街中を歩く。車の免許を取って四年ほど経つが、なんだかんだで徒歩での移動が多い。勿論忙しいときは自分の車やタクシーで移動するが、それでも気分的に歩きたくなることがある。
「この間の合同ライブでまた忙しくなったと思ったけど、歩いて移動できるぐらいの余裕はあるんだね」
「実は元々忙しかったせいでこれ以上忙しくなりようがないんだよなぁ」
「そう来ましたか……」
偶然にも街歩きをしていた友紀茄子コンビと遭遇したので並んで歩く。字面だけを見れば両手に花っぽいが、友紀と茄子は仲良く腕を組んで歩いていて俺はその隣を歩いているだけである。女の子の間に男が挟まると重罪らしい。多分挟まれて女の子になってしまうのだろう。
『僕が変わる。私が変わる。未来が変わる』
ふと、そんな聞き覚えのある声が聞こえてきて視線を上げると、そこには街頭のスクリーンに大きく映し出された涼の姿があった。化粧品メーカーの広告らしく、男性アイドルとしての涼と女性アイドルとしての涼が背中合わせになってそれぞれ男性向け化粧品と女性向け化粧品の宣伝をしていた。
「凄いよねぇ、秋月涼君。一人で二人分の仕事してるようなものだもん」
「今や『唯一無二の
「二つの事務所で活動を続けていくみたいだし、ひょっとしたら俺よりも忙しい可能性あるんじゃないか?」
「「いやそれは流石に……」」
そんなことを話しながら歩いていると、再び街頭のスクリーンから聞きなれた声が聞こえてくる。
『憧れは、終わらない』
『私たちは、まだまだ、これからも』
『ずっとずっと! アイドル!』」
春香ちゃんと千早ちゃんと美希ちゃんの声。今年の秋に開催が決定した765プロダクション単独ドーム公演の宣伝だった。
「……春香ちゃんたちもすっかりベテランアイドルだな」
「あの天海春香ちゃんたちにそんなこと言えるのって良太郎ぐらいだよね」
「あとは魔王エンジェルとジュピターの方々ぐらいでしょうね」
初めて彼女たちの事務所へと行ったときのことは、今でも鮮明に思い出すことが出来る。きっと生涯忘れることはないだろう。
「あれは確か……えっと、シュークリームを差し入れに……いや、ケーキだっけ?」
「鮮明に思い出せてないじゃん」
「ちょっと待って」
「スマホで読み返そうとしないでください」
あの日出会った彼女たちは、初めて対面した『
そんな春香ちゃんたちが、今の時代の代表アイドルとして単独ドーム公演である。
……あぁ、本当に……。
「本当に、いいライブだった……!」
「なんで既に観終わった感想なの!?」
「まだ開催すらしてませんよ!?」
「いやなんか電波が……」
思わず泣きそうになる俺を見てギョッとする友紀と茄子。特にビデオレターのくだりでボロボロと泣いてしまって……いかん、電波が地の文にまで混ざりこんできた。
「こうして改めて周りを見渡してみると、色々なところでアイドルの姿を見るようになったよね」
「テレビや広告だけじゃなく。大きな会場のライブから、小さな商店街のミニステージ。ここ数年で急増しましたね」
二人の言う通りである。今やアイドルは色々なところで見ることが出来る。女子小学生のなりたい職業ランキングでもアイドルがトップスリーに入り、男子小学生のランキングでもその名が上がるようになった。憧れるだけの夢の職業ではなく、手を伸ばせば届く現実の夢として認識されるようになったのだ。
「去年から流行り出した『スクールアイドル』もすっかり定着したよね」
「今年の秋についに
友紀が話題に挙げたスクールアイドルという単語に反応した茄子が口にした
全国高校スクールアイドル大会『
出場出来るのは『高校生』のみ。学校単位でのエントリーとなり、地区予選からの全国本選へと繋がっていく。ほぼ全国高校野球選手権大会や全国高校サッカー選手権大会と同じであると考えれば想像しやすいだろう。
「麗華さん肝入りなんですよね」
「そう言えば聞こえはいいかもしれんが、俺は麗華の小ズルいところが出てると思ってるけどな」
「その心は?」
「『魔王エンジェル』が手塩をかけて育てた『A-RISE』が出場するから」
「「あー……」」
スクールアイドルの全国大会となると、当然
「出来レースとまでは流石に言わんが、横綱相撲になりそうな気がしてなぁ……」
合同ライブのときとは違い、今回のラブライブの運営に俺は一切関わっていないため発言権はほぼ存在しない。しかし一応チラッとその件に関して口出ししてみたのだが……。
「『それを発言する権利、
「「……………」」」
「目を逸らすな」
『周藤良太郎』や『魔王エンジェル』だって別に他のアイドルを蹂躙したわけじゃない。いやホントだぞ。
「願わくば、アライズに対抗できるような
「いるかなぁ、そんな都合よく」
「いや意外といるかもしれんぞ。今こうしてすれ違った人たちの中にも将来のトップアイドルがいるかもしれないんだし」
そういう事例を何度も見てきた俺が言うんだから間違いないって。
「そんな『弱小野球チームがいきなり甲子園優勝』みたいな漫画みたいなこと起きるわけないじゃん。もしそんな奇跡が起きたら
「お? 言ったな?」
それは高校の同級生の頃から続く他愛もない冗談の一環だった。正直俺も友紀も本気になんてしていなかった。
「あっ」
「「え」」
突然、何故か茄子が『マズイことになった』と言わんばかりの視線を友紀に向けた。
「どうしたの茄子、そんな『あーあ、言っちゃった』みたいな表情して」
「いえ、なんでもないですよ?」
しかし友紀がそれを指摘すると、茄子はすぐにいつもの微笑みに戻ってしまった。
「「?」」
俺と友紀は揃って首を傾げるのだった。
(今、猛烈に友紀ちゃんが本当に水着で野球することになるような気がしたんですけど……言わない方が友紀ちゃんのためですね、うん)
「どう? ニコちゃん、スクールアイドルになってアライズ、倒しちゃわない?」
「そろそろアンタの突拍子もない発言に慣れてきたわ」
「それはよかった」
今日も現場への差し入れを買うためにやってきた二階堂精肉店にて、今日もアルバイトに精を出すニコちゃんにご挨拶。今は春休み真っ只中のため、ニコちゃんもいつも以上にアルバイトを頑張っていた。
「実際どう、スクールアイドル、そろそろ決心付いた?」
「……まだ」
「そっかー」
とはいえ俺の質問に対して素直に「まだ」と言ってくれるだけでも十分前に進めていると思っている。いくら今年がニコちゃんにとって
最後の一歩を踏み出せなかったとしても、それもまたアイドルなのだから。
「それよりニコちゃん、最近はアルバイトしてもお金足りないんじゃない? 最近は色々なアイドルが活躍してるし」
「……そうなのよ……!」
珍しく全面同意してくれたニコちゃんは「くぅ……!」と悔しそうに表情を歪めた。
「合同ライブ以降、何処の事務所も活発的に活動しまくっててグッズもライブも全然追い付けない! いくら765劇場がリーズナブルだからって、学生にとってはお金も時間も足りなさすぎるのよ!」
一応事務所としての推しは『765プロ』であると公言しているニコちゃんではあるが、現在のアイドル春の時代は彼女のようなアイドルオタクにはある意味で厳しい時代なのかもしれない。
「お財布冬の時代ってね!」
ニコちゃんは無言で募金箱を指差した。罰金らしい。
「実際そういう悲鳴は業界の方にも届いてて、俺たちも一応色々頑張ってるよ」
アイドル関係の仕事をしているとはニコちゃんにも伝えてあるので、素直に内部事情を語りながら財布から百円玉を出して募金箱に入れる。
「だからもうちょっとだけ待ってて。絶対にお財布事情に厳しい学生たちにも手軽にアイドルを楽しんでもらえるようにするからさ」
そういったことを考えるのも俺たちの仕事である。……いやこれはどちらかというと経営陣の仕事のような気もするけど。
「……………」
「ニコちゃん?」
何故かニコちゃんの表情は浮かないままだった。
「……身近なところに、手を伸ばしやすいところに、アイドルがいるっていうことは素敵なことよ。そんな素敵な時代になったことは、勿論ただのファンである私は嬉しいわ」
でも、とニコちゃんは真面目な視線をこちらに向けた。
「『問題が何もない』わけじゃないんでしょ?」
「……流石」
ただのアイドルオタクじゃないね。いい眼をしてるよ。
「……あ、そうだ、多分スクールアイドルに関して言えばニコちゃんの方が詳しいよね? どう? なんかこう、注目のスクールアイドルいたりしない? 具体的には胸――」
再び募金箱を指差すニコちゃん。やっぱり罰金らしい。
・「本当に、いいライブだった……!」
・ビデオレターのくだりでボロボロと泣いて
NEI二日目現地でした。死ぬかと思いました。
嘘です生きます春香の背中を見続けます。
・全国高校スクールアイドル大会『Love Live』
ついに今年度開催です!(描写するとは言っていない)
・野生のトップアイドル
・「もしそんな奇跡が起きたら水着で野球する企画やってもいいよ!」
ここに旗を立てよう。
・「『問題が何もない』わけじゃないんでしょ?」
多分気付いている人は気付いている。
シャニマス編序盤の説明回という名のラブライブ説明回。なんだこれは(なんなんだこれは)
実際にラブライブ描写は……多分……(目逸らし
『どうでもいい小話』
NEI凄かったですね……改めてずっとこのアイマス二次を書き続けようと決意しました。