「アンティーカのリーダー! 月岡恋鐘ばい!」
「ゆ、幽谷霧子……です……!」
「田中摩美々でーす」
「よろしくね」
「いやぁ、まさかさくやんがリョーさんと知り合いだとは思わなかったよ」
「知り合い、と呼べるほど仲良くさせてもらっているわけじゃないよ。たまたま周藤先輩が通っていた高校に、彼の卒業後に入学させてもらった……それだけの話さ」
こがたんときりりんとまみみんがリョーさんに挨拶している様子を見ながら、私と同じように最初から知り合いだったさくやんに声をかける。さくやんは「ただの先輩と後輩の関係だよ」と謙遜しているが、決してただの後輩ではないと思う。
「今はアイドルとしても後輩なんでしょ? リョーさんはそーゆーのを蔑ろにするタイプじゃないと思うな」
「……そう見えていたのであれば、嬉しいね」
先ほどのやり取りを見て「あぁこの二人は親しくないんだな」という感想を抱く人は決していないだろう。
「というかさくやんの学生エピソードの数々がリョーさんの母校の話って聞いて色々と納得が言ったよ」
「自分で言うのもあれだけど、納得出来るのかい?」
「リョーさんからも学生時代の話を何個か聞いてたからねぇ」
『チョコレート戦争』とか『バレンタイン解放戦線』とか、到底学校行事とは思えないような単語ばかりだけど。
「まぁ『学校を占拠しようとしたテロリストたちを学生たちが自力で鎮圧した』って話は流石に眉唾だけどね」
「そうだね、私の在学中には起こらなかったね」
「……待ってさくやん、その言い方だと占拠自体は本当だったってことにならない?」
「色々不思議なことが起こる学校だったんだよ」
「そんな一言でまとめていいレベルじゃないと思うんだけど!?」
少し理解出来たような気がしたが、それ以上に理解が遠のいてしまった。
「私としては、結華が先輩とプラベートで仲が良かったことに驚いているよ」
「たまたまアイドルオタクとして知り合ったのが、リョーさんだったってだけだよ」
「……いや、それこそ『だけ』ってことはないんじゃないかい?」
「うん、まぁ、そうなんだけどさ」
あの人、自分の正体を隠して色々な場所に顔出してるみたいだから、私みたいな知り合いは色々な場所にいると思うんだよね。
「みんな、悪いがそろそろ……」
そんな会話をしていると、Pたんが時計を気にしながらやって来た。
そうだ、リョーさんの登場というサプライズですっかり頭から抜け落ちていたが、今日は私たちのミュージックビデオを撮影するという重要なお仕事があるんだった。
「そうだった。すみません高宮監督、いきなり現れてお仕事のお邪魔をして」
「いや、構わない。今日は共に良い仕事をしよう。分かるな?」
「ぐっ」
よぉし! 耐えたぁ!
「分かるわ」
「ぶっふぇあっ!」
クソォォォ! さっきからチラチラこっち見てると思ったら狙い撃ちしてきやがったぁぁぁ! ご丁寧に川島瑞樹さんの声真似までしやがってぇぇぇ!
「それじゃあ俺たちは向こうで撮影してきますねー」
「許さんぞリョーさん! この恨み絶対に晴らすからなぁ! 覚えてろよぉ!」
「結華落ち着いて」
「『周藤良太郎』相手になにゆーてんの!?」
「ゆ、結華ちゃん落ち着いて……!」
「ご乱しーん」
ユニットメンバーに身体を押さえられつつ、ひらひらと手を振りながら去っていくリョーさんの背中に精一杯の恨み節を浴びせるのだった。多分聞いてないだろうけど。
「懐かしいなぁ……このお城のスタジオで、俺は初めて覆面ライダーへの変身シーンを撮影したんですよ。雲の切れ間から太陽が差し込んで……再現出来るかなぁ」
「良太郎君、絶対に無理だから諦めた方がいいと思いますよ」
「嘘でしょ」
折角雰囲気ある古城をバックにした最高のシチュエーションだというのに、ディレクター役の留美さんから無慈悲なダメ出しを食らってしまった。
「確かに陽が自然に差し込んでくるのを待つのは非現実的かもしれませんが、もしかしたら奇跡が起きるかもしれないじゃないですか」
「豪雨だからです」
「盲点だった」
確かにさっきから轟々と音が響いてると思ったんだよ。確かにこれは流石に無理だ。
というわけで、古城で撮影を再開し始めた途端に土砂降りである。予報では所により雨模様とは言っていたが、ここまでバケツをひっくり返したような大雨になるとは思わなかった。
「向こうの撮影もちょっと心配になって来た」
「屋内撮影の準備もしているという話でしたし、きっと大丈夫だと思いますよ。それより今はこちらの撮影の心配をするべきかと」
「ご尤も」
とは言いつつも、基本的に屋内で『覆面ライダー撮影時の思い出の場所』巡りは済ませてあった。生スタントを披露した場所や、その際の共演者との小話など、個人企画シリーズの動画としての撮影は殆ど終了していると言ってもいいだろう。
だからこそ最後は屋外で変身のシーンを再現したかったのだが……。
「しょうがない。ここは気合を入れて、ちょっとだけでも傘を差して雨の下で撮影しましょう」
「分かりました」
俺と留美さんが手のひらを上にすると、ポスンとビニール傘が乗せられる。何もないところからポンと物が出てくることに対して、すっかり留美さんも慣れたものである。
「それじゃあ――」
「――うわっ!? いきなり色付き特殊タグ!?」
「しかも背景色付き……って言ってる場合じゃないですよ!?」
落雷の音が響いたと思ったら、次の瞬間にはスタジオ中の照明が消えてしまった。
「もしかしなくても停電ですね……あっ、ありがとうございます」
「こんなものまですぐに出てくるんですね……」
さっと差し出されたランタンタイプの懐中電灯を受け取る。
「……留美さん」
「あの子たちが気になるんですよね」
言いたいことを先に言われてしまった。
「はい。このままでは撮影に支障が出てしまうぐらい気になってます」
「……まぁ、いいでしょう」
「ありがとうございます」
123プロ『周藤良太郎』としての仕事はここまで。
ここからは、アイドルの王様としての仕事だ。
「復旧の見込み、全く立たないようです!」
「撮影機材はバッテリーで動きますが……」
「他がアウト、か……」
Pたんと監督とスタッフさんたちが話している内容は、座って待機している私たちの耳にも届いていた。
最初のトラブルは豪雨だった。しかしこれは、予め監督やスタッフさんたちが屋内撮影用の準備をしてくれていたおかげでなんとかなった。グリーンバックでの撮影。後でここに背景を合成すればいい。
けれど、今回この古城のスタジオで撮影をすると決めたとき、今回の撮影を開始するとき、一番重要だという『お城をバックにして歌う』シーンがまだ撮影出来ていないのだ。
「撮影は今日しかないのに……」
悔しそうに空を睨むPたん。私たちや監督やスタジオなど、様々なスケジュールの関係上、撮影日は今日だけ。別日に再決行、というわけにはいかなかった。
「輝きは既に、フィルムの中にある」
「えっ」
「城をバックにした歌のシーンが無いのは残念だが……十分いい作品になる」
第一印象は堅物そうで、ミュージックビデオの撮影も何度もリテイクを重ねていくタイプの厳しい撮影スタイルだったけれど、それでも私たちに対して決して嫌味の一つも言わず、指示は全て私たちのことを思っての言葉だった。
そんな監督が「十分いい作品になる」と言ってくれた。だけどそれが
「こっちはまだ時間がかかる。先に撤収してていいからな」
「……ありがとうございます」
「あぁ。……そこ! 分かるな!」
去り際に撤収準備を進めるスタッフに声をかける監督。不意打ちで笑わそうとしないで欲しい。
「……あーあー、残念だなー。お城のシーン撮影出来ないなんてねぇ」
私は少しでもみんなの心が軽くなればと、自分の心が軽くなればと、あえて軽い言葉でヘラリと笑う。今日の私の撮影コンセプトである『道化』のように。
「あぁ……楽曲の世界観を雄弁に物語るシーンになっただろうに」
私の言葉に合わせるように、さくやんも比較的に明るい声で返事をしてくれた。
「「……………」」
きりりんやまみみんからの反応はない。言葉はなくとも、二人からも諦めの雰囲気は感じ取れた。
――みんなでカッコいいMVを作るばーい!
――この曲の物語を演じる……っていうのは、どうかな……?
あの日の熱は、既に消えつつあった。
必要最低限の撮影は終わっている。このまま別日に私たちだけでの歌唱シーンを別撮りすればいいだけの話だ。最高ではなくても最良の作品にはなる。それは間違いないんだ。
(……でも)
雨は止まない。電気も復旧しない。
私たちの心の中の火は、既に消えかかっていた。
ただ一人――。
「うちは歌いたか」
――私たちのリーダーを除いて。
「こがたん……」
「今まで撮ったんのもすっごくよか……でも、なんか違う気がしとる!」
「違うって……」
「結華、ゆーとったやろ!」
「え、三峰ぇ?」
急に話を振られて驚いてしまう。
「うちらに必要なものは『これがアンティーカだ!』って言えるものだって!」
「言っ……たねぇ」
確か、初めてミュージックビデオを撮影しようって話をしたレッスンスタジオの休憩室でそんなことを言った気がする。
「うちらは……『L’Antica』はこんなもんじゃなか! もっともっと……もっと熱いんよ! 観てくれた人たちが、ガ~ッと熱くなるような、そんな『焔』みたいな歌を歌うのが――!」
――うちら『L’Antica』ばい!
「……こがたん」
「恋鐘……」
「恋鐘さん……」
「……………」
あぁ、間違いなく彼女は私たちのリーダーだ。
春先の冷たい雨に晒されて、すっかり冷え切っていた私たちの心に……あっという間に火をつけてしまうのだから。
「ありゃ」
結華ちゃんたちが撮影しているところに戻ってくると、どうやら話は良い感じにまとまりそうな雰囲気だった。五人揃っていい顔している。
「どうやら、出番は無さそうですね?」
「そうですね……」
優しい笑顔の留美さんに返事を返しつつ、窓の外に視線を向ける。雨は変わらず窓を叩くほど強く振り続けていた。
「確かに、
・『チョコレート戦争』とか『バレンタイン解放戦線』とか
当事者以外は「あぁ、もうそんな時期か」となる学校の風物詩。
・俺の出番
この体たらくよぉ!
文量配分ミスったので、エキストラタイムというの名の五話目入りまーす!
いやなんか付け足したいこと書きまくってたらあっという間に五千文字超えちゃって……(普段は一話四千文字強)
次回、ついにニンジャのエントリーだ!