を傾げるが無理もない。というか、俺が勝手にそう思っているだけの話なので、ピンとこない方が当然だろう。

 

「正直、それまでの俺って割と自分のことで手一杯だったんだよ。他のアイドルのことなんて全然知らなかった」

 

 アイドルという存在を軽視していたつもりはない。それでも麗華に聞かされるまでりっちゃんのことも765プロの子たちのことも知らなかったし、その後でも『新幹少女』たちのことを「誰?」と聞いてしまったこともあった。……結構このときのことは個人的に引き摺っていたりする。

 

 だから、最初は気紛れだった。アイドルを引退してしまった元同期がプロデューサーをしているという事務所に、彼女がプロデュースしているというアイドルの様子を見に行く……ただそれだけのつもりだった。

 

 しかし、彼女たちを見ている内にあることに気付いたのだ。

 

 彼女たちならば……彼女たちじゃなくても、いずれ現れる()()()()()()()()『トップアイドル』ならば――。

 

 

 

 ――俺を『笑顔』にしてくれるのではないか。

 

 

 

「……結局、俺は『王様になる』っていう目標を隠れ蓑にして自分の野望を叶えようとしてただけなんだよ」

 

「別に、アンタが何しようとしてたかなんて知ったこっちゃないわよ」

 

 心底つまらないものを見るような目でフンッと鼻を鳴らす麗華。ともみも「それが何か?」みたいな様子で首を傾げているし、りんも優しい目で俺の頭を撫でていた。

 

「それで? 目標である『アイドルの王様(だいまおう)』になって『アイドル春の時代(せかいせいふく)』を果たしたアンタは、このまま引退でもするの?」

 

 頬杖をついてニヤニヤ笑いながら麗華はそんなことを問いかけてくるが、微塵もそんなこと考えていないことは丸分かりである。

 

「それも考えたけど……」

 

 だから考えただけだって。そんなショック受けた顔するな、りん。

 

「こんなに()()()()()()()()時代にアイドル引退するとか、人生損過ぎるだろ」

 

 頑張ってここまで辿り着いたっていうのに、いきなり部外者にされるなんて酷すぎる。俺だって楽しませろ。

 

 これから増え続けるアイドルたちも、活動が活発になっていくスクールアイドルも、麗華や他の財閥がこぞって進めている『アイドル専門学校』のことも、全てが気になりすぎて夜しか寝れそうにない。

 

 ……それに――。

 

 

 

「ふぅ……まだまだ。れーちゃんや良太郎たちには程遠い。頑張ろう」

 

 

 

「あー……ホント、みんなクソだわ」

 

 

 

 ――少し、気になる子が多すぎる。

 

「少なくとも、未練がある内はアイドルを続けるさ」

 

「塩撒けば勝手に成仏したりする?」

 

「なんだ? 塩でも送ってくれるのか?」

 

「あ、塩で思い出した。さっき言ってたのって、確か麗華がお土産に塩大福持ってきたときだっけ」

 

「なんでそれで思い出すんだよ」

 

「りょーくん、麗華たちとばっかりお話してちゃやだー! アタシもー!」

 

「ホントそろそろこの子こっちで引き取ってくれない?」

 

「1054から123への移籍ってなると色々と問題がなぁ」

 

「なんでそこでガチ案件になるの!?」

 

 

 

 1054プロダクション。

 

 この事務所の名前を挙げることなく日本のアイドル史を語ることは出来ない。アイドル春の時代を導いたのが『周藤良太郎』だとするならば、アイドル春の時代そのものの発展に尽力したのは1054プロダクション……引いては東豪寺麗華であった。『魔王エンジェル』は三人組アイドルの祖として長らく語り継がれることとなる。

 

 

 

 

 

 

「ん? お客様か?」

 

「はい、社長。りんさんたちがいらっしゃってまして……」

 

「……随分と楽しそうだな」

 

「はい……とても、楽しそうです」

 

 

 

(……よかったな、良太郎)

 

 

 

 123プロダクション。

 

 かの事務所を語る上で、多くの言葉はいらない。正真正銘『トップアイドル』の芸能事務所である。

 

 

 

 

 

 

 彼には、笑顔が無かった。

 

 それでも、多くの人たちを笑顔にする道を選んだ。

 

 そうして選んだ道の先に――。

 

 

 

 ――無くしたと思っていた、自分の笑顔があった。

 

 

 

 相変わらず表情は動かない。口も目も頬も眉も全て動く。しかし表情は動かない。

 

 それでも、アイドルたちが歌って踊るたびに。

 

 

 

 周藤良太郎は、何度でも笑うのである。

 

 

 

 

 

 

 アイドルの世界に転生したようです。

 

 第九章『アイ MUST GO!』 了

 

 

 




・「……お年玉に、一体どれだけかけられたんですか……?」
・「……ちなみに、税金とかどうなってるんですか……?」
ふかく かんがえては いけない。

・ラスト客人魔王エンジェル
自分で考えた設定を自画自賛するならば、最大の功績は彼女たちを登場させたことだと思っている。

・「楽屋で寝てたら、麗華に雑誌で引っぱたかれたことあったろ」
Lesson01も既に十一年半前である。

・俺を『笑顔』にしてくれるのではないか。
Lesson47のリインフォースとの会話の答え合わせ。

・少し、気になる子が多すぎる。
暫定ではありますが、少なくとも第十章はこの二人が主軸になる可能性が……?



 最終話かな? と思われたそこの貴方。大体合ってます。

 元々『周藤良太郎』のストーリーとしてはこれが最終話として想定されていました。ちなみに良太郎の転生特典の詳細とか、りんとの馴れ初めのときにあったアレコレとかもまだ残されていますが……それはまぁ、別のお話ということで。

 さて、一年半続いた合同ライブも今度こそこれで終わりとなります。本当に長かった……合同ライブをやるってお話に書いてからで換算すると三年も経ってるってマジ?

 なんかすっごい物語の終わり感出していますが、度々言っているようにアイマス全ブランド横断する覚悟で書いていますのでまだまだ続きます。

 次章はシャニマス編……の予定ですが、ちょっとだけ何かしらの外伝という名の時間稼ぎをさせていただくかもしれません。ちょっとだけお待ちを。

 そんなわけでこれからも『アイドルの世界に転生したようです。』をよろしくお願いします!
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