アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ひおひおしてきた。


Lesson482 翼は空へと至るために 2

 

 

 

「へ~! 灯織は283プロの子なんだね~」

「アッハイ、ソウデス」

「うふふっ、いつか一緒にお仕事出来るといいですねぇ」

「イエッ、ワタシハマダマダソンナ」

 

「うーん、まるでギャルに話しかけられるオタクのような構図になってしまった」

「実際恵美さんはギャルですし」

「ただ、最近似たような光景を見たような気がするんだよなぁ」

「……合同ライブのときに346プロのりあむさんが丁度こんな感じでしたね」

ダッソレ(それだ)

 

 

 

 入店と注文を素早く済ませ、まずは人当たりの良い恵美ちゃんとまゆちゃんを暗い顔の少女に突撃させてみた。突然カウンターテーブルの隣に美人ギャルが「ヘイ彼女~ひとり~?」と座り、さらに反対の隣にゆるふわ美人が「もしよかったらお姉さんたちとお話しませんか~」と座ると、少女は当然のように警戒する姿勢を見せた。

 

 しかし二人が『所恵美』と『佐久間まゆ』だと気付いた少女の様子は一片。大声こそ出さなかったものの、目に見えて驚いて動揺。二人に「しーっ」とされ、少女は自分の口を手で抑えながらコクコクと頷いた。

 

 そんな始まり方ではあったものの、二人の凄まじく高いコミュニケーション能力によりあっという間に彼女の警戒心は瓦解した。とはいえ、そこはアイドルの卵とトップアイドル二人。委縮しない方が無理というもので、先ほどから蚊の囁くような声だってもうちょっと腹から声出てるぞっていうぐらいか細い声しか聞こえてこない。

 

 そんな三人の様子を、俺と志保ちゃんはまゆちゃんの隣に並んで座ってストローでアイスコーヒーを吸い上げながら観察していた。うーん、美味しいけどやっぱり俺の舌には士郎さんのコーヒーが一番合ってるな。

 

「それで灯織、さっきは何を暗い顔してたの?」

「っ」

「もし何か困っているなら、お姉さんたちが力になりますよぉ?」

 

 このまま緊張が解けるのを待っていると文字通り日が暮れそうだったので、恵美ちゃんとまゆちゃんは頃合いと見て本題を切り出した。

 

 灯織ちゃんはギクリと気まずそうに目を逸らして手元のカップに視線を落とす。そのまま一分ほど無言の時間が続いたものの、二人が優しい目で自分の言葉を待ってくれていることに気付いた灯織ちゃんは、意を決したように口を開いた。

 

「困っている……と言えば、困っています」

「レッスンが上手くいかない?」

「それとも、デビューのことについてですかぁ?」

「いえ、それもありますけど、私が困っているのはもっと個人的なことで……」

 

 灯織ちゃんは「はぁ~……」とカウンターが潰れそうなぐらい重い溜息を吐いた。

 

「私、言葉選びが下手くそなんです」

 

「……えっと、それは」

「どういう意味ですかぁ?」

「……ユニットメンバーに一人だけステップに慣れていない子がいて、いつも私たちに無理に合わせようとしてズレちゃってるんです。だから『無理に合わせようとせずに今は自分のステップに集中しよう』っていうアドバイスをするつもりが……」

「「するつもりが?」」

「……『一人で練習した方がいいと思う』って……」

「「「「うわぁ……」」」」

 

 これには思わず話を聞いていただけの俺と志保ちゃんも思わずそんな反応をしてしまった。バッドコミュニケーション過ぎる。

 

「そんな突き放すようなことを言うつもりじゃなかったんです……! ただ私は『まだ周りに合わようとする段階じゃないから、一先ず一人でステップを完璧にして、それから一緒にやった方がいいと思う』みたいなことを言うつもりだったんです……!」

 

 顔を手で覆ってさめざめと涙する灯織ちゃんを、両隣から恵美ちゃんとまゆちゃんがヨシヨシと宥めていた。

 

「どう思いますか? 少々言葉がキツくなることに定評がある志保ちゃん」

「誰のせいだと思ってるんですか」

 

 人のせいにするにはいけないことだと思うよ。

 

「……でも、そうやって自分の非を認めて口にすることが出来るのは偉いと思います」

「えっ……」

 

 志保ちゃんの言葉に灯織ちゃんは顔を上げた。

 

「世の中には一度口にしたことを意固地になって撤回しようとしない人もいます。そんな人のことを考えると、貴女はまだ間に合いますよ」

「ど、どうすればいいんですか……!?」

「簡単ですよ。……『ごめんなさい』すればいいんです」

 

 まるで小さい子どもを諭すような、とても優しい声で志保ちゃんは言った。

 

「同じユニットとしてこれからのアイドル人生を歩む仲間なんだから。ずっと仲良しでいろとは言わないけれど、それでも蟠りは早めに解消しておいた方がいいわ」

 

 765プロのアリーナライブでバックダンサー組として参加したときも、なんだかんだで最後は素直にごめんなさいしていた志保ちゃんが言うんだから説得力もひとしおである。

 

 それに思い返してみると、他の事務所でも結構ギスったユニットって結構いた気がする。なんだったら各事務所に1ユニットは絶対にいたと思う。

 

 ……なんか遠くの方で複数のくしゃみが聞こえたような気がした。

 

「『もっと怒らせるかもしれない』とか『もっと不快にするかもしれない』とか『どうすれば許してもらえるか』とか、そういうことを考えちゃダメですよ」

「で、でも、また謝るときに言葉を間違えちゃうかも……」

「それなら今度はアタシにお任せ!」

 

 再び涙目になる灯織ちゃんに、恵美ちゃんがウインクをしながら親指を立てた。

 

「こーゆーときは、女子の嗜みを利用すべし!」

 

「女子の嗜み……分かった、ボンボンドロップシールだ」

「あれ何で流行ってるんですかね」

「俺が言うんならまだしも、志保ちゃんがそれを言っちゃダメだと思う」

 

 ワンチャン小学校で流行って陸君も嵌る可能性だってあるんだからさぁ……。

 

「謝る言葉を間違えないように……手紙にしよう!」

 

「……あぁなるほど、そっちでしたか」

「そのリアクションで何となく想像出来るんだけど、志保ちゃんは勿論授業中に手紙回しとかしたことないんだろうね」

「ちゃんと先生の話を聞いて板書しましょうよ」

 

「手紙、ですか」

「そう! でも渡すだけじゃなくて、ちゃんと面と向かって読む方が気持ち伝わると思うよ~!」

「どちらかというとカンニングペーパー的な使用方法ですけど、良いと思いますよぉ」

 

 恵美ちゃんとまゆちゃんに勧められて数瞬考えた灯織ちゃんは、意を決した表情で顔を上げた。

 

「私……手紙書きます!」

「よく言った!」

「それでこそ女の子ですよぉ!」

 

「お二人のワードチョイスに凄く良太郎さんの影響が見え隠れしてますね」

「志保ちゃんも大概だと思うよ」

 

 相変わらず外野の俺たちがやいやいやっている間に、どうやら恵美ちゃんとまゆちゃんにより灯織ちゃんのお悩み相談は終わったようである。

 

「それじゃあこれも何かの縁ですし……手紙を書く前に気持ちを切り替えるっていう意味で、一緒にお食事でもどうですかぁ?」

「今ならそこのおにーさんが良いご飯を食べさせてくれるよ~!」

「お肉とお魚、好きな方選んでいいよ」

「予約とかしてないんですか?」

「鉄板焼きの大将と寿司屋の大将が、どっちの店に俺が来るかを賭けてるらしくて」

「なんで良太郎さんの知り合いはそんなにアレな人ばかり集まるんですか……」

 

 それは志保ちゃんも含まれるんだよ定期。

 

「ありがとうございます。……でも、帰ってこの気持ちをすぐに手紙に書きたいんです」

 

 そう言う灯織ちゃんの表情は相変わらず硬い。けれど先ほど店の外から見たときの彼女とは比べ物にならないぐらいいい顔をしていた。

 

「そっか」

「頑張ってくださいねぇ」

「はいっ」

「あっ、ついでだし連絡先交換しとこ~?」

「えっ」

「あ、私もいいですかぁ」

「えぇ!?」

「私もお願いします」

「えええぇ!?」

 

 突然トップアイドル三人から連絡先交換をお願いされてお目目グルグルになる灯織ちゃん。ここで「俺も俺も」と言い出さないように悪戯心を抑えた俺を褒めて欲しい。

 

「それじゃあ、お先に失礼します」

「頑張ってね~!」

「応援してますよぉ」

「あまり気負いすぎないように」

 

 ペコリと礼儀正しく一礼をしてから、灯織ちゃんは先に退店していった。

 

「灯織、上手くいくといいね」

「話を聞く限りユニットの子たちもいい子そうでしたし、きっと大丈夫ですよぉ」

「……………」

「良太郎さん、どうかしましたか?」

 

 足早に去っていく灯織ちゃんの後ろ姿をコーヒーショップの窓ガラス越しに見守りながら、少し気になったことがあった。

 

「ちょっと思ったんだけどさ」

「はい」

「灯織ちゃん、滅茶苦茶長い手紙書きそうじゃない? 便箋十枚超えそうな大作」

「「「……………」」」

 

 三人娘が揃って『うわぁやりそう』という表情になった。

 

「ど、どーする? 手紙は便箋何枚までとか制限しとく?」

「で、でもそうやって灯織ちゃんの気持ちを制限するのはぁ……」

「せめてユニットメンバーの子に引かれないような枚数に収まることを期待しましょう」

 

 果たして灯織ちゃんがしたためる手紙は何枚になることやら……。

 

「それはそーと、そろそろアタシたちもご飯いこー?」

「結局、お肉とお魚どっちにしますかぁ?」

「お魚食べたいです」

 

 俺たちもそろそろ移動しようと席を立つのだが、そこで俺はとあることに気が付くのだった。

 

 

 

(……そういえば……『周藤良太郎』に対するリアクションがなかったような?)

 

 

 

 

 

 

 

「よし、便箋も買ってきた。123プロの皆さんのアドバイス通り、素直にごめんなさいを……あれ? 123プロの、男性……? な、なんだろう、何か大事なことを見落としているような、逆に気付かなくていいことに気付かなくてすんだような……?」

 

 

 




・「ダッソレ」
たまに使うけど元ネタは(作者的には)2.5次元のリリサ。さてどこの誰の発言かな?

・『一人で練習した方がいいと思う』
見ててこの発言は思わず「なんでやねん」って突っ込んでしまった。

・他の事務所でも結構ギスったユニットって結構いた
なんだったら各章毎回ギスってた。なんでコメディでシリアスやってんだ。

・ボンボンドロップシール
逆に既に下火という噂も聞くが果たして。

・「よく言った!」
・「それでこそ女の子ですよぉ!」
これもinmネタかぁ……。

・「何か大事なことを見落としているような」
遅かれ早かれ。



 コーヒーショップでの会話だけで一話使ってしまった……。

 次話からはちょっと漫画版のストーリーを参考にしていきます。



『どうでもいい小話』

 相変わらずアーカイブ観れてません明日から観ます()
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