アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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撮影開始×2


Lesson469 古城の焔に陰は踊る 3

 

 

 

「春の暖かな陽気に思わずウトウトとしてしまいそうな今日この頃。皆さん如何お過ごしでしょうか?」

「良太郎君、その入り方は何か間違っているような気がします」

「嘘でしょ」

 

 折角河川敷の綺麗な桜並木を背景に雰囲気あるオープニングトークを演出していたというのに、ディレクター役の留美さんから無慈悲なダメ出しを食らってしまった。

 

「何が間違っているっていうんですか。こんなに綺麗に桜が咲いているっていうのに」

「曇っているからです」

「盲点だった」

 

 確かになんか薄暗いなって思ったんだよ。そうかそれがいけなかったのか。

 

 さてそんな生憎の天気ではあるが、本日は事務所のチャンネルに投稿する動画の撮影日だ。123プロ公式の仕事とはいえ、所詮個人企画なので留美さんと()()での撮影となる。

 

「本当に、何故『周藤良太郎』がこんな個人チャンネルの動画のような撮影の仕方をしているんですかね……」

「基本的にうちの事務所は少数精鋭ですからね。新しくスタッフが入ったことが奇跡的というか」

「テコ入れってやつですね」

「留美さん、そーゆーセリフ言うの俺の役目」

 

 ちなみにここまでずっとカメラを回したままなので場合によっては使われる可能性がある。体感七割ぐらいは使われることになると思う。

 

「それで、どうしてここでオープニングを撮影しようってことになったんですか?」

 

 優秀な留美さんは当然その理由を知っているが、動画の進行をスムーズにするためにあえて知らないフリをして俺に問いかける。

 

「実はここ、俺にとって馴染み深いところなんですよ」

「馴染み深いところ……ですか」

「はい留美さん早かった!」

「解答ボタン押してませんが!?」

 

 カメラの外の留美さんに向かって指を差すと、彼女は「えっと」と少し逡巡した。

 

 ちなみに先ほどから留美さんの名前を出してしまっているが、彼女は既に『123プロダクションの美人プロデューサー』として名も顔も知られているので問題はない。

 

「何かの撮影をした場所、とかですかね」

「ヒントは告白です」

「えっ!?」

 

 アイドルらしからぬ解答に驚く留美さん。ここは台本にも『適当なトーク』としか書かれていないので素の驚きだろう。

 

「そ、それはここで話していいことなんですよね……!?」

「勿論。ここで俺は作中でお世話になったパン屋の店員さんに、自分が覆面ライダー天馬であることを告白したんですよ」

「あぁ、そういう……」

 

 ちなみに、そのとき俺の告白を受けたのが当時俺と同じく駆け出しの女優だった『片寄(かたよせ)ゆら』である。今でこそすっかり大女優として名を挙げている彼女であるが、トーク番組などでは「私は『周藤良太郎』から告白を受けたことがある」という鉄板ネタを度々口にしているようだ。おかげでりんが大分敵視している。

 

「というわけで今回、周藤良太郎がお送りする個人企画シリーズは『周藤良太郎はここから始まった! 役者としての原点覆面ライダー撮影現場を巡る旅』~!」

 

 総勢一人、留美さんの拍手によってこの動画は始まるのである。

 

「えっと、次は古城風のスタジオ……でしたね」

 

 今度こそカメラを止めて留美さんと段取りを確認する。

 

「まさかたった三人での撮影のためだけに古城風スタジオをレンタルするなんて、流石に無駄遣いじゃないですか?」

「だからといって予約をしないと中に入ることも出来ませんし、何よりここが俺の覆面ライダーとしての一番大事な場所ですから」

 

 それまで謎の助っ人で正体が明かされていなかった覆面ライダー天馬に、俺が初めて素顔で変身をしたシーンを撮影したのがここなのである。俺の覆面ライダーとしての過去を語る上でここはどうしても外すことが出来ない。

 

「そのことなのですが」

「ん?」

 

 それまで黙って撮影をしてくれていたカメラマンが口を開いた。

 

「先ほど改めて確認をしたところ、少々問題が……」

「「問題?」」

 

 

 

 

 

 

 今日はついに迎えた私たちアンティーカのMV撮影日である。

 

「こげんお城で歌が歌えっと! 楽しみやね~!」

「でも雨降りそうだね~」

「摩美々なにゆーとっと! 雨なんてうちらの歌で吹き飛ばすと!」

「寧ろ歌うと空気が振動して余計に雨が降るんじゃ……?」

 

 Pたんも交えて六人でそんな会話をしていると、スタッフさんの「監督入りまーす」という声が聞こえてきた。振り返ると、サングラスをかけた無精髭の中年男性が首を押さえながら気だるげに歩いてきた。

 

 慌てて五人で整列し、Pたんが「今日はよろしくお願いします」と頭を下げた。

 

「みんな、高宮監督だ」

「う、うちら、じゃなくて『L’Antica』ばい! ……です!」

 

 私たちを代表してユニットリーダーのこがたんが挨拶をするが、流石に彼女も緊張しているらしい。

 

「「「「「よろしくお願いします」」」」」

「……………」

 

 五人揃って頭を下げて挨拶をするが、何故か監督からの反応が薄い。サングラスを下げて私たちの姿をじっと見ている。

 

「……え、えっと」

 

 こちらが何かを言う前に、監督はくるりと振り返って手近な椅子に座ると、テーブルに紙を広げて何かを書き始めた。

 

 おずおずと近寄って手元を覗いてみる。

 

(……よ、四コマ漫画……?)

(じゃなくて、多分絵コンテ。映像作品の設計図みたいなもの)

 

 首を傾げるこがたんの言葉を訂正している間にも監督の手は止まらない。というか絵上手いし早い。

 

「コンテ差し替え」

「は、はい!」

 

 そしてあっという間に出来上がったそれを近くで待機していたスタッフさんに手渡すと、監督は立ち上がってこちらを振り返った。

 

「君らを見て、新たな()を閃いた。……分かるな?」

「「「「「っ」」」」」

 

 監督の言葉に息を飲む。

 

「今日この瞬間にしか出せない、君たちらしさをぶつけてこい。……分かるな?」

「……わかりま」

「摩美々、可愛いお口はチャックだ」

 

 まみみんの言葉をさくやんが中断させる。判断が早い。

 

「よろしく」

「「「「「よろしくお願いします」」」」」

 

 去っていく監督の背中に頭を下げる。

 

 ……行った? 行ったよね? もう大丈夫だよね? 聞こえない場所まで行ったよね?

 

「……ぶっふぉお!」

「わっ!? 結華いきなりどーしたと!?」

 

 ここまで噴き出すのを我慢した私を誰か誉めてほしい。昨日リョーさんから言われたことを思い出してしまい、脳内の高宮監督と川島瑞樹さんが『分かるな?』『分かるわ』を延々とリピートし始めてしまったのだ。

 

「だ、大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫、だから、ちょっと、待って……」

「……分かるな~?」

「ぶっふぁあ!?」

 

 折角落ち着きかけていたのに、私が笑った理由に気付いたらしいまみみんに耳元で囁かれて再びツボに入ってしまった。

 

「ゆ、結華ちゃん、大丈夫……?」

「くそぉ……許すまじ……周藤良太郎……!」

「ど、どうしてそこで『周藤良太郎』さんの名前が……!?」

 

「す、すみません!」

 

 私がリョーさんへの怒りを湧き上がらせていると、何故か慌てた様子のスタッフさんが走って来た。ただこの人はスタッフはスタッフでも、撮影のスタッフではなくこの施設のスタッフだ。何かあったのだろうか。

 

 

 

「え? ブッキング?」

 

「本当に申し訳ありません!」

 

 スタッフさんの勢いの良いジャンピング土下座に思わず全員がドン引きしてしまった。

 

「えっと、まずは詳しい説明を……」

「はい……」

(せめて顔ぐらい上げて欲しいなぁ……)

 

 額を床にこすり付けたスタッフさんの後頭部を見下ろしつつ説明を受ける。

 

 この古城風スタジオは当然日時を指定して予約をするのだが、どうやら私たちが予約を入れるよりも先に予約の連絡が入っていたらしい。しかし先に連絡をしてきた方の予約が上手く取れておらず、後に連絡をしてた私たちの予約が同じ日時に入ってしまったらしいのである。

 

 先ほど先に予約を入れていた方から連絡があって、その連絡を受けたのが予約を取り損ねた張本人であったため、今回のブッキングが判明したらしい。

 

「つまり本当は私たちの方が後から予約を入れているため、日時をズラすべきだが……」

「実際に予約が入っていたという正当性は三峰たちにある、と」

 

 さくやんとともに簡潔にまとめるが、さてこれはどうしたものか。

 

「そ、それで先方からの提案がありまして……」

 

 なんでも『私たちさえよければスタジオの片隅で邪魔にならないように動画を撮影させて欲しい』とのこと。

 

「確かに後から予約を入れてしまった引け目はありますが、こちらもあまり部外者を入れるわけには……」

「や、やはりそうですよね……」

 

 その提案にPたんは難色を示す。

 

 確かに、相手の素性も分からないのにオッケーを出すわけには……。

 

「……ん?」

 

 何か引っかかることがあった。

 

「……あの、すみません。もしかしてこのスタジオって、以前覆面ライダーの撮影に使われたことってありましたか?」

「結華、いきなり何を聞いとーと?」

「は、はい、何度か」

 

 こがたんだけではなく他のみんなも首を傾げるような唐突な質問であることは、私も理解している。しかし私の第六感が当たっていたとしたら……。

 

「Pたん、この話受けた方がいいと思う。多分()()()()()()()()()()()()()よ」

「え?」

「スタッフさん、その先方さんから『自分たちの素性を隠して提案してください』って言われたんじゃないですか?」

「っ!?」

 

 私の二つ目の質問に驚くスタッフさん。どうやらアタリのようだ。

 

 

 

 

 

 

 というわけで。

 

「123プロダクション所属の周藤良太郎です。今回は撮影の許可をいただきありがとうございます。皆様のお邪魔には決してならないように気を付けますので、どうぞよろしくお願いします」

 

『いやいやいやいや』

 

 お邪魔させていただく身として低姿勢で挨拶をしたら、周りのスタッフさんたちから全力で止められてしまった。

 

 いやぁ、まさか結華ちゃんが話してたアンティーカのMV撮影とブッキングするとは思わなかったよね。

 

「我々も申し訳ありませんでした!」

「こちらこそ撮影のお邪魔にならないように気を付けます故!」

「平にご容赦を!」

「どうぞお怒りをお沈めください!」

「いや怒ってはないんだけどなぁ」

 

 土下座で取り囲むのは止めて欲しい。

 

「本当にリョーさんだった」

「やっぱり気付いたのは結華ちゃんだったんだね」

 

 苦笑する結華ちゃんの姿を見つけ、ひらひらと手を振っておく。

 

「……え!? 結華、あの『周藤良太郎』さんと知り合いだったと!?」

「し、知らなかった……!」

「いがーい」

「わざわざ言うようなことじゃないかと思って」

 

 どうやら結華ちゃんは他のユニットメンバーに俺と知り合いだということを伝えていなかったらしい。驚いていた様子の三人から詰め寄られていた。

 

 そんなユニットメンバーから離れた白瀬がこちらに近づいてきた。

 

「お久しぶりです、周藤先輩」

「あぁ、久しぶりだな、白瀬。お前がアイドルになってから会うのは初めてか」

「その節はご挨拶も出来ず、申し訳ありません」

「気にすんな。これからの活躍に期待するよ、()()

 

 律儀に頭を下げる白瀬、もとい咲耶。普段は素で王子様キャラをやっている彼女ではあるが、こういう場面ではしっかりと礼儀正しい。

 

「……って、まさか咲耶も知り合いだったと!?」

「さ、咲耶さん……!?」

「知り合い多すぎじゃなーい?」

「それは三峰も知らなかったんだけどぉ!?」

 

 向こうでなんか驚いていた。どうやら咲耶も俺の後輩であることは教えていなかったらしい。

 

 さて、そろそろ向こうも撮影が始まるだろうからあまり長々と挨拶をして時間を取るわけにはいかない。

 

 だから最後に一つだけ結華ちゃんに言っておかなければいけないことがある。

 

「結華ちゃん」

「何?」

 

「分かるな?」

「ぶっほぁわぁ!」

 

 

 




・片寄ゆら
『推しの子』に登場する登山が趣味の大女優。
本編では僅か数ページの出番で退場してしまったが、アイ転世界では健在。

・ブッキング
スタジオスタッフ顔面蒼白案件。



 文量の割にはあとがきで書くべきことが少ねぇなぁ……ネタが、ネタが……。
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