それは、あり得るかもしれない可能性の話。
「あ、社長、おはようございまぁす」
「おっはよーございまーす!」
「おはようございます」
「おはよう。早速で悪いんだけど、三人に頼みたいことがあるんだ」
「頼みたいことですかぁ?」
「いいですけど……」
「なにすればいーんですか?」
「まずはまゆちゃん、そこに座ってほしい」
「? はぁい」
「そして恵美ちゃんと志保ちゃんは……」
「「はい」」
「このロープでまゆちゃんを椅子に縛り付けて欲しい」
「「「はい?」」」
「「ぎゃははははははっ!!!」」
朝、打ち合わせのためにやってきた123の事務所にて、志希のオクスリにより幼児化した俺の姿を見るなり腹を抱えて爆笑する不届き者が二人いた。
案の定、冬馬と翔太だった。
「ガ、ガキだ……! ガキがガキになってて草生える……!」
「幼いのに無表情は面白すぎるよりょーたろーくん……!」
楽しんでもらえたようで何よりだよコンチクショウ。
「えっと、大丈夫かい? 良太郎君」
「大丈夫ですか……?」
「普通に心配してくれたのは北斗さんと美優さんが初めてですよ……」
何しろ家族ですら真っ先に困惑と歓喜の表情を浮かべていたのだから。母さんは息子のピンチに対してもう少し危機感を持ってもらいたい。
「いやー、いきなり社長が『まゆを縛り付ける』ように言い出したときは何事かと思ったけど、こーゆーことだったんだねー」
「これは確かに、縛り付けておかないとダメですね」
「ふーっ……! ふーっ……!」
「二人とも、事情をよく知らないままアレやったの?」
いやまぁ、椅子の背に身体を縛り付けられ、椅子の脚に足を縛り付けられ、ついでとばかりに猿轡までされた状態で目が血走っているまゆちゃんを見ると、その行動は結果的に間違っていなかったのかもしれないけど、友人を縛り付けることに対してもう少し躊躇した方がいいと思うんだ。
「どーせリョータローさん関係だろーと思って」
「寧ろそれ以外ないじゃないですか」
まゆちゃんと恵美ちゃんと志保ちゃんの熱い信頼関係を垣間見た気がする。
「……もしかして恭也君がここにいるのって、こういうのが理由?」
「はい。良太郎の身に万が一のことがないように、今日一日行動を共にすることになりました」
「それは……恭也君もお疲れ様です……」
「大変だね、君も」
そして本来この場にいるはずのなに男である恭也に対して労いの言葉をかける北斗さんと美優さん。こいつも顔を合わせたときは平然としてたけど内心では爆笑してたのは分かってるんだからな。さっきしっかりと写真撮ってたから後で家族全員に見せる気満々なことも分かってるんだからな。
ちなみに恭也とは逆に本来この場にいるべき志希は現在俺を元に戻す薬の作成に専念させている。これで明日の朝までに戻れなかったらただじゃおかねぇからな。
「まぁ俺の身体のことはいいんだよ」
「いや良くはねーだろ」
ひとしきり笑い転げたことで本来のツッコミとしての役割を思い出した冬馬からそんなことを言われるが、現状どうしようもないのだから仕方がない。
「だから俺のことは気にせずに次のライブの打ち合わせをしたいんだけど……」
「アレに人としての理性があると思うか?」
未だにガタガタと椅子ごと動き続けるまゆちゃんを親指で指し示す冬馬。まゆちゃんの状況が状況なだけに『アレって言うな』とか『せめて理性ぐらいはあるだろう』というツッコミを入れることは出来なかった。
「こういうシーン、ゾンビ映画で見たことあるよ」
「大事な人がゾンビ化してることを受け入れられずにとりあえず拘束しておくやつだな」
その場合、まゆちゃんに噛まれて感染するのは誰になるんだ。
「というかなんで猿轡までさせてるんだよ。おかげで絵面がより一層ゾンビ映画じゃねぇか」
「いや、舌をかみ切る可能性を考慮した結果だ」
兄貴はまゆちゃんの何を危惧しているんだ……?
さてそんなことを話しつつ、そろそろ打ち合わせを進めていこう。今回部外者が一人混ざっているが、生粋の護衛である恭也は見聞きしたことを他言することはないので心配する必要もない。
「それじゃあ……」
「あ、良太郎さん」
「ん? どうしたの志保ちゃん」
「いえ、小さいお身体のままだと視線が低くて大変じゃないかと思いまして」
あー。言われてみれば確かに。小学校低学年の身体で大人と同じ椅子と机で会議に参加するっていうのはサイズ的にちょっと大変かもしれない。
「それじゃあクッションか何かで座高をかさ増しをして――」
「というわけで、どうぞ私のお膝に」
「――どうした志保ちゃん!?」
なにもしてないのに志保ちゃんが壊れた。
「志保どーしたの!?」
「別にどうもしてませんよ。純粋に良太郎さんの身を案じているだけです」
恵美ちゃんにガクガクと揺さぶられながらも、志保ちゃんはシレッとした表情で椅子に座ったままポンポンと自分の膝を叩いてアピールしてくる。
「……はっ!? これはまさか!?」
「なにか知っているのか兄貴!?」
「最近、志保ちゃんの弟である陸君は小学校で出来た友だちとよく遊ぶらしい!」
「なんの話だ!?」
「そうか、あのときの少年がもうそんなに大きく……」
かつて彼の命を救った恭也がしみじみと呟いているが今そういう場面じゃない。
「それに加えて志保ちゃんも最近めっきり忙しくなったこともあり、陸君と一緒に過ごす時間も減ったそうだ」
以前は幼稚園への送迎を志保ちゃんがしていたこともあったが、今はそういう必要もなくなったもんな。
「だからきっと、今の志保ちゃんは
「急に会話の知能が低くなったな」
つまり兄貴は『陸君を可愛がることが出来なくなった代わりに、弟のように小さくなった俺を可愛がろうとしている』らしい。
「そんな馬鹿な話があるわけ――」
「よいしょっと」
「――なん……だと……!?」
気が付いたら、俺は志保ちゃんの膝の上だった。志保ちゃんの膝に座り、後ろからギューッと抱きしめられている状況だった。背中が凄く柔らかい。
「み、見えなかった……!? 北沢の行動がまるで見えなかった……!?」
「きっとこれは超スピードなんかじゃない……! 僕たちが疑問を抱かないほど自然な動きだったんだ……!」
まるでバトル漫画の解説役のように冬馬と翔太がノリノリである。
「志保ちゃん! ちょっと落ち着こう! 冷静になろう!」
「もう、暴れちゃダメよ、りょーくん」
「ダメだ完全に姉になってる!」
「これFGOで見たことあるな」
冷静になったんなら助けろ冬馬。
「というか恭也!? 早速何仕事放棄してんだ!?」
「殺気も敵意もないから問題ないと判断した」
それでもこの状況は護衛として動くべき状況だと思うのだが。
「し、志保ちゃん……!」
見るに見かねた美優さんが俺の救出のために動き出した。
「つ、次は私も……!」
ちげぇこれ敵側の増援だわ。
「というか美優さんまで何を……!?」
「ち、違うんです……! 弟というものに興味があって……!」
何も違わないんだよなぁ。
「ふーっ……! ふーっ……!」
「マズい! 図らずともまゆちゃんに対する拷問のような状況になってしまった!」
「まゆ落ち着いて! 心を強く持って! 自分に負けちゃダメ!」
おかしい。怪しいオクスリを飲まされたのは俺のはずなのに、何故周囲の人間の方がパンデミックのような状況になっているのだろうか。
「これは今日の打ち合わせは無理だな」
「どうしますか、社長」
「不測の事態が起きて打ち合わせを中止する可能性は常日頃から考慮している。資料の形にしてまとめておくから、各々目を通しておいてくれ」
「了解です」
この場で唯一冷静な兄貴と北斗さんは早々に俺たちを見捨てる方向に舵を切ったようだ。冷静で的確な判断である。
「リョータローさん! 流石にこのままだとまゆが可哀想なんで、せめて何かしらのファンサービスお願いしてもいーですか?」
志保ちゃんと美優さんからされるがままに猫可愛がられていると、恵美ちゃんからそんな提案が。
……まぁ、どうしてここまで厳重に拘束されているのかはイマイチ良く分かっていないが、とりあえず今まゆちゃんが苦しんでいるということだけは何となく理解した。そして苦しんでいるファンにアイドルがしてあげられることは……ファンサービスだけだ!
「まゆおねーちゃん!」
ならばご覧いただこう! 幼児化してしまい万全の状態とは決して言えないものの、今の俺に出来る最高のファンサービスを……!
「がふっ」
『○んだあああぁぁぁ!?』
○んでないから! なんか白目剥いて口元の布が赤く染まってるような気がするけどきっと〇んでないから!
「というかまだ何もしてないんだけど!?」
「良太郎、流石にそれは無理がある」
「年配の方がパソコンを壊したときぐらい、お前は何かをしてしまったんだ」
兄貴と冬馬何故か犯人に自首を促す刑事のような表情になっていた。
「りょーくん! 私も! 私も呼んで!」
「わ、私もお願いします……!」
だれかたすけて!
・「このロープでまゆちゃんを椅子に縛り付けて欲しい」
初手緊縛。
・「というわけで、どうぞ私のお膝に」
しほちゃん は こんらん している!
・「ダメだ完全に姉になってる!」
・「これFGOで見たことあるな」
普段のストーリーは激重なのにイベントのたびにIQが下がるゲーム。姉ビームってなんだ。
・「がふっ」
おかしいひとをなくした……。
物語の最初は安定の123プロの面々から。当然まゆちゃんは〇ぬ。ついでに志保ちゃんも壊れました。公式設定ではどちらかというとオジコンっぽいけど、アイ転の志保ちゃんは作者の趣味によりショタコン寄り。
こんな感じで、様々なアイドルが壊れていく様子をご覧いただきます。