アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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これが彼女のプロローグ。


Lesson462 その出会いは世界を変える 4

 

 

 

「天井社長、俺は別に怒っていないです」

「う、うむ」

「美琴の性格は分かってましたので、まぁそうだろうなとは思っていました」

「うむ……」

「ですが、だからといって美琴の現状を良しとしているわけではありません」

「それは、私も理解しているつもりだ」

「はい。なので美琴がこの事務所に所属すると聞いて、しっかりとその辺りが改善されることを期待したんです」

「……うむ」

「怒ってはいません。怒ってはいないんです。……それでも、俺の心配を分かっていただきたい」

 

 

 

「……これどういう状況?」

「張本人がそれ聞いちゃいますかー……」

 

 対面に座りトクトクとお話を続けるリョーさんと社長の様子に首を傾げる美琴さんだが、どうやら現状をイマイチ理解出来ていないらしい。これは確かに二人とも心配になっておかしくない。

 

 とはいえ、リョーさんが社長にお小言を言う展開はちょっと予想していなかった。確かに『周藤良太郎』といえば業界のトップではあるけれど、流石にいち事務所の社長と対等にやり合える存在だとまでは思っていなかった。

 

 アイドルになって三ヶ月。自分はまだまだこの業界の事情に疎いということを実感する。これは少々特殊な事例なような気もするけど。

 

「お茶をお持ちしましたよ~」

 

 リョーさんのお小言がひと段落ついたところで、我が事務所の有能事務員さんがニコニコ笑顔でお茶を乗せたお盆を手に応接室へ戻って来た。……絶妙なタイミングで戻って来たけど、多分偶然じゃなくてひと段落つく頃に戻ってくるように調整したんだろうなぁ。

 

「ありがとう、はづきちゃん」

「……ありがとう、はづき」

 

 お礼を言うリョーさんと社長。社長は心なしかホッとしているようにも見えた。

 

 はづきさんはお茶と一緒に先ほどリョーさんが持ってきたシュークリームも一緒に出してくれた。リョーさんと社長だけじゃなくて、私と美琴さんの分も。

 

 結局私はここにいていいのだろうかと思いつつ、シュークリームを一口。

 

「って美味っ!? なにこのシュークリーム!? めちゃくちゃ美味しいんだけど!?」

「分かってもらえたようで何よりだよ」

「程よい甘さのクリーム、表面はカリッと中はふわっとしたシュー生地……これに比べると山岡はんの鮎はカスや!」

「いくら山岡さんの鮎とはいえ翠屋のシュークリームと比べるのは酷だよ」

「山岡さんって誰……?」

 

 初めて食べる翠屋のシュークリームに感動して何か変なことを口走った気がする。美琴さん、そんなこと別に知らなくていいですよ。

 

 シュークリームに夢中になっていると、再び応接室のドアがノックされた。

 

「入れ」

「失礼します」

 

 社長が入室を許可すると、入って来たのはスーツ姿の若い男性。ぱっと見優しさだけが取り柄のようにも見える優男で……その実、()()()()()()()()をプロデュースする豪胆な男。我らが283プロダクションの夏目(なつめ)プロデューサーである。

 

「まだこの業界で日の浅いお前に紹介しておきたい人が来てくれたので、挨拶をさせておこうと思って呼んだ。……周藤君、我が283プロのプロデューサーだ」

「初めまして」

「っ」

 

 ソファーから立ち上がって伊達眼鏡を外したリョーさんを見て、Pたんが息を飲んだ。

 

「は、初めまして。283プロダクションでプロデューサーを務めさせていただいております。夏目と申します。お噂はかねがね」

「初めまして。周藤です」

 

 上着のポケットの名刺入れから名刺を取り出したPたんに対し、リョーさんも名刺入れから名刺を取り出した。

 

「……リョーさん、名刺とか持ってたんだ」

「だから今は123の副社長ポジだって言ってんじゃん」

 

 普段見ることのない業界の人間としての姿に少しだけ遠い存在になってしまったような気がしたが、私のポツリとした呟きにしっかりと反応してくれたリョーさんはいつも通りのリョーさんだった。

 

「聞いてますよ。なんでも十六人のアイドル全員をプロデュースしていると」

「いえ、自分がしていることなんで微力なものです。全て彼女たちの輝きに助けられて、辛うじてプロデューサーとしての面目を保てているだけですよ」

「うーん発言がかっこいい……」

「リョーさんに足りてないものだね」

「やかましい」

 

 挨拶を終えたところでリョーさんが着席し、Pたんは対面のソファーの社長の隣に腰を下ろした。……そういえば社長が来たタイミングで私の座る位置が対面のソファーからリョーさんの隣になったんだけど、本当に私がこのポジションでいいのだろうか。

 

「そういえば周藤君、少しずつ噂が流れてきているよ。『W.I.N.G』のこと」

 

 社長が口にしたそれは、正式名称『Wonder.Idol.Nova.Grandprix』。新人アイドルたちの大型コンテストで、かつては『周藤良太郎』も出演した『ゴールデンエイジ』というオーディション番組が今年から形を変えた姿である。

 

 私たちも『W.I.N.G』に出場するため活動をしているのだが……新人アイドル向けのオーディションに『周藤良太郎』が一体なんの関係があるのだろうか。

 

「遠くない内に告知する予定でしたし、別に隠しておくようなことでもないですからね」

「リョーさん、なにかするの?」

 

 素直に尋ねてみると、リョーさんは「大したことじゃないよ」と湯飲みを手にした。

 

 

 

「俺が『W.I.N.G』の審査委員長をやるってだけ」

 

 

 

「全然大したことあると思うんだけど!?」

「良太郎、審査委員長やるの!?」

 

 決してそんな「どうでもいいことだけど」みたいな姿勢で言っていいことじゃない。だというのに、何をこの人は呑気にお茶を飲んでいるのだろうか。

 

「アイドルのオーディションの審査をアイドルがやることってあるんだ……」

「寧ろアイドルだからこそアイドルのことを正しく評価出来るんだよ」

「だからって現役アイドルがやることじゃないと思うんだけど……」

 

 ふと気付く。『周藤良太郎』がアイドルのコンテストの審査委員長をするということは、それはつまりリョーさんがアイドルの審査をするということであり……。

 

 私は自分が所属している『L'Antica』のユニットメンバーを思い返し……そのメンバーの中には我が事務所が誇るバストサイズランキング堂々のナンバーワンとツーが揃っていて……。

 

「……勝った! 『W.I.N.G』編完っ!』

「結華ちゃんが何考えてるのか何となく察したからあらかじめ言っておくけど、もし本当にそれを審査基準に含めるとしたら評価をユニット内で平均化するからね」

「私は……アンティーカのお荷物です……!」

「泣かないで結ジロちゃん」

 

 いや平均サイズならばまだワンチャンあるのでは。

 

「283プロダクションは三組のアイドルユニットが出場予定です。そして美琴さんを含めて三人がユニットを組めていない状況なのですが……」

「私はユニットとか興味ないから」

「……と、このような状況でして」

「……まぁ、余っているからユニットを組むっていうのも違いますからね」

 

 そうは言いつつも、Pたんの言葉をバッサリと切り捨てた美琴さんにリョーさんは頭を抱えていた。

 

「そもそも『W.I.N.G』ってデビューして一年以内のアイドルしか出場出来ないんだから、私がユニットに参加したら二人が出場出来なくなっちゃうでしょ」

「尤もらしい理屈まで思い付きやがって……」

「でも、その憂いも先日解消しました」

「お?」

「見つけたんです。『三人目』を」

 

 珍しくキラキラと目を輝かせるPたん。なんでも最近公園で歌っていた一人の少女をスカウトしたらしく、昨日ついに『一度両親と一緒に詳しい話を聞かせて欲しい』という返事を貰ったらしい。

 

「歌を聞いて、そして見て思ったんです。この子ならば二人と、風野(かざの)灯織(ひおり)八宮(はちみや)めぐるの二人と、ユニットを組めるって」

「……これで、我が事務所のアイドルユニットは四つになるわけだ」

「頑張って、プロデューサー」

「影ながら応援させてもらいますよ」

 

(公園で歌っていた女の子、ねぇ)

 

 それを聞いて、私は思った。

 

 

 

 そんな『リョーさんが語ってくれたものと全く同じシチュエーション』の女の子が、もう一人いるなんて。

 

 

 

 

 

 

 その日も、少女は歌っていた。()()()()()()()()

 

「……そろそろ通報してもいいんですけど」

「なら公共の場で歌って踊るの止めた方がいいんじゃない?」

 

 逃げ出すこともなく、寧ろ向こうから声をかけてくれるようにはなったものの、相変わらず塩を通り越して岩塩を投げつけられているかのような対応である。

 

「それとも、何か理由があるの?」

「……………」

 

 既に何度も同じ質問を投げかけているものの、一度も答えてくれたことはなかった。

 

 ただ()()()()()()()()()()()ような、そんな気がした。

 

「……そういえば、とある女の子が公園で歌っていたところをアイドル事務所のプロデューサーにスカウトされたらしいよ」

「っ」

 

 俺の言葉に少女は動きを止めた。

 

「……君にとって、俺はやたら馴れ馴れしく話しかけてくる不審者だ。俺の言葉を聞く義理も義務も必要もない。でも聞いて欲しい」

 

 未だに少女は動きを止めたままで、一応俺の言葉は耳に入っているらしい。

 

「君は、ただ待つだけでいいのかい?」

 

 返答はなかった。近くのベンチに置いてあった荷物を手にすると、彼女はそのまま走り去ってしまった。

 

「……………」

 

 当然俺は追いかけない。それ以上彼女に伝えるべき言葉もない。

 

 『若草色のショートカットの少女』の後ろ姿を、俺は黙って見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに。

 

「ど~しよ~リョウく~ん!」

「なに? どうしたの?」

「おかーさんの母校、無くなっちゃうよ~!」

「へ?」

 

 家に帰ると我が家のリトルマミーが突然そんなことを言いながら泣き出したのだが。

 

 それはまた、別のお話。

 

 

 




・お説教される社長
cvつだけん

・「これに比べると山岡はんの鮎はカスや!」
実はこのとき雄山が山岡にした説教の内容、現在の美琴に刺さる内容だったりする。

・夏目プロデューサー
またも名前は中の人からお借りしました。

・「私は……アンティーカのお荷物です……!」
・「泣かないで結ジロちゃん」
ブヒィと言わせなかったのは温情。
ちなみに平均サイズだと一位はイルミネ。流石最胸信号機ユニット。

・デビューして一年以内のアイドルしか出場出来ない
【悲報】美琴さん『W.I.N.G』出場不可。
いや出ても今の実力だと無双しちゃうから……。

・風野灯織
・八宮めぐる
紹介は実際に登場したときに。

・若草色のショートカットの少女
誰かに似ているらしい。

・ちなみに。
物語の裏で物語がひっそりと進んでいくスタイル。



 物書きの端くれとして、こういう叙述トリック的なこともやろうと思えば出来るんですよという無駄なアピール。

 というわけで、良太郎が出会っていた少女は真乃ではありませんでした。

 では誰なのか、というお話はまた次の機会に。
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