アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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アンティーカ編ラスト!


Lesson471 古城の焔に陰は踊る 5

 

 

 

「監督!」

 

 撤収準備を始めていた監督をこがたんが呼び止める。私たちの会話は聞こえていたらしく、先ほどからスタッフさんたちに飛ばしていた監督の指示の声は聞こえなくなっていた。

 

「歌のシーン! どーしても撮ってほしか!」

「私たちの歌で、ミュージックビデオを観てくれた人にも……灯を付けたいんです」

「なんだってやります!」

「あ、雨の中でも」

「……歌いますからー」

 

「「「「「「どうかお願いします!」」」」」」

 

 Pたんを含めた私たち六人は揃って頭を下げた。

 

「……まさか、この豪雨の中で撮ってくれとでも言うつもりか?」

「はい!」

「私たちの覚悟は出来ています」

「無茶を言うもんだ……」

 

 監督は振り向かず、困ったように自分の首後ろを掻いた。

 

 窓の外は未だに轟々と雨が降り続けている。普通に考えれば外に出ること自体が困難で、ましてや撮影なんてもっての外だろう。

 

 これが無茶なお願いだということは百も承知だ。私たちだけじゃなくて、撮影スタッフさえも危険に晒すことになるかもしれない。所詮アイドル一年生の小娘たちの戯言だと、切って捨てられても私たちに文句を言う権利はなかった。

 

「……だが」

 

 だというのに。

 

「それが君たちらしさならば……それをフィルムに収めずして、俺は監督として自分の作品に胸を張ることが出来ん」

 

 監督は振り返ると、サングラスを下げて「分かるな?」と優しい眼を見せてくれた。

 

「「「「「はい! ありがとうございます!」」」」」

 

「よし! そうと決まったら撤収中止! 撮影するぞ! 何が必要か、分かるな!?」

『はいっ!』

 

 監督の鶴の一声により、スタッフさんたちの動きが変わる。

 

 私たちも自分たちの準備のために動こうとして――。

 

 

 

「待った」

 

 

 

 ――それは突然の冷や水だった。

 

 それまで黙って聞いていてくれたリョーさんが、真剣な面持ちでストップをかけたのだ。

 

「なんで!? 止めないでリョーさん! 私たちは――!」

「止めないよ。ちょっと待ってって言ったんだよ」

「――え?」

 

 一瞬激高しかけた私は、リョーさんに優しくポンと肩を叩かれてすぐに鎮静化した。

 

()()()()()()()の中で歌った経験は俺にもあるから、出来ないことはないだろう。野外のフェスに参加するようになったらこういうことはよくある」

 

 リョーさんは「ただし」と自分の顔をちょんちょんと指差した。

 

「ライブはともかく、撮影となるとメイクの問題をなんとかしておかないと」

「あっ」

 

 リョーさんの言葉に、私たちは全員はっとなった。今日の私たちのメイクは、基本的に屋内撮影用。勿論屋外での撮影は予定していたが、これほどの豪雨でも続行できるほどの防水メイクなんて勿論していない。

 

「今から五人のメイクを直すとなると、相当時間がかかる」

「そんな……」

()()()ちょっと待ってって言ったんだよ」

 

 突然、リョーさんはパチンと指を鳴らした。

 

「ここでウチの新人スタッフを紹介しよう」

「お初にお目にかかる」

 

 リョーさんの背後に立っていた色黒の男性がペコリと頭を下げた。

 

「えっ。……え!?」

 

 驚愕した。突然男性が現れたことに、ではない。『いつの間にか男性がリョーさんの背後に立っている』という事実を当たり前のように受け入れていたことに、驚かなかったことに驚いているのだ。

 

「今日はカメラマンとして付いてきてもらっていたけど、123プロダクションの専属ヘアメイク兼雑務を担当してもらってる――」

 

 

 

風間(かざま)(しのぶ)と申します」

 

 

 

 

 

 

「出来ました。次の方、こちらに」

「はっや!?」

 

 メイク初めてから三分ぐらいしかたってないんだけど!? 今の一瞬でメイクし直したの!? あまりの早さにあのまみみんですら唖然としてるんだけど!?

 

「なんでも、特殊メイクを代々生業にしてきた家系らしいよ」

「それ本当に代々生業にしてたのって特殊メイク? なにか別のことじゃない?」

「いやそんなまさか。たまに音もなく背後に立ってたりするだけだよ」

「あからさまに忍者なのだ!」

 

 なんて会話をしている内にきりりんのメイクも終わった。これならあと十分前後で私たちの準備は終わることだろう。

 

「……三峰、てっきりリョーさんには『危ない』って止められると思ってた」

「最初は止めるつもりだったよ。風も強し、実際危ないからね」

 

 リョーさんと共に窓の外に視線を向けると、雨の中をスタッフさんたちが撮影の準備を進めてくれていた。屋外撮影用の照明がないため、車を並べてライトを照明代わりに。雨に濡れながら、大勢の人たちが私たちのために動いてくれている。

 

「でも、そんな止めたい気持ちを『君たちを応援したい』っていう気持ちが上回ったんだ。283プロの『L’Antica』がどんな風に輝くのか、アイドルの王様『周藤良太郎』は見たいって言ったんだよ」

「……アイドルの王様」

 

 それはリョーさんが度々使う言葉だった。日本のアイドルの頂点に立つ存在という意味だけでなく、そこにはきっと別の意味があるのだろう。

 

「って言っても、今日の俺は何もしてないけどね。たまたま現場がブッキングして居合わせて、たまたま同行していた風間さんを紹介しただけ」

 

 そう言ってリョーさんは肩をすくめるが、少なくとも私はそうは思わなかった。

 

「……リョーさんってさ」

「ん?」

「意外と自己評価低いよね」

「……そんなことないと思うけどな」

 

 私の言葉に目をパチクリとさせたリョーさんは、カリカリと爪で首を掻きながら視線を逸らせた。こういうところは、無表情ながら分かりやすいと思う。

 

「確かに今メイクをしてくれているのは風間さんだけど、リョーさんが紹介してくれなかったらメイクなんてしてもらえなかった。そもそもリョーさんが連れてきてくれなかったらメイクをお願いすることすら出来なかった」

「……それは流石にこじつけ過ぎ」

「かもね」

 

 そんなもしもが重なったとしても、きっと私たちはこの雨の中の撮影を敢行しただろう。しかしそうなった場合、果たして防水メイクを施した場合と比べて完璧なMVになったのだろうか。

 

 私たちが万全の状態で撮影に臨めるのは、この場に『周藤良太郎』がいたからだ。

 

「リョーさんが素直に自分を誇れないっていうんなら、せめて三峰だけでもお礼言っといてあげる。……ありがと、リョーさん」

「……あぁ、どういたしまして」

 

 いよいよ次は私のメイクの番になった。

 

「それじゃあメイクしてもらってくるけど、どうせなら帰らずにちゃんと最後まで撮影観てってよね! ステージの上だけじゃなくて、雨の中風の中だってちゃんとアイドルやれるってところ、分からせてあげる!」

「大丈夫――」

 

 

 

「分かるわ」

「ぶっふぃえぁっ!」

 

 

 

「流石にフリかなって思って」

「そうだね三峰の言い回しも悪かったねチクショウ!」

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様、風間さん。ありがとうございます、無理を聞いてもらって」

「恐悦至極。この程度、拾っていただいたご恩を思えば」

「相変わらず固いなぁ……」

「……以前から思っていましたが、良太郎君、一体どういう経緯で風間さんを雇うことになったんですか……?」

「まぁ色々とありまして」

「その色々を聞いてるんですが」

「風間さんに直接聞いてみては?」

「いないですよ既に」

「音もなく……」

 

 

 

 

 

 

「良太郎さんって、カッコよかとね~」

「え゛」

 

 嵐の中の撮影を終え、無事に完成したMVを事務所で観ている際、こがたんの口からとんでもない一言が飛び出した。

 

「お、落ち着いてこがたん……!? だ、誰がカッコいいって……!?」

「え、どうしたん、結華」

「結華、君が落ち着きたまえ。世間一般の評価として『周藤良太郎』がカッコいいという評価は何もおかしなことではないいぞ」

 

 思わずこがたんに詰め寄りそうになってしまったが、さくやんに肩を抑えられる。

 

「いやね、うちらがメイクのこと何も考えんと雨ん中で撮影しよーとしたとき、止めてくれたやろ? あんときの冷静なものいい、クールな大人って感じやったなーって」

「あ、あと、雨の中でステップを踏むコツとか……教えてくれたよね……」

「まー、恋鐘の胸、めーっちゃ見てたけどねー」

「まぁそれはよくあることやから、うちは気にせんばい」

 

 こがたんだけじゃなく、きりりんやまみみんからの評価もそこそこ高かった。

 

 一体何故……と、スタジオでのリョーさんの様子を思い返して気付く。

 

(あれ、もしかして……私に対してだけふざけてた……!?)

 

 そうだ、今回のリョーさんは私に『分かるわ』でゴリ押してきただけで、それ以外は比較的真面目な言動だった。

 

「真っ当な大人を……取り繕っていた……だと……!?」

「流石にその評価は周藤先輩が可哀そうではないかな……」

「さ、さくやんは、さくやんは分かってくれるよね!? あんなのいつものリョーさんじゃないって、分かってくれるよね!?」

 

 最後の頼みの綱であるさくやんに縋りつくが、彼女は申し訳なさそうに苦笑しつつ首を横に振った。

 

「その……結華が何を言いたいのか大体分かるのだけれど、申し訳ないことに私はまだ君ほど周藤先輩と関係が深いわけではなくて……彼に対する評価は、どちらかというと恋鐘たち寄りなんだ」

「なん……だと……!?」

 

 衝撃の事実に、私は思わず眩暈がしてしまった。

 

 いや、別に私もリョーさんのことがカッコ悪いと思っているわけじゃない。顔が好みではないというだけで普通にイケメンの部類だとは思っているし、こがたんたちが目が節穴だとかそんなことを言いたいわけでもない。

 

 それでも、なんか……なんかこう、釈然としないのである。

 

 

 

 もう本当に覚えてろよリョーさん!

 

 

 

 

 

 

 ちなみに。

 

「か、観客ゼロ人のライブ……?」

「い、いちおう、ウチは陰から覗いてはいたんですが……」

「前途多難ではあるけど……ちゃんと歌い切ったんだね?」

「はい」

「根性はあるみたいだね」

「ただ、それでもニコちゃんは納得してないみたいで……」

「拗らせてるなぁ……」

「リョーさんの方から、なんとか言ってあげれませんか?」

「悪いけど()()()()干渉しないよ」

 

 音ノ木坂学園のスクールアイドルの話を、ニコちゃんの一件でそれなりに仲良くなったノゾミちゃんから聞いたりしていたのだけれど。

 

 それはまた、別のお話。

 

 

 




・豪雨の中のメイク
まぁアイマス世界にメイク崩れっていう言葉は存在しないけど……。

・風間忍
アイドルマスターsideMに『登場していたかもしれなかった』元特殊メイクアーティストのアイドル候補生。24歳。
ゲーム内企画『新アイドル発掘オーディション』にエントリーしていた一人であり、身も蓋もない言い方をしてしまえば、いわゆる没キャラ。
ちなみにこのときのオーディションに合格してデビューしたのが現在の『Legenders』。

・ちなみに。
だいたいアニメ三話ぐらい。



 五話も続いたアンティーカ編ですが、実は一番書きたかったのは風間忍紹介パートっていう。

 一目見たときからずっと出したかったキャラであり、ようやく本編に合流させることが出来ました。大々的な出番があるわけではありませんが、今後は何でもできる裏方役として便利に活躍してもらいます。

 それでは、次回はデレマスMR後にお会いしましょう。
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