アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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※前話を大きく加筆修正しております。12/23

色々とアニメから変更!


Lesson475 咲き誇れ、未来の花 4

 

 

 

 りんと凛ちゃん。愛する女性と可愛い妹分。俺にとって二人とも大事な女性だ。

 

『リョーくんの妹分だかなんだか知んないけど、あんまり調子乗んじゃないわよ』

『何言ってんのか分かんないけど、とりあえずアンタみたいな義姉はいらないかな』

 

 しかし何故か知らないが、当初の二人は仲が良くなかった。ギリギリ悪かったとまでは言わないが、顔を見合わせるたびにギスギスした空気になっていた。

 

 そんな二人がこうして顔を合わせてしまった今、一体どうなってしまうのかというと。

 

 

 

「ちょっと凛、店の手伝いするにしてももうちょっと身バレ対策しなさいよ。アンタ自分も十分トップアイドルだっていう自覚持ちなさいよ」

「そーゆーりんさんだって変装甘いんじゃない? 胸をもう少し目立たなくした方がいいと思うんだけど」

「これでもさらしで潰してるんだけどね」

「それで!?」

 

 

 

 何故か知らないが、なんか仲良くなっていた。一体彼女たちの間で何があったのかは分からないが……まぁ、仲良しなのはいいことである、うん。

 

「それで、結局なんでいるの?」

「さっきりんさんも言ってたけど、店の手伝い。このフラワーフェスティバル、うちのお店からもお花卸してるから」

 

 凛ちゃんが親指でくいっと指し示す方に視線を向けると、渋谷のおじさんとおばさんがヒラヒラと手を振っていた。あと足元ではハナコもブンブンと尻尾を振っていた。

 

「お父さんとお母さんにも大丈夫か聞かれたけど、基本的に裏方しかやらないし。表に出てきたのは見知ったカップルがイチャコラしてたから」

「まさかあの『ニュージェネレーションズ』の一人がこんな中規模のイベントの裏方をやってるとは思わないだろうからねぇ」

「とはいえ気を付けなさい。人目に付くような場所には行くんじゃないわよ」

「分かってるってば」

 

 りんが凛ちゃんを完全に妹扱いしてる。なんだろう、もしかしてりんも妹が欲しかったのだろうか。

 

「それで? 二人はどうしてこんなところに? デート?」

「勿論。仕事してるように見える?」

「全然。折角来たんなら、うちのところの花見てってよ」

「そうだね。それじゃあ『いじっぱりミント』を十個買おうかな」

「ゴメン、それ一度に一個ずつしか販売してないんだ」

「なんで渋谷生花店までその販売形式採用しちゃったんだよ」

「そもそもそれ本当に売ってるわけ……?」

 

 

 

 とまぁ、そんな感じで俺たちとは違いスタッフ側としてイベントに参加している凛ちゃん。運営側も流石にプライベートで家業の手伝いをしているトップアイドルがいるなんてことは把握していないだろうし、大事になることはないだろう。

 

 そう、例えばイベントの講師の代役を頼まれたとか、そんなことがない限りは。

 

 

 

 

 

 

『初めまして。本日フラワーアレンジメントの講師を務めさせていただきます、渋谷生花店従業員です』

 

 どうしてこうなった。

 

 

 

 お店の手伝いをするためにイベントに来たまでは良かった。花屋の仕事は嫌いじゃないし、久しぶりにプライベートの良太郎さんとりんさんにも会えたし、なかなか充実したオフを満喫していたはずだった。

 

 ――渋谷さん! 頼みたいことがあるんだ!

 

 イベントでゲストのアイドルたちにフラワーアレンジメントを教える講師が急病で来れなくなったこと。イベントの主催者が『渋谷生花店の長女がアイドルである』ということを知らなかったこと。この二つの事柄が不運にも噛み合ってしまった結果がこれである。

 

 ……うん『断れよ』と言われてしまえばそれまでだ。

 

 ――え、大丈夫なのかな……。

 ――どうなるんだろ……。

 

 それでも、トラブルが発生して不安そうにしているゲストの新人アイドルの子たちの表情を見てしまい、彼女たちの心情を勝手に慮ってしまった結果、私は「それぐらいなら……」と講師役を引き受けてしまったのである。

 

『……えっ!?』

『あ、あの、もしかして……!?』

『もしかしません。それでは早速始めていきます』

『『『アッ、ハイ』』』

 

 先ほどまでステージでトークショーをしていた新人アイドルユニット……283プロの『アルストロメリア』の三人は()()()()()()に気付いて困惑していたが、出来れば内密にお願いしたい。

 

 というわけでフラワーアレンジメントのワークショップである。これでも生花店長女の端くれとして、実はこういうのは結構得意。プロデューサーに知られたら、お花の仕事増やされちゃうかも……なんて。

 

『まずは給水スポンジの真ん中に一本お気に入りの花を挿して、その周りを取り囲むように花を挿してみてください』

『なんか……センターと、その両脇、みたいな……』

『あはは、なんかアイドルのステージみたい』

『誰でも主役になりえるけど、ポジションによって全体の印象が変わる……言い得て妙ですね』

『従業員さん、アイドルに対しての造詣も深いんですね』

『聞きかじった程度です』

 

 そんなやり取りをしつつも『皆さんはうまく出来ましたか?』と講師役として、一般の参加者さんたちにも意識を向ける。

 

「……………」

 

 一人の少女が目に留まった。中学生ぐらいのお姉さんと一緒に参加している小学生ぐらいの少女。楽しそうに花をスポンジに差している姉とは対照的に、彼女は露骨につまらなさそうに視線を落としていた。恐らくだけど、お姉さんに無理やり連れてこられたのだろう。

 

 お花に興味がない人は当然いるし、無理やり興味を持ってもらうように強制するものでもない。それはどんなものでも同じだ。

 

 それでも、今この場にいるのであれば……私は少しでも興味を持ってもらいたい。

 

 そんな『生花店の娘』としての私と『アイドル』としての私の意識が一致した結果、気が付けば私はステージを降りていた。

 

「こんにちは」

「っ」

 

 しゃがんで俯く少女の顔を覗き込みながら声をかけると、少女はビックリして肩を震わせた。

 

「お花、楽しくない?」

「……おねーちゃんに、無理やり連れてこられただけだもん」

 

 予想通りだった。女の子だからって全員が全員お花が好きなわけじゃない。それはアイドルでも同じことだ。好みというものは千差万別で、それこそ星の数ほど……いや、花の数ほどある。だから全員が無理に好きになる必要はない。

 

 それでも私は、お花屋さん(アイドル)として少しでも興味を持って欲しいのだ。

 

 彼がそうしてくれたように。彼が目指した世界のように。

 

「ねぇ、試しにこの花、差してみて」

 

 机の上から青いアイリスを一本手に取り、少女に差し出す。

 

 

 

「君に似合う花だと思うんだ」

 

「ふぁい」

 

 

 

 

 

 

「あれはやってんな」

「捻じ曲がっちゃったね」

 

 俺の妹分がいたいけな少女の初恋泥棒な件について。

 

 急にワークショップの講師として壇上に登ることになったと聞いて、心配になって様子を見ていたものの、何故か凛ちゃんが少女に跪いて花を差し出すプロポーズのような場面と遭遇することになった。

 

 それまで妹の態度が不満そうだった彼女のお姉ちゃんも、何故か興奮した様子で歓喜の声を上げていた。あっちはあっちで別の扉が開いたらしい。きっと数年後薄い本が厚くなることだろう。

 

「そんな気はしてたけど、凛ちゃん王子様適正もあったかぁ」

 

 なんとなくシアター組のジュリアと並んでみのりさんたちの『スマイル・エンゲージ』を歌っている姿を幻視した。これには五万人以上の観客も大歓声。

 

「とはいえ、これは流石に事務所にも知られちゃうだろうなぁ」

「リョーくん」

「分かってる。俺の方からもフォローしておくよ」

 

 壇上に登ったのは凛ちゃんの意思とは言え、これで怒られるのはちょっと可哀想だし。

 

 ……しかし。

 

 

 

(もうちょっとだったね、アルストロメリア)

 

 

 

 

 

 

「えっ、良太郎さんから『暗い表情の人を笑顔にする』っていう課題を出されてた?」

「実はそーなんです」

 

 全てのイベント終了後、ミニライブも終えたアルストロメリアの三人が「是非お礼を言わせて欲しい」ということで楽屋へ赴き、彼女たちのプロデューサーともども過大なお礼の言葉を述べられた後、そんな話を聞くことになった。

 

「えっと、なんかゴメン、私出しゃばっちゃって」

 

 あくまでも今日の私はアイドルでもなんでもなくただの生花店の従業員で、ゲストと銘打ってはいるが間違いなく今日の主役はアルストロメリアの三人だった。

 

 自省していると、大崎甘奈さんが「そんなことないですよ!」と興奮気味に詰め寄って来た。その後ろでは大崎甜花さんもうんうんと頷いていた。

 

「すっごくカッコよかったです! やっぱりアイドルって凄いって思いました!」

 

 手を取ってブンブンと上下に振られる。

 

「どうして良太郎さんはこんな課題を私たちに出したのかなって思ってたんですけど……なんとなく、分かった気がします。『こういうのがアイドルなんだよ』っていう、そういう一例を見せたかったんだなって」

「さ、流石に、渋谷さん、みたいなのは……無理かもしれないけど」

「甘奈たちも、いつか自分たちの力で良太郎さんの課題をクリアしてみせます!」

 

 早いもので私もアイドル四年目。事務所にも後輩となるアイドルたちが増え、それでもまだまだ精進すべきことは多いと実感することが多い日々ではあるが。

 

「これからもアイドル、頑張ってね」

「はいっ!」

 

 なんとなく、私たちを見守っていてくれた良太郎さんの気持ちが分かったような気がした。

 

 

 

「……渋谷さんは、アイドルなのにお家のお仕事もされていて凄いですね」

 

 そう話しかけてきたのは、アルストロメリアのお姉さん、桑山千雪さんだった。

 

「ただ休日に手伝いをしてるだけだから、大したことじゃないですよ」

「それでも凄いです。私は、両立しようとする覚悟がありませんでしたから……」

 

 そう言う桑山さんの表情に影が差す。

 

「……あの、渋谷さん」

「はい」

「アイドルになるために手放したものに未練があるのは……アイドルに対して本気じゃないから、ってことなんですかね」

「? 何を言ってるんですか」

「え……」

 

「未練があるのは、それが大切なことだからに決まってるじゃないですか」

 

「……………」

「桑山さんが何を手放したのか、それが私の場合と同じように当てはめられることなのか、私には分かりません。でも自分の気持ちを疑わないでください」

 

 先ほど見せてもらったステージを思い返す。

 

 アイドルの先輩としては少しだけ粗が見え隠れしてしまう、そんなステージではあったけれど。

 

「見ているこっちが楽しくなるぐらい、とても楽しそうな笑顔でした」

「……ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 さて、今回の事の顛末という名のオチを語ることにしよう。

 

 まず、フラワーフェスティバルに『渋谷凛』が講師として登場したことはそれなりの騒ぎになったものの、あくまでもプライベートだったということで凛ちゃんに対するお咎めはなかった。

 

 勿論ちょっとした注意は受けただろうが、少なくとも大事にならなくて一安心。

 

 そしてこれは結華ちゃんから伝え聞いた話ではあるのだが……何故か千雪さんは前職の雑貨屋さんでの仕事を再開したらしい。勿論本業はアイドルで『時間の空いたときだけ無理をしない』と事務所や雑貨屋さんと約束してとのことだったが。

 

 結華ちゃん曰く『千雪さん、なんだか嬉しそうだった』とのこと。どうしてその道を選んだのかは分からないが……もし凛ちゃんとの邂逅が彼女にとっての良いきっかけになってくれたというのであれば、兄貴分として、少しだけ誇らしい。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに。

 

「スクールアイドル部として認めてもらうためにメンバー募集……?」

「らしいですわ」

「……あれ、スクールアイドル部って既にニコちゃんが所属してるんじゃなかったっけ」

「どうやら彼女たちは存在を知らず、ニコも話してはいないらしいですわ」

「『私はアンタたちをアイドルとして認めないわよ!』みたいなこと考えてたりして」

「………………」

「えっ、マジ?」

 

 千鶴経由で音ノ木坂学園スクールアイドル部の現状を聞いて、ニコちゃんの強情さに呆れる一場面もあったりしたのだが。

 

 それはまた、別のお話。

 

 

 




・りんと凛ちゃん
義姉(姉ではない)と義妹(妹ではない)。

・「それじゃあ『いじっぱりミント』を十個買おうかな」
きのみもそうだが、まとめて買わせてくれ、頼むよZA。

・ジュリアと『スマイル・エンゲージ』
準違法枠とか言われててワロタ。

・『暗い表情の人を笑顔にする』
『周藤遼太郎』のオリジン。



 オチ諸々を改変したアルストロメリア編でした。なおほぼ主役は凛ちゃんになってしまった模様。
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