「みんな! 俺以外に悪役のスーツアクターになってくれる人を確保したぞ!」
『えっ!?』
ステージ開園まで残り一時間半。ショーの演出について話し合いをしている控室にそんな朗報と共に戻ると、全員の驚いた視線がこちらに向いた。
「そ、そんな都合のいい展開が本当に……!?」
「俺もビックリしてるけど、本当なんだ。入ってくれ」
若干疑いの目線が混ざっている樹里ちゃんの疑惑を晴らすべく、早速二人を楽屋に呼び込んだ。
「UAプロダクションの大河タケルと牙崎漣だ」
「よろしく頼む」
「なんでオレ様が手伝うことになってんだ!? あぁん!?」
クソ真面目な表情と明らかに不機嫌な表情で入室してきた二人。彼らはかつて緑屋と爆豪を含めた四人で河川敷で騒いでいたときに知り合った二人であり、現在は覆面ライダーを目指して活動する若きスタント俳優の卵である。
「……えっ!?」
「あ、やっぱり光ちゃんは知ってた?」
「はいっ! 今期の覆面ライダーにも参加されてましたよね!?」
目を輝かせる光ちゃんに対して、大河は少し意外そうに眼を見開いた。
「……分かるのか」
「勿論! 特撮好きは凄い動きをする人がいたら、ちゃんとアクターさんを確認するんですよ!」
去年の秋頃に入所したばかりではあるが、既に二人は春から始まった今期の『覆面ライダーゴールデン』にもアクターとして出演しており、一部の視聴者の中で『なんか今年キレのいい戦闘員がいるぞ』と話題になったのである。
「二人とも、今日は同じ事務所の先輩のステージを見学に来たらしいんだが、みんながヒーローショーをやるって知って手伝いを申し出てくれたんだ」
「元々は俺たちの事務所の不手際だ。そうじゃなくても、ヒーローを志すものとして名乗り出ずにはいられなかった」
「あ、ありがとうございます!」
大河の言葉に感激した果穂ちゃんが目を輝かせて頭を下げた。
しかし一方で牙崎は大河の背後で「けっ」とそっぽを向いた。
「オレ様は別にやるなんて一言も言ってねぇぞ」
「じゃあなんで付いてきたんだよ」
「周藤さん、コイツに頼む必要はない。俺がいれば十分だ」
「あ゛?」
「確かになー悪役やらせても大河に負けちゃうかもしれないもんなー」
「あ゛あ゛!?」
だがそれが逆に牙崎漣の逆鱗に触れた!
「大! 天! 才! のオレ様が負けるわけねぇわけねぇだろうが! やってやろうじゃねぇか!」
(扱い易くて助かるなぁ)
牙崎も快く承諾してくれたので、改めて悪役二人確保である。
「……りょ、良太郎さん……」
「ん?」
「その……ほ、本当に大丈夫なんですか……?」
おずおずと袖を引っ張りながらそんなことを尋ねてくる智代子ちゃん。確かに未だにギャーギャーと騒いでいる牙崎は、普通の少女(?)である智代子ちゃんにとっては畏怖の対象になってもおかしくないだろう。
「大丈夫だよ。あんなこと言いつつ、ちゃんとこっちが困ってるっていうことを認識して付いてきてくれたんだから」
「そ、そうなんですか……?」
「寧ろ牙崎にしか出来ないこともあるし」
「え?」
特撮の現場を離れて久しいが、それでも噂や前評判はしっかりと俺の耳に入ってくる。その中には『UAプロダクションの期待の大型新人二人』の噂も含まれている。特に大河は『実直に真面目でありながら静かに熱い未来の覆面ライダー』と絶賛されており、そして牙崎は――。
「あーでもなー今回殺陣に慣れてない子たちも多いからなー牙崎がやる気になったところでどうにもならないかもなー」
「あぁ!? オレ様がステージに立つ以上、半端なもんにさせるわけねぇだろうが!」
「お? 出来るか?」
「誰にもの言ってやがる! 構成見せろ!
――『優秀なスタント俳優兼殺陣師』として。
「ちげぇ! こうだ! いっぺんで覚えろ!」
「お、おう!」
「俺がこう動くから、こっちの手を掴んで……」
「こうやって投げるのね、分かったわ」
『流石に全員での殺陣は時間がないからキツい』という結論に至り、五人の中で一番動けそうな樹里ちゃんと夏葉ちゃんの二人に殺陣をやってもらうことになった。今はそれぞれ牙崎と大河が相手となって実際の立ち回りを確認してもらっている。
「「「はぁー……」」」
そんな四人を、果穂ちゃんと光ちゃんと環ちゃんはキラキラした目で眺めていた。実際に殺陣の打ち合わせをしている現場なんてそうそう見られるようなものじゃないからな。
「……そういうえば、良太郎さんも覆面ライダー現役のときは生身でスタントしてましたよね」
「うん。懐かしいなぁ」
「しかも結構ハードなやつやってましたよね」
「え? 良太郎さん、どんなスタントやったんですか?」
光ちゃんに聞かれて昔のことをしみじみと懐かしんでいると、話を聞いていた智代子ちゃんに何をしたのかと尋ねられた。
「別に難しいスタントをしたわけじゃないよ。簡単な殺陣と、あとは飛び降りぐらい」
「へー。……えっ、飛び降りってなんですか?」
「うん、空中に放り出された赤ん坊を助けるためにビルの二階から」
「ビルの二階から!?」
ポイントはただ飛び降りたのではなく、赤ん坊の人形を空中でキャッチするため飛び込むような形で飛び降りたところである。マット敷いてあったとはいえ、我ながら結構身体を張ったスタントをしたと思う。
「良太郎さんって、その頃はもうアイドルとして活動してたんですよね……?」
「アイドルデビューして初の出演作品だったからね。名前を残そうと必死だったんだよ」
「今の『周藤良太郎』からは考えられないような新人時代ですね……」
「だから果穂ちゃん」
「……えっ!? な、なんですか!?」
キラキラとした目で……しかし何処か羨ましそうな表情をしていた果穂ちゃんに声をかける。
「俺も受け身とか出来るから、果穂ちゃんもあぁいうのやってみたかったら、遠慮なく言ってくれていいんだよ」
「~っ!」
そうそう。
こういう輝く表情を見たいから、アイドルとヒーローは止められないんだよ。
『ホウクラ~! パーンチ!』
『ぐわあああぁぁぁ!?』
レッドが宙にパンチを繰り出すと、それに合わせてモリサゲールが大きく後ろに吹っ飛び、背後に積まれてあった段ボールの山に突っ込んだ。分かりやすく派手なアクションに観客たちは大人も子どもも全員大盛り上がりである。
『ぐぬぬ……! なんということだ、図らずともこの会場を盛り上げることに吾輩が一役買ってしまうことになるとは……!』
『言ったはずです! この街の平和は、あたしたちが守るって!』
『ま、まだまだ吾輩は……!』
なおもしぶとく立ち上がろうとするモリサゲール。そろそろクライマックスかと考えた次の瞬間、BGMが切り替わった。これは……!
『会場のみんなでもっともっと盛り上がって! モリサゲールを倒しましょう!』
五人が客席に手拍子を要求しながらステージ中央に並んだ。
『『『『『変身!』』』』』
掛け声とともに立ち上がったカラフルなスモークが彼女たちの姿を隠し……そして次に現れた彼女たちは――。
『これが私たちの必殺技!』
――ヒーローからアイドルに変わっていた。
『『『『『夢咲きAfter school!!!』』』』』
「今日は本当にありがとうございました」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
プロデューサーに続いて放クラの五人が揃って頭を下げるのに対し、俺は「なんのなんの」と手を振った。
「俺は甥っ子に楽しいステージを見せてあげたかったから、利害が一致しただけ。俺よりも大河と牙崎に感謝しないと」
「……そのお二人の姿が見えないんですけど」
「さっき帰った」
正確には大河が「トレーニングの時間だ」って言ってさっさと帰り、牙崎が「おいさっきのステージはオレ様の勝ちだっただろ!」とそれを追って行ってしまった。
「戦いが終わり、お礼の言葉も受け取らずに去っていく……!」
「ほ、本物だ……! 本物のヒーローだ……!」
「か、かっこいいぞ……!」
確かにこれでもかというぐらいのヒーロームーブで俺も思わず「俺もそれやりたかった」と羨ましくなってしまうほどだ。
ちなみに、そんな二人がとある脚本家の目に留まり「こ、これだあああぁぁぁ!」という魂の叫びと共に彼女が書き上げたシナリオが採用され、翌年『覆面ライダー
「俺が巻き込んだみたいなものだし、先方へのお礼は俺の方からも……」
「……それでも! やっぱりあたしは良太郎さんにもちゃんとお礼が言いたいです!」
ぐっと拳を握りながらそう声を張り上げた果穂ちゃんは、今日一番の目の輝きを見せた。
「パンチのシーン、あたしすっごくヒーロー出来ました! アイドルだけじゃなくてヒーローにもなれました! 今日、あたし、すっごく楽しかったです!」
「……私たちも同じ気持ちよ、果穂」
「ま、まぁ、ヒーローショーってのも、悪くなかったな」
「樹里ちゃんもすっごく楽しそうだったもんね~」
「我ら五人……新たな可能性が広がったと……そう感じております……」
果穂ちゃんだけじゃない。夏葉ちゃんも樹里ちゃんも智代子ちゃんも凛世ちゃんも、ついでに光ちゃんと環ちゃんも、初めて見るアイドルとヒーローに目を輝かせていた梓真も、そして今日のステージを観てくれた全ての人たちも。
みんなが『楽しい』と思ってくれたのであれば……いや、そうじゃない。
他ならぬ
「こっちこそありがとう、五人とも」
もうすぐ『W.I.N.G』が始まれば、きっと俺は彼女たちを純粋に応援することは出来なくなる。審査する者として、彼女たちを
けれど、俺自身も忘れないようにしよう。
ヒーローもアイドルも、こうして純粋な気持ちで楽しめるということを。
ちなみに。
「……そっか、ついにニコちゃんも折れたんだね」
「そう言われるとなんかムカつくわね」
「よっ! スクールアイドル矢澤にこ!」
「馬鹿にしてるわよねそうよね!?」
「俺がアイドルに関することで馬鹿にするわけないだろ?」
「……………」
「おめでとう、にこちゃん」
「……ありがとう」
「それでいつステージに招待してくれるの?」
「絶対にしない」
一人の少女の物語が幕を閉じ……いや、幕を開こうとしているのだが。
それはまた、別のお話。
・大河タケル&牙崎漣
アイ転世界ではライダー枠の二人。緑色の短編集からの再登場です。
・『覆面ライダーゴールデン』
『
※ちなみに主演とスタントの事務所が違うのは、覆面ライダーでは別事務所を使うというアイ転世界の業界の暗黙の了解。
・だがそれが逆に牙崎漣の逆鱗に触れた!
元ネタ、名前が明かされないままとは思わなんだ……。
・殺陣師
中の人ネタ。殺陣が出来るどころか自分で組めるイケメン声優。少なくとも天から四つぐらい与えられている……。
・「空中に放り出された赤ん坊を助けるためにビルの二階から」
Lesson38参照。
・夢咲きAfter school
放クラの代表曲。ナンバーワンコールは二番から。ちゃんと守ろう!
・『覆面ライダー狼爪 VS 覆面ライダー虎牙』
当然イメージはルパパト。人気格差はない。いいね?
・ちなみに。
アニメ五話辺り。描写? だからこれ以上しないって(無慈悲)
助っ人スタントの正体は、アニメではついぞ活躍出来なかった虎牙道の二人でした。まだまだ他のアイドルたちの出番も作るぞ~。
というわけで放クラ編も終わり、次は勿論彼女たちです。