『『『『『Ignite Our Song!』』』』』
『『『『『急げ灯すんだ!』』』』』
「……で、そのとき撮影したのがこのMVと」
「あぁ、凄い迫力だろ」
「迫力は認めるが、どちらかというとこの短期間で仕上げてきた製作スタッフの方に驚いてるかな」
結華ちゃんたち『L’Antica』のMV撮影現場にお邪魔させてもらってから早三日。早速公開されたMVを、たまたま事務所にいた冬馬と共に鑑賞する。
「コレお前たちのMV観て『カッコいいのが撮りたい』って感化されたらしいぞ」
「ふん、俺たちだったら最初から雨ん中で撮影するな」
「男が濡れて何が楽しいんだ」
「それって個人の感想ですよね?」
叩きつけるような大雨の中、彼女たちは顔に打ち付ける雨を物ともせず『バベルシティ・グレイス』を歌っていた。流石に音声は後付けになるが、それでもあのとき彼女たちは間違いなく歌っていた。
「あ、ここなんだけどさ」
「何か舞台裏エピソードでもあんのか?」
「大きめの木の枝が風で飛んで来たんだけど、風間さんが画面外で撃ち落とした」
「想像の斜め上のエピソード出てきたんだが!? 撃ち落とした!? どうやって!?」
「流石によく見えなかったんだが、多分手裏剣だろ」
「あの人ガチで忍者かよ……っていうか、こんな暴風の中よくあんな平べったいものが真っ直ぐ飛ぶよな」
「甘いぞ冬馬。一口に手裏剣って言っても、ペンみたいな棒状のものもあってだな……」
「なんでそんなに手裏剣の造詣が深いんだ」
「そりゃあ昔から飛針っていう手裏剣の一種を見てるからな」
「そうだその点で言えば俺もそっち側だったな……」
高町家で鍛えられている側の人間として頭を抱えている冬馬。流石に取り扱い方は習っていないものの、彼らがそれを使っているところを俺も何度か見せてもらっている。凄いよな、あんな細い鉄の棒で鉄板に綺麗に穴が開くんだもんな。
「しかしお鶴さんも相当曲者だと思ってたが……風間さんは頭一個抜き出てるな。専属メイク兼雑用にしては忍者という情報がノイズすぎる」
「それに加えて護衛も兼ねてもらってる。恭也に頼むこともあるが、やっぱり自分たちで戦力を整えておくことは大事だろ」
「戦力ってお前な」
ちなみに現在この事務所に風間さんはいない。姿が見えないだけではなく物理的に不在。今日は志保ちゃんと志希、『Cait Sith』の二人に付いてもらっている。
知名度的な意味での護衛の重要性は俺や冬馬たちの方が高いだろうが、やはり心情的には女性陣に付いてもらった方がいいだろうという判断だ。あとついでに失踪する志希を拘束する役割も担ってもらっている。心配事が一気に二つも減って、風間さん様様だ。
「まぁ、そのおかげでとある一人の美女の出番が犠牲になってるんだけどな」
「は?」
「なんかボサボサしてる間にポジション取られた気がする!?」
「お姉ちゃんいきなりどうしたの!?」
「遊んでないで働け」
結局不憫属性から抜け出すことが出来なかった三つ編み眼鏡の彼女のことを思うと涙が零れそうになる。今回はご縁が無かったということで……いや縁なら十分にあったんだけどさ。
一人の少女の
「お疲れ様です。……あら、それはあのとき撮影していたMV?」
「そうですよー」
「そういや留美さんもいたんでしたっけね」
「えぇ。良太郎君の撮影に付いていったら、まさか別事務所のアイドルたちと関わることになるとは思わなかったわ」
「お前本当にそういうところあるよな」
多分そういう需要があるんだと思う。
「ただそのことを友人に話したら『私たちのところにも来て欲しかった』って言われちゃって」
「へぇ。ということは、その友人さんもアイドルを?」
「えぇ。少し歳は離れているけど、仲良くさせてもらっているの」
「……留美さん、今年でおいくつに」
「良太郎君」
「はい」
当然この世界はサザエさん時空じゃないので、みんな一つ一つ年齢を重ねているのだ。だから原作の年齢から逆算とかしてはいけない。いいね?
「あら。噂をすれば、その友人からだわ」
スマホを取り出した留美さんは、ラウンジの片隅に移動して通話を始めた。
「そーいや冬馬、お前明日午前中時間あるって話だよな?」
「ん? あぁ、特に予定もないから事務所来て時間潰そうかと思ってたけど」
「じゃあエアライダーやろうぜエアライダー。シティトライアルでガチンコな」
「いいぜ、お前にカレーの奥深さを味わわせてやるよ」
「え、お前の持ちキャラ、コックカワサキなの?」
始める前から面白さで敗北感を味わっていると、ラウンジの片隅で通話していた留美さんが「えぇ!?」と声を上げた。
「引っ越しの手伝いだなんて……いきなりそんなこと言われても」
「なんだなんだ」
「トラブルか?」
当然相手側の声は聞こえないが、少し気になってしまったので冬馬と共に留美さんの言葉に耳を傾ける。
「貴女、283プロの女子寮に入るって言ってたでしょ? それで男手なんて……プロデューサーさんが手伝いに来れなくなったのは分かったけど」
「へぇ、友人さん、283のアイドルだったんだ」
「だからさっきのMVの話題になったんだな」
留美さんの口ぶりからすると、どうやら女子寮への引っ越しでトラブルが発生しているらしい。断片的な情報から察するに、予定していた引っ越しの手伝いが来れなくなってしまって留美さんへ助けを求めたというところだろうか。
留美さんも困った様子で電話の向こうの相手に言い返していた。
「無茶を言わないで頂戴。そんな明日の午前中に時間がある上にアイドルへの事情に配慮出来て、さらに力仕事もお願い出来る知り合いなんて、急に声をかけられるわけ……」
「「「……………」」」
留美さんと目が合った。
「いやいやいや、留美さん、まさかそんなこと考えてないですよね?」
「留美さん、俺は貴女が常識人だって信じてますよ」
「えぇ、勿論ですよ」
にっこりと留美さんは笑った。
翌日。
「初めまして、お手伝いに来ましたリョーさんです」
「トーマだ」
「留美さんちょっとこっち来てもらっていいですか!?」
慌てた様子の女性が留美さんを引っ張っていった。
(お手伝いって、あの二人ですか!? あの二人ってあの二人ですよね!?)
(何を言ってるの、あの二人は『リョーさん』と『トーマさん』よ)
(流石に分かりますよぉ!? 無茶を言ったのは私ですけど、なんて人たちを連れてきてるんですかぁ!?)
美女二人がこそこそと話をしている間、こちらはこちらで美少女二人に話しかけられていた。
「え、えっと、お二人って、もしかして……す、『スドウ』さんと『アマガセ』さん、なんですよね……!?」
「フルネームはお互いのためにならないから、口にしないようにね」
「ほ、ほんものだぁ……!?」
深い赤色の髪の少女が俺たちの正体に気付いて目を白黒させ、そんな彼女とよく似た少女が彼女の背中に隠れるようにこちらを窺っていた。
「君たちのことは結華ちゃんから聞いてるよ」
「結華ちゃんから?」
「というか、事務所の全アイドルのことはよく聞かされてるよ」
元々好きなアイドルに対する熱量が強い子ではあったが、自分が所属する事務所のアイドルともなるとその熱量は桁違いだった。おかげで283プロのアイドルたちのことはよく知っている。
「スドウさんに知っててもらえるなんて、なんだか照れくさい……あっ、ごめんなさい! ご挨拶してませんでした!」
少女は照れたように笑っていたがハッと気づいたように謝罪すると、留美さんに詰め寄っていた女性もこちらに駆け足で戻って来た。
「283プロダクション所属『アルストロメリア』の大崎甘奈です!」
「お、同じく、大崎甜花、です……」
「同じく桑山千雪です。本日はこんなことのためにお呼び立てしてしまって、申し訳ありません……!」
「ホントにな」
「いえいえ、どうせ暇してましたから」
桑山さんに「頭を上げてください」と言いつつ冬馬の後頭部を引っ叩く。最終的に手伝いに来る判断をしたのは自分なんだから今更文句言わない。
「いつまでも入り口で立ち話をするわけにもいきませんから、とりあえず中へ……」
「「「お邪魔します」」」
桑山さんに促されて、283プロ女子寮の中へ。
なかなか築年数が経っていそうな外観ではあったが、なかなかどうして内装は真新しく綺麗だった。
ちなみに、勿論だが今日のことは天井社長やプロデューサーさんにも許可を取ってある。『引っ越しの手伝いをすることになった』という連絡をしたら「「……何故君が?」」という至極当然の反応をされたが、事情を説明すると「「本当に申し訳ない」」と謝られてしまった。こちらもまた至極当然の反応といえばそうである。
「他の入寮しているアイドルたちには説明済みなんですよね?」
「引っ越し作業に男性が入ることは伝えています。その男性がトップアイドルだとは勿論知らないでしょうけど……今日は全員朝早くから外出しているので」
顔を合わせて余計な誤解を生むようなことはない……と。
「万が一顔を合わせることになったとしても、お二人ならば大きな問題にはならないと思いますよ」
「なんて言ったって、あの『周藤良太郎』さんと『天ヶ瀬冬馬』さんだもんね!」
「そもそも女性アイドルの寮に他事務所の男性アイドルが入っている時点で問題では」
あと寮の中に入ったとはいえ、高らかに名前を叫ぶのは控えてもらいたいな。
「よし、それじゃあ早速やりましょうか」
「時間もあんまりねぇしな」
「それじゃあ、まずはこっちから……」
こうして男性アイドルのツートップによる引っ越し作業が始まるのであった。
自分のことなので別に『トップアイドルの無駄遣い』とかは、別に考えない。
・「それって個人の感想ですよね?」
なんでこの人まで異世界転生してるんだ……?
・「なんかボサボサしてる間にポジション取られた気がする!?」
君は310プロの方で護衛頑張って……。
・「……留美さん、今年でおいくつに」
ヒント1 デレマスキャラはデレマス編で設定年齢になるようになっている。
ヒント2 デレマス編から三年経ってる。
・エアライダー
実はエアライドやったことなかったから今作初めてやる。
・カレーの奥深さ
アイマスといえばカレー。
・アルストロメリア
実は外伝Ep27で登場していた三人が、ようやく本編へ登場です!
アイ転はいつだって力業! という感じで、アルストロメリア編突入です。また色々と登場キャラとか弄ってくぞー!
『どうでもいい小話』
デレMRの思い出ですか? そうですね、勿論楓さんの素晴らしいステージは言わずもがななんですけど、インパクトとしては地下労働という名のぴにゃ回しでしたね()
『どうでもいい小話2』
アイ転連載十二周年突破しました! 十三年目ですよ十三年目!
これからもよろしくお願いします!