アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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これもある意味アイマスの伝統的展開。


Lesson481 翼は空へと至るために

 

 

 

「おはようございます」

「おっはようございまーす!」

 

 それはとある日、恵美さんと共に朝から123プロの事務所に顔を出したときのことである。

 

 

 

「あああ良太郎さんいい! 凄くいいですよぉぉぉ!」

 

 

 

「うわビックリした。まゆさんが奇声を発してるのかと思いました」

「発してる! 発してるよ! 気付いて!」

 

 123プロの事務所でまゆさんが奇声を発しながら奇行に走ることは日常茶飯事なので本気で驚いているわけではない。

 

 さて今回は一体何事だろうかと、恵美さんと共にまゆさんの声が聞こえてきたラウンジへと顔を出す。

 

「一体何を……」

「まゆー? なにしてんのー?」

 

 

 

「こんな感じ?」

「あああ凄くいいです! もうちょっとはだける感じでお願いします!」

 

 

 

 そこではまゆによるスーツ姿の良太郎さんの撮影会が行われていた。

 

「いや何事ですか」

 

 ギンギンに血走った眼でスマホを横に構えて連写するまゆさん。良太郎さんにスーツの前を開けるように要求する口元からはちょっとだけ乙女心(よだれ)も垂れているような気もして、数々の奇行を見慣れてきた私でもちょっと引いてしまった。

 

「って、リョータローさんがスーツってめずらしー」

「そういえば」

 

 恵美さんに言われてようやく気が付いた。賞の授賞式などでは当然スーツを着ることが多い良太郎さんだが、普段からその姿を見慣れているかどうかといえば別問題だ。最近は普段からかけるようになった眼鏡も赤縁ではなく銀縁のもので、普段よりも真面目な印象を受ける。

 

「馬子にも衣装ってやつですね」

「それ、まさか言われる側になるとは思ってなかったよ」

 

 私も言う側になるとは思いませんでした。

 

「とはいえ、これからはもうちょっと着る機会が増えるかもね。そういう立場で表に立つことも増えるし」

「? ……あぁ、そういえば今日でしたっけ」

 

 良太郎さんの言葉の意味を考えて、ふと今日の日付を思い出した。

 

 

 

「『Wonder.Idol.Nova.Grandprix』……『W.I.N.G』の開催発表の記者会見、でしたね」

 

 

 

 

 

 

『まず初めに。今回のコンテスト開催にあたりご協力いただいた関係者様方に感謝を述べさせてください。ありがとうございます』

 

「「「……………」」」

 

 私と灯織ちゃんとめぐるちゃんは、その記者会見の様子を事務所のソファーに並んで座りながら見ていた。

 

 新人アイドルたちの登竜門とも呼ばれた伝説のオーディション『ゴールデンエイジ』が形を変え、新たに始まった『Wonder.Idol.Nova.Grandprix』。略式名称『W.I.N.G』の開催を告知する記者会見。

 

 以前から噂話として業界内に囁かれていた『審査委員長に周藤良太郎が就任する』という情報が、今初めて世間に向けて公表された。

 

「いよいよ始まるんだね~『W.I.N.G』」

「う、うん……」

「……………」

 

 めぐるちゃんは「なんだかもうドキドキしてきちゃったよ~」と普段と変わらない様子で笑っているが、よく見ると少しだけ表情が強張っているようにも見えた。

 

 そしてめぐるちゃんの向こう側に座る灯織ちゃんは、黙ったままテレビを見つめていた。

 

「……あ、あの、ひお――」

「私、先にレッスン場に行ってるから」

「あっ」

 

 声をかけるのに一瞬躊躇してしまったため、タイミングが悪くそれより先に灯織ちゃんが立ち上がってしまった。

 

「えー、灯織、もう行くのー?」

「……出場登録締め切りまで時間もない。それまでに、せめて人前に出れるレベルにまでならないと」

 

 めぐるちゃんの言葉に、灯織ちゃんは一度だけこちらに視線を向けてから荷物を持って部屋を出て行ってしまった。

 

「んー……それじゃー、わたしたちも行こっか?」

「……う、うん、そうだね」

 

 普段のめぐるちゃんならば、きっと「あー待って待ってわたしも行くー! 真乃も行こ?」と明るく手を引いてくれたのだろう。

 

 しかし今は、まるで私の気を遣うように言葉を選んでくれているような気がする。

 

「……………」

 

 

 

 ――今の櫻木さんは多分、一人で練習した方がいいと思う。

 

 

 

 私の心の奥底を、二人に対する罪悪感がチクリと突いた。

 

 

 

 

 

 

「……真乃ちゃん、大丈夫?」

「えっ」

 

 今日もお昼休みに机を並べてお弁当を食べているのだが、対面の真乃ちゃんが日に日に疲れているようなように見えたので、そろそろ気になって尋ねてみることにした。

 

「デビューイベントに向けてレッスンを頑張ってるって話は聞いてたけど」

「う、うん、ちょっとだけ、レッスンが上手くいってなくて……ごめんね、なのはちゃん、心配させちゃって」

 

 真乃ちゃんは「大丈夫だよ」と笑っているが、なんとなく困っているようなことがあるような気がする。……まるで、昔のフェイトちゃんやはやてちゃんを見ているような、そんな気分。

 

「それより、昨日ついに発表されたね、『W.I.N.G』」

「そうだね」

 

 『ゴールデンエイジ』に代わる新たな新人アイドルの登竜門となると言われている『Wonder.Idol.Nova.Grandprix』の開催は以前から告知されていた。しかしその審査委員長に『周藤良太郎』が就任するというニュースが世間にお披露目されたのは、今回が初となる。

 

 とはいえアイドル業界ではほぼ知れ渡っていることであるため、驚いているアイドル関係者はごく一部の人間に限られるだろう。

 

「真乃ちゃんたちも出場するんだよね」

「……プロデューサーさんは、そのつもりみたいだけど……」

 

 お弁当箱の中のプチトマトを箸で突きながら、真乃ちゃんは困ったように微笑む。その原因は十中八九、()()()()()()()()()()()()()()()()からだろう。

 

 『W.I.N.G』に出場する条件はたった一つ。『デビューして一年以内のアイドル』であること、ただそれだけ。デビューしてさえいれば()()()()()出場の申し込みをすることが出来る。

 

 故に未だにデビューしていない真乃ちゃんたちにもチャンスはあるのだが、ここで問題になってくるのが第一次審査の方法が『ファン投票』であるという点なのだ。

 

(ファンは複数の投票が出来るけど……)

 

 ここで必要になってくるのは人気よりも知名度。名前を覚えてもらえれば投票される可能性があるが、逆に知らないアイドルに投票する人はいない。故に同じ『デビューして一年以内のアイドル』でも、より活動期間が長いアイドルの方が有利なのは間違いない。真乃ちゃんもこれを心配しているのだろう。

 

「でもデビューがギリギリならギリギリで、利点はあるんだよ」

「えっ」

「話題性」

 

 第一次審査で必要になってくるのは『投票する人の記憶に新しいこと』である。

 

 投票期間が終わってから「そういえばこんなアイドルもいたっけ」なんてことになってしまっては目も当てられない。故に投票期間が始まる直前に大きな話題を生むことが出来れば、デビュー直後の固定ファンが少ない状況でも十分可能性が存在するのだ。

 

「だから『W.I.N.G』直前のデビューってことになっても全然可能性はあるんだよ。だから今は、しっかりとデビューすることに集中するの」

「……うん、ありがとう、なのはちゃん」

 

 少しは励ますことが出来ただろうか。

 

()()()()()()も今頃頑張ってるんだろうなぁ)

 

 私たちの310プロからも一組のアイドルユニットが『W.I.N.G』に出場することが決まっている。彼女たちも最近デビューしたばかりなので、条件としては今の真乃ちゃんたちと殆ど同じだった

 

 願わくば、真乃ちゃんたちも彼女たちも、無事に第一次審査を通過してもらいたいものである。

 

(懸念点があるとするならば……リーダーがちょっと心配性なことぐらいかな?)

 

 

 

 

 

 

「……ふむ」

 

 夕暮れ。駅前のコーヒーショップの前を通りがかったところ、ガラスの向こうで黒髪の美少女が落ち込んでいるところを見つけた。テーブルに肘をついて手に額を乗せ、ガラス越しでは聞こえないはずの重い溜息がこちらまで聞こえてきそうな、そんな重々しい雰囲気を漂わせていた。

 

 普段ならば「頑張れ少女、きっといいことあるよ」と通り過ぎるところではあったが、よく見たらその少女に見覚えがあった。

 

 生憎知り合いではなく一方的にこちらが知っているだけの間柄ではあるものの、彼女がデビュー前のアイドルだと知っているので思わず足を止めてしまった。しかもそれが美琴や結華ちゃんの後輩にあたる子だとすれば、それはもう無視することは出来なかった。

 

「三人とも、ちょっといいかな?」

「はい?」

「なんですかー?」

「どうかしましたかぁ?」

 

 同行者の元祖123プロ三人娘に声をかける。現在は志希も入れて四人娘、美優さんも入れると五人娘なんて称されることもある彼女たちだが、なんだかんだ言ってこの三人で行動していることが多い気がする。

 

「そこでコーヒー飲んでいかない?」

「……いや、ご飯を食べに行くって話でしたよね?」

「お腹空いたー」

「良太郎さんがおっしゃるのであれば、まゆはいいですけどぉ」

 

 突然の俺からの提案に不満そうな三人娘。まゆちゃんも言葉では賛同してくれているが、意識は食事に向いていることは明らかである。

 

「ちょっとそこの落ち込んでいる美少女に声をかけようかと思って」

「そんなに堂々とナンパ宣言しないでもらえませんか」

「でもリョータローさんがそーゆーってことは、もしかしてアイドル?」

「んー、もしかしてあの子ですかぁ?」

 

 もはやジト目すらせずに呆れた様子の志保ちゃん。恵美ちゃんとまゆちゃんはコーヒーショップに視線を向けて、俺が言っている少女の姿を捕捉したようである。

 

「ついでに俺が声をかけると不審がられるだろうから、代わりに声をかけてくれると大変ありがたいです」

「はぁ~……しょうがないですね」

「なんだかんだ言って、あーゆー子見るとアタシたちも気になっちゃうもんね」

「うふふ、私たちにお任せくださぁい」

 

 三人の了承を得ることが出来たため、俺たちは若干予定を変更して駅前のコーヒーショップへと入店するのであった。

 

 

 

 この後、自己紹介すらしていない日本屈指のトップアイドル四人に声をかけられるデビュー前新人アイドルの美少女の運命や如何に。

 

 

 




・「うわビックリした」
ころめぐはXよりもTikTokでネットのネタ知ってそう。

・今の櫻木さんは多分、一人で練習した方がいいと思う。
アイマス伝統芸能「言葉足らず」

・第一次審査『ファン投票』
どこかで聞いたことある方法だって?
そうですね、ラブライブです。アイ転では逆輸入したってことにするか……。

・リーダーがちょっと心配性
書いてて気づいたけどイルミネの三人と似てるかもしれん。



 アニメ五話編です。観てて「うーんこれぞアイマス三原色」って感じた伝統的な味わいのお話。

 アイ転ではここに漫画のストーリーを少々……。
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